| 危機の負担を民衆に押しつけるな 海自洋上給油延長法案を廃案へ!新自由主義の破綻を確認 米国発の金融恐慌が全世界を席巻し、日本でも証券市場での急速な株価の暴落が連日続いている。世界の株式時価総額は、この一年間で二千八百兆円が吹き飛んだ(10月11日、日経新聞)。それはついに日本でも不動産投資信託のニューシティ・レジデンス投資法人」(10月9日)、大和生命保険の破綻(10月 10日)として波及した。 十月八日には、米FRB(連邦準備制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)など米欧の中央銀行六行が「景気の急速な減速」への危機感から一斉協調利下げという異例の措置に踏み切った。 十月十日(日本時間11日未明)には、ワシントンで主要七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開かれ、各国の主要金融機関に対する公的資金を使った資本注入などを盛り込んだ「行動計画」が発表された。当初、予定された「共同声明」の代わりに発表された「行動計画」は、わずか二十七行の「紙切れ一枚」のものであるが、そこでは「現下の状況は緊急かつ例外的な行動を必要としている」と危機感をあらわにし、「システム上重要な金融機関を支援し、その破綻を避けるためのあらゆる手段を活用する」「信用市場と金融市場の機能回復のためあらゆる必要な手段を講じる」とした上で「金融機関に対し、必要に応じ、公的資金と民間資金で資本増強できるようにする」と、税金による金融機関救済の道を採用したのである。 今回の世界的な金融恐慌と金融機関の相次ぐ破綻は、まさに「金融工学」などという詐欺的手法を駆使した「カジノ資本主義」=新自由主義的グローバル資本主義の虚飾を完膚なきまでに暴露するものであった。G7の「宣言」は、金融資本の国境を超えた投機を動因とした新自由主義的グローバリゼーションの「破綻」の告白でもある。 しかし彼らは、この破綻を自らの責任として認めることはできない。そうであればこそ今回の危機の直接的な契機となったサブプライムローン問題などについても「必要に応じ、抵当証券など証券化商品の流通市場を再活性化させる」などと語り、「カジノ」から抜け出すことのできない現実を表明したのだった。 危機は、円高と輸出減による企業収益の悪化、株安がもたらした企業年金運用成績の悪化、中小企業への「貸し渋り」「貸しはがし」、消費の低迷などを通じて、何よりも労働者・市民生活への賃下げ、リストラ・解雇、労働条件の悪化、医療・福祉の切り捨てなどの攻撃としていっそう強化される。大企業が空前の利益をためこんだ「好況」の中でも、実質賃金は低下し、超長時間労働、労働力の非正規化と貧困の拡大が蔓延していった。 「救済」策で救われるのは、「救済」を最も必要とする貧しい労働者・農漁民・市民ではない。新自由主義的「構造改革」の下で徹底的に痛めつけられてきた人びとにこそ、危機の打撃が最も苛酷にのしかかろうとしている。そして「救済」されるのは人びとをだましてきた金融資本やごく少数の金持ちなのだ。住居・医療・雇用・生活保護など人権としての生活権を無条件に保障するためにこそ公共資金を投入せよ! そのための資金はある。銀行は法人税を一円も払っていない。大儲けしている大企業は減税やさまざまな優遇税制で手厚く保護されている。今また「景気対策」としての法人税の大幅減税が主張されている。こうした政策を根本的に転換する闘いが必要である。危機を逆手に取った麻生 世界的な金融危機は、逆説的なことに、発足早々低支持率にあえぐ麻生政権にとって「追い風」となっている。 福田前首相の政権投げ出しは、総選挙での与党の敗北を最小限に押し止めるための「窮余の一策」でもあった。しかし、はなやかなスポットライトを浴びることを期待した自民党総裁選キャンペーンは、失敗に終わった。