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「良い小さな政府」と「悪い小さな政府」(植草一秀の『知られざる真実』)
http://www.asyura2.com/08/senkyo53/msg/351.html
投稿者 クマのプーさん 日時 2008 年 9 月 08 日 19:23:46: twUjz/PjYItws
 

http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/09/post_9b0e.html
2008年9月 8日 (月) 政治対立の軸


「良い小さな政府」と「悪い小さな政府」


9月5日付記事「国難と総裁選にうつつを抜かす自民党」に「良い小さな政府」と「悪い小さな政府」と記述したことについて、私の真意が伝わっていないと判断できる意見の提示があったので補足したい。


私は政府の無駄を排除する意味での「小さな政府」に賛成する。しかし、所得再分配を中心とする財政の機能を軽視する、生存権を脅かす意味での「小さな政府」に反対する。


私は前者を「良い小さな政府」、後者を「悪い小さな政府」と表現した。「Kojitakenの日記」のKojitakenさんが私の主張を「新自由主義」の主張と理解されているようなので、補足説明を示す。


この問題について、私は『表現者』 2006年8月号の連載記事「日本経済の深層」に「格差の元凶−小泉的小さな政府−」と題する論考を掲載した。また、講談社サイト『直言』「UEKUSレポートPlus」2006年4月26日付記事「民主党が提示すべき三つの主張」を発表した。これらに先立つ記述として、『金利・為替・株価特報』2005年2月1日号に「構造改革の本丸は郵政ではなく財務省にあり」と題する論考を掲載した。


以下にこれらの三つの拙稿の一部を転記する。


  


@「日本経済の深層 格差の元凶−小泉的小さな政府−」


(『表現者』2006年8月号所収)


(前略)


急速な高齢化が進展するなかで社会保障制度に対する不安が広がっている。年金、医療、介護の各制度は維持可能なのか。日本政府の債務が増大し、財政破綻が生じるのではないかとの不安も広がっている。こうしたなかで、官僚部門は国民の税金負担のうえにあぐらをかいているのではないかとの不信の念が蔓延している。(中略)


税金を負担している国民の立場からすれば、「政府を効率的に運営し、無駄を排除し、財政を立て直し、社会保障制度の将来不安を取り除くべきだ」と考えるのは当然である。


こうした背景があるなかで、「小さな政府」に賛成か反対かを問う質問をすれば、賛成多数となるのは当然である。そもそも、現代の経済社会環境の下では「大きな政府」は「小さな政府」よりも語感が悪い。(中略)


ドイツの経済学者マスグレイブは財政の機能を三つに分類して示した。三つの機能とは、「資源配分機能」、「所得再分配機能」、「経済安定化機能」である。「小さな政府」を論じるときには、どの機能について論じているかを考察することが必要だ。


「資源配分上の小さな政府」は「無駄なことをしない」を意味する。民間でできることは民間に委ね、政府は必要最小限を担う。政府部門の無駄は可能な限り排除する。この視点で「小さな政府」に反対する国民は少ない。多くの国民が総選挙で自民党に投票した心情はここに根ざしていると考えられる。(中略)


「所得再分配上の小さな政府」とは、経済活動の結果生じる格差を容認する姿勢を示す。経済活動は必ず結果における「優勝劣敗」を生み出す。「格差」が発生する。その格差を容認すること、これが「所得分配上の小さな政府」の意味だ。小泉政権はこの意味での「小さな政府」を推進した。竹中氏の言う「がんばった人が報われる社会」が目指されてきた。そして、小泉政権が目指す新しい社会の成功者の象徴として堀江氏などが位置付けられてきた。


彼らの成功は本当に「がんばった」ことを源泉としているのだろうか。現代社会の結果における成功、失敗の理由には、「がんばった」、「怠けた」が当然含まれるだろうが、それ以上に初期条件における格差が強く影響しているのではないか。「汗水流し、血のにじむ努力をしながら一向に報われない人々」は無数にいる。結果における成功者のかなりの部分は、「がんばった」ことによってではなく、「恵まれていた」ことや「制度をうまくくぐり抜けてきた」こと、あるいは「政府と癒着することで利権を獲得した」ことによって成果を得てきたのではないだろうか。(中略)


経済活動に対する意欲、インセンティブを刺激する意味で、結果における格差をある程度は容認すべきだ。しかし、小泉政権が示してきたような「手段を問わずに結果における成功者を賞賛する」基本姿勢には賛同しない。(中略)


筆者は先述した「政府の無駄排除の意味での小さな政府」を実現する施策は「天下り制度廃止」だと訴え続けてきた。「天下り制度」こそ日本の巨大なグレーゾーンと言われる特殊法人、公益法人を中心とする巨大準公共部門を生み出している元凶である。新しい時代に適合するように「天下り制度」を廃止することが「改革」の真髄ではないか。


