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【眼光紙背】偏見にまみれては、教訓を学び取ることはできない
2008年08月05日11時00分 / 提供:眼光紙背
赤木智弘の眼光紙背:第44回
3日に東京ビッグサイトで、エスカレーターの逆走事故が発生した。
原因は明らかで、完全に整備不良もしくは設計ミスである。
故障が起きたときに、普通のエスカレーターであれば、安全装置が働いて停止するものが、停止するどころか下りエスカレーターよりも速い速度で逆走を始めたのだから、これはイイワケの出来ないレベルの問題である。
このメーカーの同型エスカレーターは、5月に名古屋でも同様の逆走事故を起こしている。
メーカーや保守管理会社は、根本的な設計の見直しや、点検の適正化を行い、安全なエスカレーターを世の中に送り出して欲しい。
本当なら、これだけですべてが終わる問題である。
しかし、この日行われていたイベントが「ワンダーフェスティバル」という、ガレージキットを売買するイベントで、事故に巻き込まれた被害者の多くがオタクであったことから、一部でオタクを悪者視する見方が出てきている。
特に警察が「1ステップに3〜4人乗っていた」などと、明らかにあり得ない発表をしたことは、マスコミによる「「マナーを知らない自分勝手なオタク」がエスカレーターに殺到したのだ」という悪意をたっぷり含む報道に繋がっている。そもそも、あのエスカレーターの幅は駅などにあるエスカレーターとほとんど変わらないのだから、そこに3人でもギュウギュウだし、4人は不可能だろうと、私は思う。
私もNHKの撮影した動画や、他の角度の動画、そして写真なども見たけれども、そこに映っているのはすべて「事故が起きて、下っている最中の映像」であって、そのような緊急事態で、態勢が崩れている人たちがステップに3〜4人いるように見えるのは仕方がない。
一方で、そのとなりの下りエスカレーターには整然と2列で人が乗っており、上りエスカレーターだけが無法状態であったとも考え難い。
また、もし仮に本当に1ステップに3〜4人が乗っており、エスカレーターに想定以上の荷重があったとして、「だから今回の逆走事故が起きたのだ」という話になるだろうか?
答えは「いいえ」である。
本来のエスカレーターの動作であれば、規定以上の荷重がかかれば、エスカレーターはその場で安全に停止するハズなのである。エスカレーターメーカーの人間は「異常な乗り方に見える」などと発言しているが、問題はそこではなく、エスカレーターがそれを関知して停止できず、さらに逆走するという事態に至ってしまったことにある。
もちろん、エスカレーターが緊急停止した状態で、将棋倒しのような事態になったのであれば、その責任はこのイベントを運営した会社の側にあるだろう。
しかし、この場合は「逆走」をしているのだ。それは安全装置が安全を確保する為に必要な動作をできなかったということを意味している。ならばその責任は、エスカレーターのメーカーや保守管理会社にあるということは、当然と言えよう。
勘違いしないで欲しいのだが、私がこの記事で訴えたいのは「イベントの運営会社やオタクは悪くない」ということではない。
そうではなく、この事件を「「マナーを知らない自分勝手なオタク」がエスカレーターに殺到したから起きた事故だ」と理解してしまえば、オタクではない人たちが、この事故から教訓を得ることは無くなってしまうということを惜しんでいるのだ。
私は、この事故を調べて初めて、建築基準法上の安全基準の計算式というのが「2ステップに大人3人が乗る計算」(*2)だということを知った。今まではエスカレーターの定員は1ステップの左右に2人だと思ってた。
しかし、私たちは普通の生活の中で、そんなことを認識しているだろうか?
電車に乗れば、今はどこの駅にもエスカレーターがあるけれども、片側に人が1ステップに1人立っていて、開いている方を人が歩いて行く風景を目にする。それはほとんど1ステップに2人という状態だし、歩いているということは、普通に立っているよりも多くの荷重を受けているわけだ。
ならば、国民の大半はエスカレーターの乗り方を間違っているということであり、それがこうした事故に繋がるのであれば、当然周知徹底されなければならない。
しかし、これを「オタクの事故だから」と考えてしまえば、多くの人はこれまでと同じように間違った乗り方を続け、やがて別の施設でも同じような事件はおきるだろう。今回の事件は全員軽傷で済んだが、今度は重症、下手すれば死者まで出るかもしれない。
それを防ぐ為にも、安直なオタクバッシングに、この問題を帰結させてはならない。
*1:http://putikuri.way-nifty.com/blog/2008/08/post_84af.html
*2:http://mainichi.jp/select/jiken/archive/news/2008/08/04/20080804dde041040053000c.html
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国」
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧
http://news.livedoor.com/article/detail/3761243/