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★中東大戦争が近い?
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2月12日深夜、シリアの首都ダマスカスで、イマド・ムグニヤ(イマド・
ムグニエ)が暗殺された。ムグニヤは、シリアの隣国レバノンのシーア派政党
(武装組織)ヒズボラの最高幹部の一人で、ヒズボラの対外軍事諜報部門の責
任者を長くつとめていた。
米イスラエルの諜報機関は、ムグニヤは最も手強いテロリストの一人である
と考えてきた。話は米軍が初めてレバノンに大規模な進駐をした1980年代
初めにさかのぼる。当時、ヨルダンやシリアからレバノンに大挙移動してきた
パレスチナ人ゲリラがイスラエルにゲリラ戦を仕掛け、対抗してイスラエル軍
がレバノンを侵攻し、米軍もイスラエルに引っ張られてレバノンに進駐した。
だが米軍は、1983年にレバノンの首都ベイルートの海兵隊司令部が自爆テ
ロで爆破され、米兵ら数百人が死んだ事件をきっかけに、レバノン進駐に消極
的になり、撤退した。
この海兵隊司令部の爆破テロを指揮したのが、まだ21歳だったヒズボラの
ムグニヤだった。米軍の撤退後、イスラエルはレバノン占領の泥沼に陥り、
2年後にはレバノンの支配権をシリアが取り戻すことに渋々同意して撤退せざ
るを得なくなった(イスラエルはレバノン南部の国境地帯だけは支配した)。
これ以来、ムグニヤはイスラエルの宿敵となり、戦いを挑まれたムグニヤは
ヒズボラの対外軍事諜報部門を発展させて対抗した。
http://en.wikipedia.org/wiki/Imad_Mugniyah
イスラエルの撤退後、レバノンはシリアの覇権下で安定し、1992年にヒ
ズボラは武装ゲリラ組織から政党へと発展した。レバノン南部の国境地帯での
イスラエルとの限定的戦闘以外の戦闘を放棄した。国際テロなど在外軍事行動
を行っていたムグニヤの組織も、情報収集や政治工作だけを行う方針に、少な
くとも表向きは転向した。しかしそれ以後も米イスラエルは、ムグニヤがアル
カイダやイラクのテロ組織と連携していると警戒した。911事件が起きた直
後には「ムグニヤの犯行かもしれない」「ムグニヤに比べたら、ビンラディン
など子供みたいなものだ」と指摘されている。
http://www.janes.com/security/international_security/news/fr/fr010919_1_n.shtml
▼イラン・シリア・ヒズボラ・ハマスの戦争会議をイスラエルが攻撃?
ムグニヤは、爆殺される直前、ダマスカスの住宅街にあるビルにいた。この
ビルにはシリアの諜報機関と警察、それからイラン人子弟向けの学校が入居し
ていると報じられている。シリアの諜報機関の事務所と同居していることから
考えて、イラン系の施設は、表向きは学校として運営されているが、同時にイ
ランの諜報機関の拠点の一つであると考えられる。つまりこのビルには、イラ
ンとシリアの諜報機関が入居していた。
http://www.atimes.com/atimes/Middle_East/JB15Ak02.html
ムグニヤは、このビルから出てきてしばらく歩いたところで、すぐ近くの車
に仕掛けられた爆弾を遠隔制御で何者かに爆破され、殺された。犯人は、ムグ
ニヤがビルから出てどこに行くか、行動を事前に把握し、歩行ルートのわきに
爆弾入りの乗用車(三菱パジェロ)を何気なく駐車し、その無人のパジェロの
ダッシュボード内に仕込んだ爆弾を携帯電話などで遠隔制御して爆発できるよ
うにして、ムグニヤがちょうど脇を通ったときに爆発させた。
ムグニヤが爆殺された時、この諜報機関のビルには、パレスチナのガザを統
治する過激派組織ハマスの指導者の一人であるハレド・マシャルがおり、シリ
ア諜報機関との会議中だったと報じられている。マシャルは、ハマスの在外軍
事諜報部門のトップとしてシリアに駐在し、イスラエルと戦う代理勢力として
最近さかんにハマスを支援しているイランとの連絡や調整を担当してきた。
http://www.iht.com/articles/2008/02/17/opinion/edbergman.php
つまり、ヒズボラの諜報責任者であるムグニヤは、爆殺される直前まで、こ
のビルの中で、シリアとイランの諜報機関の担当者、それからハマスの諜報責
任者であるマシャルと会議をしていた。シリア・イラン・ヒズボラ・ハマスの
諜報担当者が集まって会議をしたのなら、その議題は、イスラエルとの戦闘に
ついてだった可能性が高い。この会議の翌日(2月13日)、イランのモッタ
キ外相がダマスカスを訪問したことから考えて、2月12日夜の担当者会議で
