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http://mainichi.jp/select/world/news/20081015dde012030005000c.html
特集ワイド:米国・テロとの戦い 「力での解決」時期過ぎた
米国がアフガニスタンに侵攻し、テロとの戦争を開始してから8年目に入った。しかし、イスラム過激派の勢力は衰えるどころか、増大している。最近でも非政府組織(NGO)「ペシャワール会」の伊藤和也さんが殺害され、隣国パキスタンでは首都の高級ホテルが爆破された。テロとの戦争が一段と泥沼化するなか、日本の国会では新テロ特措法の審議が行われている。決して日本と無縁ではない。解決の糸口は見えているのだろうか。【國枝すみれ】
◇「自称アルカイダ」台頭…日本は民族の和平機運 「醸成の時」見逃すな
9・11同時多発テロを引き起こした国際テロ組織アルカイダとそれを擁護したタリバン政権を攻撃するため、米国は01年10月、アフガニスタンに侵攻した。いったん敗走したアルカイダとタリバンだったが勢力を回復している。
イスラム地域の政治が専門の宮田律・静岡県立大准教授は「現在のアルカイダはコングロマリット組織。テロ活動の主体はビンラディン容疑者のイデオロギーに共鳴し、独自にテロ活動する20〜30代前半の若者で、世界で5万〜6万人に達している」という。こうした「自称アルカイダたち」がイラクのアンバル県などで台頭し、石油の密輸などで得た金を持ってイランやイラクのクルド地区を通過しアフガニスタンに流入している。彼らの目標はタリバンと同様、アフガニスタンに強固なイスラム国家を打ち立て米国に勝利することだ。
米シンクタンクCSISの資料によれば、アフガニスタンでの米軍に対する爆破テロ事件は02年の22件から07年の2615件に増えた。
06年時点でタリバン支配地域は国土の3分の1まで拡大した。宮田准教授は「米軍や北大西洋条約機構(NATO)軍はいずれ撤退する。そうなればタリバン政権は復活する」と予測。パキスタンのジャーナリスト・アミール・ミール氏はタリバンは2010年に全土制圧の目標を定めていると指摘する。
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勢力回復の鍵となったのは隣国パキスタンの北西部にある部族支配地域(FATA)だ。パキスタン政府の統治が及ばない解放区に逃げ込んだアルカイダの残党やタリバンはここから越境し、米軍やアフガン政府軍を攻撃しては逃げる戦略をとる。それを追う米軍はタリバンを攻撃するつもりで誤って民間人を殺し、反米感情が強まっている。
皮肉なことに米軍の対テロ戦争は、イスラム過激派の動きを活発化させている。00年当時、同国の爆弾テロ事件は14件だったのに、07年は700件に激増。今年9月にはイスラマバードのマリオットホテルで大規模な自爆テロがおき50人以上が死亡した。
世界最強国が介入しながらのこの異常事態、一体どうしたことなのか。南アジアの政治情勢に精通している広瀬崇子・専修大教授は「ムシャラフ前大統領はテロとの戦いを徹底的に行うことができなかった。そのうちイスラム過激派が力をつけ、統制できなくなってしまった」と説明する。
広瀬教授によれば、タリバンはもともとパキスタンが育てたものだ。ソ連のアフガニスタン侵攻(79〜89年)後に起きた内戦状態のなか、神学校の学生たちが作ったのがタリバンで、パキスタン軍情報機関(ISI)はその軍事訓練を支援した。アフガニスタンに親パキスタン政権を樹立させるのと、訓練を受けた戦闘員をインドとの紛争が続いていたカシミール地方に送り込むためだった。
そうした歴史的経緯から、タリバンと最大援助国の米国との間で板挟みになったムシャラフ前大統領の選択肢は限られていた。広瀬教授は「クーデターで政権についた軍事政権としては国際社会で正当性を獲得する必要があった。だが、イスラム過激派を完全に制圧してしまったら米国に見捨てられる。戦っている間は米国から援助金を引き出せた」という。ニューヨーク・タイムズ紙によれば、米政府は9・11以降、パキスタン政府に対し約105億ドルの援助を行い、うち60億ドルが部族地域での反テロ活動に対する援助だ。
米国に見限られたムシャラフ前大統領は8月に辞任、9月にザルダリ氏が大統領になった。だがザルダリ大統領をめぐっては英国で汚職の嫌疑を免れるため、精神病の診断書を書かせたとも報じられたことがある。それだけに、広瀬教授はこう懸念する。
「統治能力があるとは思えない。文民政権だから反米世論にムシャラフ前大統領以上に配慮しなければならず対米関係が悪化する可能性も。さらにテロが増えれば無政府状態に陥っていく危険もある」
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米大統領選でリードしている民主党のバラク・オバマ候補はイラクから米軍を10年4月ごろまでに撤退させる一方で、アフガニスタンへの増派を主張している。米国は泥沼に足を踏み入れることになるのだろうか。
宮田准教授は「テロを戦争で封じ込めるという発想自体が合理的でない。アフガニスタンのタリバンを軍事的に制圧できるという考えは間違い」と断じる。また広瀬教授も「北風で解決できる時期はもう過ぎた。米国はベトナム戦争から何も学んでいない。米の政策は逆に国民をタリバン側に押しやっている」と見る。
日本の国会ではインド洋での海上自衛隊の給油活動を延長する新テロ対策特別措置法の審議が行われている。憲法、安全保障など重要な問題をはらんでいるというのに、論議の方は盛り上がりに欠けているのが実情ではなかろうか。
広瀬教授は「米国に忠誠を示すために給油を続けても、アフガン問題の根本的解決にはならない」と指摘する。
では、日本は何ができるのか。宮田准教授は「その国の運命は民族自身が握っている。紛争の当事者に和平への希求がなければ動いても意味はない。和平を求める機運が醸成された時を見逃さずに、日本が調停や復興に乗り出すことが重要だ」という。その上でこうも説く。「いまタリバンに耳を傾けなくては自称アルカイダが増えるだけ。日本はタリバンを国際社会に取り込む努力をすべきだ」
一方、広瀬教授はいう。「テロとの戦いは国民を味方につけずには成功しない。政府は教育や福祉政策を進めて国民の信頼を得ることでタリバンを孤立させるべきだ。そこで日本の援助が役にたつ」
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ファクス03・3212・0279
毎日新聞 2008年10月15日 東京夕刊
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