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【日経BP】ブッシュ大統領がイラクでしたこと、アフガンでやったこと(大前研一)
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「産業突然死」の時代の人生論(経営コンサルタント 大前 研一氏)
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第138回
ブッシュ大統領がイラクでしたこと、アフガンでやったこと
経営コンサルタント 大前 研一氏
2008年7月23日
米国ブッシュ大統領がその任期を終えるのも、余すところあと半年である。ブッシュ政権にはいつも戦争がついて回った。思い返せば6年前、一般教書演説で「悪の枢軸」としてイラン、イラク、北朝鮮を名指しして非難していたものだ。
今回は、ブッシュ大統領と、この三つの国について考察してみよう。
2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルに、ハイジャックされた2機の旅客機が突っ込んで多数の死者を出した。この、いわゆる9.11事件に端を発してアフガニスタン侵攻が始まった。この同時多発テロの首謀者とされるウサマ・ビンラディン氏を捕らえるために米国は、彼を支援するタリバンが治めるアフガニスタンに兵を進めたのである。
続いて起こったのは、イラク戦争だ。米国が悪の枢軸の一つに挙げたイラクに対して、米国は軍を進めて占領したのだ。理由は「大量破壊兵器を隠し持っている」こと。これがイラク占領に正当性を付与した。だが結局、核疑惑に関しても大量破壊兵器(WMD)に関してもなんの証拠も見つけることができなかったことは皆さんもご存知の通りだ。侵略の「正当性」など初めから存在しなかったというわけだ。
そもそも大量破壊兵器と核開発は、悪の枢軸たる条件だったはずだ。この二つがないとなれば、テロリストの温床にもなっていなかった当時のイラクは悪の枢軸ではなかったことになる。ではあるものの、米国は「イラクの指導者(であった)サダム・フセインは独裁者でありクルド人を虐殺したりした悪い人に決まっているのだから、民主主義を浸透させるまではイラクの治安維持に責任がある」と決めつけて占領を続けている。あまり報道されてはいないが、いまもなお軍人・民間人問わず大量の死者が出ている。
先に「(イラク戦争には)正当性など初めから存在していなかった」と書いた。それどころかイラク戦争は世界にいくつもの大きな混乱をもたらした。その一つが石油供給を不安定にしたことだ。イラクの主要な油田をいくつも破壊したために、その分の石油供給に支障が出てしまったのだ。世界第二の石油埋蔵量を誇るイラクの供給体制に不安があるだけで石油は高騰するのだ。それがさらにどのような影響を経済にもたらすかは、みなさんがいま肌で感じているところだ。それも、嫌というほどに。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/141/index1.html
● 核開発とミサイル実験で余裕を見せるイラン
こうなると、いったい2期8年もの長きにわたって米国大統領の任にあったブッシュ氏は、いったい何者だったのかという疑念がわいてくる。悪の枢軸に挙げられた残りの二つ、イランと北朝鮮は両者とも「核を開発している」「ミサイルも開発している」と自ら公言している。だが、そちらには戦争を仕掛けてはいない。「持っていない」と否定し続けたイラクには即座に兵を進めたにもかかわらずである。
イランとは政治的・宗教的に敵対する立場にあるイスラエルなどは、いたたまれずにイランを挑発するための演習をしている。だが、イランは余裕だ。なにしろブッシュ政権はあと半年しかない。「しょせんイスラエルは米国のかいらい、我々に実際に手を出すことはできまい」と高をくくっているのだ。ある意味、正しい「読み」ではある。この期に及んで米国もイランとECの核管理に関する交渉の場にバーンズ国務次官を派遣して、イランと対話路線を探るようになってしまった。さすがにブッシュ大統領はアフガニスタンでもイラクでも泥沼に陥ったまま政権を去りたくないのだろう。歩み寄っているのはイランではなく米国である、という点が重要である。
イランは最近、新開発のミサイルを試射したりしている。新型ミサイル「シャハブ3」の射程距離は2000km。イランから2000kmとなると、イスラエルも充分にその環のなかに含まれる。イスラエルにとっては「気が気ではない」といったところだろう。
イランは同時に200km射程距離の従来型ミサイルも試射している。先の「シャハブ3」に比べれば10分の1の射程距離だ。しかし200kmといえど、ホルムズ海峡に米軍が侵入してきたら、即座に攻撃できる距離であるともいえる。有り体に言えば、イランはホルムズ海峡を海上封鎖する力を持っているということだ。
