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(ヤマボウシのオリジナル論考)
11月13日から14日にかけて全世界で報道されながら、またしても日本ではほとんどのメディアが取り上げない自衛隊派遣問題とも関係する重要なニュースがありました。しかも、このニュースは取り上げ方が部分的であったり、強調点の置き方の違い次第で重要性が変化し、世界での報道もさまざまであったのですが、日本語で読める数少ない中で2つの記事をご紹介します。まずはAFPから配信を受けた時事通信の記事をです。
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ビンラディン容疑者、身の安全確保で手一杯=CIA長官
http://www.jiji.co.jp/jc/a?g=afp_int&k=20081114020029a
【ワシントン13日AFP=時事】米中央情報局(CIA)のヘイデン長官(写真)は13日、国際テロ組織アルカイダを率いるウサマ・ビンラディン容疑者はパキスタン・アフガニスタン国境地帯に潜伏しているとみられ、外界から隔絶された状態で自身の身を守ることに手一杯であり、組織を名目的に率いているだけだとの見解を示した。
同長官はこの中で「彼は膨大なエネルギーを自らの生存や身の安全のために傾けている。実際、日々のアルカイダの活動からはほぼ隔絶状態に置かれている」と述べた。その上で、ビンラディン容疑者を捕縛することは依然としてCIAの優先課題だと強調した。
ヘイデン長官は、同容疑者の潜伏先として、アルカイダが再結集し、態勢を固めつつあるパキスタン・アフガンの国境地帯との見方を示した。ビンラディン容疑者を発見できないのは、探知されるのを避けるために同容疑者が息を潜めているのが理由ではないかと述べた。 〔AFP=時事〕(2008/11/14-08:35)
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この記事には要点が2つあると思われます。
(1)ビンラディン容疑者は外界から隔絶された状態で自身の身を守ることに手一杯であり、組織を名目的に率いているだけだ。
ただし、この「外界から隔絶された状態で」というのは"isolated"の訳のようですが、後半でご紹介する米「タイム」誌の記事で解説されているように、空間的な意味合いだけではないため、むしろほとんど誤訳であり、正確には「孤立化」とすべきでしょう。
(2)ビンラディン容疑者を捕縛することは依然としてCIA(=米国)の優先課題だ。
そして、(1)は新しい情報であり、(2)は従来からの情報の繰り返しであることから、(1)を中心にした時事の上掲記事がパターンとしては「常識的」と考えられるのですが、実際には近来稀に見るのではないかと思われるほどの異なったパターンが内外のメディアに現れました。
日本のいわゆる4大新聞のうち、このCIA長官の発言を報道したのは、少なくともネットで見られる限り、以下に転載する日経のみで、しかもその内容は上掲の時事の記事と同じ報道対象とは思われないようなものでした。
--[転載開始]-------------------------------------
CIA長官「ビンラディン拘束が最優先」
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20081114AT2M1400U14112008.html
【ワシントン支局】米中央情報局(CIA)のヘイデン長官は13日、ワシントン市内での講演で、国際テロ組織アルカイダの指導」者ビンラディンの拘束は引き続きCIAの最優先課題の1つだと強調した。オバマ次期大統領の意向に沿った形の発言。同長官はマコネル国家情報長官とともに、オバマ次期政権発足後に交代の見通しが報じられたばかり。(14日 23:16)
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そこで海外の報道を見てみましょう。まず英語圏では、米ABCやCNN、保守的で知られるFOX、あるいは英BBCなど主要メディアはいずれも時事と同じパターンであり、アルカイダの脅威を強調する記述の割合にそれぞれの違いが出ています。このうち全体の7割前後が見出しも含めて、ビンラディン容疑者の影響力の低下を印象付けています。残る少数はどれも無名のメディアで、「アルカイダはなおも最大の脅威とCIAのヘイデン語る」といった見出しで、受ける印象はまったく違っています。ドイツ語圏ではアルカイダの脅威を強調する見出しが比較的多いですが、フランス語圏では逆で、有力な保守系紙「ル・モンド」の見出しでさえ「ビンラディンは重要性が減った」とあります。
こうした中で、わたしが着目したのはVOA(ヴォイス・オブ・アメリカ)の記事(http://www.voanews.com/english/2008-11-14-voa10.cfm)です。というのも、VOAは昔から米国の国策放送を全世界へ流すメディアとして知られ、当然CIAの意思が最も直接に表明される場所のはずだからです。そして、わたしが特に注目するのは、ビンラディン容疑者の消息が(他の欧米の主要メディアと同様)第一に書かれている点です。見出しも簡潔に「CIA長官:ビンラディンは孤立化」とあります。つまり、これでCIAが本気でビンラディン容疑者の力の低下を全世界に伝える意思があることを確認できたからです。もちろん、目新しくもないアルカイダの脅威の強調が添えられるのは当然でしょう。でなければ、CIAの存在意義をみずから否定することになるからです。
