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http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20081127k0000m070132000c.html
社説:派遣切り 労働者を使い捨てにするな
「君は明日で終わりだから」。自動車部品メーカーの工場で派遣で働いていた埼玉県の男性(38)は派遣元の営業担当者から突然そう言われた。契約はまだ1カ月残り、その後も更新されると思っていた。休まず残業もこなしてきた。「減産」を理由にメーカーとの派遣契約が中途解約されたことを、派遣元が男性に伝えていなかった。
派遣元との交渉で残り1カ月分の金銭補償は得られそうだが、新たな働き先はまだ見つからない。男性は「派遣はいつ切っても平気な道具としか思われていない。年末年始をどうしのげばいいのか」と憤る。
米国発の金融危機のあおりを受け、こんな光景が製造業の現場で広がっている。自動車、電機を中心に工場などで働く派遣労働者や有期雇用の期間工との契約打ち切りが一斉に進む。その数は報道されている大手企業だけでも計1万7000人以上。年末に向けてさらに増えるのは確実だ。非正規社員の「大量首切り」で景気悪化に備えようとする企業の姿が浮かぶ。
突然切られる労働者はたまらない。派遣や期間工の多くは3カ月や6カ月の短期契約を更新しながら働いているが、更新なしの雇い止めだけでなく、一方的な中途解約も少なくない。工場近くの寮も同時に出なければならず、仕事と住居を一遍に失ってしまうケースが多い。インターネットカフェで寝泊まりしたり、そのまま路上生活に移行したりする人も出始めている。
まさしく使い捨てだ。非正規を正社員よりも安い賃金で働かせ、巨額の収益を上げてきた製造大手が先行きに不安を抱くや、千人単位でばっさり切ることが許されるのだろうか。増益を見込んだり、多額の内部留保があったりする企業も少なくないのに、である。
企業が正社員を経営上の理由で解雇するには、努力しても他に方法がないなど厳格な要件が必要だが、この考え方は非正規にも通じるはずだ。企業には再考を求めたい。派遣元も含め、再就職先のあっせんなどにも手を尽くすべきだ。雇用の不安定は消費低迷を招き、景気悪化に拍車をかけ、社会不安も引き起こす。企業には重い社会的責任があることを自覚してほしい。
政府も手をこまねいている場合ではない。全国の実態を早急に調べ、問題あるケースがないか監視を強めるべきだ。就職先紹介や住宅あっせん、失業給付金支給などにも万全を尽くしてもらいたい。
派遣では、相次ぐ規制緩和で派遣先の対象が広がり04年から製造業へも解禁されたことが今日の事態を招いたといえる。派遣は雇用の調整弁に使われるとの懸念がまさに現実になった。政府が今国会に提出した労働者派遣法改正案は、今起きている「派遣切り」問題には無力のままだ。派遣先を専門業務に限るなどの抜本改正がぜひとも必要だ。
毎日新聞 2008年11月27日 0時01分