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NATO軍最高司令官も「アフガン戦争は軍事手段だけでは勝てない」と語る
http://www.asyura2.com/08/senkyo55/msg/359.html
投稿者 ヤマボウシ 日時 2008 年 10 月 27 日 07:05:39: WlgZY.vL1Urv.
 

(ヤマボウシのオリジナル論考)

 今月6日付の投稿(http://www.asyura2.com/08/senkyo54/msg/435.html)でご紹介したアフガン駐留英軍最高司令官の「アフガン戦争は勝利不可能」という言明に続いて、今度はNATO軍の最高司令官ジョン・クラドック大将が,「アフガン戦争は軍事手段だけでは勝てない」と語ったという記事が英BBCニュースに載りました(http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7681166.stm)。これもまた日本のメディアはほとんど伝えていません。1週間経った今の時点で、ネットで読めるのはAFP通信日本語版の簡単な記事だけです。

ただ、やはり軍の最高司令官ですから軍隊は要らないとは口が裂けても言わないわけで、政治的意志に迷いがあるから軍が勝てないということも言っており、それをNATO加盟諸国への批判と強調してAFPは報じています。ところが、BBCはさらに詳しく報じながら「アフガン戦争は軍事手段だけでは勝てない」という言葉を同じページ内で4回も繰り返して強調しています。

クラドック大将によれば、投入部隊も量的に不足しているが、アフガン政府やその同盟国が良い統治を実現するために治安の確保が必要だとしています。だが、非軍事的支援もさらに必要であり、軍隊が地盤を整備できたとしても、そこに市民社会を再建するのに頼るべきは軍隊ではないというわけです。

そのうえで、本来の所属が米軍であるクラドック大将は、先のアフガニスタン駐留英軍最高司令官の「アフガン戦争は勝利不可能」という発言を引き取る形で、「アフガン戦争は軍事手段だけでは勝てない。軍隊は、軍隊よりも大きいチームの一員にすぎない」と言い切ったのです。

次いで、クラドック大将は、安全な環境づくりには軍隊が必要で、真の包括的なアプローチの一部として協力し合わねばならないが、現在の各国の活動は時間的にも空間的にもバラバラであり、さらに協力と一貫性が求められると述べました。

加えてクラドック大将は、アフガン当局にもさらに実行が必要とされるのは、汚職を防止し、警察・司法制度を有効化し、良い統治を行なうことであり、そうしなければいかなる軍事的勝利も徒労になると警告しています。

しかしながら、考えてみれば、アフガン戦争は911事件の首謀者への報復として始まったのであり、武力攻撃こそが目的でした。そして今、その武力攻撃の現場の責任者たる軍の最高司令官たちが非軍事的支援の重要性を主張し始めたわけです。これが平和憲法をもつ日本ではほとんど報道されない一方、与党どころか野党の民主党までもが軍事的支援のみに拘泥した政策を進めようとしているのは、いったいどういうことでしょうか。

一方、BBCニュースでは「米国の次期大統領はアフガン戦争を見直すか?」という記事を載せ、その内容は実質的に上記の司令官たちの言葉を現地の実情に即して検証したものとなっています。
http://news.bbc.co.uk/2/hi/south_asia/7674623.stm

これによればまず、現在のアフガニスタンでは依然として戦争と大旱魃のため、人々は外国からの支援を絶望的なまでに必要としています。全人口の3分の1に相当する1100万人に援助が求められます。

日本ではレストランの名ともなっているバーミヤンにある病院は設備不足と看護師不足のため、栄養失調の子どもたちのうちの最重度の患者しか受け入れることができていません。この病院の場合、アフガン中央政府からは補助金の支給がなく、各種援助機関からの寄金に頼っており、発電機を1日24時間動かすに足る燃料も購入できないとのことです。記事では、これを外国からの資金援助の仕方に問題がある明白な証拠としています。

アフガニスタンで活動しているNGOの連絡・調整団体ACBARによれば、戦費の支出は1日当たり1億ドル近いが、アフガニスタンの人々に対する援助額は1日当たり7百万ドルにすぎません。

つまり、戦費は民生費の約14倍もが支出されているわけですが、その状況下でNATO軍の最高司令官が「アフガン戦争は軍事手段だけでは勝てない」と述べたということです。

