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【日経BP:伊東乾さんのコラム】戦時経済はバブルの一亜種:米国の軍需による景気浮揚は「贋金作り」と変わらない
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http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20071101/139439/
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CSR解体新書(16)戦時経済はバブルの一亜種
米国の軍需による景気浮揚は「贋金作り」と変わらない
2007年11月5日 月曜日 伊東 乾
CSR バブル経済 サブプライムローン 軍需経済
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回収の見込みの定かでない安易な融資を乱発すれば、通貨偽造と同様、確実にお金の信用を下落させる。先週、長い紙幅を使って準備したおかげで、現在喫緊の課題であるサブプライムローン(米国の信用力の低い個人向け住宅融資)問題を考える理論的枠組みがすっかり整いました。
誰もが「米ドル建てなら大丈夫だろう」と思っていたわけです。ところがその信用は「円天市場」ならざる「米国市場」内部から崩壊してしまった。
オイル決済通貨としてのドルの地位もいまや危うい。先週「波打つバカの壁」の内外にいろいろな立場の「受益者」「被害者」がいると指摘しましたが、NBオンラインでも、今この原稿を編集部に入れたタイミングでアップロードされた本多秀俊さんの「Money Globe - from London」に、ちょうど対応する指摘がありました。
米国の「借金」は、そっくりそのまま、米国以外の国々の「売掛金」として世界経済の見かけ上の活況を支えてきたわけです。実際は借金漬けのまま国全体として旺盛な消費を続けてきた米国は「円天生活、最高!」と喜んだ主婦を決して笑うことができないのです。
実際、米クレジット市場は急激に拡大し、金アマリと資産運用上のモラルハザードによってあっけなく崩壊しつつある。その際「波打つバカの壁」をまたぐように「受益者」と「被害者」が双方に現れる。
この時、ショックの吸収帯としてあてがわれていた円建ての経済や日本の株価が本体以上にダメージを受けるとしたら、冗談では済まない、乱暴に簡略化すれば、そういう構造が浮き彫りになると思います。
さて今回の私のお話は、このところ続いた理論屋としての総論ではありません。自分で足を運んで見てきた、極めて特殊な米国の内部事情のご紹介です。やや極端な個別のケースを見ながら、泥沼化するイラク戦争と、サブプライムローン問題を含む「米下流社会」経済の、見えそうで見えない関係を考えてみたいと思うのです。
●イラクに派遣される兵士を見送って
2007年2月、私はNHKの依頼で、イラクやアフガニスタンに派遣される兵士の生活を取材するために米国ノースカロライナ州、フォートブラッグ基地に体験入隊しました。
この時の模様はNHK・BS「地球特派員2007」でオンエアされています(「増派に揺れる基地」3月23日放送)。スタジオ解説で寺島実郎さんは「レームダック政権の悪あがき」と表現されました。
さてブッシュ政権末期、米国内経済はどうなることやらと思っていたところ、噴出してきた問題の1つが「サブプライムローン」破綻だった。そこで今回は、日本から見ていると分かりにくい米国内の現実の、かなり極端な「住宅ローン」の例をご紹介してみたいと思ったわけです
ノースカロライナに着いて、私たちはまず、これからまさにイラク・アフガンに派遣されるべく、基地内で飛行機を待つ兵士たちを取材しました。
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出撃を待つ兵士たち。まずクウェートに飛び、そこからイラクとアフガンの2派に別れる。2007年2月11日、ノースカロライナ州フォートブラッグ基地にて Photo: K. ITO
