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(回答先: <ビラ配布の自由と憲法 (上)>いまなぜ言論弾圧か ― 渡辺治・一橋大学大学院教授 投稿者 gataro 日時 2008 年 9 月 20 日 20:13:17)
日本国民救援会機関誌「救援新聞」2008年9月25日号から直接貼り付け。
《なぜビラ配布か》
なぜ、ビラの配布が目の敵になるのかを考えてみます。
▼運動の要・ビラ配布を規制
治安当局は、もともとビラの配布を弾圧したかったか、ということです。本当は市民運動の組織を一網打尽にする法律をつくりたかった。しかし共謀罪もできない、破壊活動防止法も反対運動のなかで使うことができない。そこで住居侵入罪とか国家公務員法などを総動員して、組織を弾圧しているのです。
なぜ、共産党などの組織なのでしょうか。それは権力にとって何より怖いのは、改憲や構造改革に対する持続的な運動だからです。
ではなぜビラ配布に焦点を合わせているのでしょうか。それは、これら現代の運動の最も基礎的な運動の手段がビラ配布だからです。それらすべての運動の結節点、いわば要がビラの配布です。そういう意味では当局にとってビラ配布を規制できれば、どんな運動にも干渉できるのです。
▼公務員・市民の運動萎縮狙う
なぜ国公法と住居侵入罪が多用されているのでしょうか。
国公法を使う理由は2つありました。1つは、有罪に持ち込むのに相対的に立証が容易だという点です。もう1つは、「9条の会」、反「構造改革」運動の一角を担っている公務員の運動を萎縮させるためにも国公法を発動したい、と考えたのです。
国公法の政治活動規制については学者などから強い批判があり、73年以後国公法で起訴ができていない。これを復活させるための事件だったのです。成功したら、今度は市民のビラ配布に弾圧を加える。こういう意図があります。
他方、運動に参加している多くの市民を弾圧するには国公法ではだめなので住居侵入罪を使ってきたのです。
▼取締り対象の拡大を狙う
以上のように、警察・検察はきわめて意図的、組織的に弾圧を行っています。私たちがもし、言論弾圧を許すようなことがあれば、彼らはさらに踏み込んで取締りを拡大してくるでしょう。国公法の次は地方公務員法、さらには本格的な治安立法を狙っています。いま当局が画策しているのは「反テロ対策特措法」です。危機感を煽っている。本当はテロ阻織はどうでもいい。この反テロ法で市民の運動に一撃を加えたい。ですから、国公法と住居侵入罪というのはその第1歩なのです。ここでくい止めないといけない。
《どう立ち向かうか》
言論弾圧に対して、憲法はどう対処する武器となりうるのかという問題を考えます。
▼押されているのは保守勢力
まず、今日の集会で私が一番言いたいことは、私たちは権力に押されているだけではないということです。
私たちは、諸外国にあるような共産党規制立法を作らせず、労働組合に対する弾圧法も発動させていません。共謀罪の制定も許していません。さらに、改憲と「構造改革」という、保守勢力が追求してきた2つの課題が反対運動のなかでうまくいっていないことも見逃せません。
後期高齢者医療制度に反対する運動で高齢者の怒りが大きく噴出した。しかし、その背後には組織的な運動があることを彼らはお見通しです。だから、住居侵入罪を動員してまで市民の運動を弾圧せざるを得ない。
「9条の会」はいま7千もつくられるなど、日本の市民は大きな力を持っている。改憲ができないという彼らの焦りが、弾圧の背景にあります。
また、国民救援会があり、自由法曹団がある。共産党や労働組合が日常的にビラを配布したり、議会の報告をしたりしている。こんな運動や組織があるから、彼らは治安立法もつくれない、改憲も「構造改革」もできない。
私たちは押されているわけではない、焦っているのは彼らだという点を強調したい。
同時に、私たちの運動の弱さにもふれておきます。
たとえば、選挙における戸別訪問や文書配布を厳しく規制しているのは日本だけです。戦前からのこれらの規制は日本国憲法が制定されたにもかからず、いまだに廃止することができない。国家公務員の政治活動については、マッカーサーが、GHQの指令で入れたものがそのまま法律になって残っている。これは運動の弱さだと思います。私たちが憲法を使ってもっと自由を前進させることが大事です。
この点でとくに強調しなければならないことは、支配階級は決して改憲をあきらめていないということです。彼らは、海外派兵恒久法によって、国会を通さずに自衛隊を海外に出動させる態勢を作り、改憲策動の立て直しをはかろうとしています。
▼多様な言論活動すすめよう
私たちはどのように立ち向かっていったらいいのか。
改憲を阻止するために大きな「9条の会」の運動をつくり、支えていく運動が必要です。また9条の解釈改憲の動きも阻止しなければなりません。
同時に、憲法を実現する運動の重要性です。憲法を実現する運動が起こっている間は、絶対に改憲策動は前進できません。憲法を実現する運動が後退するときに、その憲法をないがしろにするような攻撃が強まってくるのです。だから私たちは、改憲反対運動と同時に憲法を実現する運動に取り組んでいく必要があるのです。
憲法9条や25条を実現していく運動にとって、共通の土台として憲法21条(表現の自由、言論・集会・結社の自由)が必要です。21条自体、私たちが自己を実現する上で不可欠な人権であり、民主主義を実現する上でも不可欠の条件を形成します。表現の自由のないところ、政党・結社の自由のないところで、いくら民主主義と言ってもそれは事実上、何の力にもなりません。
私が強調したいのは、憲法21条のもう一つの役割です。自由な言論があるから、私たちは25条を前進させろと主張することができます。だからこそ、保守勢力は、この言論の自由さえつぶせば運動も止まると考えて、弾圧をやってきているのです。
弾圧に対して反対するだけではなく、われわれが大いに言論の自由を使っていく。私たちが自主規制してしまったら彼らの思う壷です。彼らが弾圧をできないような、多様な言論活動をやっていくことが非常に大事です。
《ビラ配布の意義は》
憲法21条の中心部分をなすビラ配布の自由が持つ2つの意義があります(別項に掲載)。
ビラ配布の自由を実現するということは、国際的に見ても大きな役割を果たすと思います。5月4日の9条世界会議が大きく成功し、9条がいまや世界のモデルになっていることを示しています。他方、私たちの運動は、国際的な水準からいって、まださまざまな弱点をもっています。国際人権規約の水準に日本の社会を引き上げていくことが必要です。憲法9条が持っている国際的な役割をもっと広げていく。同時に、国際的な人権の水準に引き上げていくためにも、私たちの遅れた部分をもっと引き上げる必要があります。
最後に、改めて強調したいのは、押されているのは私たちではなく、保守勢力です。だからこそ弾圧をしている。この弾圧に対して機敏に反撃する、裁判については裁判官を包囲し勝利していく、いっそう大きな運動を言論の自由を使いながらつくっていくことが必要です。
言論弾圧をはね返すと同時に、憲法を豊かにし、自由で、平和で、福祉の社会をつくっていくための第1歩にこの集会をすることを訴えて、私の終わりたいと思います。(拍手) (文責・編集部)
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