しかし、そこで気が付くのは、ビンラディン容疑者の力の低下について「闘いの成果」とか「追い詰めるのに成功」といった手柄にする表現がまったく見られないことです。それは確実に、先にご紹介したような英軍現地最高司令官やNATO軍最高司令官が「勝てない」と述べたアフガン戦争の重い実態があるためと考えられます。
もちろん、一部の欧米メディアや日本の主要メディアのように現実に対して目をつぶるというやり方もあったはずですが、そうしなかったのはおそらく、最高司令官たちの発言と併せて、アフガン戦争を「軟着陸」させようという意思の現れではないかという推測も可能になります。これを単なる希望的観測以上に裏付ける情報を以下に示します。
ヘイデン長官の発言から数日経った18日付の米週刊誌「タイム」電子版に、中東勤務の経験のある元CIA将校による「オバマはいつビンラディンの亡霊狩りに見切りをつけるか When Will Obama Give Up the Bin Laden Ghost Hunt?」というタイトルの記事が掲載されました(http://www.time.com/time/world/article/0,8599,1859354,00.html?xid=rss-world)。
この記事によれば、ビンラディン容疑者を目撃した比較的確かな情報は最も新しいのでも2001年後半に遡ります。その後に入手された動画像に写っているのは本人であることが否定され、録音は過去の音声だとされています。ただし、これを認定したのはパキスタンの情報将校複数で、彼らにとってはビンラディン容疑者が死亡していることにしたほうが米国の介入を避けるうえで有利と考えた可能性もあります。
しかし、同記事によれば、それ以外にも録音はいくつかあり、これら全部が古い音源をディジタル編集したものかどうか疑問が残るとしています。また謎なのは、ビンラディン容疑者が生きているとすれば、米大統領選の際になぜ姿を現さなかったかという点です。つまり、自分が歴史に名を残すと信じるナルシストの大量殺人者であれば、意見を表明するのに絶好の機会だったはずだというわけです。最低DVD1枚をアルジャジーラに送り付けるだけでも。
記事の筆者はこうした疑問を、9.11事件以来ビンラディン容疑者を追跡しているかつての同僚数人に投げかけました。すると驚いたことに、そもそもビンラディン容疑者が生きているかどうかさえ誰も確かなことは言えなかったのです。半数は彼が生きていると推測し、もう半数は死んでいると推測していました。どうやらこの自信のなさは主に、イラクでサダム・フセインが大量破壊兵器を廃棄していたことをCIAが見逃した失敗という傷口が未だふさがっていないのと関係があると筆者はしています。ましてや一人の男が死んだことを見逃すのはずっと簡単だというわけです。
同記事が指摘するヘイデン長官の発言で重要な点は、イスラーム教徒たちがビンラディン容疑者に背を向けたことであり、これは同容疑者の西側に対する反抗作戦が敵よりも多く味方を殺す結果となっているのに気付いたためだとしています。またアルカイダは北アフリカやイエメンで支持者を得て復活を準備しているかもしれないが、もはやサウディ・アラビアやその他のアラブ諸国を不安定化する立ち位置にはないことも確かであるとしています。そして、ヘイデン長官は言っていないことですが、大規模な攻撃を仕掛ける力がビンラディン容疑者にあるというはっきりした証拠はないといいます。実際、同容疑者は、FBIやCIAが心配したような米大統領選に向けた事件を引き起こさなかったからです。
にもかかわらず、ビンラディン容疑者が生きているかどうかは実はぜんぜん問題ではないのだと同記事は続きます。というのも、もしもオバマ米次期大統領の就任後何カ月も経たないうちにアルカイダが米国内で大事件を引き起こせば、大統領は残りの任期をなぜもっと警戒しなかったかという説明に終始しなければならないからだというのです。このため、もし政治的な配慮のみをするならば、新大統領にはビンラディン容疑者の捜索を再活性化する以外に現実的な選択の余地がないということになります。
けれども、ビンラディン容疑者が実際には死亡しているか、あるいは死んだも同然に弱っているとすればどうだろうかと、同記事は最後に問います。アフガニスタンやパキスタンの荒涼とした山岳地形の部族地域で際限なく亡霊狩りに立ち回ることは味方の利益になり得ない。いずれオバマ氏はこの狩りに見切りを付けることが必要になり、ビンラディン容疑者の死亡、あるいは同容疑者がもはや問題ではなくなったことを宣言するだろう。彼にはイランからロシアにいたる対峙すべきもっと重要な敵がいる、と結んでいます。
これが「敵」を常に必要とするCIAまたは米国国家、引いては軍産複合体の世界観なのでしょうが、そこに中国が含まれていない事実に瞠目するとともに、そのご都合主義にはただただあきれるばかりです。
しかし、それ以上にあきれさせられるのは、こうした世界の重大な動向を報じない日本の主要メディアです。先日のインドのムンバイ事件では欧米のメディアは初期にはアルカイダの関与を疑い、日本のメディアもそういう情報はいち早く流しビンラディン容疑者の古い画像まで出して関与を示唆しましたが、結局は無関係だったわけです。
しかし、上述のような情報は世界に周知されればされるほど早くアフガン戦争を終結できると考えられるのですが、日本のメディアはそれとは完全に逆行した態度を取っていると言わざるを得ません。
なお、CIAの言うことが信用できるのかという問題がありますが、結局のところ、これ以上アフガニスタンで戦争を続けても民生費の支出や人的損失が増えるばかりなのでそろそろ切り上げて今度はイランやロシアを相手にしたほうがいいと考える勢力の意向を受けているとすれば「信用」はできるでしょう。
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