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2月11日、フォートブラッグから中東に飛んだ兵士は約350人、彼らは米陸軍最高の精鋭であるとともに、大半が「米国中下流社会」の出身者で、各人各様にキャリアアップのアメリカンドリームを胸に、軍に志願してきた若者です。分かりやすく言えば、米国職業軍人の出身家庭の多くは「サブプライム」と区分される社会階層にほかなりません。
彼らがバグダッドやジャララバードに送られることで受け取る戦地手当ては(厳密な額は知りませんが)決して低いものではない。それを足がかりに彼らは生活のグレードアップへの危険な賭けをしている。というのも、この基地から派遣される兵士の3〜5%は生きて再びこの地を踏むことがないからです。
今回の350人で言えば15人内外が必ず命を落とすことが分かっている。そういう「契約」と「宣誓」をして、彼らは戦地に赴くのです。
●広すぎる建売住宅は30年ローン
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民間機でクウェートに向かう兵士たち。彼ら彼女らの給与は、戦地手当てを含めて高額に上る。だが、約350人が中東に送られるうち、3〜5%は、生きて再び帰国することがない。つまりこの画面に映っている約50人の中でも2人程度は生還できない兵士がいるということだ。
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いきなりこういう現場からスタートした取材でしたが、おいおい軍の広報を通じて彼らと個人的に親しくなり、私は週末などオフに自宅や教会などプライヴェートの場にも呼んでもらうようになりました。
そしてプライバシーを共にする過程で、友達として、一人の人間として、彼らの生活の実態に触れることができました。 彼らの自宅を訪ねて一様に感じたことは、それらが新築で、きれいで、概して必要以上なほど大きな家であること。これから何十年も住宅ローンを払わなければならない、という言葉を幾度も耳にしました。
私が訪れた「フォートブラッグ」は米陸軍最大規模の軍事要塞で、グリーンベレーの司令部などが置かれています。そこに勤務するのは職業軍人のエリートたち。彼らはどんな動機で入隊して、何を目標に生きているのでしょうか。
「大学に入りたかったけれど、家に余裕がなかったから軍人になって、軍から大学に通って卒業して、大学院で修士号まで取った。将来は大学の講師をしながら社会に役立つ仕事がしたい」
こんな人生の目標を語る人が、フォートブラッグで私が取材した中に何人もいました。特にロナルド(少尉)とマーガレット(曹長)の軍人夫妻(仮名)は、夫婦揃ってペンシルベニア大学院教育学系研究科から人材育成の修士号を取った俊英です。
30代の夫婦2人と子供、それにロナルドの兄さんの5人暮らしの家を覗かせてもらいました。彼らが住んでいるのは、どう見ても大きすぎる、間取りにして12部屋ほどの2階建ての家です。
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明らかに大きすぎる家を、不動産屋の勧めで購入する軍人核家族
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「広すぎるんだけどね・・・不動産屋が<めったにないイイ物件>だと言うし、まあ確かに将来子供が増えるかもしれないし・・・でも、掃除だけで大変なの。メイドを雇うお金なんかないし」というマーガレット。
彼らの住む新興住宅地は、軒並み大きな造りの家が立ち並び、住んでいるのは夫婦と子供だけの核家族が少なくない。かつて彼らが「米国の中上流階層生活」と羨望のまなざしを持って見たかもしれない大きな家。
メイドなどとしてそこで働いていたかもしれない社会層の子供たちが、今度は不動産屋から大きな家を売りつけられる対象になっている。すごい構図だと思いました。
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軍人夫婦2人の給与、ないし軍人恩給で30年モノの住宅ローンを返してゆく「第2の人生」
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この家のローンはどうやって返済してゆくのでしょう。だんなのロナルドに将来の希望を聞いてみました。
―――退役後の夢はどんな?
