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(回答先: 第38回 海外メディアが伝えた小泉・郵政解散劇の評判 (2005/08/11) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 19:20:52)
第39回 日本経済まで「ぶっ壊す」小泉改革の幻想と実態 (2005/08/18)
http://web.archive.org/web/20051231032541/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050818_gensou/
2005年8月18日
自民党は、疑いもなく壊れつつある。
第37回「衆院解散、派閥解体で 小泉首相が狙う次の一手」で予想したように、小泉首相の「自民党をぶっ壊す」宣言は実現されつつある。ただ自民党旧体制の抵抗がこれほど弱々しいものだったとは、予想外だった。
小泉首相の解散総選挙の仕掛け以来、自民党旧体制は、なすところもなくズルズルと敗走に次ぐ敗走を重ねている。「ぶっ壊す宣言」実現の前に、ひと波乱もふた波乱もあるだろうと思っていたら、ほとんどひと波乱の半分くらいで旧体制派へなへなになってしまったようである。
綿貫民輔元衆院議長、亀井静香元自民党政調会長が追い詰められて、「国民新党」を作ったが、思ったほど勢力を結集できず、国民の人気も、カケラほども集まらず、おそらく近いうちに消滅の道をたどるだろう。たとえ、選挙で数名の議員を当選させることができたとしても、政局を動かすような力を持つことはあるまい。
綿貫、亀井の国民新党の周辺で「様子見」をしていた連中(石原慎太郎から野田聖子まで含む)はいっせいに腰が引けてしまっているから、あるいは、それらの勢力が全部結集していたら、吹いていたかもしれない風は、ついにソヨとも吹かずに終わることになるだろう。
政局の主導権握るタイミング逃した反乱軍
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政治で何より大切なのは、タイミングだ。
もし、郵政法案否決から解散・総選挙にいたる政治の混乱の中で、新党の旗揚げがあったら、あるいはちがう政治展開があったかもしれない。
しかし、機を見るに敏だったのは、反乱軍ではなくて、小泉首相のほうだった。
反乱軍に対する「非公認」という懲罰。そして、有力反乱軍選挙区への刺客の送り込み。その一方で、「棄権組」に対しては融和政策を表明して、敵勢力の分断をはかるなど、見事なまでのパワーポリティクスの展開によって、政局の主導権をアッという間に自分の手におさめてしまった。攻めに次ぐ攻めの連続で、敵につけいる隙を与えなかった。
これでもし、小泉首相が反乱軍に対して力による対決姿勢をとらず、融和政策を取るなどして少しでも弱さを見せていたら、政局は別の展開を見せていたかもしれない。選挙後の政権作りもむずかしくなり、これまでのように、自分の思うがままの内閣作りなどできないところだったろう。
選挙の結果が、民主党の勝ち(あるいは伯仲)とでれば別だが、自公連立与党の勝利と出れば、小泉政権の基盤は磐石のものとなる。旧体制はほとんどなくなったも同然となり、自民党は「小泉党」になってしまうだろう。
今回の選挙の候補者の立て方は、「小泉党」の候補者の立て方そのものといっていい。この選挙に勝てば、前回選挙と合わせて、自民党の若手は事実上、小泉首相に忠誠を誓う人々ばかりになるわけだ。
だから、選挙のあとに、おそらく確実に小泉首相の任期は延長され、小泉首相は戦後の歴代首相の中で最もパワフルな政治家となり、憲法改正を自分の新しい任期中に政治日程にのせるところまでやるにちがいない。
next: スローガンと現実乖離が目立つ小泉改革…
http://web.archive.org/web/20051224123658/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050818_gensou/index1.html
スローガンと現実乖離が目立つ小泉改革
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そのことを含め、私が心配なのは、小泉首相が「自民党をぶっ壊す」ことに成功した余勢をかって、「日本をぶっ壊す」ところまでいってしまうのではないかということだ。
