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http://www.magazine9.jp/kunio/081015/
小選挙区制度は悪魔の選挙区制度?鈴木 学生時代、僕が右翼学生のとき、「諸悪の根源は憲法だ」と右翼の人たちはみんな言っていました。だから憲法改正すべきだと主張していた。そんな頃、マスコミ全体で言われていたことは、自民党が小選挙区制の導入を狙っているらしいと。しかし小選挙区制は、”悪魔の選挙区制度”だから、絶対に許しちゃいけないと言ってね、それについては左翼の人も僕ら右翼もずっとそうだと思っていました。だってあの頃、小選挙区制というのは、アメリカでゲリマンダー*1と呼ばれていましたよね?*1 ゲリマンダー) 選挙において、ある特定の政党や候補者が、自分たちに有利なように選挙区割りを操作すること。19世紀のアメリカで、マサチューセッツ州のゲリー知事が、自分の所属政党に有利なように選挙区割りを行った結果、異様な形の選挙区がいくつも生まれ、その一つが伝説上の怪物のサラマンダーに似ていたことから名付けられた。 保坂 自分たち与党に有利に働く選挙制度ということでね。 鈴木 鳩山一郎氏のときに1回やろうとして、ハトマンダーと言われましたね。そう言われるぐらい、小選挙区制度は天下の悪法だと。世論も野党もそういうことは絶対させちゃいけないとがんばっていた。だから選挙制度が変わるなんてことは絶対あり得ないと、僕ら学生時代からずっと思っていたんです。 そうしたら、小選挙区制度が意外なほど簡単に通っちゃって。*2何であのときは社会党や野党の共産党にしても、命をかけて阻止しなかったのかなと思って。それがずっと今まで疑問としてあったんですが、なぜだったんでしょうか? *2 小選挙区制度の導入)) 戦後、日本の衆議院選挙では、一つの選挙区から3〜5人を選出する、中選挙区制と呼ばれる方式がとられていたが、1994年3月、細川政権のもとで小選挙区制と比例代表制を並行して行う小選挙区比例代表並立制の導入がされた。 保坂 あの当時、金丸信さんの事務所から無記名のワリシンや金の延べ棒がざくざく出てきて、逮捕されたという事件がありましたね。*3その政治不信が、いわゆる政治改革が必要だという話にすりかえられてしまって。当時のメディアで言えば選挙区制度の問題もあるけれど、政治改革関連法案*4で政治の腐敗防止のために、企業や団体から献金をもらわないようにしようという法案を作った。 だけど、小沢一郎さんも小選挙区論者だったし、一方で「さきがけ」だった田中秀征さんや武村正義さんとか小選挙区制を中心にする案を出していましたからね。そこにばっと野党だった自民党がのっかっていって、これに賛成するのは改革派で、反対するのは守旧派だと、こういう図が作られたんですね。 *3 金丸信逮捕) 1992年、当時自民党副総裁だった金丸信が、東京佐川急便から5億円のヤミ献金を受けていたことが発覚。政治資金規正法違反に問われ、議員辞職に追い込まれたものの、結果的には略式起訴を受けて20万円の罰金を科されるにとどまった。しかし、これに抗議する一人の男性が、検察庁庁舎の看板にペンキを投げつけるという事件を機に、「検察庁の弱腰」に対する批判の声が続出。翌年、東京国税局による金丸邸家宅捜査で数十億円の不正蓄財の存在が明らかになり、検察局は脱税容疑による金丸逮捕に踏み切った。 *4 政治改革関連法案) 1988年のリクルート事件などをきっかけに始まった、政治腐敗の防止を謳う「政治改革」論議は、金丸信の事件後、さらに活発化。総選挙と宮沢内閣の退陣を経て、1994年、政党助成金の創設や選挙制度の変更を柱とする政治改革関連法案が、細川連立政権のもとで成立した。 鈴木 じゃあ、自民党は自分たちのエラーを利用して、小選挙区制度の導入をやったんですか。なんか今回も似ていますよね。自分たちのエラーなのに、毎日毎日、「総裁選だ」と新聞でやっている。そういう意味では、あそこは非常にしたたかな政党なんですね。 保坂 それと、やっぱり僕が思うのは、近頃の選挙は広告代理店のプロデュースというか、メディアによる状況設定の力が働いていると思うんです。そこに大きな金額が投じられているし。 鈴木 どういうふうに? 保坂 3年前の選挙のときに、7月の段階では、郵政民営化に対する国民の関心はほとんどなかったんですね。郵政の改革法案がどうなるかなんて。それで、参議院で否決されて解散したら自民党は絶対負けると野党も思っていたわけですよ。