は、かなり重要な決定がなされたと考えられる。イランはここ1−2年、シリ
ア・ヒズボラ・ハマスを傘下に入れ、イスラエルを潰す戦争を仕掛けようと企
画している。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/954277.html
ムグニヤを爆殺したのは、イスラエルの諜報機関モサドである可能性が高い。
後述するように、イスラエル政府の広報官は、イスラエル犯人説を完全には否
定していない。また、イスラエルの諜報部員は、イスラエルの新聞(Yediot
Aharonot)の記者に対し「(爆殺に使われた)パジェロは新車なので、もった
いないことをした」と冗談的に述べている。イスラエルは、半分犯行を認めて
いる。
http://www.iht.com/articles/2008/02/17/opinion/edbergman.php
これらを総合して考えると、2月12日夜にシリア・イラン・ヒズボラ・ハ
マスの諜報担当者が集まり、イスラエルとの戦争準備についての担当者レベル
での会議を行った。翌2月13日にはイランのモッタキ外相とシリアのアサド
大統領らが会って、イスラエルとの戦争の準備について、何らかの正式な話を
決めた。これらの動きを事前に知ったイスラエルのモサドは、先制攻撃的な対
抗策として、ムグニヤを爆殺した。推測が多く含まれるものの、今回の事件の
真相は以上のようなものだと私は考えている。イラン・シリア・ヒズボラ・ハ
マスは、会議でイスラエルとの戦争日程を立てた可能性もある。
▼戦争準備に入るヒズボラとイスラエル
ムグニヤ暗殺の直後、ヒズボラは、イスラエルに対する報復を表明した。以
前からレバノン南部にミサイル配備などをしてきたヒズボラは、暗殺後、5万
人の予備兵に戦闘準備を命じ、イスラエル国境に近いレバノン南部に点在する
ヒズボラ管理の建物から一般市民を避難させるなど、レバノン南部でイスラエ
ルと戦争する準備を開始した。イスラエル側では、ヒズボラが爆弾搭載の無人
飛行機を飛ばして攻撃してくるのではないかと警戒し、パトリオット迎撃ミサ
イルを対レバノン国境近くに配備した。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/952727.html
http://www.haaretz.com/hasen/spages/954800.html
イスラエルとヒズボラは、すでに一昨年(06年)夏、レバノン南部で約
1カ月間の戦争を展開したが、勝敗がつかずに停戦している。06年夏の戦争の
きっかけは、2人のイスラエル軍兵士がヒズボラに誘拐されたことで、イスラ
エルは停戦後、捕虜にされた兵士たちをヒズボラに解放させるべく画策してき
たが、イスラエル政府はムグニヤ暗殺の4日後、兵士たちはすでに殺されてい
ると結論づけ、解放工作をやめることを決めた。この決定によってイスラエル
は、ヒズボラと交渉する必要がなくなり、ヒズボラとの再戦争に入れるように
なった。イスラエル側もヒズボラとの再戦争を準備している。
http://wiredispatch.com/news/?id=48201
06年夏の前回戦争は、イスラエル内の右派(軍幹部など)が戦線をレバノ
ンからシリア、イランへと拡大することを模索したため、イスラエル内の中道
派(リブニ外相ら)が戦線拡大を阻止するために、国連などを動かして停戦に
持ち込んだ経緯がある。イスラエルが再びヒズボラと戦争したら、シリアやイ
ランとも戦争になる可能性が大きい。間にあるイラクや、イスラエル周辺のパ
レスチナでも戦闘が激化し、中東大戦争に発展するおそれがある。
http://tanakanews.com/g0822israel.htm
ヒズボラは1992年の政党化以来、レバノン国外での軍事行動を自粛して
きた。だが今回、イスラエルがダマスカスというレバノン国外でムグニヤを暗
殺したため、ヒズボラは正当防衛のために自粛を解除せざるを得ないと表明し
ている。米イスラエル当局はこの表明を受けて「ヒズボラは再び欧米などのレ
バノン国外でテロをやるかもしれない」と言っている。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/954641.html
今後、欧米でヒズボラの犯行とされる大規模テロがあるかもしれない。しか
し、ヒズボラが欧米でテロをやって最も得をするのは、ヒズボラ自身ではなく、
ヒズボラとの再戦争の際に欧米を味方につけられるイスラエルの方である。ヒ
ズボラの犯行に見せかけた、イスラエルによる自作自演のテロがあるかもしれ
ない。
http://fairuse.100webcustomers.com/itsonlyfair/latimes0096.html
▼暗殺犯はパレスチナ人?
