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4月6日から、イスラエルで建国以来最大の規模といわれる軍事演習が開始
されている。周辺地域のイスラム武装勢力から生物化学兵器を撃ち込まれた場
合などを想定した避難訓練など、軍だけでなく一般市民をも対象に、5日間の
日程で行われる。
http://news.monstersandcritics.com/middleeast/news/article_1398529.php
イスラエルに接するレバノン南部に拠点を置くシーア派の武装組織ヒズボラ
は、この演習で仮想敵とみなされる勢力の一つだが、ヒズボラやレバノン政府
の側では、イスラエルが演習の一環と称して国境沿いで軍事行動を行い、演習
のふりをして、実際にヒズボラに対して攻撃を仕掛けてくるのではないかと警
戒している。
http://www.infolive.tv/en/infolive.tv-20847-israelnews-lebanese-pm-raises-alert-level-fears-israel-may-use-upcoming-nationw
http://www.albawaba.com/en/countries/Lebanon/224987
レバノンでは、ヒズボラはアメリカからテロ組織とみなされる反米組織(野
党)だが、レバノン政府(シニオラ首相)自体は親米だ。今回は、ヒズボラだ
けでなくレバノン政府も、イスラエルが演習のふりをして本物の攻撃を仕掛け
てくるとおそれ、シニオラ首相は、レバノン南部に駐留する国連軍(欧州諸国
が主導)に対し、イスラエル演習中は警戒した方が良いと通報した。
http://newsblaze.com/story/20080405160416payn.nb/newsblaze/OPINIONS/Opinions.html
イスラエルの北側は、レバノンだけでなくシリアにも接しているが、シリア
も先週から、イスラエルに対する警戒を強め、予備役の兵力を召集したと報じ
られた。ヒズボラとイスラエルは2006年夏にもレバノン南部で戦争したが、
この時はイスラエル軍による空爆がレバノン・シリア国境のすぐ近くまで及び、
シリアが戦争に巻き込まれる一歩手前まで戦況が進んだ。シリアは今回、再び
レバノン南部の戦争が自国に飛び火することをおそれ、対レバノン国境近くに
3個師団を配備したとも報じられている。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/971398.html
シリア政府と、イスラエル軍の両方が、これらの報道を否定しているが、そ
の一方でイスラエルのバラク国防相は、緊張の高まりを受け、予定していたド
イツ訪問(一説によると訪米)を取りやめた。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/971616.html
http://yalibnan.com/site/archives/2008/04/hezbollah_israe_1.php
イスラエル軍は、シリアは特に異様な動きを見せていないと言っているが、
その一方で「ヒズボラが攻撃してきそうだ」「シリアとイスラエルとの誤解が
戦争につながるおそれがある」「ヒズボラ側は、表向きは静穏だが、水面下で
戦争準備を急いでいる」といった見方が、イスラエル軍の周辺から出ている。
緊張は明らかに高まっている。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/970770.html
http://www.ipsnews.net/news.asp?idnews=41873
http://www.haaretz.com/hasen/spages/971879.html
レバノンの情報によると、イスラエルの軍事演習の山場は4月8日で、ミサ
イル攻撃を受けた前提で、イスラエル全土で空襲警報のサイレンを鳴らし、防
空演習を行う予定だ。イスラエルは、シリアなどアラブ連合軍と戦った1967
年の第3次で、攻撃される前にアラブ側を先制攻撃をして圧勝した経験を持つ
ので、今回も、ヒズボラやシリアから攻撃される前に、軍事演習を隠れ蓑と
して先制攻撃をかけるのではないか、とレバノンの分析者は考えている。
http://newsblaze.com/story/20080402121034payn.nb/newsblaze/OPINIONS/Opinions.html