ところが、あっと言う間に小泉元首相が「それでも地球は回っている、ガリレオ・ガリレイ」とかいって、「改革のためには殺されてもいい」みたいなことを言ったでしょう。あれがきっかけになって、毎日テレビのワイドショーでは、女性の刺客候補たちがクローズアップされていって、自民党の中での改革派か郵政民営化反対派かを選べ、となっちゃったんですね。それで野党の存在が見えなくなっちゃった。あれは、何となく自然にそうなったというよりは、きちんと仕掛けがあったように思いますよ。 鈴木 じゃあ、相当そういう宣伝というか、仕掛けの作り方がうまいんだね。そういう意味でも、いろいろな政党が出てきているほうがいいと思うから、僕は中選挙区制のほうがずっとよかったと思っています。変な政党もいっぱいあったでしょう。それが少数乱立になると不安定になるからいけない、アメリカみたいな二大政党制が正しいんだと。そういうことを、知らず知らずの間に僕らも刷り込まれて、洗脳されていったんじゃないかと思うんです。それに対して、もとに戻そうという動きはないんですか? また中選挙区制になるということは、この先ずっとあり得ないですか。 保坂 歪んだ選挙制度を変えようという声は、出てくるかもしれないんですけど、やっぱり小選挙区制で勝った側の政党からは出てこないですよね。次の選挙で民主党が大きく議席を伸ばせば、とりあえず民主党からは出ないでしょうね。ただ、自民党が比較的議席を取った場合には、出る可能性がありますよね。 鈴木 それはどうして? 保坂 それは、やっぱり小選挙区制では社民党もすごく苦戦してきたように、共産党もなかなか伸びないように、やっぱりあれだけの学会員の基盤を持つ公明党も厳しいわけですよね、小選挙区制では。だから、12区に小沢さんが出るかどうかとやっているのは、小選挙区制という制度だと一騎打ちで落とせるわけです。突然、その選挙区から有力な人が出てくれば、そちらが勝ってしまう。その怖さというのは、公明党の方は感じているんじゃないですかね。だから、今の与党が過半数を上回れば選挙区制度の見直しの話が出てくると思います。野党が上回った場合には、あまり出てこないのかもしれない。だから、そこは難しいところですね。 それともう1つ気がつくのは、選挙制度がこうなっちゃったので、昔ほど国会にいる政治家そのものが、多様じゃなくなっちゃったという。そんな気がしています。 多国籍企業が日本政府を管理する保坂 ところで鈴木さんは、「アクセンチュア社」って知ってますか? 鈴木 何か聞いたことはありますが、何をやっている会社なんでしょうか? 保坂 いわゆる総合コンサルティングの会社で、多国籍企業です。学生の就職先としても人気の高いところです。例えば、日本の入管で外国人800万人の指紋と写真を撮るというシステムが去年から動いていますね。実はこれ、アメリカのシステムと全く同じでアメリカでもアクセンチュア社がやっているものです。そしてここから先は推測ですが、「年次改革要望書」*5にこのシステム化についてはあらかじめ入れておいてから、法案が通ったらすぐに日本で稼働できる受け皿をつくっておく。要するに、多国籍企業が彼らに都合の良いような法案も作ってしまっていると。だって彼らの本を見ると書いてあるんですよ。我々は、その国の政府の中に入って法案もつくると。 僕がすごく驚いたのは、入管問題をやる委員会で「これはどういうシステムなのか?」という質問をしても、彼ら法務省の役人は、「この法案をご審議いただいて、通過してからシステムづくりはやるんです」と言っていたんですね。ところが、法案が通った次の日に2600ページの詳細なシステムの設計図が、法務省のホームページにぼーんと出たんですよ。2600ページですよ。一晩で考えられるわけがない。 ちなみにアクセンチュア社というのは、アーサー・アンダーセンコンサルティングという、エンロン破綻でアウトになったアメリカの会計事務所が前身です。そこがだめになって、アクセンチュア社というのができたんです。 *5 年次改革要望書) 日米両政府が毎年交換する文書で、互いの国におけるビジネス展開を通じた両国の経済発展のために改善すべきとする問題点についてまとめられている。 鈴木 日本では入管のシステムだけををそこが作っているの? 保坂 それが調べてみると、他にも「検察情報システム」といって、検察庁が起訴する事件関係のあらゆる書類について、捜査情報から事件処理、例えば死刑の指揮命令書などの書類まで、全部を電子化することを引き受けているんですね。 