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欧米中心の世界は終わる?
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投稿者 鉄人 日時 2008 年 6 月 15 日 21:03:29: iY3Rjq3B.2uDU
 

欧米中心の世界は終わる?
2005年9月6日  田中 宇
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 この記事は「地球温暖化問題の歪曲」の続きです。

 マスコミをにぎわしている地球温暖化問題は、純粋な科学の問題ではなく、政治によって歪曲された話ではないか、と私が最近感じたきっかけは、7月上旬にスコットランドで開かれたG8サミットの主要な議題として、温暖化問題が採り上げられたことである。

 主催者であるイギリスのブレア首相にとって、このサミットは、アメリカのブッシュ政権が壊してしまった世界の体制を元に戻すための重要な会合だった。ブレアがその会議の中心議題として、アフリカなど最貧国の救済問題と並んで、地球温暖化問題を選んだことは、これらの2つの問題が、世界をある方向の体制に持っていくために有効な手段であるからではないか、と私は考えた。

 サミットが近づくにつれて、欧米や日本などの先進各国でアフリカ救済をうたった「ライブ8」が開催されたり「地球温暖化を放置すると、数年後にはロンドンやオランダが水没する」といった極端な論調の新聞記事が欧米マスコミに増えた。毎日世界のマスコミをチェックしている私には、これはどう見ても政治的な意図を持った動きだった。

 ブレアは、地球温暖化対策という国際問題を使って、世界をどう動かそうとしたのだろうか。それを考えるのが今回の記事の主題である。最貧国の問題や地球温暖化の問題は、いずれも奥が深く話が専門的かつ広範囲である。そのため、ここでは前回も書いた地球温暖化の問題に絞り、アフリカ救済については改めて調べて論じる。

▼排出規制は東欧へのEU統合の条件?

 地球温暖化問題が国際政治の舞台で提起されたのは1990年代の前半で、1992年のリオデジャネイロ環境サミットで、先進諸国とロシア東欧諸国の合計40カ国近い国々が、地球温暖化を防止するために二酸化炭素の排出量を規制することで合意したのが、初期の到達点だった。

 当時は英ブレア政権だけでなく、アメリカのクリントン政権も温暖化対策に積極的だった。前回の記事で紹介した地球温暖化を象徴する「ホッケーの棒」理論を提唱したのはアメリカの科学者3人だったし、ブッシュ政権になって米政府が温暖化対策を拒否するようになった後も、温暖化対策を主張する科学者の中心勢力はアメリカにある。温暖化問題は、今ではヨーロッパ(EU)がアメリカの経済成長を阻害するために持ち出した問題であると考える分析者もいるが、経緯を見ると、むしろ米英がEUを巻き込んで始めた動きである。

 リオ環境サミットの調印国と、その後1997年に採択された京都議定書で温室効果ガスの削減目標を課された国は、ほぼ重複しているが、それらは、西欧諸国、アメリカ、カナダ、日本、オーストラリア、ニュージーランドといった先進国のほかは、ロシアやハンガリー、ウクライナなど、ロシア東欧諸国ばかりである。韓国、東南アジア諸国、中国、メキシコなど、東欧以外で経済成長している中進国は一つも入っていない(京都議定書を批准しているが、温室効果ガスの削減義務がない)。

 これはおそらく、当時ECがEUに拡大され、西欧が東欧を包含して経済統合していく動きが始まったことと関係している。リオのサミットで、ロシア東欧諸国が二酸化炭素排出規制に同意したのは、それが経済統合に参加する事実上の条件として西欧から提示されたものだったからだろう。(関連記事)

 欧州経済統合が進み、東欧の企業が西欧市場で自由に商品が売れるようになると、西欧の経済成長が東欧に奪われ、西欧の優位性が失われる可能性がある。二酸化炭素排出を規制すれば、発電や自動車の走行といった石油やガスの利用のコストが上がり、その分、経済発展が阻害される。西欧は、東欧に対して排出規制の足かせを強制することで、西欧が東欧より金持ちで政治力も強い状態を、より長く続けることができる。

