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(回答先: 第33回 自民分裂選挙で見えてきた 政界一大再編劇の裏の裏 (2005/07/29) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 18:41:33)
第34回 NHK番組改変の取材メモ流出で問われる報道の使命と政治介入 (2005/08/05)
http://web.archive.org/web/20051226004517/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/
2005年8月5日
「月刊現代」9月号の魚住昭「『政治的介入』の決定的証拠」を読んで驚いた。
今年の1月以来つづいてきた、NHK VS.朝日新聞の番組改変問題である。旧日本軍の性暴力を告発する法廷に焦点をあてた「問われる戦時性暴力」というETV特集(2001年1月30日放送)が、政治家(安倍晋三自民党副幹事長と中川昭一経産相)の圧力によって改変されてしまったと報じた朝日新聞の記事(今年の1月12日付)に対して、 NHK側がそんなことはなかったと抗議し、それ以来、朝日新聞は紙面、NHKはニュース報道枠を使って、お互いに相手を厳しく批判し合ってきた事件である。
朝日の報道が事実なら、これは自民党有力政治家によるNHKの報道に対する政治介入事件だし、そのような圧力に屈して報道内容をねじ曲げたNHKの政治姿勢の問題(NHKは公共放送として、政治的中立性を保つことが求められている。実はNHKにかぎらずすべての放送局が放送によって政治姿勢を中立に保つことが義務づけられている)になる。
流出したNHK放送総局長らの「証言記録」
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中川、安倍両議員は、NHKに圧力をかけたという事実関係がそもそもないと強く主張してきた。NHK側で朝日記者の取材に応じたとされる松尾武放送総局長(当時)も、そういう事実はなかったし、朝日の記者に対してそういうことがあったと話したこともないから朝日はウソを書いていると自ら放送に出演して語るなど、奇怪な水かけ論がつづいてきた。
途中経過は、NHKと政治家側の主張がいかにももっともらしく、また両者の主張内容が多くの点で一致していたので、朝日新聞の側が旗色が悪そうに見えていた時期もあった。朝日新聞側の担当記者が、かねて強引な取材をすることで知られていた人なので、一時はその記者に対して個人攻撃的な非難(自分が聞いたことをねじ曲げて書いた)が集中したこともあった。
しかし、朝日新聞側は、一向にひるむ様子を見せず、自分たちの報道はあくまでも事実に基づいてなされたものだとの主張をくずさなかった。その姿勢は、報道機関としての面子上そういう主張を貫かなければならないからそうしていたという以上に、そう主張できるだけの何らかの客観的根拠があることをうかがわせた。
こういう場合、客観的な根拠となるのは、記者のメモ帳(根拠としては弱い)か、録音(根拠としてきわめて強い)以外ありえないが、朝日新聞は、そういう客観的な証拠を繰りだして、自分たちの主張を裏付けるということをしなかったため、それはあるともないともわからなかった。
それが水かけ論がここまで長引いた理由であるが、この「月刊現代」の記事は、録音があったにちがいないということをうかがわせる、朝日記者と松尾放送総局長との一問一答的記録をもとにして書かれている。
魚住氏は、
一体どちらの言い分が正しいのか、私はそのナゾを解く大きな手がかりとなる松尾武・NHK放送総局長らの「証言記録」を入手した。そこには松尾氏らが朝日の取材に語ったことのすべてが記されている。それをお読みになれば、これまでウソをつき、われわれを誑(たぶら)かしてきたのは誰かということがはっきりおわかりになるだろう。
と記すのみで、それが録音テープ(ないしその速記録)によるものなのかどうかも、それをどのように入手したのかも書いていない。
この魚住昭氏という人は、元共同通信社の記者で、昨年「野中広務 差別と権力」で講談社ノンフィクション賞を受賞した人である。私はこの賞の選考委員をしていた関係上、この人がどのような人間であるかについて十分な知識を得ており、なみなみならぬ取材力を持った人であることをよく知っている。
