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2008年11月 8日 (土)
理念なき麻生政権の財政政策
金融危機に対応するために、各国政策当局は政策総動員の体制を強化している。財政金融のマクロ経済政策を発動するとともに、公的資金を活用した資本増強策を推進している。
今回の金融危機は約200兆円規模のサブプライムローンが住宅ローン担保証券(RMBS)や債務担保証券(CDO)などに組み込まれ、想定元本が巨大に拡張されたハイリスク・ハイリターン型の金融商品の価格が急落したことに端を発している。
サブプライムローンから直接影響を受ける金融市場の規模は6600兆円と推定されており、こここら金融機関の巨額損失が発生している。また、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)と呼ばれる金融保証商品の市場規模も約6000兆円に達していると推定され、潜在的な巨額損失の温床になっている。
金融機関が計上する損失が最終的にどの程度の規模に達するかが明らかでなく、巨額の公的資金を確保しても、それで十分であると言い切れないため、金融市場の疑心暗鬼が広がっている。
金融危機の拡大に伴い、米国経済が本格的な不況に移行した。世界経済は米国に連動し、欧州、日本が景気後退に突入した。さらに、中国、インド、ブラジル、ロシアなど、新興成長国の経済状況も急変している。
資産価格下落−景気悪化−金融不安拡大の悪循環が始動しており、この悪循環を断ち切ることが求められている。金融市場がもっとも強く警戒するのは、金融不安である。大手金融機関が破たんし、金融機関と事業会社の破綻が連鎖して広がる状況を金融恐慌と呼ぶが、金融市場は金融恐慌のリスクを認識している。
政策当局は最大のリスクである金融恐慌リスクに対処するために、公的資金による資本増強の方針を提示した。公的資金を投入する際の金融機関の責任処理が重要な問題として積み残されているが、緊急対応として、大規模な金融機関の経営破綻を回避する政策スタンスが明示されている。
金融恐慌のリスクを排除することと並行して、経済悪化を緩和する施策が順次決定され、実施されている。財政金融両面のマクロ経済政策である。福田政権の大田弘子経財相は国会質疑で「主要国は景気安定化のための財政政策活用を否定的に捉えている」と答弁したが、結局、福田政権と麻生政権は財政政策出動を決定した。
小泉・竹中政権は2001年度から2003年度にかけて財政政策を否定し、超緊縮財政政策を実行して日本経済の崩壊を誘導してしまったが、誤った政策対応であった。金融危機が拡大し、経済の悪化が金融危機をさらに深刻化させるリスクが高い局面では、財政政策を活用して経済悪化を緩和することが求められる。
欧米の政策当局は、現在の経済状況を踏まえて、財政政策の発動を決定しているが、妥当な判断である。経済状況を無視して、やみくもに財政収支改善を追求する「財政再建原理主義」が間違った政策姿勢であったことを、改めて確認しておく必要がある。
日本銀行は、これまで金利引き下げ政策に慎重なスタンスを維持していたが、10月31日の政策決定会合で0.2%ポイントの利下げを決定した。世界の主要国が利下げ実施で足並みをそろえるなか、日本円の急激な上昇、原油価格等の一次産品価格の急落の環境を踏まえれば、妥当な決定を示したと言える。
9月の全国消費者物価上昇率は生鮮食品を除くベースで前年同月比2.3%を記録したが、円高と原油価格急落を踏まえれば、インフレが加速するリスクは存在しない。
追加的な金融緩和政策の経済効果は限定的であるが、政策スタンスを明示して景気心理を鼓舞するとの目的、利下げのシグナル効果を重視するなら、追加的な金融緩和政策が示される可能性は残存する。ゼロ金利政策、量的金融緩和政策の発動は、今後の政策メニューとして温存されていると考えておくべきだ。
麻生政権は財政政策発動を示しているが、政策の腰が定まらず、大きな効果を期待できない状況に陥っている。5兆円の真水を含む追加景気対策が決定されたが、補正予算案の国会提出時期が定まっておらず、機動性を欠いている。
景気対策の目玉は2兆円の給付金支給だが、総選挙向けの利益誘導政策であることが明白で、場当たり政策の典型だ。所得制限についての閣僚発言はばらばらで、政権の体をなしていない。
膨大な事務経費がかかることも「無駄ゼロ政策」などの掛け声と完全に矛盾するものだ。しかも、麻生首相は3年後に消費税増税することを明言した。一人1万2000円の給付金を得ても、3年後に消費税大増税が実施されると考えれば、給付金は完全に貯蓄に向かうだろう。政策対応のちぐはぐなさだけが際立っている。
時代は「市場原理主義」=「新自由主義」=「弱肉強食奨励」=「格差社会創出」指向から、「セーフティーネット重視」=「生存権重視」=「福祉社会創出」指向に大きく転換しつつある。米国大統領選挙は米国国民が“CHANGE”を求めていることの表れである。
財政政策を活用するのなら、新しい政治の方向を示す形で政策を決定するべきだ。人間性と生存権を重視し、すべての国民の幸福を実現するために、@労働行政の規制強化、A教育の機会保証、B国民皆健康保険の拡充、に重点を置くべきと考える。
消費税増税を検討する前に、特権官僚の天下り根絶を実行するべきだ。麻生政権の対応を見ると、地方出先機関の整理と、一般公務員の不祥事争点化ばかりが目立つが、それ以前の問題である、天下り根絶に取り組む姿勢はまったく示されていない。
日本の金融機関のサブプライム金融危機からの影響は相対的には軽微である。個別には、リスクの高い投資行動を採用した結果として財務状況が大きく悪化している機関もあるが、こうした事例に対しては、自己責任を基軸に対応策を検討すべきである。
直ちに日本の金融システムがぐらつくリスクは限定的であり、新しい時代に適応する政治体制の確立が、現時点での最優先課題だ。理念も不明確なバラマキ型の財政政策発動で貴重な財源を浪費することを回避するべきだ。
マスメディアの大半が政権の顔色を見ながら、選挙日程に関する世論誘導を実行しているように見えるが、上述した状況を踏まえて、12月解散、1月総選挙の日程を固める正当な政治日程確定に向けての論議を高めるべきである。
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