それから公正取引委員会の不正取引監視システム。おかしな動きをしていないかというのをチェックするシステムも、アクセンチュア社がやっています。また財務省の課税状況探索システムも。これは、この人は税金をどれだけ払っているか、滞納しているか、というチェックのためのシステム、それもやっているんです。そうそう、宮内庁についてもやっていますよ。 鈴木 えっ、ほんとですか!? 保坂 天皇陛下ご一家や皇族たちの生活費からお小遣いまで、それからもちろん宮内庁職員の給料など、それを一括した会計システムの管理者(CIO補佐官)がアクセンチュア社なんです。契約書を見ると、「出入りは坂下門から」と書いてある。そこの会社に丸投げしているわけですよ。 最後にびっくりしたのは、「保坂さんの国会質問の管理もアクセンチュア社がやっています」と。衆議院で私が政府与党を追及している時の議事録。これもアクセンチュア社がまとめて、衆議院のホームページにアップしている。 鈴木 へーっ。 保坂 当然全部守秘義務がありますし、それぞれの契約でそれは書かれています。しかし、これらは全部一つの同じ会社ですよ。その会社が、日本国の入管から検察の捜査から、公取の動きから、財務省の課税状況までわかって国会の議事録も作っていたら、気持ちが悪くないですか? 相当ディープな情報がそこから得られそうですしね。要するに、大きな流れで電子政府というのがもう、現実に出来つつあるのです。 鈴木 なんだかまるでそっちが「国家」になっちゃう。 保坂 まさにそうなんですよ。多国籍企業であるアクセンチュアの中で全部の情報をリンクさせる仕組みを作ったら、日本という国家、社会は丸裸ですよね。そのときに普段はあまり考えたことのない「愛国心」について思いましたね。 愛国心と愛金心鈴木 今日の対談のテーマの一つが、その愛国心なんですが、「社民党の愛国心」って何でしょうか? というのも自由民主党といったら、例えば日本の自由民主党とロシアの自由民主党は全く違いますよね。でも社会主義といったら、みんな世界じゅうの社会主義者が一体となっていると思ってしまう。共産主義もそうなっているように、社会民主主義でも、ヨーロッパと日本は同じだと。だから、国家を超えて、そういう思想というかイデオロギーで連帯しているのだと。僕はそんなイメージを持っています。だから、やはり一つの国家とか単一国家での愛国心というのは、社会民主主義という考えの中では、下のものじゃないのかと、そういうイメージがあるのですが、そのあたりどうなんですか? 保坂 一昨年、教育基本法の改定の時に、「愛国心」の議論がありましたね。自民党は、「愛国心」とは入れずに、我が国と郷土を愛する心というのを公明党との配慮で採用したと。それに対して民主党の案では、愛国心と明記されていた。そのときにいろいろ考えて、鈴木さんの本も使わせていただきましたけれども、やっぱり、まず国というときに、そこに暮らしているすべての人たちを指すんだと僕は思うわけです。要するに、国籍条項みたいなのがあって、短期滞在の外国人は相手にしていませんということではなくて、今、日本にいる人々すべてが対象であると。やっぱり、その人たちが尊重され、お互いに支え合うような条件をとても大切にしようと。日本に暮らす人々に対する愛ということは、とてもあると思います。 ただ、「愛国心」という言葉をあまり使わないのは、やっぱり愛国心という名前で偏狭なナショナリズムが組織をされていって、いわゆる国と国のメンツの張り合いみたいなところで抑えがきかなくなっていくということがかつてあったからということがあると思いますけど。 愛国心と一般の人が思っているような感情というのは、僕にもありますよね。国家というのは、あまり権威的であったりとか、あまりあらゆる人々を寄せつけないものであってはならない。だけど、ある種の対外的な攻撃や危険から人々の情報を守るという責任とか、国民やそこに住んでいる外国人も含めた人々の暮らしに直結する情報は幾重にもブロックして出さないようにする、というのは当然だと思っています。それは別に愛国心でもないかもしれなくて、ある種の国家権力の運営の規制かもしれませんが。 そこのところが全くがたがたで、全部民間に丸投げするというような、そういう日本政府のシステムをつくっている人たちが、どうして「愛国心」などと言えるのかなと、かえって疑問に思いました。 鈴木 確かに「愛国心」という言葉は権力者に利用されることが多いですね。だから危ない。