ムグニヤ暗殺後、シリア政府は、暗殺に関連した疑いで複数の容疑者を拘束
して取り調べており、容疑者たちは一般市民ではなく、アラブ諸国で活動する
諜報機関の要員だとヒズボラ系の新聞が報じている。また、容疑者の多くはシ
リア在住のパレスチナ人であるという指摘もある。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/954644.html
これらの指摘からは、ムグニヤを暗殺したのはパレスチナ自治政府(ファタ
ハ)の要員であるかのようにも感じられるが、状況はそんなに単純ではない。
シリア在住のパレスチナ人の中には、シリア政府やイラン、ヒズボラ、パレス
チナ各派の諜報活動に協力している者が多いが、その中にはイスラエルにも情
報を流している二重スパイがかなりいる。パレスチナ人はイスラエル占領下か
ら逃げてきた難民であり、生活苦から二重スパイ稼業で生計を立てる者が出て
くる。
シリア政府は第3次中東戦争でイスラエルに負けて以来、中東各地の反イス
ラエル勢力がダマスカスに拠点を設けることに寛容だが、その勢力の中にイス
ラエルとの二重スパイが混じった。シリア自身の諜報機関もイスラエルに入り
込まれている。
ヒズボラが「ムグニヤを殺したのはイスラエルだ」と言っているのに対し、
欧米マスコミの多くは「イスラエル政府は否定している」と書いている。だが、
イスラエル右派(ネオコン)に近いウォールストリート・ジャーナル(WSJ)
は「イスラエル政府の広報官は、ヒズボラからの非難を拒絶すると言っている
だけで、ムグニヤ暗殺そのものを否定しているわけではない」と指摘している。
http://blogs.wsj.com/washwire/2008/02/15/israels-non-denial-denial/
これは、イスラエル右派=ネオコン系のWSJならではの指摘である。とい
うのは、イスラエルの右派とアメリカのネオコンは、イスラエルとヒズボラを
戦争させたいと考えて策略を展開し続けてきたからである。
▼イランを強化する米イスラエル右派の自滅策
イスラエルとヒズボラの再戦争は、シリア、イランを巻き込んだ時点で、米
イスラエル対イスラム世界(北アフリカからパキスタンまで)の戦争へと発展
し、イスラエル国家の終焉と、米英の中東覇権の崩壊で終わる事態になりかね
ない。イスラエル右派と米ネオコンという強硬派シオニストと、この2つと結
びついているブッシュ政権は、その可能性を知りつつ、事態を戦争の方向に進
めており、自滅的である。
http://tanakanews.com/g0906mideast.htm
http://tanakanews.com/071212iran.htm
中東大戦争を起こしたい勢力は、米ネオコンとイスラエル右派のほかに、ア
ハマディネジャド大統領らイラン上層部の強硬派勢力がいる。イラン上層部は、
シリアやヒズボラ、ガザのハマス、イラクのシーア派などを傘下に入れ、それ
らを総動員してイスラエルを潰し、米軍を中東から追い出して、中東における
イランの覇権を急拡大しようとしている。米ネオコンとイスラエル右派は、イ
ランをことさらに敵視することで、逆にイランを強化し、事態を戦争に近づけ
ている。
http://tanakanews.com/071030mideast.htm
シリア政府や、ヒズボラやハマス、イラクのシーア派、アフガニスタンのタ
リバンなどは、アメリカと和解できるものなら和解したいと考えてきた。だが、
ネオコン系の米ブッシュ政権は、和解を強く拒否し、これらの勢力をイランの
側に追いやっている。
http://tanakanews.com/070529mideast.htm
イスラエル政界では、右派(占領地入植者)以外の勢力(中道派)は、イス
ラム側と戦争したら破滅だと気づき、何とか戦争を止めて、逆にパレスチナ人
やシリア、アラブ諸国との和解を進めて緊張緩和しようと努力してきた。イス
