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http://mainichi.jp/select/opinion/hasshinbako/news/20080924ddm002070044000c.html
発信箱:ボタ山=磯崎由美
資料の山をかき分け、現れたのは10円札。「おお、あったあった」。福岡県田川市の私設資料室「ありらん文庫」を整理しながら、ノンフィクション作家の林えいだいさん(74)が1枚の紙幣の秘話を語った。
林さんの父は神主だった。シベリア出兵で凍傷になり、現地の朝鮮人にキムチで手当てされ足の切断を免れた。太平洋戦争が始まると、炭鉱の過酷さに耐えかねた朝鮮人労働者たちが神社の軒下に逃げてきた。父と子は傷を手当てし、食事を与え、身銭を切って釜山行きの船に乗せた。
父は出征兵士への祈とうで「無駄死にするな」と訴え、特高警察に連行された後に他界。戦後、世話した朝鮮人が訪ねて来て、感謝の言葉とこの10円札をくれたという。
自治体職員となった林さんは公害を告発して37歳で退職してから、炭鉱や戦争に関する民衆の歴史を掘り起こしてきた。資料室の机には大量の薬。3年前がんに倒れ、糖尿病で目もかすむが、「まだまだ」と、一度書き上げた原稿にペンを重ねる。
林さんの案内で筑豊を歩いた。桂川町(けいせんまち)の麻生吉隈(よしくま)炭鉱跡。閉山後の造成で、事故などで亡くなった労働者と思われる遺骨が数百体出たという。そのボタ山は削られ、ゴルフ場に。どこの町でもさびついたシャッターと、つえをつく高齢者の背中ばかりが目につく。「夜になると、燃えるボタ山が赤く光って。美しかった……」
筑豊には日本の繁栄と衰退、そして忘れることのできない暗い歴史が刻まれている。その重みを担わねばならない戦後30人目の首相が、ここから生まれる。(生活報道センター)
毎日新聞 2008年9月24日 東京朝刊
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