つまり、この人の立場なら、録音テープ(ないしその記録)の入手先を明かすことは決してしないだろうが、テープの入手にあたって、その信憑性は十分にチェックしているにちがいないから、それをもとに彼が書いたものは信用できると思っているということである。
next: 明らかになった政治介入の具体的手法…
http://web.archive.org/web/20051226004517/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index1.html
明らかになった政治介入の具体的手法
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この記事は長い記事だから全部を要約して示すわけにはいかないが、基本的に政治家が圧力をかけたこと、そしてその圧力に屈する形でNHKがすでにできあがっていた番組に手を加えて改変した上、内容をカットして放送時間まで短くしたということがはっきりわかる内容となっている。
具体的にいうと、圧力は主として中川代議士がかけ、安倍代議士は抽象的なもの言いでプレッシャーを強めるにとどまった。松尾の表現を借りると、
(安倍)先生はなかなか頭がいい。抽象的な言い方で攻めてきて、いやな奴だなあと思った要素があった。ストレートに言わない要素が一方であった。「勘ぐれ、お前」みたいな言い方をした部分もある。
ということである。「抽象的な言い方」とは何か?朝日記者が、安倍に直接取材したときに、安倍はこう答えている。
本田(朝日記者) それで先生はNHKの2人を呼んで放送の中止を求めたのですか?
安倍 説明を聞いたんだ。
本田 どんな説明でしたか?
安倍 そんなもの覚えてないよ。
本田 少なくとも安倍先生のほうからは偏った内容で、慰安婦問題については天皇に責任があるとか言っている法廷じゃないか、それを流すのか、みたいなことを言われたわけですね。
安倍 いや、そういうことじゃなくてね、公平性に著しく欠けますね、と言ったんだ。そしたらNHK側も「そうですね」と言ったんだ。
この程度の抽象的なやりとりで番組の改変が起きたのなら、政治家の圧力で番組が変わったというより、政治家の一言にNHKが過剰反応して番組を改変してしまったということで終わるとこだろうが、中川代議士とのやりとりは、こんなものではなかったらしい。
松尾 同席した人がどいういう情報を出したか知らないが、「一方的な報道だけはするな」ということを言われた。「客観性をもってものを論じろ」「わかっているだろう、お前、それができないならやめてしまえ」という言い方はあったと思うが(略)
本田 そこにいた議員が話してくれたのは、「あれは言いすぎだ」と。「ヤクザだと思った。自民党にはそういう人が多いのか」と思ったと。
松尾 北海道のおじさん(中川議員をさす)は凄かったですから。そういう言い方もするし、口の利き方も知らない。どこのヤクザがいるのと思ったほどだ。
next: 浮き彫りになるNHKと政治家側の基本的関係…
http://web.archive.org/web/20051226011835/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index2.html
浮き彫りになるNHKと政治家側の基本的関係
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朝日記者が中川代議士に直接取材をかけると、NHKに圧力をかけたことが本人の口から裏付けられている。
本田 それで29日にNHKの野島、松尾両氏に会われたわけですね。
中川 ああ会った、あった。議員会館でね。(略)とにかく番組が偏向してると言ったんだ。だって、「天皇死刑」って言ってるんだぜ。
本田 それは事実誤認です。「天皇有罪」は言っていましたが。
中川 (略)その偏向した内容を公共放送のNHKが流すのは、放送法上の公正の面から言ってもおかしい。偏っているって言うと、向こうは教育テレビでやりますからとか訳のわからんことを言う。あそこを直します、ここを直しますからやりたいと。それでダメだと。放送法の趣旨から言ってもおかしいじゃないかって。
本田 どこをどう直すと?
中川 細かいことは覚えてねえよ。
本田 居合わせた人の話では「公平で客観的な番組にしろ。それができないならやめちまえ」と言われたとか?
中川 売り言葉に買い言葉で言ったかもな。
本田 放送中止を求めたのか?
中川 まあ、そりゃそうだ。(略)
本田 これは報道や放送に対する介入だと思いませんか?