だが、小泉政権は結局、最後まで「天下り制度」を死守した。官僚利権は死守し、政治的、経済的弱者は情け容赦なく切り捨てる。これが小泉自民党政権の推進してきた「小さな政府」政策の真髄である。


「経済安定化機能における小さな政府」についての論考は省略するが、民主党は小泉自民党の「小さな政府」論について、財政の三つの機能に照らして効果的な反論を展開すべきだった。「小さな政府」の意味を明確にしたうえで、その是非を問う論議が決定的に不足している。


  


A「民主党が提示すべき三つの主張」


(講談社サイト『直言』>「UEKUSレポートPlus」 2006年4月26日付記事)


(前略)


筆者はかねてより、民主党に対して三つの提案を提示し続けている。第一は「郵政民営化」のまやかしを明示し、「真の改革」案を提示すること。第二は、「小泉改革」が意図して切り捨てている弱者に対し、弱者を確実に守る政策を明示すること。第三は「対米隷属」に堕している日本の外交スタンスを、「独立自尊」に転換することである。


行政改革の真の標的は「天下り制度」である。2万6000におよぶ公益法人のうち6000ほどの団体に補助金が流し込まれている。こうした公益法人が「天下り」の温床である。補助金総額は5兆円にも達する。政府系金融機関に代表される「特殊法人」は役所にとって最重要の「天下り機関」である。こうした機関への「天下り」に加え、役所が影響力を保持している産業、企業への「天下り」も膨大である。こうした「天下り」が談合事件などに垣間見られるように、不正、非効率の大きな原因になっている。(中略)


公務員には終身雇用を保証すべきである。公務員は市場経済の主役ではない。スポーツで言えば、フィールドの整備士であり、審判団である。第一種国家公務員といった少数の特権エリートを採用する必要は存在しない。第一種国家公務員制度を廃止し、公務員には公務員として定年まで仕事を完遂できる状況を整備して「天下り」を全面廃止すべきである。(中略)


第二の論点も重要である。小泉政権は「改革」の美名の下に「弱者切捨て」の政策を積極推進している。「障害者自立支援法」などという詐欺に近い名称を冠した法律を成立させたが、「弱いものいじめ」以外のなにものでもない。高齢者の医療費負担増大政策が今国会で論議されているが、政治的弱者には容赦の無い冷酷無比な政策である。(中略)


民主党は「真の弱者に対する国家の責任」を政策の柱としてしっかりと掲げるべきである。「格差」が広がる現代経済のなかで、国民生活の安定、国民の幸福を達成するには、弱者に対する国家の責任ある対応が不可欠である。
 小泉政権の対米隷属、国益無視の政策スタンスには目に余るものがある。東京裁判にはさまざまな問題が存在するが、日本はサンフランシスコ講和条約第11条において東京裁判を受諾し国際社会に復帰した。このことを根拠とするアジア諸国からの意見には耳を傾けることが必要である。「対米隷属」から「独立自尊」へと政策の舵を大きく切りなおす必要がある。


  


B「構造改革の本丸は郵政ではなく財務省にあり」


(『金利・為替・株価特報』2005年2月1日号所収)


(『UEKUSA REPORT』P.109-P.115からの抜粋)

(前略)


政府関係者は「がんばった人が報われる社会を」というが、日本は、がんばって成功した人は十分に報われている社会である。新規株式公開企業も急増し、株式公開長者は多数生まれている。他方で、企業がリストラを急速に進めている結果、常用雇用での就業者が減少し、代わりにパートや派遣形態での労働が急増している。多くの労働者の所得が減少する見返りとして、企業収益が増大し、資本家である株主が利得を増大させている。この傾向をさらに進行させてゆけば、日本における貧富の格差は米国並みに拡大してゆくこととなる。まさに弱肉強食社会への移行である。


現代日本での問題点は、むしろ、恵まれている人が報われていて、恵まれていない人が報われていない点にある。「がんばっているのに報われない、恵まれていない人々」が多数存在していることにこそ問題が存在する。「恵まれていて現状で十分報われている人を、より報われるようにすること」よりも、「がんばっているのに報われない、恵まれていない人々が少しでも報われるようにすること」に、本来政治は力を注ぐべきではないだろうか。


「改革、改革」のスローガンがこだまするなかで、20世紀後半に政治が最も光を当ててきた経済的弱者が、切り捨てられる風潮が非常に強くなってきているのではないか。政治が人間性を喪失しつつあるように感じられるのである。改革すべき点は改革すべきではあるが、より大切な、すべての国民に対して最低限の生存の条件を付与することの重要性を再認識するべきである。今後の政権においては「改革」の熱病を克服し、政治における「人間性回復」をテーマとして掲げてほしいと思う。


以上が引用である。「経済的弱者を救済する政策」の表現を「人間の尊厳を重視し、生存権を確実に保障する政策」に改めることにした。

来る総選挙においては「悪徳ペンタゴンの利権死守を至上目的とする政治」を「すべての国民の幸福を追求する政治」に刷新するために、政権交代を実現しなければならない。


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