「20年勤続すると、退役後も生涯にわたって、今の手取りの半額分は年金がもらえるんだ。僕はもう去年で20年、妻も来年20年目になるから、そうしたら除隊する。それを元手にサブウェイ・サンドイッチの店を開いて生活を安定させながら、人材コンサルタント業を開きたい」
夫婦揃って退役した後も、まる1人分程度の軍人の給料が世帯に入ってきます。17〜18で入隊して20年、37〜38歳からの「第2の人生」を彼らは計画している。そこに「住宅ローン」が食い込んできているわけです。
●米国下流社会からの浮上
彼らの住む町「ファイアットヴィル」は第1次湾岸戦争期の1990年、出征軍人の家族のための住宅が不足して、ハウジングラッシュを迎えました。不動産屋や住宅メーカーが大繁盛し、「軍人家族のために必要な家を建てた」という功績で「三ツ星勲章」をもらって、パパ・ブッシュと並んで写真を撮ったという地元の顔役にもインタビューし、教科書通りの答えが返ってきました。
開戦直後は羽振りがいいそうです。それがだんだん、民生側から不景気になってゆく。
「ファイアットヴィル」の町には、地場の農業を除けば産業らしい産業はほとんどありません。外部から町に流入してくるお金は、もっぱら現役軍人の給料か、退役軍人への年金(恩給)。それをぐるぐる回して市民生活が成り立っている。
ここでは、イラク戦争が「村おこし」地元の景気浮揚策として機能して、はっきりと成果を上げ、また戦局が泥沼化することで民生側から不況に直面している。そしてこのあおりを直接受けるのが「サブプライム」の社会階層にほかなりません。
地元の新聞社主である市長は「われわれミリタリーコミュニティーは最高司令官であるブッシュ大統領の命令に常に忠実なのです」と胸を張りました。行政と軍事の一体化! 米国憲法が保障しているはずの大切な権力の独立性が全く存在しない米国というものを、私は初めて体感しました。
上記「三ツ星勲章」の不動産屋氏は、結局のところ軍人の給料や退役者の恩給から、家という担保を取って「住宅ローン」という安定歳入を確保している。言ってみれば特殊な「年金」に寄生して、企業経営の安定化を図っているわけです。
「国際平和」だの「正義」だのと言って、海外派兵を口実に出てきたお金が、最後は地元の不動産屋に入る仕掛け…。正直、なんとも不健康なものを感じました。
●奴隷から解放されてベトナムへ
こんな具合で、ファイアットヴィルはほぼ100%軍の町という、米国内でも極めて特殊な都市です。しかしやはり「反戦」を掲げる人々は存在します。取材期間中、私は反戦デモにも参加しました。また草の根反戦家の家など、軍人以外の家庭も訪ねました。
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「兵士を直ちに帰宅させよ」とデモ行進するベトナム退役兵たち。米国の「反戦デモ」は「反軍備」ではなく個別の戦争に対する抗議が圧倒的に多い
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反戦運動の中心になっている人たちは、多くがベトナム戦争を経験した60代以上の老兵たちです。彼らの家は既に老朽化していて、ローンで大変ということはなさそうでした。しかしデモ行進は反戦だけを掲げるものではなく、軍事も含めた国内の社会問題全般、それへの政府対応の立ち遅れなどに抗議するものでした。
仕事は少なく、学校や病院は充実しておらず、貧しいものは能力を身につけられず、職がなく、病気になっても十分な医療を受けられない。悲惨な最期を遂げる家族がいまだに少なくない、そういう「サブプライム」ないしそれ以下の社会階層の生の声が2007年米国の現実として確かに存在しているのです。
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泥沼化するイラク戦争と、あおりを受ける米下流社会。ノースカロライナ州都ローリーでのデモ行進にて
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もともとノースカロライナは奴隷制の大型農業に依存する南部、南北戦争に負けてリンカーンに従って奴隷を解放した土地柄です。
20世紀に入り、農業が近代化、合理化して元解放奴隷の黒人層はプランテーションでの職を失います。これと並行して彼らは「軍隊」という新しい「就職先」を見いだします。
例えば、マルコムXやキング牧師らが主導した1960年代の公民権運動によって、彼らは市民権とともに兵士として銃を取る「権利」「自由」をも手にした。ベトナム戦争に投入されて、生きてこの世で見る最悪の地獄を経験しながら、所得を上げ、社会階層を上昇させた。そういう現実を当事者から聞いて、少なからざるショックを受けました。
