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http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20081028k0000m070103000c.html
記者の目:給油延長論議 問われる国際社会観=阿部周一
インド洋給油活動を1年延長する新テロ対策特別措置法改正案が、衆院の解散時期と絡めた与野党の駆け引き材料になっている。アフガニスタン支援の先駆者である非政府組織(NGO)「ペシャワール会」(福岡市)を取材してきた一人として、私には武力行使を支える給油活動がテロ根絶につながるとは到底思えない。が、それ以前に、混迷を深めるアフガン支援や、対テロ戦争への日本のかかわり方を見直す機会が、そんな政局絡みの審議で片付けられることが残念でならない。新テロ特措法の期限切れまで、あと2カ月半。選挙を挟んでも議論を尽くすべき課題だと、私は思う。
写真を見てほしい。8月にアフガンで拉致・殺害されたペシャワール会職員、伊藤和也さん(31)のお別れ会の模様だ。会によると、地元の有力者をはじめ約800人の住民が弔問に訪れたという。私も昨年末、取材で現地を訪ね、会が掘り進める農業用水路(当時全長13キロ)沿いを歩き、伊藤さんが耕した緑の畑も目にした。草の根の農業支援がいかに感謝されていたか、悼む人々の気持ちが、あの光景と共に胸に迫る。
アフガンは深刻な干ばつが戦乱に追い打ちをかけており、英国のNGOは「今冬約500万人が飢餓に陥る」と警告する。畑は干からび、5歳以下の5人に1人が主に栄養失調で亡くなる。食うに困った若者の一部は武装組織に加わり、盗賊同然に日銭を稼ぐ。貧困と無政府状態が生む、この不幸な連鎖を、伊藤さんらは断ち切ろうとしていた。それが着実に成果を上げていたことは、用水路の周囲に多くの難民家族が舞い戻り、思い思いに家屋を建てる様子で明らかだった。
翻って、米国がアフガンで関与を強める「テロとの戦い」はどうだろう。治安回復どころか、今年8月の多国籍軍兵士の犠牲は過去最悪の43人。一方で、米軍の誤爆などで亡くなった民間人は今年700人を超える最悪ペースで、外国勢力や政府に対する民衆の憎悪は深まるばかりだ。
共に「アフガンに平穏をもたらす」ことを目的としながら、伊藤さんらの活動と給油活動の間には、決定的な違いがある。それは、現地住民の感情に寄り添っているかどうかだ。麻生太郎首相は「給油活動は国際社会の一員として当然の責務」と言うが、泥沼化した現実を顧みない口ぶりは、まるで「国際社会」の中にアフガン国民は存在しないかのようだ。遠いアフガンの現実を我が身に引き寄せて考える態度が欠落している。対テロ戦争の行き詰まりを直視できないのも、そのせいに思えてならない。
私はかの地を思うとき、63年前の日本と重ね合わせてみる。《アフガンと同様に焦土に親米政権が立てられ、国際社会の監視と支援を受け入れて復興が図られた敗戦後の日本。もしあの時、米軍が「戦犯掃討」と称して各地で空爆を続けていたら。そしてそれが、子供を含む多くの「巻き添え死」を生んでいたら》。果たして日本国民は敗戦を受け入れただろうか、と。
アフガンでは今も逃げ散った旧支配勢力タリバンが戦闘を続け、貧困や憎悪などから自爆テロも辞さない「兵士」が次々に加わる。その心情を宗教の違いに帰して「テロリストは理解できない」と言い切れるだろうか。テロは決して許されないが、国際的非難より、苦難に寄り添ってきた伊藤さんの死が、アフガン民衆にテロの非人間性を刻んだ事実を忘れてはならない。
アフガン問題は今、大きな潮目を迎えている。本紙の取材で、アフガン政府がタリバンの最高指導者オマル師との和解交渉を進めていることが明らかになった。国民的な怒りの代弁者として勢力を広げるタリバンを武力で鎮圧することに、当の政府が限界を感じている。一方で米国は今後、新大統領が新たな「テロとの戦い」を構築する。このときに、日本の政治は本質的な論議ではなく、解散を巡る駆け引きで審議日程を決めようとしている。
ペシャワール会の中村哲・現地代表はかつて、会の活動の原点は「命を尊び、人としての一致点を探る努力」だと語った。それはそのまま、政治が果たすべき役割に置き換えられる。だが、新テロ特措法がよって立つ「国際社会」観からは、戦乱と干ばつにあえぐアフガン民衆の姿は見えてこない。与野党はなお一致点を探り、テロの背景にある貧困や憎しみの連鎖を断つ努力を尽くしてほしい。
「現地の人たちと一緒に成長していきたい。子供たちが将来、食料で困ることのない環境に少しでも近づけることができるよう、力になりたい」。亡くなった伊藤さんが5年前、入会申込書に記した言葉だ。遺志を無駄にしてはならない。
毎日新聞 2008年10月28日 0時00分
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