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2008年11月 4日 (火)
金融機能強化法改正論議を厳重に監視しよう
金融機関に公的資金を資本注入する金融機能強化法改正案が11月5日にも衆議院の財務金融委員会で採決され、与党多数で可決される見通しが広がっている。民主党は農林中金に関して資本注入前の国会承認を要求、「新銀行東京」については、改正法の対象外とするよう主張したが、自民党は特定金融機関の狙い撃ちは認められないとして、法案修正を拒絶している。
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農林中金は自民党の有力な支持組織の一つであり、歴代理事長職は農水省事務次官経験者の天下りポストになっている。政官の癒着構造、官僚利権温存の代表事例の一つである。11月2日付記事「金融機能強化法改正での不正を許すな」に記述したように、農林中金は経営危機が表面化した米国政府系住宅金融公社(GSE)ファニーメイ、フレディマックの債券の、日本最大の保有金融機関である。
また、農林中金は各都道府県の信用農業協同組合連合会(信連)および、JAバンクを下部組織に有する系統金融機関の中央組織である。個別JAバンク、都道府県信連のいずれも、政治と密接な関わりを有している。
また、新銀行東京は石原慎太郎都知事の積極的な誘導によって設立された銀行だが、無担保無保証融資が大規模に焦げ付き、巨額損失を生み出している金融機関である。
米国発の金融危機が日本に波及し、日本の金融システムを混乱させることを回避することは重要だが、個別の経営責任に基づく財務状況の悪化を、金融機能強化法で手当てするのは筋違いである。自民党は農林中金と新銀行東京を法律から除外することに抵抗しているが、このことが、自民党が二つの金融機関に公的資金を投入して救済しようとする意向の表れであると推察することができる。
日経平均株価が9000円台を回復して、国内金融市場は混乱一服の状況を示している。個別問題を抱える、いわくつきの金融機関を金融機能強化法の対象に置き、経営責任を問うことなく公的資金を注入することを認めるべきでない。
「危機」の名に借りて、不正と欺瞞に満ちた公的資金による金融機関救済をこれ以上、認めるべきでない。
今回の金融危機は、「市場原理主義」のいかがわしさを鮮明に示している。市場原理を基軸に据える立場は、個別主体の自由な経済行動を認める一方で、結果に対する責任を当事者に負わせることを基本原則に置く。ハイリスク・ハイリターンの投資行動を実行した主体には、リスクが顕在化して投資行動で失敗した局面で、厳しく結果責任を問わなければならない。
ところが、いざ、失敗が明らかになると、慌てふためいて、政府が公的資金による尻拭いをするのでは、「自己責任原則」など存在しないのも同然だ。「市場原理主義」の底の浅さ、いい加減さが如実に示されている。
結局、「市場原理主義」は、経済強者が経済的利益を極大化するための大義名分にすぎなかったのだと考えられる。「市場原理」を盾に、利益をむさぼり、バブルを謳歌したことと引き換えに、バブル崩壊に際して本来は、結果に対する責任を当事者に負わせなければならないはずだ。
金融機能強化法改正にあたり、農林中金への公的資金投入に国会の議決を求めること、新銀行東京を法律の対象から除外すべき、との民主党の主張は、正当性を備えている。金融危機の名の下に両金融機関への資本投入をどさくさに紛れさせて実行し、金融機関の責任を隠ぺいする、あるいは、金融機関への公的資金投入を政治的に利用することを遮断すべきであるのは当然だ。
法案審議は参議院に移る。参議院では、十分な審議を行い、適正な法案修正を実行するべきである。自民党は、金融危機の下で、野党が法案成立を妨害しているとの誹謗中傷を示す可能性が高いが、与党と野党のどちらが正論を示しているのかを、国民が十分に理解できるように、論点を明確にして国民の前に示す必要がある。
金融システムの安定を確保することは重要だが、経済行動の結果に対する責任を当事者に負わせることも重要なのである。2003年のりそな銀行処理に際しては、政府はりそな銀行の株主責任を一切問わずにりそな銀行を救済した。
実行したのは、政府の経済政策を堂々と批判していた気骨ある経営者を追放し、政府の近親者を新経営陣に送り込んだことだった。りそな銀行はその後、自民党に対する融資を激増させた。
大手銀行の自民党に対する融資残高推移は以下の通りだ。
(年末値、億円、千万円以下を四捨五入)
02 03 05
東京三菱 5 5 4
UFJ 10 9 8
みずほ 10 9 8
三井住友 10 9 8
りそな 5 24 54
合計 38 54 80
この事実は2006年12月18日付の朝日新聞朝刊1面トップで、「りそな銀行、自民党への融資残高3年で10倍」の見出しを伴ってスクープされた。記事を執筆したのは同社の鈴木啓一論説委員であると見られているが、鈴木氏は前日の12月17日に東京湾に浮かんでいるところを発見されて、「自殺」として処理されたとのことである。事実関係については、確認されていない点も残されているが、一般的にはこのように理解されている。
朝日新聞記事は、他の大手銀行が融資を圧縮する一方で、りそなだけが自民党への融資を激増させたことを指摘。また、この後3大メガバンクが自民への献金再開を準備し、これらの献金がりそな融資の穴埋めになる図式も解説された。記事がもっとも問題にしたのは、りそな銀行が事実上、自民党の私有銀行(機関銀行)化している疑いだった。
「融資」と「贈与」の実質的な線引きは難しい。日本は外貨準備で米国に100兆円の資金を提供しているが、日本政府が米国政府に米国国債を売らないと約束しているなら、100兆円は融資ではなく、贈与になってしまう。
金融機関を介在させる資金詐取が水面下に隠れていることは極めて多い。金融機関が破たんして初めて、不正融資が表面化することも多い。中小企業に対する信用保証は、不況下の中小企業支援策として大きな効果を発揮するが、巨大な資金詐取の温床になりやすい点については、十分な警戒が求められる。
「金融危機」に名を借りた、公的資金の不正流用を見逃してはならない。金融機能強化法改正案に野党が反対するのは当然である。法案審議における争点を明確にして、国民が理解できる説明を十分に示す必要がある。
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