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http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2008/11/28/20081128ddm007030002000c.html
インド・ムンバイ同時テロ:政府に「失策」批判 防止対策「不十分」
◇来春総選挙−−野党、攻撃材料に
【バンコク栗田慎一】インド西部ムンバイで26日夜に起きた武装集団による同時多発的な襲撃事件を巡り、インド政府のテロ対策が「不十分だった」との批判が国内で高まっている。最大野党「インド人民党」は、本格的に政府の非難キャンペーンを開始する考えを示した。
「事件は政府の失政の結果だ。今年はイスラム勢力によるとみられるテロが全国で多発し、犯行声明も出されてきたのに、組織解明すら進んでいない」。シン首相の最大与党「国民会議派」と政敵関係にあるインド人民党幹部は、政府を厳しく批判した。
経済成長を重視するシン政権にとって、経済都市ムンバイを象徴する高級ホテルを狙ったテロ事件は、来年春に予定されている総選挙を前に、野党勢力の格好の攻撃材料になりつつある。
今年9月、「インディアン・ムジャヒディン」を名乗る実態不明な組織による小型爆弾を使ったテロ事件が全国で相次ぐ中、首都ニューデリーの市場など3カ所でも同様のテロが発生。同組織が犯行声明を出したことで、シン首相は内務当局幹部を激しく叱責(しっせき)したとされる。
この直後、治安部隊は市内のイスラム教徒の住宅街を急襲し、「武器を持っていた」少年ら2人を射殺。しかし、国内のイスラム教徒らは「2人は無実」と非難し、この後もイスラム教徒の逮捕などが相次いだことから、反政府感情が高まっていった。今回、犯行声明を出した「デカン・ムジャヒディン」も実態や背後関係は不明で、政府は現段階で事件の背後関係には言及していない。
◇頻発する国際テロ
今回のムンバイ同時テロの国際的な背景は不明だが、一方で、イスラム過激派による国際的なテロは、湾岸戦争(91年)以降に世界各地で頻発するようになっている。
93年2月に米ニューヨークの世界貿易センタービルが爆破され6人が死亡、96年6月にはサウジアラビアの米軍施設で爆弾テロがあり、19人が死亡した。98年8月にはナイロビ(ケニア)とダルエスサラーム(タンザニア)で米大使館が相次いで爆破され、死者200人以上、負傷者5000人の大惨事となった。
一方、観光客を狙ったテロが続いたエジプトでは、名所ルクソールで97年11月、日本人を含む60人が銃乱射テロの犠牲になった。
01年9月11日の米同時多発テロ事件を受け、世界各国はテロ警戒を強化。米軍を中心としたアフガニスタン攻撃でタリバン政権を崩壊させたが、なお政情は安定しないばかりか、世界各地でテロは続いている。【小坂大】
◇パキスタン、インドと「連携」強調 カシミール勢力「関係」との報道、「火消し」に躍起
インドでは90年代以降、イスラム過激派組織のテロ活動をパキスタン当局と関連づける傾向があったが、04年に始まった両政府の対話が進むにつれ、インド側のあからさまな非難は影を潜めている。ただ、政府が窮地に陥れば、矛先が「国外」に向かう可能性があり、パキスタン政府はいち早く事件を非難する声明を出すなど、火消しに躍起だ。
インドのシン首相は27日、今回のテロ事件についてテレビ演説。「周到に用意された攻撃であり、恐らく外部との関連がある」と述べ、パキスタン国内の組織が関連しているとの見方を示唆した。一部のインドのテレビは、逮捕された実行犯の一人が「(パキスタンなどを拠点とするイスラム過激派)ラシュカレ・タイバとの関係を示唆し、事件直前に船でムンバイに上陸したと供述している」と報じている。ただ、ロイター通信によるとラシュカレ・タイバは関与を否定している。
一方、パキスタンのザルダリ大統領とギラニ首相は27日、相次いで事件を非難する声明を出した。パキスタンでは9月、首都イスラマバードの高級ホテル「マリオット・ホテル」で自爆テロがあり、外国人を含む約60人が死亡。ザルダリ大統領は「インドとパキスタンはともに世界的テロ活動の深刻な犠牲に遭っている」とし、ギラニ首相も「両国は共同でテロ活動に対処する努力を続けたい」と連携関係を強調してみせた。
2人の発言の背景には、ラシュカレ・タイバを含むカシミール地方のイスラム過激派勢力が、パキスタン軍情報機関の支援を受け、インド側でテロ活動を続けてきたとの批判がインド国内にくすぶっていることがある。
01年の米同時多発テロ事件後、ムシャラフ前政権はカシミール勢力をテロ組織指定し、関係を「断絶」。04年から始まった和平対話でインド側はあからさまなパキスタン非難をしなくなっている。
実際、カシミールの各過激派組織は02年以降、分裂したり活動の舞台をアフガニスタンに変えるなどしているとされる。
◇各国首脳、強く非難
インド・ムンバイでの同時テロを受け、各国首脳は、実行犯への強い非難と犠牲者へのお悔やみを表明した。
ブッシュ米大統領は「死傷した罪もない市民と家族にお悔やみを申し上げたい」と短い声明を発表。オバマ次期米大統領は声明で「テロリストを強く非難する」と述べ、「米国はインドや世界各国との連携を強め、テロを一掃しなければならない」と断固とした姿勢を示した。ブラウン英首相は「シン首相に対し、英国はインドを支持し、いかなる援助も提供する用意があると伝えた」との声明を発表。メドべージェフ露大統領は訪問先のベネズエラで「今回のようなテロ攻撃は、人類と世界秩序への挑戦だ」と語った。【小坂大】
◇米新政権けん制か−−宮田律・静岡県立大准教授(イスラム地域政治)の話
ムンバイには欧米企業が多数進出しており、米国主導の対テロ戦争の失敗を世界に訴える格好のターゲットだ。こうした事件が起きれば欧米企業は投資や経済活動を控え、経済へのダメージも大きく、政府のイメージダウンにもつながる。
アフガニスタンでタリバンが再び台頭し、パキスタンも乱れている。海外のイスラム原理主義勢力と呼応して実行した可能性がある。対テロ戦争の軸足をアフガンに移すと明言するオバマ次期米大統領をけん制する狙いもあったのではないか。
犯行声明を出した「デカン・ムジャヒディン」は組織名から南インド・デカン高原出身者のグループだろう。同地方ハイデラバードにはインドからの分離独立を求めるイスラム過激派が古くから存在しており、その流れをくむグループではないか。過激派には現在、大きな指揮系統はなく、小さなグループがアイデンティティーを訴えるため、勝手に名前を付けて活動している。
米国が過激派を力で抑え込もうとする限り、それに無差別テロで応酬するという悪循環は今後も続くだろう。【聞き手・佐藤賢二郎】
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■ことば
◇カシミール地方
ヒンズー教徒が中心のインドと、イスラム国家のパキスタンは、1947年に分離して以来、カシミール地方の領有で争い、2度の全面戦争まで行っている。イスラム教徒が多数派を占めるインド側のジャム・カシミール州では、90年ごろからイスラム過激派による分離独立活動が活発化していた。一方で、04年には和平協議も始まっている。
毎日新聞 2008年11月28日 東京朝刊