ラエル政府では、オルメルト首相が優柔不断なので、中道派のリブニ外相がオ
ルメルトを脅したり励ましたりしつつ操作し、和平を進めようとしてきたが、
至るところでブッシュ政権や国内右派からの妨害を受け、和解は不能になって
いる。
たとえば、ブッシュ政権は昨年末からシリア敵視を一段と強め、ムグニヤ暗
殺の翌日には、対シリア制裁を強化した。シリアは、アメリカが敵視を解いて
くれるなら、イスラエル中道派が呼びかけた和解交渉に乗りたいと言ってきた
が、アメリカは逆にシリア敵視を強め、シリアとイスラエルの和解を阻止した。
イスラエルとパレスチナが和解交渉を進めるたびに、米政府のライス国務長官
らがお節介にやってきて、話を潰して帰る。
http://rawstory.com/news/afp/Bush_widens_Syria_sanctions_02132008.html
リブニはオルメルトを動かし、聖都エルサレムを二分して東半分をパレスチ
ナ国家の首都にしてやる件(以前からの国連案)を進めようとしたが、連立政
権内の右派の猛反対を受け、オルメルトはエルサレム分割問題を棚上げした。
「棚上げなんかしない」と言っているリブニは、オルメルトに外された観があ
る。しかもその間にも、イスラエル住宅省を乗っ取っている右派は、東エルサ
レム市域内のハルホマ入植地にどんどん新しいユダヤ人用住宅を建設し、エル
サレム分割を着々と不可能にしている。
http://www.haaretz.com/hasen/spages/954457.html
http://news.xinhuanet.com/english/2008-02/12/content_7594092.htm
米イスラエルの右派が、和平を阻止し、戦争を扇動し、イランを敵視しすぎ
て強化した結果、ヒズボラ、シリア、ハマスは完全にイランに取り込まれ、も
ともと親米反イランだったエジプトやサウジアラビアはイランを容認する姿勢
を強めている。
▼ガザのハマスとの戦争も近づく
イスラエルが直面する戦争相手はヒズボラだけでなく、ガザのハマスもいる。
ハマスはスンニ派イスラム過激派だが、今ではすっかりシーア派過激派である
イランの傘下におり、軍事援助を受けている。先日、約10日間にわたってガ
ザとエジプトの間の国境の壁が崩壊したときに、かなりの武器がガザに搬入さ
れ、イスラエルとの戦争準備が急速に進んだはずである。
http://tanakanews.com/080125Gaza.htm
ハマスは以前から、イスラエルに向けて短距離ロケットを撃ち込み続けてい
る。イスラエル側の死者は非常に少ないが、イスラエル右派はオルメルト政権
に対し、ガザに侵攻してロケット発射を止めろと要求し、イスラエルの世論を
好戦的な方向に扇動している。オルメルトは先日ドイツを訪問したが、その目
的の一つは、イスラエルのガザ侵攻に対する支持をEUから取り付けることだ
ったと報じられている。ドイツは「ホロコースト」の負い目があるので、イス
ラエルの要請(脅し)に弱い。
http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-3506777,00.html
こうしたイスラエル側の動きからすると、イスラエル軍のガザ侵攻は近いと
感じられる。イスラエルの専門家の間からは「ガザ侵攻は自滅だからやめろ」
という強い主張が噴出しているが、これは逆に見ると、ガザ侵攻がそれだけ近
いことを示している。イスラエル中道派が粘って今後また巻き返す可能性もあ
るが、それがない場合、イスラエルは1カ月以内にガザに侵攻する(侵攻がな
い場合は、イスラエル中道派が粘っているということだ)。
http://www.latimes.com/news/opinion/sunday/commentary/la-oe-oz15feb15,0,2095169.story
ガザのハマスとレバノンのヒズボラは、今ではイラン傘下で同盟関係にある
ので、イスラエルがガザに侵攻したら、ヒズボラもイスラエルに戦争を仕掛け、
