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2008年11月22日
心優しき反逆者たち
朝日新聞土曜版に「うたの旅人」という連載がある。
これは私の愛読欄であるが、11月22日のそれは70年代の初めに大ヒットした神田川の作成の裏話が書かれていた。
「神田川」は私の愛好曲の一つでもあったので読んでみた。
その概略はこうだ。
・・・デビューしたての南こうせつ(59)が、ラジオ局で台本書きのアルバイトをしていた当時23歳の喜多條摩忠(まこと)(61)に頼んで出来た曲である。
締め切りは今日中だと頼まれて、いくらなんでも無理といってタクシーに乗った喜多條は、神田川のほとりでタクシーを降りた時、「この川の下流で一緒に暮らした人がいたと思い出した」。その瞬間歌のタイトルを「神田川」と決めた。
思い浮かんだ風景は5年前の東京・高田の馬場。帰宅し、猛然と歌詞を書き付けた。「手元にあったスーパーの折込広告の裏に歌詞を書きとめたんです」
喜多條からの知らせを受けた南はギターを引きながら歌う。作詞を始めて曲が完成するまで、1時間もかかっていない。南は次に「歌にあわせて自由に演奏してほしい」とバイオリン奏者の武川雅寛(57)の前で歌う。「やります」と立ち上がった武川は即興で、夢のようなイントロを奏でた。
東京で4畳半の下宿に住み銭湯に通ったのは喜多条や南だけではない。バンドの誰もが歌詞に共感した。「みんながあの詞に感動して、自分の思いを注ぎ込んだ」と南は語る。
とはいえ、メロデーは単調で、プロデューサーは「変な歌だね」と酷評した。ラジオで紹介するとリクエストが殺到したが、世論は南さんに「軟弱な4畳半フォーク」と冷水を浴びせた。
軟弱どころか「神田川」が実は闘う男の歌だった事を南さんが知るのは、それから約20年後のことである。
「神田川」が若者の心をつかんだ70年代は学生運動の時代だった。「心優しき反逆者たち」で作家の井上光晴氏は、「心の冷たい反逆者は本来ありえない」と書いた。やさしさの底にあったのは他人への愛とともに、自分流の人生を貫くという自己への愛ではなかったか。
神田川の詞は当初、「何も怖くなかった」で終わっていた。本当にそうか。怖いものは何もないのか。そう思ったとき、デモから帰った下宿でカレーライスをつくる彼女の後ろ姿を、喜多條は思い出した。
一市民として安穏と生きる人生。それは拒まなければならないと思っていた喜多條の頭には、いつも彼女の後姿がある。彼女の優しさを思うとき、その彼女を哀しませる反逆人生を貫いていいのか、と怖くなる。
その唯一の怖さを抱きながら、「優しさに安住しない人生を生きるぞ」という男の闘争宣言がこの歌だったのだ・・・
ご多分にもれず、私が神田川を好む理由は、「何も怖くなかった。ただ貴方の優しさだけが怖かった」、というあのせりふだ。
貧しくとも愛する男と一緒に銭湯通いができるささやかな幸せに満足し、彼があまりにも優しすぎる、それが唯一怖かった、というこのせりふは、およそ欧米文化では理解しがたいだろう。
しかし、「幸せも中ぐらいなりおらが春」、という日本に住む私には、その心情が良くわかる。
朝日新聞のこの記事を読んで、実は「貴方」が男性ではなく、「女性」であったこと、つまり闘争人生に悔いはないが、黙ってついてきてくれる彼女の優しさに申し訳なく思った、その優しさが怖かった、という本当の意味を知ったのは以外だった。
しかし、私の、この詞に対する思いはかわらない。
さて、いつものように前置きが長くなったがここからがブログで私が書きたいことである。
「神田川」を好む者と、それを好まない者は、この日本にも間違いなく存在する。
70年代の日本を知らない今の若者がこの詞の世界にぴんと来ない事は十分理解できる。
しかし私が言いたいのは、70年代に青春を送った団塊の世代の中でさえ、この詞を好む者と、「変な歌だ」、「軟弱だ」、と一蹴する者に分かれるのである。
その違いは何か。
それは、成功を願い、その生き方に疑問を持たずに成功を目指してまっしぐらに走って人生を終わるものと、世の中の矛盾と偽善に反逆して反逆する者との、永遠の乖離である。
この文学的記事を書いていたのが、「反米大陸」(集英社新書)を書いて戦争国家「米国」を糾弾している朝日新聞記者の伊藤千尋であるところがいい。
彼もまた「心優しき反逆者」の仲間に違いない。「神田川」のフアンに違いない。
国家権力に上にあぐらをかき、現役を退いた後も天下りを重ねて一生を終わる官僚たちは、自らの人生に疑問を持つ事はないのだろうか。
「神田川」の世界は自分とは無縁のつまらない世界だと一蹴するのだろうか。
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