▼途上国の発展を遅らせる温暖化対策

 このことを世界的に普遍化して考えると、地球温暖化問題は、先進国が発展途上国の追いつきを阻止するという政治的な効果を持っていると感じられる。先進国は、経済の中心が製造業から金融業などサービス業に移行しており、二酸化炭素を排出する時期は過ぎている。だが、これから経済成長しようとする発展途上国は、二酸化炭素をより多く出す製造業が頼りである。

 京都議定書は、先進国とロシア東欧諸国にしか排出規制の義務を課していないが、次の段階では、中国や韓国など、これから先進国になっていこうとする国々に対しても、排出規制が義務づけられていく可能性が大きい。長期的に見ると地球温暖化対策は、途上国の発展を阻害し、その分だけ先進国が優位に立てる時期を長引かせるための企画だといえる。

 今の世界で、先進国とは「欧米」のことである(オーストラリアとニュージーランドも欧州人の国である)。地球温暖化対策を政治的に解読すると、欧米中心の世界をできるだけ長く維持するために、英米が提起した試みといえる。

 先進国の中で、欧米でない唯一の国は日本だが、戦後の日本は完全な対米従属国で、欧米に楯突く姿勢は一切見せていない。また日本は、国家戦略的に見ても、省エネ技術や二酸化炭素排出削減の技術が進んでいるため、温暖化対策が実施されることは有利にはたらく。排出規制が国際法になれば、中国など他のアジア諸国もいずれ調印せざるを得ず、その分経済発展の足かせを負うことになり、アジアで最初の先進国である日本にとっては有利である。日本が、温暖化対策という名の欧米中心体制を維持する企画に乗ったのは国益に沿った動きだった。

 温暖化を研究している科学者はこんな風に考えず、単に地球の環境だけを考えて発言してきたのかもしれないが、政治家はそうではない。科学者は、気づかぬうちに政治家に使われている可能性がある。

▼単独覇権主義は欧米中心主義の改訂版と思われたが・・・

 これでアメリカが京都議定書を批准していれば、世界の途上国は気づかぬうちに足かせをはめられ、欧米中心の世界体制の延命が実現していたはずだ。ところが現実はそうならなかった。京都議定書は、昨年11月にロシアが批准したことで、発効の前提となる条件(世界の温室効果ガス排出量の55%以上を占める国々が批准すること)が満たされ、発効したものの、世界最大の排出国(世界全体の約4割を排出)であるアメリカは批准せず、条約として不完全なものにとどまっている。

 アメリカの政界では1996年ごろから、共和党右派を中心とする「タカ派」の勢力が強くなった。彼らは「ソ連亡き今、アメリカは圧倒的に世界最強なのだから、世界から圧力をかけられても、国益にそぐわないことをやる必要はない」と主張する「単独覇権主義」の傾向が強く、京都議定書に盛り込まれた温暖化対策を「米経済に悪影響を与える」として反対していた。クリントンのホワイトハウスは、議会上院の多数派を共和党に押さえられ、上院は「途上国が十分に参加しない限り、京都議定書を批准しない」という決議を採択し、批准は事実上否定された。

 その後、2000年の大統領選挙でブッシュが、クリントンの後継者であるゴアを破り、さらに翌年の911事件でアメリカ社会が一気に保守化したため、米政界は共和党右派の圧勝状態となった。ブッシュは京都議定書を否定し、温暖化対策を拒否し続けた。

 当初、イギリスや日本などのアメリカの同盟国は、クリントンからブッシュへの交代に伴うアメリカの戦略転換を、方針の微調整だと考えていた。クリントンは、共和党支持の傾向が強い石油業界と軍事産業に対して比較的冷たかったが、ブッシュはこれらの業界にテコ入れするため、京都議定書を破棄したり、外交ではなく軍事による解決を重視する「先制攻撃」の政策を提唱したりするのだろうと考えられた。

 政権を握った共和党右派からは「環境問題の重視や、国際紛争の外交的解決など、西欧諸国の主張は、アメリカの国益にそぐわないので無視した方がよい」といった主張も出てきた。これは従来の「欧米中心主義」が「アメリカ中心主義(単独覇権主義)」に代わっただけだと、米国内や日英などの分析者の多くが考えた。

