すでに五万人 が解雇された アメリカのGM、フォード、クライスラーのビッグ3の経営危機が全面的に明らかになると日本の自動車会社は、その波を利用するかのように一斉に経常利益の下方修正を行った。さらに十一月に入るとトヨタの六千人をはじめとして自動車関連産業で一万八千人、電機産業も含めると三万人を超す期間・派遣労働者の解雇が相次いで発表された。十二月になっても「派遣切り」「雇い止め」の流れは一向に止まらず、逆にキャノン大分工場の例を挙げるまでもなく製造業全体に拡大し、すでに解雇された労働者数は実質五万人にも達しつつあると言われている。そしてその圧倒的多数が契約途中の違法解雇である。 労働契約法の第十七条第一項は倒産の危機などの「やむを得ない事由」以外は有期雇用の中途解約を厳しく禁止している。トヨタは来年三月の利益を下方修正したが、それでも六千億円の経常利益を見込んでいる。八百人の解雇を発表したマツダも下方修正したが同じく二十四億円の利益を見込んでいる。この夏に「この数年間、過去最高の増収増益を続けてきた」と豪語していたいすゞもまた他のメーカーに便乗するように十二月に入ると栃木工場を中心に千四百人の契約途中の解雇を発表した。いすゞは下方修正しても来年三月の経常利益を六百億円も見込んでおり、株主配当も前年より十七億円も増やす計画であることが明らかになっている。 さらに期間・派遣社員の多くは「企業の寮」に住んでおり、仕事を打ち切られると同時に寮から出ることを余儀なくされる。つまり「派遣切れ」「雇い止め」は、野宿者、ホームレスに直結する攻撃に他ならない。好景気の時には「安価な労働力」を確保する道具としての「寮」が表現しているのは、労働者を人間ではなく道具として扱い、切り捨てていくという事実である。 また派遣会社から退職勧奨される際に「自己都合退職」と認めないと失業手当の受給票を出さない、と脅迫される例も多いという。自己都合退職は会社都合と比較して失業手当の給付期間が短く、もらうまでも時間が長くかかる。さらに企業は「再就職の世話をする義務」を負わなくてもよい。「自己都合退職」は企業責任を回避する手段でもある。メディアによると製造業にとどまらず保険、不動産などにも新卒の就職内定取り消しが拡大し始めていると報道されている。今や、バブル崩壊時より一層早いスピードで雇用不安が広がり出している。 問答無用で寮 からも追い出し このように非正規労働者が増大し、雇用不安が広がり、格差の原因となったのは労働者派遣法である。この間労働者派遣法に対する抗議と怒りの全国的な拡大に対して、厚労省はこれをかわすために今国会に対して「まやかしの派遣法改正案」を国会に上程した。この政府案の成立を阻止し「派遣法の抜本改正をめざす 12・4日比谷集会」が開催された。 日本労働弁護団の棗一郎弁護士が「二年前の十二月二十五日、私たちは今日と同じ会場でホワイトカラー・エグゼンプション阻止の集会を勝ち取り、見事にこれを阻止した。日本中で進行している『派遣切り』はこのままでは十万人、数十万人にも及ぶことになる。この元凶が一九八五年に成立した派遣法である。この派遣法の抜本改正のために闘い抜こう」と司会者あいさつを行った。 最初に呼びかけ人を代表して鎌田慧さんが「派遣法は戦前のように再びピンハネを認め、ホームレス製造法ともいえるものだ。派遣法を使い企業が労働者を使い捨てる攻撃を強めているのは、労働組合運動が企業・資本に協力し賃上げ・労働条件を守るという道を選択した結果であり、解雇を認めないという闘いを衰退させた結果だ。派遣法抜本改正の闘いは労働組合運動を転換させるための闘いでもある」と述べた。 続いて「派遣社員は会社のものじゃない」というプラカードを持って現場で闘う仲間が登壇し、一言ずつ発言した。 「ぼくたちにもお正月を迎えさせてください」「十五日に寮から追い出されます」「いきなり、今日で終わりと言われました。どうかホームレスにしないでください」。さらにもっぱら派遣の阪急トラベルサポートの添乗員は「私たち旅行会社の全国一万二千人の添乗員の九割は、ツアーごとの派遣労働者です。一切のセーフティーネットがありません。安心して働かせてください」。 福島の佐藤さんは「パナソニックのショールームで十八年も働いてきたのに、パナソニックの派遣子会社が突然雇い止めの解雇を通告してきた。これに抗議し、パナソニックに直接雇用を求める提訴を起こした」と報告した。キャノン大分工場の仲間は「十二月十日付けで解雇すると通告してきた。途中解雇であり、十三日までに寮を出て行くようにと言われている」と厳しくキャノンを糾弾した。 労働者の使い 捨てをやめろ 国会議員を代表して最初に民主党の菅直人副代表が「今日ネットカフェを視察してきた。取り組みが遅れてきたが、『派遣切れ』は雇用情勢の中心的問題だ。一九八五年の派遣法の成立が今日の現状を招いている。私はこの時厚生労働部会にいた。こうなるとは考えていなかった。ともに改正に向けて闘っていきたい」と決意表明した。 日本共産党は八人の国会議員が参加し、志位委員長が代表して連帯のあいさつを述べた。 「大企業は景気悪化を口実に労働者の首を切っている。トヨタは六千億円も利益を上げている。労働者の使い捨てだ。なんとしても一九八五年以前に戻さなければならない」。 七人の国会議員が参加した社民党は福島みずほ社民党党首が「社民党は全国で雇用問題の電話相談を行ったが、一番多いのが期間工・派遣労働者の解雇に対する相談であり、それも期間を無視したというものだ。派遣法の抜本改正なくしてこの状況は改善しない」と激しく訴えた。次に国民新党の亀井亜紀子副幹事長が自分自身の経験に基づきながら闘う決意を述べた。 「寿」の歌の後、集会の最後に反貧困ネットワーク代表の宇都宮弁護士が日弁連の総会で「労働者派遣法の抜本改正」を全会一致で決議したことを報告するとともに、解雇されている人を支援することは反貧困を闘う上で、極めて重要な柱であり、十二月二十四日に反貧困ネットワークが行う「年越し相談」に多くの人が参加するように訴えた。 午後七時半、呼びかけ人の鎌田慧、佐高信、本田由紀(東大准教授)さんらが先頭に立ち、参加者二千人が国会に向かってデモに出発した。 (D)
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