イスラエルは南北2正面の戦争に突入する。もしくは逆に、ヒズボラとイスラ
エルの戦争が先に始まり、ガザのハマスが呼応してイスラエルへの攻撃を強め、
2正面の戦争になる展開もあり得る。
戦争が始まると、イスラエルとパレスチナの両方が好戦的な方向に引っ張ら
れる。パレスチナ社会で、イスラエルと和平交渉するために存続を許されてき
た西岸のパレスチナ自治政府(ファタハ)は、好戦的な雰囲気の高まりの中で
崩壊し、西岸もハマスの支配下に入るだろう。戦争が続くと、ガザと西岸から
イスラエル側に越境攻撃するパレスチナ人が増え、しだいにイスラエル国内が
戦場になる。
▼反米反イスラエルに傾くアラブ
イスラエルがハマスやヒズボラとだけ戦っている間は、国家間の戦争ではな
い。従来から繰り返されてきたことでもあり、国際的な衝撃は比較的小さい。
しかし開戦後、ヒズボラはシリアやイランから武器供給を受け、ハマスはエジ
プト(シナイ半島)から武器を搬入し続けるだろうから、イスラエルはシリア
やイラン、シナイ半島を空爆する必要に迫られる。特にシリアとイランは従来
からイスラエルの敵なので、戦争が拡大する可能性が高い。イスラエルが、シ
リアやイランを攻撃したとたんに、この戦争は中東全域を巻き込む。
シリアはアラブ連盟の一つの国なので、アラブ諸国は全体としてイスラエル
敵視を強める。従来なら、アラブ諸国の中でも親米国であるサウジアラビアや
エジプトは、反米国であるシリアに冷淡だったが、ここ数年、米軍イラクの失
敗を機に、アラブ諸国は反米反イスラエルのイスラム主義の傾向を強めている。
アラブ諸国では、シリアやヒズボラ、ハマスを見殺しにするなという世論が高
まる。アラブはイランとも接近する。
アラブが反イスラエルになる半面、米議会はイスラエル支持決議をするだろ
うから、アメリカとアラブの敵対が強まる。状況は、1970年代の第4次中
東戦争時、アラブがアメリカなどへの石油輸出を禁じ、石油危機が起きた時に
似てくる。
中東産油国をめぐる政治状況の変化に合わせるかのように、経済状況も激変
している。以前の記事( http://tanakanews.com/071106dollar.htm )に書い
たように、サウジなどペルシャ湾岸産油国6カ国(GCC)の通貨は、為替が
ドルに連動(ペッグ)しているが、アメリカが不況に近づき米連銀(FRB)
が利下げを繰り返すほど、世界的なインフレが湾岸産油国を襲い、ペッグを維
持しにくい状況が加速している。GCCでは通貨のドルペッグをやめるべきだ
という議論が強まっている。
http://www.menafn.com/qn_news_story_s.asp?StoryId=1093184285
▼OPECのドル離脱という石油危機の可能性
加えて世界の産油国の集まりであるOPECでは、これまでドル建てだった
石油の国際価格を、ユーロもしくはドルペッグをやめた後のGCCの通貨で表
記する形式に変更すべきだという主張が強まっている。この主張は、昨年末の
OPECサミットで、イランとベネズエラという反米的な2カ国によって初め
て主張され、当初は反米主義に基づく非現実的な極論と思われていた。だがそ
の後、アメリカの金融危機の深化で、ドルの潜在的な信用不安が拡大するにつ
れ、急速に現実味を帯びてきた。
http://tanakanews.com/071120oildollar.htm
2月上旬には、OPECの事務局長(Abdullah al-Badri)が「10年以内」
という限定をつけつつも「ドルの下落が続いているので、石油価格をドル建て
からユーロ建てに変えざるを得なくなるかもしれない」と表明した。OPEC
では近く、各国の財務相が集まり、石油のドル建て表示をやめることについて
改めて会議を開く予定があるとも報じられている。
http://afp.google.com/article/ALeqM5hXQsXWGWNBPButK682o4AVjEn_yw
