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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080923-01-0202.html
2008年9月23日 読売ウイークリー
総裁選後、新政権へのご祝儀相場を見込んで自民党はただちに衆院解散・総選挙に打って出る算段だ。だが、リーマン・ショックで世界不況説もささやかれる中、いくつもの落とし穴が待ちかまえている。
日本列島を縦断して舌戦を繰り広げた総裁選。告示当初こそテレビ各局のニュース、情報番組に5人の候補者がはしご出演し、テレビジャックした感があった。しかし、早々と「麻生圧勝」が大勢となったうえ、汚染米問題、米国発のリーマン・ショックも重なって、国民の関心は潮が引くように薄れた。テレビ局編成マンが指摘する。「総裁選関連の番組は視聴率が低く、ワイドショーなんか、(数字が悪いので)総裁選なんかとりあげなくていい、という感じでしたね」
別の情報番組プロデューサーも「候補者たちが番組に出たら、視聴率が落ちて、逆に他局の数字が上がる現象が起きました」と打ち明ける。
3年前の「郵政選挙」。当時の小泉純一郎首相はマイクを握って「これは郵政民営化を問う選挙だ」と絶叫し、自民党を歴史的大勝に導いた。ところが、「今回の候補者たちは小泉さんと比べたらいかにも小粒。柳の下に2匹目のドジョウなんていませんよ」(前出の編成マン)。
与党内では衆院選について、「10月3日解散、14日公示、26日投開票」というスケジュールが持ち上がっている。新首相の支持率が高いうちに衆院選を行えば有利に戦える、との判断からだが、国民にはその思惑が見え見えだ。
むしろ、自民党は、行く手に待ちかまえる落とし穴に注意すべきではないのか。
本誌の発売される22日に決まるが、「麻生太郎・自民党新総裁」はほぼ確定的だ。
落とし穴の一つは、その麻生人気の賞味期限。これが、自民党の期待に反して短いかもしれないというのだ。自民党議員のベテラン秘書が言う。「麻生さんの記者会見は、上から記者を見下ろすような感じで評判が悪い。カメラの向こうに国民がいるのをもっと意識してほしい」
麻生氏と同様、「国民的人気がある」と言われたのが安倍晋三・前首相。安倍氏は世襲議員特有の坊ちゃん体質と生活感のなさから「KY(空気が読めない)」発言を連発、ぶら下がり取材ではカメラ目線で、「テレビ画面で質問する記者をただの“マイク扱い”にしていると映った」(当時の官邸記者)ため、支持率を落とした。
麻生氏にも同じ空気が漂う。
そして、何よりも危惧されるのがその失言癖だ。総裁選中も、豪雨被害をめぐって「安城や岡崎だったからいいけど、名古屋で同じことが起きたら全部洪水よ」とやって顰蹙を買った。
「麻生さんが、2000年衆院選の際、失言を繰り返して失速した森喜朗・元首相のようなことにならないか心配です」(前出のベテラン秘書)
すでにメディアは、麻生氏からいつ失言が飛び出すか、ひっかかる言い回しが出ないかと“失言探しモード”に入っている。政治評論家の浅川博忠氏は、こう指摘する。「麻生さんのことをメディアは『国民的人気がある』と書いてますが、それは秋葉原など一部にすぎません。衆院選では上滑りするのではないか。党内でも『祖父(吉田茂・元首相)の自慢話ばかりし、人を見下すような態度が鼻につく』といった批判があります」
そのため、安倍氏の政権発足(06年9月)から参院選で惨敗(07年7月)するまでは、10か月。麻生氏の場合は「1〜2か月かからない」との指摘がある。
もう一つの落とし穴は、「公明党の自民離れ」だ。福田政権の終盤、公明党は、臨時国会召集時期や定額減税問題などをめぐり、自民党と対立する場面が目立った。政治アナリストの伊藤惇夫氏が言う。
「公明党は、意中の麻生さんが首相になれば、文句のあるはずはない。しかし、麻生新内閣の支持率が期待外れであれば、さっと引く。その点はシビアです。民主党もそうした事情を熟知していて、盛んに公明党を揺さぶっている」
伊藤氏の言う「揺さぶり」とは、民主が検討している矢野絢也・元公明党委員長の参考人招致問題のことだ。矢野氏は「政治評論家活動中止の強要などの人権侵害を受けた」として公明党の支持母体、創価学会を提訴しており、国会への飛び火に公明党はピリピリしている。こうしたことから「公明党の自民離れが進んで、衆院選では自公の選挙協力がきっちりいかないのではないか」との見方が出ている。
そして三つ目は、小沢民主党がここに来て、次々と仕掛けている衆院選に向けたサプライズである。
小沢一郎代表が地元(岩手4区)以外から出馬する「国替え情報」「国民新党への合併要請」「薬害肝炎九州訴訟原告で知名度がある福田衣里子さんを長崎2区で擁立」といった具合だ。
小沢氏がとりわけ力を入れているのが女性を中心とした「刺客」の擁立だ。7月末、小沢氏は事務方に対し、特定の小選挙区を挙げて「当選有望な刺客候補を探せ」と指示した。小沢氏は、これは、という人物がいると、自ら会って口説き落とす。前述の福田氏のほか、愛媛1区では、南海放送の女子アナ、永江孝子氏に白羽の矢を立てた。
刺客は文字通り、自民党の大物、有力議員たちを狙い撃ちしている。前述の長崎2区は、久間章生・元防衛相、愛媛1区は塩崎恭久・元官房長官の選挙区なのだ。
森喜朗・元首相の石川2区では、河村たかし衆院議員の美人秘書、32歳の田中美絵子氏(石川県出身)を擁立する。田中氏はかつて同選挙区で森氏と戦ってきた一川保夫・参院議員の後援会の全面支援を受ける。07年参院選岡山選挙区で新人の姫井由美子氏が現職の片山虎之助・参院自民党幹事長(当時)を打ち破った“姫の虎退治”の再現を目指す。
「元首相のドンに若い女性が挑戦する対照的な組み合わせ。注目選挙区となれば元首相だって安閑としていられない」(地元記者)
前回衆院選で小泉自民党は、佐藤ゆかり、片山さつき両氏ら女性候補を刺客として擁立したが、その意趣返しと言える。
急浮上した「国民新党との合併」も小沢氏らしい戦術だ。
そもそも国民新党への誘いかけは、衆院選後に始まる政界再編の中で行われると見られた。ところが、同じく秋波を送ろうとしていた自民党が総裁選を行っている隙を突いた。国民新党との合併は結局先送りされたが、衆院選後の政界再編だけでなく目前に迫った衆院選対策上も大きな意味を持つという。
日本郵政グループ労働組合(JP労組)関係者が言う。
「合併の機運は、民主党にとってJP労組に加え国民新党を推す旧全国特定郵便局長会の組織という大組織の支援を得ることになる。相乗効果も期待できる」
旧特定郵便局長会は、かつて自民党の有力支持基盤だった。分断を得意とする小沢戦術の真骨頂だ。ほかにも自民党組織への切り崩しが行われているという。
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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