 つまり、アメリカはブッシュ政権になって、国内的には石油産業と軍事産業を重視し、国際的には西欧との関係を軽視して単独覇権の傾向を強めるという微調整を行ったというのが、イラク戦争の泥沼化が顕著になるまでの、大方の見方だった。ブッシュに切り捨てられた西欧諸国は、EU全体を合計しても、軍事的、経済的にアメリカよりずっと弱く、アメリカが身勝手に振る舞っても、それに報復することはできないと考えられた。

▼温暖化対策を拒否して世界を多極化する

 ところが、2004年になって、明らかにイラク戦争は失敗だったと分かっても、ブッシュ政権は「単独覇権主義」や「先制攻撃」の姿勢を変えなかった。単独覇権主義が失敗した以上、ブッシュは欧米中心主義(いわゆる「国際協調主義」)に戻るだろうと考えて、ブレアはブッシュが方針を戻しやすいように今年7月のG8サミットを用意した。(関連記事)

 ブレアは、G8の会議場に中国やインドの首脳を招待し、彼らに地球温暖化対策の重要性について肯定的な見解を述べてもらうことで、ブッシュや米議会が京都議定書を拒否してきた理由である「途上国の十分な参加がない」という問題点を乗り越える形を作ろうとした。だがブッシュはこれに乗らず、温暖化対策を拒否する姿勢をほとんど変えず、アフリカ支援強化も表向きだけ協力するにとどまった。(関連記事)

 そして、ブッシュがブレアの提案を断る代わりに行ったのは、中国やインドなどと、二酸化炭素などの排出削減技術の開発で協力する協定を結ぶという行為だった。この協定には、日本や韓国、オーストラリアも入っているが、イギリスを含む欧州勢は外されている。ブッシュが発したメッセージは、ブレアが提案する「欧米中心主義への回帰」を拒否し、中国やインドといった欧米中心主義が発展を阻害しようとした国々との協力関係を作るという姿勢である。

 ブッシュは単に、自分が掲げた「単独覇権主義」などの方針を変えたくないという、メンツにこだわる依怙地なだけなのだろうか。ブッシュ本人は、そうなのかもしれない。しかし、政権全体としては、おそらく「欧米中心主義」とは別の戦略を追究し始めていると思われる。

 別の戦略とは「多極主義」、つまり世界の中心を欧米に固定化するのではなく、中国、インド、ロシアなど複数の覇権国が存在している状態を、今のアメリカ上層部は目指しているのではないかと私は感じている。アメリカは世界を多極化しようとしているのではないか、という分析を、私はこれまでに何本か書いてきたので、それらを読んでいただくと、この間の経緯を理解していただけると思う。(関連記事その1、その2、その3、その4)

▼多極主義の背後に資本の理論

 重要なのは、アメリカの上層部がなぜ、自分たちが世界の中心であり続ける「欧米中心主義」ではなく、あえて中国やロシア、インドなどに覇権を譲り渡す「多極主義」を選ぶのか、ということである。私は、その理由は「資本の理論」にあるのではないかと考えている。

 欧米や日本といった先進国は、すでに経済的にかなり成熟しているため、この先あまり経済成長が望めない。温暖化対策が途上国の経済発展の足かせとして用意されていることを見ると分かるように、今後も欧米中心の世界体制を続けようとすることは、世界経済の全体としての成長を鈍化させることにつながる。これは、世界の大資本家たちに不満を抱かせる。欧米中心主義を捨て、中国やインド、ブラジルなどの大きな途上国を経済発展させる多極主義に移行することは、大資本家たちの儲け心を満たす。

(欧米のマスコミで最近よく見る「予測」通り、地球温暖化による海面上昇で、このままだと数年後にロンドンやニューヨークが海中に沈むのだとしたら、温暖化対策は、経済的マイナスよりプラスの方が大きいということになるが、こうした「予測」は極論であり、政治的プロパガンダとしか見えない)

「資本家だって、ほとんどは欧米人(もしくはユダヤ人)なのだから、欧米中心主義(もしくは欧米・イスラエル中心主義)を望むのではないか」と考える人がいるかもしれない。しかし、産業革命以来の資本の動きを見ていると、資本(もしくは大資本家)とは、非常に国際的な存在であることが分かる。イギリスで始まった産業革命を、欧州大陸諸国やアメリカ、そしてロシアやアジアへと拡大、飛び火させていったのは、資本家の動きである。