http://www.presstv.ir/detail.aspx?id=43221§ionid=3510213
アメリカではサブプライムの住宅ローン破綻が、高リスク債券市場全体の崩
壊を誘発し、先週は地方公共団体が発行する債券の売れ行きが急に落ち、各州
政府などがパニックに陥った。45兆ドルの高リスク債の債務保証を行ってき
たモノライン保険が業界ごと崩壊しそうにもなっている。金融危機を回避しよ
うと、米連銀はドルの大増刷と利下げを続けており、ドルの信用不安は今後さ
らにひどくなることは必至だ。
http://www.ft.com/cms/s/0/3b313712-db09-11dc-9fdd-0000779fd2ac.html
経済的な事態は、GCCは通貨のドルペッグをやめざるを得なくなり、
OPECは石油のドル建て表記をやめざるを得なくなる方向に進んでいる。
そして、イスラエルとイスラム諸国との戦争が起きたら、GCCやOPECは
政治的にもドル離れを画策するようになる。中東大戦争が今夏までに起きたら、
ドル危機のタイミングと合致するので、GCCとOPECによるドル離れとい
う「石油危機」が発生する可能性が高い。石油価格の高騰と、ドルの下落が起
きる。
▼イランの背後にプーチンのロシア
イランは2月17日、一昨年あたりから構想されつつ何度も延期されてきた、
石油製品取引所を、ペルシャ湾岸のキシュ島に開設した。この取引所の目的は、
ドル以外の通貨で石油製品を取引することで、イラン政府の反米戦略の一つで
ある。
http://ap.google.com/article/ALeqM5g6bgNRB1QOjRkOWoj3A619ANqDXAD8US9F8O0
イランは米イスラエルとの戦争と、アラブ諸国を親イラン的なイスラム主義
の方向に持っていく政治戦略に加え、アラブなど世界の産油国を巻き込んだド
ル潰しの経済戦争という、軍事・政治・経済の全面で、米英イスラエル中心体
制への挑戦を行っている。これまで何回も延期されてきたこの取引所の開設を、
イラン政府が今回のタイミングで行ったことの意味は、間もなく始まりそうな
中東大戦争と合わせ、イランが戦いに打って出る時が来たと考えているという
ことだ。イランの盟友であるベネズエラも、アメリカとの「経済戦争」に言及
している。
http://www.taipeitimes.com/News/world/archives/2008/02/12/2003400947
これはイランだけで構想したものではなく、裏に黒幕としてプーチン政権の
ロシアがおり、中国なども巻き込んだ、世界的な覇権構造の転換戦略となって
いる。イランは、新設した石油製品取引所の中心的な取引通貨の一つにロシア
のルーブルを据え、ロシアと組んでドル本位制に挑戦する。
http://www2.irna.ir/en/news/view/menu-237/0802150324191831.htm
http://www.presstv.ir/detail.aspx?id=43254§ionid=351020103
従来は、イランとロシアが組んでも経済面でアメリカに勝てる見込みはなか
ったが、米金融とドルの危機が急拡大する今後は、どうなるかわからない。ブ
ッシュ政権など、米イスラエルの右派が、自陣営の自滅と敵陣の強化を推進す
る隠れ多極主義者であることが、イランやロシアにとって大きな有利となって
いる。
▼戦争になるかどうかの瀬戸際
イスラエルがイランを攻撃する場合、核兵器を使う恐れがある。イスラエル
は400発の核爆弾を持っている。イスラエル右派と米ネオコンは、イスラエ
ルがイランを核攻撃することを以前から扇動している。核兵器を使ったら、イ
スラエルは恒久的にイスラム諸国の敵となり、イスラエルが国家消滅するまで
戦争が続くだろう(だから使わないとも考えられる)。
http://www.jpost.com/servlet/Satellite?cid=1167467784060&pagename=JPost%2FJPArticle%2FShowFull