中川 俺たちと逆の立場の人間から言えばそうだろう。俺は全然そう思わない。当然のことをやった。
中川代議士は、圧力をかけたことそれ自体はこういう形で認めているが、同時にこんなこともいっている。
中川 しかしだね。連中もそんなもん毅然として拒否したらいいじゃないか。そのほうが君たちの言い分としても筋が通っているんじゃないの?
本田 まったくその通りです。
筋論としては、中川の言う通りで、政治家が何を言ってこようが、NHK側が毅然としてそれを拒否していれば、問題は起きなかっただろう。
しかし、NHKは予算も決算も国会の認承を必要とするところから、どうしても政治家のプレッシャーに弱くなる。また、それを承知の政治家がNHKに何かというとプレッシャーをかけてくる。それに従わない場合の政治家側のさらなる圧力が恐いNHKは、有力な政治家のちょっとした一言にすぐおびえて過剰反応してしまうというのが、これまでもNHKと政治家側の基本的関係だった。
next: NHKが陥る不安感増幅のメカニズム…
http://web.archive.org/web/20051226011857/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index3.html
NHKが陥る不安感増幅のメカニズム
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松尾は、こんな証言もしている。
松尾 私は総局長を2年やった。その前に人事だった。人事のとき国会対応をやった。国会のいろんな圧力はある。ないわけがない。
本田 これまでも国会議員に呼ばれて番組について言われたことは?
松尾 あります。選挙のときはしょっちゅうです。
本田 放送前に呼ばれることは?
松尾 だいたい作った後です。
本田 放送前は異例か?
松尾 大河(ドラマ)とかはあるけど、(今回のような)ETVの特集的要素で事前にというのはなかった。
松尾 呼ばれていかないとどうなるか。ものすごい圧力。3倍、4倍の圧力です。放送中止になったかもしれない。(番組内容を詳しく)知らないのに誇大妄想に支配されて力でガンと押されれば本当に予算を通さないという話になる。そういう駆け引きをやる(NHKの)国会対応の人たちは番組の内容を知らないから不安だけ増してしまう。先生の言われた通りに走り始めて必要以上に圧力を感じてしまう。これはものすごく危険だと思った。
NHKは、国会対策のために、政治家対応専用の職員が少なからずいる、それがこのような不安感増幅のメカニズムに乗って、政治家のちょっとしたプレッシャーを大きくかきたててしまうのである。
情報漏えいの首謀者探しにやっきになる朝日新聞
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しかし、この問題で過剰反応を示しているのは、政治家側も同じだ。
毎日新聞(8月2日)の報道によると、このニュース漏洩に自民党は大いに怒った。これまでの政治家側の主張がみんなウソっぱちだったとわかった上、政治家がNHKに対して圧力をかけるのが日常茶飯事になっているということがバレてしまったことに怒ったらしい。「月刊現代」にテープ(記録)を流したのは朝日新聞の内部者にちがいあるまいということで、今後、自民党役員は朝日新聞の取材を拒否するということを、役員会で機関決定したのだという。
これはもう唖然とする対応という以外ない。このような恥ずべき事態(公共放送への自民党中枢幹部の圧力の日常性)がバレたら、まずは、形ばかりではあっても、申し訳ないという表情をしてみせるのが当然なのに、居丈高に今後の朝日新聞に対する取材拒否を叫ぶとは何事だろう。本末転倒というしかない。
さらに唖然とするのは、自民党から取材拒否を通告された朝日新聞側でも、政治が大きく動こうとしているこの時期に自民党を取材できなくなったら、新聞の死活にかかわる事態ということで、社内でニュース漏洩者をいち早くつきとめて、そのクビをさし出すことで自民党と手打ちをはかろうという動きが政治部を中心として着々と進行中という。
自民党恐さにそんな岡っ引きまがいのことをしたら、それこそ朝日新聞の報道機関としての“政治生命”にかかわることになるということが、朝日の幹部にはわからないのだろうか。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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