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http://mainichi.jp/select/world/archive/news/2008/09/11/20080911ddm007030019000c.html
米同時多発テロ:「9・11」7年 アフガンの今
約3000人の犠牲者を出した01年9月の米同時多発テロの発生から、11日で7年になる。米国が国際テロ組織「アルカイダ」の撃退を目指して始めた対テロ戦争は、行き詰まり気味だ。同時テロの源流となったアフガニスタンでは旧支配勢力のタリバンが勢いを盛り返して治安情勢が悪化。米国は再び、アフガンを対テロ戦争の「主戦場」に位置付けざるを得ない事態になった。
◇誤爆難民、食料なく 「政府も米国も何もしてくれない」−−不満、タリバンが吸収
「私が何をしたと言うのか。政府も米国も補償すらしてくれず、毎日のナン(主食のパン)ですら高くて買えない」
カブール郊外。生活ゴミが集められた傍らに建つ2部屋の自宅で、ザルマイさん(35)は怒りで声を震わせた。右手は指を失い、化膿(かのう)した傷口にハエがたかる。右足はひざ下を失った。両目の光も失いかけている。
昨年4月にパキスタン国境に近い北東部クナール州で、米軍による空爆に巻き込まれた。破壊されたのは民家で、地元民は「誤爆だ」と訴えた。小作農だったザルマイさんは仕事ができなくなり、1月、親類を頼って家族とカブールに移った。生活費は1日30アフガニ(約60円)。
アフガンでは、ザルマイさんのような「誤爆難民」が急増し、都市部へ流れ込んでいる。爆撃で負傷し仕事を失った人々は、国際社会の支援が「最も届いている」カブールを目指す。その数は、家族も含めて数千とも数万とも言われる。
しかし、誤爆難民を救済対象とした支援機関はなく、障害者が働ける雇用先も皆無に近い。さらに貨幣経済が浸透した都市部はインフレが激しい。
「私には10歳から3歳までの子供が4人いる。でも今の生活ではこの子たちに教育を与えてやれない。運命として受け入れるしかないのでしょうか」。ザルマイさんは両目に涙をためた。
◇
「4家族の男たち約20人がタリバンに参加した」。8月下旬、東部ナンガルハル州で非政府組織「ペシャワール会」メンバーの伊藤和也さん(31)が拉致・殺害された事件のさなか、首都カブールの地元記者たちの間に一報が飛び込んだ。
一報は、7月に同州であった米軍機による爆撃で死亡した47人の遺族らの「その後」だった。アフガン政府は「犠牲者は結婚式に向かう途中の女性や子供ら」と発表したが、米軍側は「死んだのは武装勢力」と突っぱねる。「タリバンに参加した遺族は十中八九、自爆を志願する。タリバンは今、自爆要員を募集する必要もない」。地元記者の一人はそう断言した。
◇
カルザイ政権や外国軍により治安が守られているはずのカブールは今、タリバンの勢力拡大におびえている。1年前にカブールを訪れた時と比べ、外国人利用者が多いホテルや政府関連施設、国連機関の多くが、敷地をめぐらす壁を高くし、敷地内にも二重三重の防護壁を設けていた。自爆テロや迫撃砲による攻撃を防ぐためだ。
地元記者が言う。「公務員の汚職や情実人事がまかり通り、物価高も放置されたまま。カルザイ政権への市民の反発は日に日に高まっている。政権は今、発足以来最大の危機にひんしている」【カブールで栗田慎一】
(略)
◇国家破綻の危機
アフガンは今、「国家破綻(はたん)」の危機に直面していると言っても過言ではない。中央政府が国土の大半を統治できておらず、国民の政府への不信感も頂点に達しているからだ。
治安を守る警察組織は、極端な人員不足で機能不全の状態が続く。カブール警察幹部は「何カ月も給与の未払いが続き、警官が汚職や犯罪に手を染めてしまう」と嘆いた。
米軍など外国軍の攻撃による民間人の犠牲も、米国に支えられている政権への非難に直結している。外国軍の駐留は治安維持に不可欠と思う市民は少なくないが、米軍の戦死者数が過去最高になっても、その何倍もの市民が戦闘の犠牲となっているために「同情」すらできないようだ。
物価の高騰も続き、現金収入を得るために麻薬栽培を始める農民は後を絶たない。
カルザイ政権は、「民主化」を進める前段階の、国民の生命や財産を守るという「国家の基本」すらおぼつかない状況なのだ。
毎日新聞 2008年9月11日 東京朝刊