●米国退役軍人の生活保障は社会主義国なみ
移民の国、「自由な階層社会」米国には、常にそうした「浮上」への熱い羨望がある。そこに所得の安定増大と消費を奨励する内政が敷かれれば、サブプライムローン的なクレジット市場が膨張するのは火を見るより明らかでしょう。
「昨日よりいい暮らしがしたい」かつてよく言われた<あすなろ>の感情、誰しもが持って当然のもので、それ自体を責めることは決してできない。
さきほどの軍人カップルの場合、軍からの給与や退役後の恩給が保証されているので、いきなり住宅ローンに窮するということはないでしょう。
そんなことを確認する過程で、今回最も大きな衝撃を受けたのは、米国という国柄を考える中で、退役軍人の生活保障はまるで社会主義国あるいは高度福祉国家並みの扱いになっている事実でした。
低所得階層から中流に上がろうとする時、軍人という職業を選択して、対外軍事行動という公共事業に従事し、20年の年季を全うすれば、生涯にわたって中流階層の生活を国から保障される。
それがとりわけ、奴隷から解放された黒人層3世4世にとって1つのキャリアプランとして確立されており、「下流転落を防止する安全弁」の働きを、軍人恩給が担っている。いわばサブプライムの塀の上でバランスを取る仕掛けとして兵隊の年金が役割を負わされているのです。
むろんこれらは断片的な取材によるもので、明らかにされていない統計も多く、サブプライムローン問題の全体に軍の予算が占める割合は定かではありません。しかし、これと類似の社会的に不安定な構造は全米各地に確かに存在しているはずです。
●戦地手当てや年金を食い物にする住宅ローン
とはいえ、軍人恩給だって、大型のインフレが米国内経済を襲って、年金額が実質目減りすれば将来は定かではない。ましていわんや、軍事を含む公共事業から締め出された低所得層であればなおさらです。
明日こそは、今日よりいい暮らしがしたい。そんな願いを切に持つ人々が、たまさか「開戦景気」その他の瞬間的バブルの恩恵に浴して、高度消費生活への羨望を現実行動に移したとして、それをどうして責めることができるでしょうか。むしろ問題は、そういう商品を売り出す側にあります。
これも米国全体の趨勢は定かではありませんが、少なくともこのノースカロライナ州やジョージア州など、軍事によって成り立つ地域では、上記のようなメカニズムが機能して、高額に上る兵士の戦地手当てや、軍人恩給、年金を格好の安定収入源と見なしてかぶりついている住宅ローン業者がひと山ほども存在し、それが潜在的なサブプライムローン危機を確かに準備している。
現役の軍人は決して戦地に出かけたいと思っているわけではありません。
でも結果的にイラクやアフガンに行けば給与の手取りが上がる。逆に戦争が終結すれば、給料が下がる。どうせ我慢しなければならない同じ20年なら、より手取りの高い方がよいと思う人だって当然いるでしょう。またそういった増収を前提にローンを組む兵隊だっていないとは限らない。
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訓練というお仕事。取り立てて産業のない地域で社会・経済を安定させる軍事公共事業には、それを正当化するシナリオが必要だ。図の左に見える「ヒト型標的」などについては、追って順次、詳しく書いてゆく予定
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パラシュート降下訓練メニューを淡々と消化する17歳の少女兵士。この子に職業と将来の安定収入を保証しているのも「世界平和維持」の旗印を掲げた米軍の国際展開にほかならない。軍の精鋭様々
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こうやって、戦争という仕掛けが稼働することで膨らむバブルが、私が見てきた地域には確かに存在していた。これもなんともイヤなものでした。
●国内景気浮揚策としての対外戦争
寺島実郎さんが「レームダック」と呼ぶブッシュ共和党政権末期。いまだ性懲りもなく「今度はイラン攻撃」などと主張するネオコンの戦略マンもいます。
そうした政策動機の1つに国内景気浮揚策としての狙いが確かに存在しています。社会政策、国民所得倍増と経済安定化のための対外軍事行動。かつて朝鮮戦争に当たって日本もこの種の恩恵に浴して、戦後経済を復興させた事実があります。でもこの「景気」の本質は何なのか?