(ヒズボラは、2月中旬に幹部の一人イマド・ムグニヤを暗殺された報復の攻
撃をイスラエルに対して仕掛けると予測されてきた)
http://tanakanews.com/080219mideast.htm
いったんイスラエルがヒズボラ、シリアと戦争になったら、パレスチナのハ
マスや、イランも参戦し、中東大戦争に発展する可能性が大きい。
▼重要なのは米イスラエル内部の暗闘
私がみるところ、イスラエルとイスラム側との対立構造で最も重要なのは、
イスラエル対イスラムの対立そのものではない。イスラエルとアメリカの、右
派(正しくは、右派のふりをした隠れ多極主義者)と中道派(米英イスラエル
中心主義者)との暗闘が、最重要の問題である。この暗闘は、右派と中道派が
それぞれ誰なのかという役者の全体像がはっきりせず、しかも私の独自の分析
なので、多くの人に空想だと思われている。
だが私がみるところの今の国際情勢は、この暗闘が、右派の勝利で勝負がつ
きそうな決定的な段階にさしかかっている。30年来の右派であるチェイニー
副大統領が牛耳る米ブッシュ政権が、米国内の中道派を無力化し、来年1月の
任期末までにイギリスやイスラエルの戦略を破綻させようとする仕上げの段階
に入っている。
この見方で国際政治のいろいろな動きを切ると、納得のいく説明がつく。中
東情勢だけでなく、米英の金融危機、ドル安石油高、ロシアとの関係、フラン
スのサルコジ大統領の動き、チベットや台湾など中国関係の動きなどが含まれる。
http://tanakanews.com/080304dollar.htm
イスラエルの右派は、1967年に中東戦争でイスラエルが西岸とガザを占
領した後、70年代に占領地に入植するためにアメリカから大挙してやってき
たユダヤ系の活動家たちを中心とし、イスラム側との和解を一貫して拒絶し、
パレスチナ人を占領地から追い出すことを目標にしてきた。右派は、70年代
に台頭した新政党リクードの中心的存在となり、占領活動に関連しているイス
ラエル軍や住宅省の中に深く入り込み、イスラエル政府が、イスラム側との和
解や、入植地の撤去を試みるたびに右派が阻止し、イスラム側との敵対が強ま
って世論が好戦的になるほど、右派は政治的な人気を集めた。
http://tanakanews.com/f0705israel.htm
イスラエルの右派は、アメリカのネオコン(ユダヤ人が多い右派の戦略家集
団)とつながった存在だ。チェイニーはネオコンを重用し、強硬策をやりすぎ
て自滅的に米英イスラエルの覇権を自滅させている。このことから考えて、イ
スラエルの右派も、その中枢にいる人々は「親イスラエルのふりをした反イス
ラエル」「シオニストのふりをしたロスチャイルド(資本家)の手先」ではな
いかと疑われる。(右派の末端の人々は、純粋に「聖書に書かれた約束の地を
実現する」と考えて入植活動しているのだろうが)
http://tanakanews.com/f0622israel.htm
イスラエルの中道派は、以前はリクードと対立する労働党だったが、イスラ
エルとイスラム側との長い敵対の結果、すでに労働党の和平路線は世論の支持
が少ない。代わりに911後、中道的な動きをし始めたのが、当時のシャロン
首相で、シャロンが2006年に脳出血で倒れた(やられた?)後は、シャロ
ンが諜報機関モサドから引っ張ってきて政治家として育てたリブニ外相が、中
道派の中心になっている。
シャロンは、もともと右派の指導者だったが、911後、米ブッシュ政権が
「テロ戦争」の強硬策を過剰にやってイスラム主義勢力を強化してイスラエル
を潰そうとしていることに気づき、中道派に転換し「ガザ撤退」などによって
パレスチナを隔離し、イスラエルが潰されるのを防ごうとした。リブニは、シ
ャロンの戦略を受け継ぎ、現オルメルト政権の中で、何とかパレスチナ側(ア
ッバス大統領のファタハ)にパレスチナ国家を作らせ、中東和平を実現し、情
勢を安定させ、イスラエルの国家存続をはかろうとしている。
http://tanakanews.com/070508israel.htm
▼自滅的な右派
今のイスラエル政府は、中道派と右派の暗闘が激しい。シャロンが倒れた後、
副首相から昇格しただけのオルメルト首相は、優柔不断で右派に流されやすい。
リブニは、オルメルトに対してクーデターを起こしたりして、何とか政権を中
道的な方向に持っていこうとしているが、もう一人の政権中枢の有力者である
バラク国防相(労働党)が最近、中道派のふりをした隠れ右派であるという本