(資本家の中心が反シオニズム・国際主義のユダヤ人だとしたら、資本家の特性と、国籍を選ばないという資本の特性とは一致する)(関連記事)

 資本家が愛国主義を最重視したとしたら、産業革命で得られた技術をイギリスから出さなかっただろうが、歴史はそうなっていない。資本家は、産業革命が一段落したらイギリスを見捨て、まだ産業革命が始まっていない他の国に投資し、その国で産業革命を起こしてもっと儲ける道を選んだ。第一次世界大戦後、世界の覇権と経済の中心がイギリスからアメリカに移動したことにも、資本家の意志が感じられる。欲得が愛国心などのイデオロギーを上回っているのが資本の論理である。

 資本家が世界の多極化を望むのは、以前からの傾向だった。アメリカの大資本家の代表格であるロックフェラー財閥は、国民党政権の時代から中国の経済発展を望んでいた。その後、中国は共産化し、アメリカの敵とされてしまったが、1970年代に入り、ベトナム戦争の泥沼を救うという名目で、冷戦重視派を押しのけて中国との友好関係を復活したニクソン政権のキッシンジャー補佐官は、ロックフェラーの政策大番頭だった。

 最近ではキッシンジャーは、毎年のように北京を訪問し、共産党政権の首脳たちに対し、どうやったら大国になれるかをアドバイスし続けている。こうした動きの背景には「資本の理論」、つまり今よりもっと儲かる投資先を作り続ける、という意図があると思われる。

 クリントン時代のアメリカは、デリバティブなど金融商品の拡大によって信用創造を行い、国内消費を喚起して世界経済の牽引役として機能していた。この体制は資本の理論に合っていたが、1997−98年の世界通貨危機後、この体制による発展が続かなくなり、ブッシュ政権になって、アメリカは政府も民間も債務が拡大し、ドルの不滅神話もどこまで続くか心もとない感じになってきている。

▼911で失われた石油利権

 ブッシュ政権の中に自滅的な多極主義を推進する勢力がいると思われる他の要素としては、たとえば911事件でサウジアラビアを犯人扱いしたことがある。

 サウジアラビアは、石油の産出力に大きな余力がある。従来のアメリカはサウジ王室と親密な関係を築くことにより、石油価格が高騰しそうなときにサウジに増産してもらい、石油価格を安定させてきた。サウジ王室は1930年代の建国以来、国作りの根幹をアメリカのノウハウに頼り続けており、親米以外の政策を採れない状況にあった。

 石油は経済発展には不可欠な物資である。欧米諸国が、これまで欧米中心の世界体制を維持できた背景には、世界の石油流通の根幹をアメリカや西欧の石油会社が握るとともに、サウジに代表される産油国の政府を手なずける外交政策があった。

 ところが、ブッシュ政権が911事件でサウジ政府を犯人扱いしたため、アメリカとサウジの関係は悪化した。以前の記事「サウジ滞在記(3)」に書いたが、911の実行犯19人のうち15人がサウジ人だとされていることは、米当局が仕掛けた濡れ衣である可能性が大きい。

 サウジ王室は、その後も表向きは親米的な態度をとっている。だが、本質はどうなのか、疑問がある。サウジの王室やその他の金持ちたちがアメリカに投資していたオイルダラーの多くは、アメリカを離れて中東に還流しており、アメリカを敬遠する傾向が見られる。

 このところ続いている石油価格の高騰に対しては、サウジ政府は増産して高騰を抑制することに協力していると表明しているが、本当にそうなのか。アメリカに裏切られたサウジは、ロシアやベネズエラなど他の産油国と裏で協定し、石油価格をつり上げて儲けているのではないかとも勘ぐれる。

 ベネズエラ、イラン、スーダンなど、アメリカは他の産油国に対しては露骨な敵対政策を採っており、これらの国々は、世界最大の石油消費国であるアメリカを困らせると同時に、自国の富を膨らませることができるので、石油価格をつり上げる動機を持っている。

 イランなどは、従来は米英だけに存在している石油の国際市場を自国に作ることで、石油の価格決定権を米英が独占してきた状態に風穴を開けようとしている。この試みが成功するかどうか、まだ分からないものの、アメリカは単独覇権主義を掲げたことにより、不必要に石油に対する支配権を失いかねない状況になっていることは確かである。

 地球温暖化対策との関係で見ると、石油価格の高騰は、皮肉な効果をもたらしている。ガソリンの高騰が続くことで、米国民は自動車の利用を抑制せざるを得なくなり、二酸化炭素の排出量も自然に減るからである。

▼多極主義はブッシュ政権の隠された戦略?