そして、同じくBBCの記事によれば、アフガニスタン全土にわたって食料危機が迫りつつあり、これは反乱の拡大と同時進行しているとあります。

こうしてアフガニスタンは、米大統領選における外交上の最優先課題として争点となってきました。これについての候補者の態度は次のとおりです。

マケイン候補はホワイトハウスで調整政策を担当する「アフガン・ツァー」と呼ぶべき人物の配置を求めており、これは国家安全保障の専門家が充てられることになっています。つまり、あくまでも軍事の枠組みで問題を解決する意志を示していると言えます。
同候補の言葉:「私が大統領に選ばれれば、アフガン戦争をイラク戦争と同様に逆転させるべく勝利に向けた包括的な戦略を用いる」。

オバマ候補は年当たり10億ドルの追加援助の支出を求めています。しかし、軍事面にも積極的です。
同候補の言葉:「私が大統領に選ばれれば、アルカイダとタリバーンに対する闘いを最優先にするのは当然だ」。

そして、オバマ候補は「これは勝たなくてはならない戦争だ。少なくとも2千人の戦闘部隊をアフガニスタンへ追加して派遣するつもりだ」と述べた一方、マケイン候補は3千人の戦闘部隊の増派を公約しています。

しかしながら、そこでBBCの記事は、治安を焦点にすることがアフガニスタンにとって本当に必要なのだろうかという問いを発しています。

BBCの記者が取材したバーミヤン州の一部地域では、人口38万人が居住する広さ1万4千平方キロメートルの山岳地帯にある舗装道路は、わずか3キロメートルだというのです。

このような地域に、アブダル・サイートさんという名の80歳の老人でも今までに見たことがないと言うほどの大旱魃が襲っているわけです。30人いるその老人の家族も今年は穀物の4分の3が収穫不可能となりました。「ここでは外国からの援助は少しだけ見たことがありますが、たくさんあった物は1つもないです」「今は、旱魃のため、誰もがこの冬をどうすれば生き残れるかと思案しているところです」。

アフガニスタン向けに外国から支出された何億ドルものうち、この村に届いた援助物資は唯一、井戸用の手押しポンプが1基だけだそうです。そして、最近はタリバーンが近隣地域に戻り、活動中だという話もあります。

ちょうど先々週には、タリバーンが路肩爆弾を使って車両を爆破しようとしたということです。

バーミヤンにある州政府の穀物倉庫は空で、冬期のための州政府の穀物備蓄はゼロだといいます。

BBCの記事は、2001年から2004年までアフガニスタンの復興事業を監督する任務に就いていたアシュラーフ・ガーニ元財務相へのインタヴューを載せています。彼によれば、アフガニスタンが置かれた現今の厳しい状況の原因は投資の不足にあるが、汚職や非効率性といった原因も複合しており、したがって米国には新しい戦略が必要だとしています。

同元財務相の言葉:
「反乱をその背景から崩したければ、人心を掌握する必要がある。こうした手順は、これから受け入れられて、アフガニスタンで実際に適用されるはずだ。」
「米国の次期大統領に言いたいのは、人心を掌握すれば戦いに勝つであろうということだ。」
「味方の戦死者数や、反乱側の死者数、爆撃、戦闘行動といった間違った対象に焦点を合わせれば、解決にはならないだろう。」

BBCの記事の結論では、バーミヤン州の知事が中央政府から冬期に必要な食料の半分しか遅れないという通告を受けており、このことからすると、7年間の国際関与は失敗に向かっているとアフガン人が考えて不思議はないとしています。そして、国際関与が有益だと普通のアフガン人が思い始める機会が増えなければ、米国の次期大統領はここでの戦争に勝利を見出し得ないと結んでいます。

このように、NATO軍最高司令官の発言と現地取材の2つの記事の基調は、アフガン政策における軍事から非軍事への軸足の転換を現場から提起しています。この夏に起こった若干名のNGO職員の殺害事件を引き合いに、軍事の重要性を主張する人もいますが、2桁の数にも満たない殺害事件に関しては、クラドック大将といった軍人でさえも警察・司法制度の有効化を求めていることを想起すべきでしょう。

そもそも911事件の報復としてのアフガニスタンへの武力侵攻が正しかったかどうかという根源的な問いはここではさておき、少なくとも武力という手段の無効性が実証されつつあると言えます。これは平和憲法の理念が正しいことを傍証し、現実の側が理念の側に接近しつつあることを意味します。

思えば、中村哲医師を代表とする日本のNGOペシャワール会が率先して取り組んできた非軍事的支援の重要性を、今やNATO軍の最高司令官が主張していることになります。しかし、平和憲法をもつ日本の政府は軍事的支援への参加に意欲を示す一方で、ペシャワール会を邪魔者扱いにしてきました。のみならず野党の民主党は、軍事的支援への参加に関して政府に積極的に同調する姿勢を見せています。

そして、こうした事実を日本のメディアは報道しようともしないのです。

 

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