性を現し、事態を戦争の方に引っ張り込んでいる。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/970384.html
右派は、イスラエル政府内の住宅省を乗っ取っているため、政府が和平推進
のため、占領地での住宅建設を禁止する決定をしても、それを無視して東エル
サレムなどに前代未聞の規模で入植地住宅を建設する計画を進めている。東エ
ルサレムは、リブニ外相ら中道派が交渉の中でパレスチナ側に譲渡し、パレス
チナ国家の首都にしようと考えている場所である。
(占領地での住宅建設には国防省の許可が必要だ。バラクは国防相に就任後、
それまで凍結されていた建設許可を一気に解禁した)
http://www.haaretz.com/hasen/spages/970234.html
住宅省を右派に乗っ取られている限り、イスラエル政府はパレスチナ和平を
進められず、このままだと近いうちにパレスチナ側は、親米親イスラエル的な
アッバス大統領がクーデターで追放され、反イスラエル・親イランのハマスに
席巻される。ちょうど今、パレスチナ和平交渉のため、米ライス国務長官がイ
スラエルを訪問しているが、和平が進展する可能性は、現状ではゼロだ。
http://uruknet.info/?p=m42779&s1=h1
右派はイスラエル軍の中にも網を張っていて、政権中枢の人々が知らないう
ちに、無茶苦茶なことをやる。たとえばイスラエル軍は、ハマスなどパレスチ
ナ側がガザからイスラエルに向けて撃ってくる短距離ミサイル(カッサム砲)
を迎撃する設備(アイアンドーム)の導入を進めたが、今年初め、実際に迎撃
ミサイルを使おうとしたところ、飛距離が約2キロと短いカッサム砲は着弾ま
での秒数が短すぎて、4キロ以上の飛距離のミサイルにしか効かないアイアン
ドームでは迎撃できないことがわかった。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/956859.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/967067.html
こんな問題は、導入する前に簡単に調べられたはずだ。迎撃ミサイルが使え
ない以上、カッサム砲を止めるには、イスラエル地上軍をガザに侵攻させ、泥
沼の占領をやるしかない。国産技術を使いたかったのでアイアンドームが選ば
れたと報じられているが、私からみると、右派のイスラエル軍幹部たちは、わ
ざと使いものにならない迎撃ミサイルを導入させ、自国の戦争を泥沼化しよう
とした疑いがある。これは、イラク占領を異様に安易なものとして描き、米軍
を意図的にゲリラ戦の泥沼に引き込んだブッシュ政権中枢のネオコンたちがや
ったのと、全く同じ構造の自滅作戦である。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/964816.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/969440.html
▼通信傍受する敵は誰?
中道派にとっては、イスラエルの右派だけでなく、米ブッシュ政権(アメリ
カの右派)も問題だ。米軍は、3月初めからイスラエル北部(レバノン南部)
の沖合に軍艦を派遣し、イスラエル軍の通信を傍受している。
表向き、米軍艦派遣の目的は、ヒズボラとシリアを威嚇するためと報じられ
ている。だがブッシュ政権はこれまで、イランを挑発して、イランからヒズボ
ラやハマスへの支援強化を誘発し、イスラエルをけしかけて06年夏の自滅的
なレバノン戦争を誘発するなど、敵を強化してイスラエルを潰す隠れた戦略と
しか思えない行為を続けている。米軍は、イスラエル軍の通信を傍受し、情報
をイラン・ヒズボラ側にこっそり流すような、とんでもないことをやりかねない。
イスラエル軍は、シリアの対イスラエル国境沿いにイランが通信傍受の施設
を新設したと発表し、その対策として軍内の情報セキュリティを強化したが、
実はセキュリティ強化の目的は、米軍に機密を知られないようにするためかも
しれない。(シリア政府は、通信傍受は前からやっており、施設を新設したわ
けではないと言っている。)
http://newsblaze.com/story/20080402121034payn.nb/newsblaze/OPINIONS/Opinions.html
http://www.thememriblog.org/blog_personal/en/6610.htm
イスラエルでは最近、右派の中にも「イスラム側と敵対しすぎて、イスラエ