イスラエルがイランを攻撃したら、イランは報復としてイラクの米軍を攻撃
する(イラクの親イランのシーア派武装勢力に米軍を攻撃させる)と表明して
おり、アメリカとイランの戦争に発展する可能性が出てくる。イラク駐留米軍
の唯一の地上補給路はインド洋からイラン正面のホルムズ海峡を通るルートな
ので、イランがホルムズ海峡を封鎖する可能性も高まる。
中東の米軍動向に詳しい、元CIA(国連査察官)で今は反戦運動家のスコ
ット・リッターは最近、中東地域での米軍の軍備増強は今春3−4月に一つの
頂点に達するので、その時にアメリカがイランを攻撃する可能性が80%ある
と述べている。
http://www.clevelandjewishnews.com/articles/2008/02/07/news/local/war0208.txt
ブッシュ政権自身は最近、イラン核開発疑惑やイラク情勢をめぐって、イラ
ンに対して譲歩したり緊張緩和したりする姿勢を続けている。だから今春、米
軍の方から戦いを仕掛けてイランを空爆する可能性は低いと考えられる。だが
半面、米政権は以前からイスラエルにイランを攻撃させようと様々な誘導行為
を行ってきた。そのことから考えて、イスラエルがイランを攻撃し、それにア
メリカが巻き込まれる形で米イラン間も戦争になる展開なら、米政権は乗って
いくと考えられる。その準備として、米軍が中東での軍備増強をしている可能
性はある。
イスラエルがヒズボラやハマスと戦争になり、それがシリアやイランとの戦
争に拡大したら、米軍も巻き込まれ、今春から今夏までの間に中東大戦争にな
るだろう。パキスタンのイスラム主義化、アフガニスタンのタリバン再台頭と
NATO撤退、トルコのイスラム化加速、ヨルダンとエジプトのイスラム主義
化(下手をすると政権崩壊)などがあり得る。
アメリカでは来年1月から次の政権になる。今の選挙戦の趨勢が続くと民主
党政権ができる可能性が高い。今政権中に中東大戦争が起こり、次期政権が民
主党になったら、大戦争を終わらせるためアメリカは、イラクからの撤退、イ
ランやシリアとの和解、ハマスやヒズボラの容認などをやり得る。アメリカは
中東での覇権を減退し、代わりにサウジとイランとエジプトとトルコあたりに
よる自律的・協調的な中東運営に移行するかもしれない。従来、これらのイス
ラム諸国どうしの対立を仕掛けてきたのは米英であり、米英が中東から出て行
くと、中東内部の対立は解消される。
中東大戦争が一段落した後、欧米は、イスラエルをアラブ側と和解させ、第
3次中東戦争前の国境線の国としてイスラエルを存続させる外交努力を行うか
もしれないが、いったん大戦争になったら、アラブとイスラエルの和解は非常
に難しくなる。アラブ側にとっては、イスラエルを存続させず、一気に潰して
しまった方が安心できるからだ。欧米諸国やロシアで、イスラエルから戻って
くるユダヤ人の受け入れ態勢を作る必要が出てくる。
今回、書いたことの多くは、従来の国際政治の常識からすると「とんでもな
いこと」「あり得ないこと」である。しかし、イスラエルがシリアやイランに
戦争を仕掛けたら、この通りにならないとしても、とんでもないことが起こり
うる。逆にこれまでのように、リブニ外相らイスラエル中枢の中道派が粘って、
シリアやイランとの戦争突入を抑止している限り、米イスラエルの右派が挑発
し続けても、大したことは起こらない。何が起きるか、今後の推移を見ながら、
その都度の分析記事を書き続けることにする。
この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/080219mideast.htm
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★音声訳
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