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投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 7 月 12 日 10:15:24: mY9T/8MdR98ug
 

法廷が感情的になり仇討ちの場に利用されかねない


模擬裁判で裁判員制導入を演ずる

 六月二十一日、文京区民センターで、市民集会「死刑はどうなる? 被害者参加制度と裁判員制度」が死刑廃止国際条約の批准を求めるフォーラム90の主催によって開かれた。
 来年五月から始まるとされる裁判員制度。平行して進められている刑事裁判への被害者参加。厳罰・極刑が求められたとき、裁判員はどう応えられるだろうか。市民が否応なく死刑に直面させられる日が迫っている。
 「裁判員制度とともに導入される被害者参加制度の実態を示す演劇的試み」が舞台で行われた。六人の裁判員、三人の裁判官、検察官、被害者、被告、弁護人が並ぶ。被害者の横には殺された子どもの遺影が置かれている。監督演出:山際永三、出演:劇団・駄菓子屋、そして裁判員は当日参加者の中から抽選で選ばれた。
 公判で陳述を許された被害者(子どもを殺された)が感情を爆発して泣き崩れながら、被告に極刑を求める陳述をする。被告はパニックに陥り、死刑にしてくれと叫ぶ。裁判官も弁護人も被害者の復讐心に燃えた感情的陳述を止めることなく、裁判が進められていった。
 模擬裁判の後、四人のパネラーによるディスカッションが行われた。石塚伸一さん(龍谷大学大学院法務研究科教授、『刑事政策のパラダイム転換』現代人文社など)、竹田昌弘さん(共同通信記者、『知る、考える裁判員制度』岩波ブックレット)、生田暉雄さん(1970〜92年まで裁判官、現弁護士、『裁判が日本を変える!』日本評論社)、安田好弘さん(弁護士、フォーラム90、『死刑弁護人――「生きる」という権利』講談社文庫)。司会を安田弁護士が行った。(M)

4人のパネラーによるシンポ 市民が否応なしに死刑に直面する


本音の裁判かぬけがらの裁判か

――模擬裁判の感想は?

 生田 二十二年間主に刑事裁判を担当する裁判官をやっていた。その後、弁護士を十六年。裁判員制度の問題点は、事前に裁判の整理が全部されてしまうことであり、本番の裁判はぬけがら裁判になって、そこに裁判員が参加することになる。情報格差の中でやられるおかしな裁判だ。被害者の感情に接する効果は大きい。被害者の発言は事前の整理にして置くべきだ。そうでないと裁判が感情的なものとなってしまう。
 竹田 裁判が感情的になっている。冷静になるために被害者の発言を止める必要がある。まず、検察官が止めなければいけなかった。しかし、被害者の発言を止めるのは非難される可能性があるので、やりたがらない。遺影を持ってくるのはいけない。
 安田 光裁判の再現のようだ。もしかしたら、被害者参加制度と裁判員制度が実施されたら、今日の劇のようになるだろう。だれ一人、制止することができない。被害者は威嚇的である。裁判官が静止すべき、発言禁止や退廷もしなくてはいけない。弁護人は裁判官に訴訟指揮を求めることができる。しかし、現実にはあのままの状態が放置され、裁判は進行するだろう。

――裁判員制度待望論については?

 生田 現在の裁判所は検察が有罪としたものを有罪とする所だ。裁判が証拠に基づくというより、調書に重きが置かれる、調書裁判になっている。弁護士もやりたくないという人が多くいる。調書の任意性を問うという抜本的な改革をやらないと、裁判員制度を導入しても現在の裁判の問題点は解決しない。被害者参加はそれをより変な方向に向けさせている。
 起訴されれば九九・九%有罪。なぜ調書が有効になっていくか。それは拘留期間が長いからだ。起訴前に二十三日あるが、別件という形で何回も再逮捕して拘留をのばす。代用監獄で調べられ、そこで調書がつくられる。裁判員制度は陪審員制度とは似て非なるものでまったく違う。明治時代に陪審員制度で裁判が行われたことがある。市民参加のために大きな法廷で行われた。

――死刑との関係で今度の制度については?

 竹田 新しい制度の導入によって死刑が増えるかどうかは分からない。五年前、市民千人、裁判官七百六十人へのアンケートで、裁判官は遺族の要求があれば刑を重くすると七九%、市民はどちらとも言えないと五〇%という回答があった。模擬劇で、傷害致死では死刑判決が出せないにもかかわらず、被害者が要求しているので、裁判員が死刑と判断するかもしれない。アメリカの陪審員制度は有罪か無罪かを決めるだけで量刑は決めない。基本的には全員一致制度。感情が暴走しないようにしている。日本の場合にはそれがない。判決が幅をもってしまう。不公正を感じないのか、それに耐えうるか、大きな問題になるだろう。

被害者の意見陳述と死刑の増大

――今でも、被害者が法廷に出て証言すると憎しみが出てくる。被害者参加制度はどう違うのか。

 生田 現在とまったく変わらないとしたらなぜ設けたのか。今までの法廷では一問一答だ。それが陳述ということで、自分の言葉でしゃべると感情的になっていく。止めるのはむずかしい。今までと相当違うと思う。
 竹田 まったく違う。一九九一〜九六年、死刑判決が二十五件。二〇〇六〜〇八年、八十一件。これには遺族の意見が反映しているだろう。二〇〇〇年の被害者の意見陳述ができるように法律改正があったことが影響している。被告の家族がなかなか反論できないだろう。世の中の良識的な人が死刑判決や執行の多さについて、やりすぎだと感じているのではないか。反対のバネが効いてくるのではないかと予想している。

――死刑の増大については?