ルにとって危険な状態になっている」と考える人が増えている。ふつうに考え
れば、自国が潰れるまでイスラム側と敵対すべきだと考えている人がいること
の方がおかしい。だが、ここ数年の実際の展開は、右派の過剰な強硬姿勢のせ
いで、イスラエルは自滅的な敵対行為を続けてきた。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/971764.html
ヒズボラやシリアと戦争になったら、イスラエルの国家存続は危うくなる。
4月6日からの軍事演習の中で、イスラエル軍がヒズボラを攻撃するのは自殺
行為である。政権中枢で、戦争を誘発しようとする右派の動きを、中道派が止
められれば、とりあえず開戦は回避される。
その後も和平より戦争に傾きやすい状況は変わらないだろうが、来年1月の
ブッシュ政権の任期切れまで、イスラエルが戦争に入らずにいられれば、アメ
リカが次期政権になった後、イスラム側と和平を実現することも可能かもしれ
ない。その意味で、今週の軍事演習を無傷で乗り切れた後は、今秋にかけての
半年が、イスラエル国家にとっての次の正念場となる。
▼イラク政府を救ったイラン
中東では今、イスラエル・レバノンとならんで、米ブッシュ政権が意図的に
緊張を高めている場所がもう一つある。それはイラク・イランである。3月末、
米軍傘下のイラク政府軍が、イラク南部の大都市バスラを攻略し、反米のゲリ
ラ(サドル師のマフディ軍)が5日間の戦闘を繰り広げ、その後サドルが停戦
に応じ、一応の平穏が戻った。イラク駐留米軍のペトラウス司令官は、このバ
スラ攻略の中で、イラン軍(革命防衛隊)の戦術担当者がマフディ軍に付き添
い、戦い方を指導したと言い出した。
http://www.timesonline.co.uk/tol/news/world/middle_east/article3690010.ece
ペトラウス司令官は4月8日、米議会下院の公聴会で、イラク占領の現状に
ついて話す予定だが、この中でペトラウスは、バスラ攻略にイラン軍が参加し
ていたことを取り上げ、イラン軍は反米ゲリラを指導して、米軍傘下のイラク
軍に対して戦闘を仕掛けてきたのだから、これはイランがアメリカを攻撃して
きたのと同じであり、米軍はイラン軍を攻撃して潰さねばならないと主張する
だろうと報じられている。
http://www.telegraph.co.uk/news/main.jhtml?xml=/news/2008/04/05/wiran105.xml
米軍中枢でイランとの戦争に強く反対していた、ペトラウスの上司だったフ
ァロン司令官は3月中旬、チェイニー副大統領の画策によってクビを切られた。
ブッシュ大統領は、ペトラウスの考え方に影響されているとも報じられている。
このような状況からは、イスラエルがヒズボラと開戦するのとほぼ同時に、ア
メリカはイランと開戦しそうだという予測が成り立つ。
しかし状況をよく見ると、バスラ攻略をめぐって、アメリカはイランを潰す
どころか、逆にイランを強化することをやっている。バスラ攻略は、サドル師
が停戦に応じたため終わったが、イラク政府とサドルの間の停戦を仲裁したの
は、イランだった。
http://tanakanews.com/080402eurasia.htm
イラク政府軍は、もともと親イランのイスラム組織SIIC(イラク・イス
ラム最高評議会)の民兵「バドル旅団」が衣替えしてイラク軍になったものだ
が、バスラでの戦闘開始後、SIICの代理人(イラク国会議員)とサドル派
の代理人(一説にはサドル自身)が、イランの聖都コムに集まり、その会合を、
イラン軍の幹部(革命防衛隊の外務担当であるスレイマニ将軍)が仲裁し、停
戦の話をまとめた。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/JD03Ak02.html
スレイマニ将軍は、米政府と国連から、イランによる国外での軍事活動(米
からみればテロ行為)の責任者として、テロリストに指定されている。そのよ
うな人物が、イラクの政府と反米ゲリラとの交渉を仲裁したのに、米政府はこ
れを黙認した。
http://www.mcclatchydc.com/227/story/32141.html
米側は、イランの介入を黙認しただけでなく、バスラ攻略が失敗したのを見
て「バスラ攻略は、イラク政府が、米側にほとんど相談せずに、勝手にやった
ことだ」と、はしごを外す言動に出た。マリキ首相は、アメリカの傀儡であり、
勝手に軍事作戦を挙行するはずがないことを、イラク人はみんな知っている。