戦時好況は、成長の実体を伴う経済の発展でないことは、改めて考えれば明らかなことでしょう。日本の朝鮮特需だって同じです。
日本の場合、高度成長後半から本格的なイノベーションが稼働して自動車、電化製品など真に価値ある製品の輸出が伸びることで、GNP(国内総生産)大国として戦後世界に復活することができたのであって、戦時好況はとっかかりの頓服薬、蛍光灯のグローランプのような役割しか果たしていない。
そして前回、長い紙幅を使って本当に言いたかったことは、経済問題の解決策としての戦争の正体は、実は贋金作りと本質的に変わらない、泥棒商法であることが多い、ということなのです。だってそうでしょう、そこには何一つ、本当の意味での新しい価値創造はないのですから。
もちろん戦時国債の乱発などはバブルそのものですが、そうでなくても軍需一極化への傾向そのものが、そもそも「国難」といった共同幻想の情報を流布することで実現される、一種の資産経済の不均衡化にほかなりません。
演習や戦地で消費する兵器に国富を傾けるといったことは、戦時国債の乱発と同等あるいはそれ以上に空虚な経済を膨張させるとともに、国際的な通貨信用を下落させてしまう。
私はこれを「反戦運動」としてではなく、情報理論を援用する経済構造分析から導かれる結論としてお話ししたいのであります。
もし戦争を主なツールに資産経済を操るとすれば、それは要するにバブルの上にバブルを膨らませることにしかならない。90年代の湾岸戦争以後、米国の一見イケイケに見えた経済がどういう負の遺産を累積してしまったか。今私たちが見ている「サブプライム」などの風景が、これらの何よりも雄弁な証拠になってはいないでしょうか?
●戦時経済はバブルの一亜種
対外的な危機感を国内にあおり、統制的な経済のもと軍事に予算を集中すれば、一部の産業は潤い、兵士もよい生活を送れるでしょう。でも、これは1つの不均衡に過ぎません。しかもその歪みは社会の随所に堆積して、やがて大きな破綻を呼び起こす。80年代末のソ連・東側の崩壊、昨今の北朝鮮、いまさら改めて言うまでもないかもしれません。
しかし、情報記号論によって価値と信用の構造分析を行うなら、(とりわけ20世紀以後の)軍事立国、戦時経済は、実体経済の成長を伴わない、むしろそれを阻害するという意味で、結果的にきわめて「資産経済的」あるいは「情報(操作)的」な側面を強く持つことが分かります。結論だけ書くと意外に見えますが、きちんと後づけすることができる議論です。
そう考えて、改めて「覇権」という言葉を考慮するなら、ドルの威信と「米国の平和」一国超大国制の相関、そこでの金アマリとモラルハザードなどが、起こるべくして起きたことが、改めて納得できるのではないでしょうか。
「情報」という言葉はクラウゼヴィッツ「戦争論」からの森鴎外の訳語、などとよく言われますが、きちんと検討すると、常識と思っていることと改めて円環が閉じるように思います。
世界で最も民主的な憲法を擁しながら、その運用に当たって世界で最も困った矛盾を内部に孕む国米国。2007年秋現在、ここまで拡大してしまった信用の低いドル市場と米国の赤字。
こうした負の遺産の解消は、先進国の政府首脳レベルではもはや不可能だというのは、既に内外の識者が指摘する通りでしょう。ではここで、私たちはどうすればよいのか?
●米国は悪政のツケを日本にまわすな!