ことここに至ると、しきりに思い出されてくるのは、小沢一郎の全盛時代、すなわち細川内閣を作り、天下をほとんど小沢一人で仕切っていた観のあった時代に、小沢がよくいっていたことだ。 「自民党なんてのは、政党というより、政権にぶら下がった利権につられて集まってきた人間の集団に過ぎないのだから、政権を失った状態で選挙を二回もやれば、利権が何も得られず、バラバラになって、雲散霧消してしまいますよ」
小沢一郎こそ、結果は失敗に終わったものの、明確な目的意識を持った、初代「自民党ぶっ壊し屋」だった。
小泉首相は自民党総裁ながら、自民党旧勢力(派閥)を、利権構造から切断する「小泉改革」を行い、派閥を党・内閣人事から完全に切断する「小泉人事」を行うことによって、派閥の力を削ぎ、派閥の利権支配力を消していった。そのような状況下で二度も選挙を(参院選をいれれば四度も)行ったのだから、自民党は小沢の予言通り解体していったわけだ。
私は利権政党としての自民党には、もともとアンチの立場であるから、自民党のそのような部分が解体していくことには、もろ手をあげて賛成する。
しかし、小泉改革の現実を見ていくと、あまりにも、そのスローガン(能書き)と実現されていることの乖離が目立ちすぎ、小泉改革は本人が自画自賛するほど立派なものではないし、効果的なものでもないと思っている。
ゼロ金利、不良債権処理で国民から富を収奪
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いちばんひどいのは、その経済政策だろう。
「改革なければ成長なし」をスローガンに、景気政策などそっちのけで、銀行に不良債権処理を最優先ですすめさせた。不良債権が処理されれば、日銀の量的緩和政策とあいまって、銀行の貸し出しが自然に増え、そこから経済が自然に回転しはじめ、景気全体が回復されていくかのような幻想をふりまいてきた。
しかし、その現実はどうかというと、量的緩和政策で、金融市場には資金がジャブジャブというほどダブついているのに、銀行の貸し出しはさっぱり増えないで、日銀の買いオペは札割れが何度もつづくという異常事態だ。
next: そして肝心の景気は…
http://web.archive.org/web/20060306084047/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050818_gensou/index2.html
そして肝心の景気は、「回復基調」とはいうものの、足踏み状態をずっとつづけている。
一方、何年にもわたるゼロ金利政策によって、貯蓄者(国民全体)から、ゼロ金利でなければ得られたであろう所得が奪われ、その分、銀行に所得移転が行われてしまうという恐るべき国民全体からの富の収奪と、それによる銀行救済が行われてきた。
あの驚くほど巨額の銀行の不良債権処理も、その原資をたどれば、実はゼロ金利政策で国民全体にその負担がまわされていたことになるわけだ。これほど大きな仕掛けは、一般国民大衆の目には見えてこないから、怒っても当然の、ぶったくられる一方だった国民が誰も怒らないというこの不思議さ!
「改革には痛みをともないます」という掛け声をかければ、デフレ、ゼロ金利、リストラ、失業の増大という三重苦、四重苦を強いられている国民が、みんな「改革のために」と思って我慢してしまうというこの従順な国民たち!
あの日中戦争〜太平洋戦争の時代に、「欲しがりません、勝つまでは」と我慢に我慢を重ねることを強いられても、それに従順に従った大日本帝国の臣民たちが、そっくりそのままよみがえってしまったかのような従順さだ。
総選挙で問われる小泉改革の現実
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その上さらに輪をかけて、「財政改革が急務です。プライマリー・バランスを回復するためには、サラリーマンの負担を増やす必要があります」の掛け声がかけられて、増税がはかられ、「年金制度が破綻しそうなので、もっと受益者負担を」「健康保険制度が破綻しそうなので、もっと受益者負担を」と、国民負担が増大する一方で、世界有数の国民負担が重い国になりつつあるというのが、小泉改革の実態ではないのか。
そのような現実が見えてきたときに、国民は小泉改革なるものの幻想をそれでも信じつづけるのだろうか。
最近の世論調査は、小泉支持の増大を伝えるものが多いが、リアルな選挙戦がはじまったときに、国民の圧倒的少数者しか関心のない郵政民営化の問題より、小泉改革の本当の現実のほうに多くの国民の目が向くようになり、小泉首相の願う方向の選挙結果に必ずしもならない、と私は希望的に観測している。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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