イスラエルは1981年に、当時サダム・フセインがフランスから買ったオシラクの原子炉を破壊するために、米国から購入したF16を1000km飛ばして破壊している。また昨年の9月にシリアが北朝鮮から技術支援を受けて建設中といわれていた原子炉を空爆で破壊している。イランは米国よりもイスラエルの闇討ちの方が現実には脅威と思っているに違いない。しかし上図でも分かるようにイランの施設を爆破するにはアラビア半島を2000kmくらいにわたって横切らなくてはならない。イランのシャハブ3の方が現実には抑止力があるのかも知れない。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/141/index2.html
● 核もミサイルも開発を続ける北朝鮮の制裁は解除
悪の枢軸の残る一つ、北朝鮮にいたってはブッシュ大統領は制裁を解除する手続きに入ると明言してしまった。ところが、よくよく考えてみれば、核はいまだに持っているし、ミサイルの試射は続けているし、ウラン凝縮も今回の提出書類には出ていないという。悪の枢軸から外すような状況ではないはずではないか。なのに米国は、北朝鮮に対する制裁を解除しようとしている。
悪の枢軸の三つのうち、本当に大量破壊兵器を持っていたのはイランと北朝鮮。言い当てた確率は3分の2であった。なのに、実際に攻撃をしたのは、外れたイラクの方ではないか。ブッシュ大統領の理屈に立つなら、攻撃すべきはイランと北朝鮮なのではなかったのか(念を押すが、わたしは戦争を勧めているわけではないし、「イランに攻め込め」「北朝鮮を占領しろ」と言うわけでもない)。
ブッシュ大統領は、「少し反省しろ」と世界からたたかれてしかるべきだろう。ところが、日本などは、悶々(もんもん)としつつも米国に従って(もはや日本のお家芸というべきであろう)、制裁解除を受け入れようとしている。口では「拉致の問題が解決するまでは絶対にない」とは言っているものの、弱腰なのは誰の目にも明らかである。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/141/index3.html
● イランに近づくイラク――米国は自らの敵を育てていたのか
米国が占領しているイラクでは、状況は大きく変わりつつある。それを象徴するのが、イラクのマリキ首相がUAE(アラブ首長国連邦)のハリファ大統領と会談し、「米軍の早期撤収要求」を求めたことだ。
マリキ政権といえば、今は亡きサダム・フセインを追い出した後に米国の肝いりで作られた民主的政権のはず。それが米軍を撤収させようと動き出したのだ。それはいったい誰の差し金か。背後にいるのは誰なのか。当然イランである。
サダム・フセインは、イスラム教のスンニ派である。イラクのなかではマイノリティ、少数派だった。民主的に選ばれたマリキ首相は、当然多数を占めるシーア派である。そして隣国イランで圧倒的多数を占めているのもシーア派である。この宗派の違いを頭に入れておいていただきたい。1980年代には、イラン−イラク戦争があったが、それはイランがシーア派であり、イラクで政権を取っていたサダム・フセインがスンニ派だったことも要因である。
それが、いまのマリキ首相はイランと同じシーア派(アラブ人とペルシャ人という違いはあるが)。だから、もし米国がイラクから撤収したら、シーア派同士、イランとイラクの仲が近づくのは当然のことだろう。ところが、それは米国が最も恐れているシナリオだったのである。
そこがブッシュ大統領の浅はかなところだ。イランに民主主義を敷いたらどうなるかを考えたら、多数派であるシーア派が政権を取るに決まっている。そうなれば、イランとイラクが近づくということが、どうして分からなかったのか。スンニ派というマイノリティが支配するためにサダム・フセインはかなり強引なことをしたが、それはイランを引き離す手段でもあったのだ。
シーア派は、米国とイスラエルの敵だ。米国の中近東最大の盟友はサウジアラビア。そのサウジはスンニ派である。したがって米軍がイラクから撤収した場合、サウジアラビアがイラク国内のスンニ派に資金援助する方針を米政府に伝えたと既に報じられている。となると、米国は自ら戦争を仕掛け、自分たちの敵を(民主主義という名の下に)作ったことになる。しかも盟友を窮地に陥れた。これはどう考えても理解できない顛末(てんまつ)である。ブッシュ大統領は、世界中を混乱に巻き込んだ挙げ句、なし得たものは、つまるところ自らの敵を増やしただけである。日本も米国と唱和するために、やれアフガンに自衛隊を派兵(いや、自衛隊は軍隊ではないらしいので「派遣」か)するだの、燃料を米軍に供給するだの、いろいろ混乱していたが、いったい何のためだったのか。
わたしは、ブッシュ大統領には大いに反省を促したい。洞爺湖サミットでの彼はどうやら機嫌良く過ごしていたらしいが、とてもそういう状況ではないだろう。世界中が米国に対して、姿鏡で自らの、すなわち米国の本当の姿を突きつけてやるべきなのだ。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/141/index4.html
● イラクより戦死者の多いアフガニスタン
さて、一方のアフガニスタンはどうなっているのか。