年金、汚染米、さらには暴言乱発による中山国交相の辞任など、発足早々の麻生政権が当初予定していた早期の解散・総選挙に踏み切った時、自公与党の大敗北・政権交代は必至ともいえる情勢だった。臨時国会冒頭解散・十月二十六日投票という予測が、メディア上で踊った。 この切羽詰まった局面において、麻生政権は世界的な「金融危機」を逆手にとって、民主党の協力を取り込んで「補正予算」を短期間で成立させようとしており、さらに第二次補正予算の策定や、金融危機に対処する諸法案の成立をうたいあげている。麻生は「政局よりも政策」「この危機的状況に解散・総選挙などやっていられない」と、解散・総選挙の引き延ばしに全力を上げている。「この世界経済危機は日本にとって政治の季節にぶつかる。危機克服は時間との戦いである。国民の信を問うのは大事だが政治空白を招くのは危険だ。麻生首相と小沢一郎民主党代表は党首会談を開き、政治休戦する段階である」(日経新聞10月 11日、「経済危機と日本の選択」/岡部直明・日経本社主幹)と、代表的な支配階級のメディアも麻生を後押しし、「挙国一致」の危機克服を民主党に求めている。 「早期解散・総選挙・政権交代」のシナリオの思惑がはずれて浮足立った民主党は、総選挙を有利に進めるためにも「野党は審議に応じない」との与党の批判をかわすことに躍起になっている。民主党は補正予算案に賛成しただけではなく、ついに多国籍軍のアフガニスタン侵略と占領を支援する海上自衛隊の「洋上給油」継続新法案のスピード審議に応じて、成立させる方針を取ることになった。給油延長法黙認の民主党 総選挙をめぐる腹のさぐり合いの手段として、インド洋での「洋上給油」延長問題を使おうとする自民、公明、民主党の手法を許してはならない。この問題は憲法と自衛隊の海外派兵、派兵恒久法、米国の「対テロ」戦争とその破綻、戦争と占領の現実、アフガニスタン民衆への復興支援のあり方、アフガニスタンとパキスタンにおける政治危機の発展などに関わる、決定的に重大な対立が内包されているのである。 二〇〇一年の「9・11」を契機にして米ブッシュ政権が発動したアフガニスタン侵略戦争を、当時の小泉内閣は全面的に支持し、テロ特措法を制定して海上自衛隊の補給艦、イージス護衛艦を派遣し、インド洋・アラビア海での洋上給油作戦を展開した。この洋上給油活動においては、二〇〇三年のイラク戦争に参加した米軍艦船に油を補給するなどのテロ特措法にも反する「オイル・ロンダリング」が行われたことが、昨年の梅林宏道さんら「ピースデポ」の調査によって明らかになった。 安倍元首相は参院選での大敗北の後、昨年十一月に期限切れとなる「テロ特措法」に代わる新法の成立を「国際公約」に仕立てあげて「背水の陣」を敷いたが、参院での主導権を握った民主党の反対を崩すことができず、ついに辞任せざるをえなかった。安倍に代わった福田前首相は、民主党との「大連立」にテロ特措法延長の展望を託したが、その破綻によって、ついに海上自衛隊のインド洋での給油活動は期限切れとなり、中断せざるをえなかった。その結果、福田内閣は今年一月、衆院の三分の二による「再議決」という異例の方法で新法を可決するという強硬手段をとらざるをえなかった。 民主党は、この一連の経緯の中で「大連立」を射程に入れた対応をとった。小沢一郎代表自ら『世界』07年11月号に発表した論文「今こそ国際安全保障の原則確立を」の中で、「国連決議でオーソライズされた国連の平和活動に日本が参加することはISAF(アフガニスタン国際治安支援部隊)であれ何であれ、何ら憲法に抵触しない」と断言し、自衛隊のアフガニスタン本土派兵の可能性にも言及していた。 また民主党が昨年十二月に提出した新テロ特措法案(洋上給油新法)への対案である「アフガニスタン復興支援特措法案」では「日本国憲法の下での自衛権の発動に関する基本原則及び国際連合憲章第七章の集団安全保障措置に関する基本原則が……定められるものとする」と、わざわざ自衛隊の海外派兵に関する「基本法」、すなわち派兵恒久法の早期制定を主張する案文が挿入されていたのである。