自民党の言う「愛国心」は、むしろ「自民党を愛してくれ」という「愛民心」に近い。でも、自民党には「国民を愛する」という「愛民心」はない。 保坂 そういう意味では、愛国心というのは一つの概念であって、実際上は国民の人々の暮らしや権利に関わる情報を対外的な変なところに流出させないということにあると思うんですが、どうも日本の国というのはアメリカと一体なんですね。要するに、アメリカと日本は同じ国というより、親分のような感じを持っているのかな。官僚の考えでは。 そうすると、アメリカから提案される「良いこと」については、なるべく早く飲み込んで門戸をあけておくと。そういうことを言った人はいませんけれども、彼らにとってみれば矛盾がないのかもしれない。それが、日米一体の行動であると。日米安保で軍事同盟をやっているように、日米の情報共同体、情報のやりとりも一体化してやっているんですよ、とね。 でも、そのアクセンチュア社について言えば、アメリカにあるわけでもないんですよ。バミューダ諸島のハミルトン島に本拠を置いている。いわゆるタックス・ヘイブン(租税回避地)*6の島ですよ。 これについては、アメリカでものすごく問題になりました。それこそ愛国心問題ですよ。要するに、日本でも始めた入管の顔や指紋チェックシステムを導入する時、ものすごい金額の投資をアメリカ政府が連邦政府としてこの会社と契約するという時に、議会で反対論があったんですよ。要するに、アメリカ政府に税金も払わないような、そんな会社にこんな大きな国家の仕事を丸投げしていいのかと。 *6 タックス・ヘイブン) 外国資本を誘致して国内経済を活性化させるために、税制優遇の措置をとっている国・地域のこと。主立った産業を持たない小国の外貨獲得手段となっている一方、先進諸国の税収入を著しく低下させるとともに、マネーロンダリング(資金洗浄)の温床となっていることも指摘されている。 鈴木 そこは業種としては何なんですか? 管理会社なんですか、コンピュータ会社なんですか? 保坂 総合コンサルティングです。コンサルティングしながら、実際に仕組みもつくり管理もするという企業です。 鈴木 そうするとその会社がものすごく巨大な権力を持っていますね。 保坂 そう、持っていますね。 鈴木 でもそうなると、それは愛国心じゃないですね。愛国心は国とか国民に対してのものだけれど、それだとそういうものに対する、コンピュータやパソコンの機械、またはシステムに対する忠誠心を持つということになるんでしょうか? なんなのでしょうね? 保坂 お金を愛する心ってどう言うんですかね。「愛金心」かな? やっぱり金の魔力というのがこの世の中を動かしているんじゃないですか。大きなお金が動き出す時の、その地鳴りのようなエネルギーってすごいですよ。そこに大勢の人の生活もかかっているし、政治権力も、経済のシステムも動いていく。そしていろんなものを突破していくわけですよね。郵政民営化もそうでしたけれど。規制緩和や自由化によって、あっと言う間に日本じゅうのあちこちで外資が経営権を握るのは当たり前になってきたような日本社会ですからね。 そういう「愛金心」みたいなもので結びついた政治家や企業が、どれだけもうかるかと。どれだけ既得権をつくれるかということで肥大化して、それにブレーキをかける存在が、今はないという気がしますよね。 鈴木 そういう意味では、「愛金心」なんかじゃなくて、保坂さんのようにまっとうな愛国心を持った政治家が、もっともっといなくちゃいけないですね。今日はありがとうございました。 これほど頑張って、果敢に闘っている政治家はいない。それにラッキーな政治家だ。選挙での逆転勝利は皆もおぼえているだろう。運がいい。いや違う。「政治の神様」が後押ししたのだ。この男が国会にいなかったら、つまらないだろう。淋しいだろう、と。 自民と民主は、対立してるようだが、いつでも連立、合同できる。だから、初めから闘いを放棄している。国会で本当に闘っているのは保坂さんしかいない。 それに保坂さんは、よく勉強している。現場で闘っている。だから闘いも具体的だ。僕らも闘ってきたつもりだが、その基にあるのは新聞、雑誌などの第二次、第三次情報だ。保坂さんにはかなわない。また。保坂さんに言われ「改革」という言葉、ムードの恐ろしさを知った。小選挙区制、小泉改革・・・と。あの戦争に突入した時も、「現状を打破する」という掛け声で始められたのだ。 鈴木邦男 |
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