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http://www.chunichi.co.jp/article/feature/yomawari/list/CK2008112402000175.html
字には命がある 優しいことば配ろう
2008年11月24日
子どもたち、私は、3歳で父親を失い、それから11歳までの8年間を、山形の祖父母の元で過ごしました。12歳の時、横浜の母親が私を呼んでくれ、それから今まで母と一緒に暮らしています。私の母は、横浜の小学校の教員でした。熱い人でした。
差別に苦しむ人たちや、貧しさにあえぐ人たちのために、わが家や私のこともかえりみず、1年中動き回っていました。
私は、中学に入って、母の活動を手伝うことになりました。貧困や差別の中で、字を書くことを学ぶことができなかったお年寄りたちに毎晩、字を教える仕事です。
識字教室といいました。坊ちゃん刈りの中学生が、一人前のおじいさん、おばあさんに、必死に五十音を書くことから教えました。五十音をおぼえたおじいちゃんやおばあちゃんが、一番はじめに書いたのは、手紙でした。遠くに住む息子や娘さんへの手紙を、たどたどしいひらがなでしたため、恥ずかしそうに私のところに持ってきました。
「先生、これで読めますか」。そして、私に封筒の住所を書いてくれるように頼みました。私が「ひらがなでいいから、自分で書いたら」というと、「先生、それはだめだよ。息子が、娘が恥ずかしい思いをする。できるだけ立派な字で書いて」。そう答えが返ってきました。私は、とびっきりのきれいな字で書きました。
その年のちょうど今ごろ、秋でした。漢字を少しずつ教えていたとき、1人のおばあちゃんが、突然手をあげました。「先生」。私が「どうしたの」と彼女のそばに行くと、おばあちゃんは、私の手を握りながら、「先生、字ってすごいよ。命が入ってる。この『母』っていう字を書くと、亡くなった母の思い出がいっぱい出てくる。『山』っていう字を書くと、ふるさとの山が見えてくる。『子』っていう字を書くと、戦争でなくしたあの子のことが」。泣きながら話してくれました。私も、泣きました。
子どもたち、私の元には、数え切れないほど、「死」や「殺」、「悲」や「憎」のことばを並べたメールや手紙が届きます。そのたびに、私は哀(かな)しくなります。そして、あのおばあちゃんのことばを思い出します。「字には、ことばには、命がある」
子どもたち、ことばには、字には、人を幸せにしたり、不幸にする力があります。だから、私たちは、ことばや字を大切にしなくてはならないのです。
子どもたち、美しい優しいことばに想(おも)いを込めて、まわりにそっと置こう。子どもたち、美しい優しい字に、想いを託し、そっとまわりに配ろう。