 石塚 死刑確定判決者は一九九〇年代一桁だったが、二〇〇四年から二桁台になっている。被害者が言ったから増えたのかどうか。検察の死刑求刑が増えている。
 安田 光事件の場合は、複数を殺した場合死刑という最高裁の判例を持ち出した。いくつかの要素が加わっているが、被害者の言っていることを利用して検察、裁判官が死刑の求刑や判決を出している。
 生田 裁判官だって人間だから感情的になる。しかし、冷静さが求められている。私は死刑事件に三件当たった。三人の裁判官がどういう議論をするのか、合議のやり方をしないといけない。冷静にできるように改正すべきだ。
 安田 情状証人尋問を検察側が最初にやり、次に弁護人がやる。被害者の激しい意見陳述後、三十分後、被告が意見陳述をする。被告の意見陳述は色あせたものになってしまう。今の裁判では日をおいてやる。裁判員制度が導入されると裁判は二〜三日で判決を下すことになる。冷静に考える時間がない。
 竹田 九九・九%有罪判決が出る裁判で、弁護士は負けても文句を言われない。そんな弁護士がどんな弁論をやるのか。裁判官は迷ったら検察官の判断を見るように、判断能力がないと言われる。そんなひどい現在の裁判を変えるには、裁判員制度の導入は良い方向に変わるのではないか。

審理はたったの3日間で結審

――被害者参加によってどう変わるか?

 石塚 被害者側は検察、被害者、被害者を補佐する弁護人となり被告側に比べて有利になる。審理は三日間。その前に一年間ぐらい公判までに時間がかかる。その間に、マスコミで報道される。裁判官でも影響されるのに、裁判員はその事件について真っさらでは始まらない。弁護人は被害者に退廷してくださいと嫌われる役をやるしかない。しかし、普通はそんなふうに闘えない。裁判員制度で裁判をやっている間、この期間はメディアが報道しないようにできるのか。イギリスでは規制をすることができるようになっている。それがない日本の場合は情緒的になるのではないか。
 安田 模擬劇で、被告が破綻し、死刑にしてくれと叫んだ。こうなると弁護人はまともに弁論もできなくなる。被害者参加制度は検察に援軍ができたということだ。

――どういうふうに法廷は進むのか?

 生田 第一回公判までに押収物などの証拠保全を活用して被告を弁護する闘いをするしかない程、弁護人としてやることができなくなってしまう。そんな中で死刑判決が出てしまうだろう。
 竹田 報復の裁判に変わる。しかし、裁判員が入るので、少しは変わるのではないか。冷静に判断する人も結構いるではないか。
 安田 被害者が質問してくる。敬語を使わなくてはならないなど被告人質問がやりにくくなる。死刑事件で被告の上訴取り下げが増えている。
 石塚 一九九七〜二〇〇二年、死刑判決の上訴取り下げはなかった。ところが二〇〇三〜二〇〇七年に五件ある。男らしくないとか、以前上訴しないと言っていたではないかなどと、マスコミ関係者など周りが被告に伝え、その結果本人が取り下げてしまう。拘留中に精神安定剤をもらっている場合が多い。被告はみんなの前に出たくない、楽になりたいという気分にされるが、時間が経つと争うようになる。上訴を取り下げても本当は死刑を受け入れているわけではない。

終身刑の導入をめぐる論議

――国会議員で終身刑と死刑判決全員一致制の導入、そして単純に終身刑だけを導入しようという議論が始まっている。

 石塚 私は終身刑導入反対論者だった。量刑は少なければ少ないほど良い。それは被害を受ける人も少ない社会をめざすということでもある。終身刑はゴールのないマラソンで、ランナーは走ることはできない。死刑にも終身刑に反対だった。しかし、安田さんに言われた。こんなひどい状況になって、何かやれることはないかと。無期懲役は十年でも出られるとキャンペーンされたが、そんなことはない。だいたい十七年懲役を過ごして仮出獄できたのが二十〜三十人。二〇〇〇年、一年間で五人程度だ。現在無期懲役囚は千八百人いる。実際は終身刑と同じだ。こんな状況の中で、終身刑を導入して死刑を少なくしよう。それから、死刑も終身刑も廃止にもっていこう。
 竹田 殺人罪は五年から死刑までの刑罰。裁判員が判断するのが難しい。終身刑の導入が一つの選択肢であってよい。裁判員制度で一番問題なのは守秘義務だ。
 生田 刑罰だけを考えてはいけない。凄惨な事件があると刑罰―死刑の方にばかり目を向けられるようにマインドコントロールさせられる。問題なのは犯罪の温床になっている例えば格差社会を変えなければいけない。為政者が格差社会をつくっている、これを変えることだ。マインドコントロールされ、死刑にすりかえされてしまっている。終身刑を設置して、死刑をなくす。死刑はないほうが良い。
 安田 「せめて命さえあれば、それだけでもという」死刑囚家族の言葉がある。終身刑の導入は死刑を出させないために何を防波堤とするかだ。(発言要旨、文責編集部)
 

 

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