問題の解決に決定的役割を担うのが「新興国」の経済成長であるのもほぼ異論ないところだと思います。ここで「新興国」という言葉が、国を指すのではなく、先進国が相手をどう見るかという姿勢を表すことに注意する必要があると思います。
つまり、かつて欧米列強が取った態度、「実質的に搾取に等しい<途上国>」「還流システムつきODA(政府開発援助)」といった姿勢ではなく、現下の問題をともに解決するカウンターパートナーとしての「新興国」と手を携えること。「新興国」内の市場経済もろとも、「経済システム全体」の破綻ない成長を考えること。
これらを「キレイゴト」美辞麗句としてではなく本当に効果ある形で構想、立案して、実施する「社会的責任」が今問われている、そういうことではないのでしょうか? そしてこれらは、国や政府間に任せることではなくて、おのおのの企業の社会的責任(CSR)の意識が、本当のカギを握っていると思うのです。
さきほど朝鮮特需で触れたように、国内の景気浮揚策としての対外戦争は、歴史上あらゆる時代、地域に見られる経済の頓服薬で、確かに一定の効果を持ちますが、中長期的な観点では実体経済上のいかなる本質的問題も解決しません。
まあ、もしあるとすれば、20世紀2度の世界大戦において軍事技術に予算を集中させて、結果的に戦後、民生テクノロジーのイノベーションが加速した、という程度でしょう。これに相当する旋策は、技術立国を前面に押し出すことでいくらでも代替が利くはずです。
また20世紀後半に我が国が行ってきた、人件費圧縮等を念頭に置く近隣諸国との不均衡な関係にも、早晩限界がくることは明らかです。
●国が豊かになるには民間が元気にならなければならない
イラクに派兵される兵士たちを見送りながら、対外戦争の拡大による国際経済問題の「解決」は、実体の裏づけを伴わないという意味で、「贋金作り」と変わらないと私は痛感しました。
軍需による景気浮揚は、その本質において戦時国債と大差のない、その場しのぎにとどまって、問題を本質的に解決しない、三流四流の経世済民であると、根拠を持って断言すべきなのです。
もしソレによって見かけ上、短期的に直近の問題が緩和したとしても、中身を伴う成長が欠如する限り、歪みはどこかに蓄積し、いつか倍化して跳ね返ってくる。そこで米国は、モラルの低い劣政のツケを日本に押しつけてきかねない。
実際、サブプライムローン破綻でも、日本が米国内より大きな影響を被りつつある、そんな現実がある。ドルが好き放題だった1990年代から、バブル以後の「平成構造不況」なるものを甘受させられて、ドルが破綻したらさらにその尻拭いなどさせられては、日本はたまったものではありません。事態を構造的に分析して、個別の小さなケースから、賢明に判断してゆく必要があると思います。
国が元気になるというのは、政府や軍隊が元気になることではありません。本質的には民間が、つまり国民が元気になること以外にはあり得ない。だからCSRの力に期待しないわけにはいかないのです。
それが社会全体に行き渡らない時、歪みは確実に社会を蝕む。「サブプライム」という社会階層を作り出し、この構造的な不均衡を常に再生産し続けているのは、ほかの誰でもない米国支配層自身なのだから、これは言ってみれば自業自得、その体質を改めるのもまた米国自身以外にはないでしょう。そんな単純なことに、あの国の為政層がいつどうやって気がつくのだろうか…。
ちょうど米陸軍の城下町に滞在している最中、オバマの出馬発表がありました。軍人恩給経済と住宅ローンを見直して、一番強く思ったのは、実に簡単なことがどうしてもできない米国の現実だったのです。
(つづく)
読者フィードバックにて「もっとノンフィクションの記事を」というご要望をいただいていました。今回ご紹介した関連の話題は拙著「ケダモノダモノー調教と傷心のアメリカ」(集英社刊)で詳しく触れています。ご興味の方には、ご参照いただければ幸いです。
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