 911事件後、執拗にサウジ政府を犯人扱いし続けたのは、ブッシュ政権の中枢にいたネオコン勢力である。彼らは中東でサウジとライバル関係にあるイスラエルのためにサウジを攻撃し続けたという分析が一般的だ。だが私が以前から疑っていることは、実はネオコンは「隠れ多極主義者」であり、アメリカが従来推進してきた欧米中心主義の体制を破壊することが真の目的だったのではないか、ということである。(関連記事)

 イラク侵攻の際、少ない兵力で十分勝てると主張し、フセイン政権崩壊後のイラク占領の過程で兵力不足を引き起こしたのは、当時のウォルフォウィッツ国防副長官に代表されるネオコン勢力である。「イラクは大量破壊兵器を持っていないのではないか」と主張するCIAをブッシュ大統領から遠ざけるとともに、極論をかき集めてイラクが大量破壊兵器を持っているに違いないという歪曲された論陣を張り、米国民を騙したのも、当時のダグラス・ファイス国防次官らネオコンである。

 ネオコンは、米政界で強まっていた単独覇権主義の論調を極端に押し進めることで、事態を失敗に持ち込み、結果的に単独覇権主義を破綻させ、世界が多極化していく素地を作ったと考えられる。

 とはいえ、ブッシュ政権内で隠れ多極主義者だと思われる人々は、ネオコンだけではない。ネオコンと対立していたとされるパウエル前国務長官と、その後任であるライス国務長官も、単独覇権主義を推進しているように見せながら、実は世界の多極化を推し進めてきた疑いがある。

 パウエルは、国務長官だった2004年初めに、フォーリン・アフェアーズ誌に、アメリカはロシア、インド、中国を支援するという主旨の宣言を含む論文を発表している。彼は「アメリカは、強くて安定し、経済力と外交力を持った大国として中国が台頭することを望んでいる。中国の指導者も、それをよく知っている」と多極主義的なことを書いている。(関連記事)

 ライスは6月初め、中国・ロシア・インドの外務大臣がロシアのウラジオストクに集まり、3カ国でユーラシアを安定させる協調体制を組むと宣言した会議が開かれる直前、この会議に出席する直前の中国の李肇星外相と電話会談し、アメリカは中国が国際社会の中で果たす役割を支援する、と表明している。こうしたライスの言動は、アメリカは中国やロシアを支援するというパウエル宣言の意志を受け継いでいる。(関連記事)

 このほか、中国人民元のドルペッグを何としても外させようと中国に要求し続けたジョン・スノー財務長官の行為も、表向きは米企業の保護が目的だと言いながら、実質的には世界の多極化を推進している。(関連記事)

 これらのことから言えるのは、ブッシュ政権の中枢には、単独覇権主義者のふりをして世界の多極化を推し進めている人々が多いということだ。ブッシュ政権は、最近のハリケーン「カトリーナ」への災害対策の無策ぶりに象徴されるように、行政能力の欠如が目立ち始めている。アメリカは世界のことはおろか自国のことも対応できない状態になりつつあるが、これは政権内の多極主義者たちにとっては、世界がアメリカに頼らない多極状態に近づくことを意味しており、むしろ好ましいことなのかもしれない。

 半面、イギリスのブレア首相や、強いアメリカの復活を目指す米国内の政治家など、欧米中心主義者(国際協調主義者)にとっては、まずい状態が拡大している。このままでは、ブレアがG8で提唱した地球温暖化対策も、実現しないまま空中分解する可能性がある。

 ブレアは9月5日から中国とインドを訪問し、両国との経済関係を強化しようとしている。ブレア自身、ブッシュを説得して欧米中心主義を復活させることを半ばあきらめ、世界の多極化に沿って自国の国益拡大を追及する道を模索し始めているようにも見える。(関連記事)


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