多くの日本人は、9.11事件のあとにアフガニスタンに侵攻した米軍はほぼ一方的に勝利し、カルザイ大統領のような英語のうまい、米国寄りの人材を据えて、一件落着と思っているかもしれない。
だが、実は何も解決してはいないのだ。折しも米国内では、アフガニスタンで自分たちがやったことを反省する動きが見える。7月7日付けのタイム誌には「まだ勝利していない戦争」というタイトルでアフガニスタンが取り上げられていた。
記事を以下に要約しておこう。「月単位の統計で、イラク戦争よりもアフガニスタンで死ぬ軍人の数が上回った。2003年以来、初めてのことだ」「タリバンは推定で2万5000人、一方、駐留米軍は3万5500人もいる」といったところだ。
この記事を読んで分かるのは、アフガニスタンが再び泥沼に陥る可能性が高いということだ。かつてソ連がアフガニスタンに侵攻したとき、泥沼に陥って撤退せざるを得なかった。米国は当初、迅速に行動して「さすが米国、ソ連と違って見事に解決」と一部の超親米論者を喜ばせたものだが、結局はイラクよりも多くの戦死者を出してしまう状況だ。
死者は軍人ばかりではない。アフガニスタンでは、タリバンかどうかを見分けることが難しい。何しろ同じような服装をして、男は皆ひげをたくわえている。そういう姿の人が、味方にもいるし、一般市民にもいる。見分けが付かないから、誤爆の被害は一般市民にも広がっている。今ではアフガニスタンの軍人までが国連軍の誤爆の犠牲となっている。米軍は一般市民の結婚式に対してさえミサイルを撃ち込んだことがあるのだ。そのようなことが重なり、アフガニスタン(およびその隣国のパキスタン)では反米感情が強くなってきている。
いま、ウサマ・ビンラディン氏はパキスタンの国境に潜伏しているといううわさだ。米国はこれまでにビンラディン氏掃討のために7000億円も使っている。さらに彼の首には50億円の懸賞金がかけられている。おそらく空前絶後、史上最高額の賞金首だ。にもかかわらず、彼はまだ捕まらない。
それどころか彼は、潜伏してから29回もテレビやラジオに登場しているのだ。そのたびに、彼が出てくる放送局アルジャジーラの名声が上がる。いまではNHKだって、早朝のBSニュースはアルジャジーラから始まる。昔はBBCから始まったものだが。まったくもって、これまで投資した資金も懸賞金も効果がない。
これをブッシュ大統領は残る半年で何とか解決できるのだろうか。元のもくあみどころか、それ以上にひどい状況になっているのがアフガニスタンなのだ。米国はアフガニスタンに民主主義と平和の訪れる日を築けるのだろうか? 理念先行、あるいは9.11の怨念先行で攻め入ったが、結局7年間かけても何も解決しなかった、ということになるのだ。
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http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/a/141/index5.html
● いま米国に必要なのは「新しい愛国心」の定義
一方、米国が自らのアイデンティティーを反省する動きも見える。
タイム誌では、同じく7月7日付けの号で、「自らの愛国主義を再定義しよう」と呼びかけている。新しい愛国主義の概念が必要なのではないかというのだ。ブッシュ大統領に代表されるような現在の愛国主義は、米国そのものを称賛して、敵対するものは悪と決めつける。それでは、これからの世界の平和を守っていけないのではないか、と言っている。
記事では、「米国の偉大さを維持するために、米国自身がしなくてはいけないことは何なのか」を問いかけている。いわく、「多少惨めなこともやらなくてはなるまい」「これからの新しい愛国心を持つ者は、偉大な米国を作るために、現状を認めて、その差を埋めるための努力をしなくてはいけないのではないか」「素直に自らを反省して、これから進むべき道を語ることのできる米国人こそ愛国的だ」。そして、「新しい愛国心の定義を作らないと、米国は収拾がつかなくなり分裂する」と指摘している。
わたしはこの記事を、非常によい内容だと認めたい。極めて意味深な記事である。共和党の大統領候補には不利な内容だが、民主党の方も米国とは何か、米国の依って立つ信条とは何なのかをハッキリさせてもらわなくてはならない。
こなた日本は‥‥と言うと、ブッシュのプードル犬と言われたべったり子分三人衆(ブレア、ハワード、小泉)の伝統を守りインド洋のガソリンスタンド経営で国会が空転したり、秋の国会の開催時期がいまだに米国のアジェンダで振り回されている。ブッシュの2期8年を吟味することこそ、日本が盲目のうちに行動していた戦後の総決算になる。特にアジア周辺諸国との関係については、米国べったりではなく、自分の考えをちゃんと出し、納得してもらえるのかどうかが問われている。そうなるといつもの結論になってしまうが、「自らを反省し、理想と現状の差を埋めるべく行動すべき」という新しい愛国主義の定義は、日本に対しても言えることなのだ。
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