ここに示された民主党の対応は、彼らが「国連」の冠をかぶせた上で、自衛隊の海外派兵を積極的に促進する立場であることを明確にするものだった。 いま麻生新首相は「テロと戦っている世界の中にあって、日本だけがテロとの戦いを放棄してアフガニスタンから撤収するという選択肢はない」と公言し、「国際貢献」という分野における民主党の矛盾をつく戦術を取っている。他方、公明党は「衆院三分の二による再議決をして洋上給油活動の延長をすべきではない」としていた通常国会までの態度をかなぐりすて、「早期解散」の思惑をも込めて洋上給油新法の成立を主張している。 民主党はこうした中で、自民・公明に呼応しつつ「法案の内容は変わらない。審議は昨年に十分尽くした」として「審議は一日でいい」とスピード処理を言いだす始末だ。早く採決させて、解散の日程を早めたいというのだ。しかしそのために自衛隊による「洋上給油活動」の継続法案に形式的には反対しつつ、速やかな採決・成立に協力するという民主党の戦術には何の正当性もないことは言うまでもない。これは民主党の多数が、同党主導政権においても日米同盟の強化、「対テロ」戦争への支援、自衛隊の海外派兵恒久法作りを進めていかなければならない、という立場だからである。「対テロ」戦争協力と決別へ! われわれは麻生政権が「金融危機・不況対策」を口実に、政権の座にしがみつくことを許さない。また民主党が早期解散・総選挙の手段として洋上給油継続新法の早期成立に手を貸すことも許すことができない。 七年間におよぶアフガニスタンへの侵略・占領にもかかわらず、米・NATO軍によって支えられたカルザイ政権から人心は離反している。多くの市民を虐殺し、社会復興の基盤を破壊した「タリバン掃討作戦」は、民衆の反米・反「外国人」意識を拡大し、タリバン勢力の拡大をもたらしている。多くのNGOの人道的復興支援活動は、ISAFの「治安維持作戦」の結果としてきわめて困難な状況に陥ってしまった。八月に起きたペシャワール会・伊藤和也さんの拉致・殺害事件はその厳しい現実を明らかにするものだった。 米軍は「武装勢力掃討作戦」を、アフガニスタンから国境を超えて米国にとっての「対テロ」戦争の重要な同盟国であるパキスタンにまで拡大しており、それによりムシャラフ以後のパキスタンの政治危機と混乱が加速している。 米軍はアフガニスタンに軍を増派しようとしているが、イギリスの駐アフガン軍司令官は「アフガニスタンでの戦争に勝利する可能性はない」と明言している。ただちに戦争を終わらせ、米・NATO占領軍の即時撤退を勝ち取ることが平和と復興の前提条件であることがますます明白になっている。この意味で海上自衛隊の洋上給油作戦の継続は、「テロとの闘いにおける国際貢献」などではなく、ただ紛争とアフガニスタン民衆の苦しみを永続化させ、和平と復興の実現を遅らせる効果しかもたらしていないと断言すべきなのだ。 十月十日から衆院のテロ対策特別委員会で洋上給油新法案の審議に入った。与党と民主党の合意で十月二十一日にも衆院本会議で採決し、ただちに参院にまわすという日程にになっていると言われている。十月九日の昼、衆院第一議員会館前で、「憲法」を愛する女性ネット、憲法を生かす会、、ふぇみん婦人民主クラブ、宗教者平和ネット、キリスト者平和ネット、許すな!憲法改悪・市民連絡会などの呼びかけで洋上給油活動継続法案に反対する緊急行動が行われた。緊急の呼びかけにもかかわらず五十人が参加し、福島みずほ社民党党首、保坂展人社民党衆院議員などの発言を受け、国会に向けて抗議の意思を表明した。 「解散・総選挙」のドサクサにまぎれて、超スピード審議で自衛隊の洋上給油継続新法案を成立させようという与党の目論見と民主党の加担に反対しよう。洋上給油継続新法案を廃案へ! 自衛隊はインド洋から即時撤退せよ! 派兵恒久法を作るな! (10月12日、平井純一)
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