マリキのイラク政府は権威を失墜し、ますますイランを頼り、ゲリラ側との停
戦を維持せねばならなくなった。もともとマリキはイランと親しい。
http://www.antiwar.com/porter/?articleid=12613
▼大油田をイランにあげてしまう
バスラ周辺は、世界有数の油田地帯である。バスラを制する者が、石油とい
う財政面でイラクを握るといわれる。今回の攻略で、イラク政府がアメリカの
傀儡としてバスラを制することは不可能になった。以前からバスラを支配して
いたサドル師のマフディ軍が、以前より強くバスラを制する方向が決まった。
そして、その黒幕はイランである。バスラ攻略によってアメリカは、バスラの
巨大な石油利権をイランに譲渡したも同然となった。
http://www.thefirstpost.co.uk/?storyID=26617
http://english.neftegaz.ru/english/info/press/press_irev.php?id=1250
そもそもマリキ首相に、失敗するとわかっていたバスラ攻略をやらせたのは、
3月16日に中東歴訪の一環でイラクを訪問したチェイニー副大統領だったの
ではないかと、私は勘ぐっている。隠れ多極主義のチェイニーは以前から、イ
ラク占領をやりすぎによって失敗させるとともに、イランを挑発して中東で最
強の反米勢力にする方向の策略を繰り返している。
アメリカは、ブッシュ政権の間はイラク占領を続けるだろうが、すでにマリ
キ政権は名目だけの政府で、占領に成功して安定した傀儡政権を作ることはも
はや無理だ。次期政権のアメリカは、おそらくイラクから撤退していかざるを
得ないが、その後のイラクは親イラン的な国になり、イランやロシア、中国、
ベネズエラなどの非米諸国の石油会社が、イラクの石油を採掘するようになる
だろう。アメリカは、何兆ドルもの軍事費を使い、何十万人ものイラク人を殺
した挙げ句、イラクの石油をイランに無償譲渡している。これぞ、隠れ多極主
義の真骨頂である。
イラクには、スンニ派とクルド人もいるが、イランはすでにスンニ派にも触
手を伸ばしている。イラクの隣にあるスンニ派の国シリアも、イラクのスンニ
派に対して影響力を持っているが、シリアは親イランである。クルド人に対し
ては、昨年末から隣国トルコが軍事的な圧力をかけ、独立を抑制している。ト
ルコは最近、イランと急速に親密化した。すでにイラン・トルコ・シリアが組
んで、アメリカ抜きでイラクを維持する体制ができている。
逆に、バスラで自滅的大損をしたのがイギリスだ。バスラにはイラク侵攻以
来、数千人のイギリス軍が駐留している。イラク占領が成功したら、バスラの
石油利権の最大の受益者は、イギリスになるはずだった。だがイラク占領は失
敗し、昨年10月、イギリスは見切りをつけてバスラからの撤退を決めた。し
かし撤退はアメリカから猛反対され、撤退をなかなか進められないまま、今回
のバスラ攻略を迎え、もはや敵前逃亡は不可能で、撤退できない状態になった。
http://www.libdems.org.uk/news/no-convincing-case-for-continued-british-presence-in-basra-harvey.14119.html
イギリス軍は、イラクのほかアフガニスタンにも積極駐留しており、もとも
と政府財政が弱いイギリスは、完全に過剰派兵状態に陥っている。イギリスは
90年代以来、アメリカと同一の金融戦略をとってきたが、今年はアメリカ同
様、金融危機と不況を併発し、政府財政はますます苦しい。イギリスの石油会
社BPはロシア政府から敵視され、追い出されている。イランやロシアは強く
なり、米英イスラエルは潰れかけている。これも、隠れ多極主義の成果である。
http://www.thesun.co.uk/sol/homepage/news/campaigns/our_boys/article988033.ece
このような状況下で、アメリカはイランと戦争するだろうか。おそらくチェ
イニーは「アメリカがイランと戦うから、イスラエルはヒズボラと戦ってくれ」
とイスラエル側に提案し、その策略が進んでいると推測される。イスラエルは
今週、もしくはその後の今年末までのいずれかのタイミングで、ヒズボラと戦
争に入るかもしれないが、その場合でもアメリカはろくにイランと戦わず、イ
スラエルに対してはしごを外す策略を行うのではないか。チェイニーの目的は
イスラエルを潰し、米英イスラエル中心の体制を崩して世界を多極化すること
だとしたら、そのようなシナリオが考えられる。