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http://www.magazine9.jp/karin/080910/
9月4日、イベントで専修大学教授の唐鎌さんと一緒にお話する機会があった。社会保障についての話だったのだが、目からウロコな話が盛り沢山だった。 うろ覚えで悪いのだが、例えば、フランスのRMI(エレミ)という制度。25歳以下の若者への失業給付のようなものだったと思うのだが、この制度が導入されている理由は、「若者を劣悪な雇用から守るため」。この給付があれば、滅茶苦茶な労働条件の場で働かなくても済む。社会保障制度が、劣悪な雇用から人を守る防波堤になっているのだ。これって、日本ではまったくない発想ではないだろうか。例えば生活保護を受けるくらいなら、どんなに劣悪な環境でもいいから働け、というふうな意見がまかり通り、そこに「人を悪い環境から守る」という発想は皆無だ。よって、悪質な派遣業者などが堂々とのさばることになる。 この問題は日雇い派遣、ゼロゼロ物件、サラ金などの「貧困ビジネス」の問題とも通じる。「貧困ビジネス」という概念を生み出した湯浅誠氏が「世界」10月号に書いている「貧困ビジネスとは何か」という文章をぜひ読んでほしい。「家賃の支払いが1日遅れただけで玄関の鍵を交換された」と訴える、ゼロゼロ物件の「被害者電話相談」から話は始まる。礼金ゼロ、敷金ゼロ、保証人不要を掲げる不動産業者だ。契約は賃貸借契約ではなく、「施設付鍵利用契約」。家賃が1日遅れたら無断で鍵を交換されてしまうという、最悪1日で着の身着のままホームレスになってしまうシステムだ。湯浅氏はそんな「貧困者をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス」を「貧困ビジネス」と名付けた。日雇い派遣やサラ金もそうだ。よく日雇い派遣の禁止に関して「禁止したらそこで働く人が失業する」という言い方がある。それに湯浅氏は反論する。 「【A】消費者金融はヤミ金を、日雇い派遣会社は失業を、ゼロゼロ物件不動産会社はホームレス状態を明示的・暗示的に引き合いに出して語るように、自分たちがいなくなったら、もっとひどい事態になるんだぞ、【B】選び取っている以上は本人の自己責任である、という理屈を「殺し文句」として活用する。【A】では、それ以外を選択できない労働者・消費者を想定しつつ、【B】では「選択の自由」の存在を仮構する形点で両者は矛盾するのだが、それらは状況に応じて便宜的に使い分けられている」 結局、「NOと言えない労働者・消費者」、それ以外に選択肢のない人々を食い物にしつつ、勝手にそっちが選んだ、俺たちがいなければもっとひどいぞ、と言ってのさばっているのが貧困ビジネスなのだ。 講演などで、私はよく「貧困ビジネス」の話をする。そうすると、面白い現象が起きる。若く、フリーターなど非正規雇用で働く人の場合はゼロゼロ物件についても、ある派遣会社が発行するIDカードがサラ金のカードになっていることも知っている。しかし、ある程度世代が上だったり、安定した職についている人は、まったく知らず、「まさか」と驚くのだ。ある意味、「貧困ビジネス」を実体験として知っているかどうかは「格差チェック」にもなる。 こういうところで、既に「住む世界」が違っているので、安定層には貧困ビジネスにひっかかる若者が「自己責任」に思える。「好きで」ゼロゼロ物件に住み、「好きで」日雇い派遣で働き、「好きで」サラ金からお金を借りているという思い込みが生まれる。知らないから。情報の格差。条件の圧倒的な格差。ここに横たわる「無理解」こそが、大きな大きな壁なのだ。湯浅氏も書く。 「端的に言って、自宅を持ち、安定した職を得て、潤沢な貯蓄を有する者たちは「貧困ビジネス」とは無縁である。その者たちは、労働者としても消費者としても、そんな不利な条件では契約しない、とNOを言えるからだ」。 だけど、「持たざる者」はどんなひどい条件でもそこで働くしかない。すぐに追い出されてしまうような物件でも、そこに住むしかない。 総裁選の話題が連日メディアを賑わしているが、総裁選に出る人々はもちろんこんなことを知らないだろう。せめてもう少し「劣悪な雇用や悪質な不動産業者から人を守る」程度の発想があってもいいと思うのだが、そんなことを言ったらまた「甘えてる」「好きでやってる」とか言われそうだ。 |
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