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福島県汚職:佐藤栄佐久前知事が展開した“エネルギー政策”批判(JANJAN)
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投稿者 クマのプーさん 日時 2008 年 8 月 25 日 21:40:54: twUjz/PjYItws
 

http://www.news.janjan.jp/government/0808/0808235355/1.php

福島県汚職:佐藤栄佐久前知事が展開した“エネルギー政策”批判
東井怜2008/08/25

福島県佐藤栄佐久前知事は無罪を主張し続け、筆者は非常な関心を持ってこれまで成り行きを見守ってきた。なぜなら、前知事は、政府の原子力政策を公然と批判していた、後にも先にもおそらく唯一人の知事だったからである。

 福島県汚職事件の被告、前知事佐藤栄佐久兄弟は21日抗訴した。東京地裁判決は、執行猶予付きとはいえ有罪であった。

 物言う知事、国策に異議を唱える知事……。そのために意識して脇を固めている。そんな風に映っていた現職知事が、ある日突然嫌疑をかけられ逮捕された。逮捕したのは東京地検特捜部。06年11月13日に起訴され、東京地裁で初公判、と経過して迎えた判決の日は2008年8月8日であった。

 発端は水谷建設の脱税疑惑。一昨年の06年7月8日、同社の役員ら逮捕とともに前知事の実弟が経営する「郡山三東スーツ」本社にも家宅捜索が入り、一挙に耳目を集めることとなった。水谷建設との関係は、02年に会社の土地を売ったこと。しかし時価より高額との指摘があり、水谷建設の所得隠しとその使途への捜査から、収賄の疑いで知事周辺へと特捜の手が伸びていった。逮捕を報じる記事によれば、

 『クリーンさを強調してきた福島県の佐藤栄佐久前知事(67)が23日、県発注の公共工事を巡る汚職事件で逮捕された。実弟逮捕の責任を取り、5期18年間にわたる長期政権に終止符を打って……実弟らを通じて建設業界と不明朗な関係を結び、多額の資金提供を受けていた構図が浮かび上がった』
(読売06年10月23日「『クリーン知事』癒着…業者、選挙も会社も支援」より)

 ずいぶん断定的である。これだけを見ればよくある話である。しかし前知事は売買そのものを知らなかったと言い、無罪を主張し続けた。その後の報道を、筆者は非常な関心を持って見守ってきた。政府の原子力政策を公然と批判していた、後にも先にもおそらく唯一人の知事だったからである。

 とはいうものの、裁判記録などはまるで追っていない。事実がいずこにあるかに関心があるのではないから。それに、このように双方の主張が真っ向から対立し、被告側が完全に否認している場合に、いずれが真なるか判定することは非常に難しい。本当のことを知っているのは、当事者だけである。が、それを検出できるリトマス紙は無いのだ。

 だが万一冤罪であるとしたらその落差はあまりにも大きい。事件の種類を問わず、冤罪に対する非業の仕打ちには、いつ聞いても特別の感情を禁じ得ない。真実を突き止めることの難しさ、立場を変えれば真実を認めてもらうことの難しさが、重くのしかかる。そんな思いから、この節目にやはりひとこと記しておくこととする。

 佐藤栄佐久前知事が初当選した88年9月、まさにその直後から筆者と福島県とのかかわりは始まった。だからこの選挙のことはまったく知らない。また当初は他県の知事ととくに変わるところもなく、原発立地県として行政もマスコミも推進一色と見えていた。

 年が変わり89年正月、東京電力の福島第二原発で再循環ポンプ破損の大事故が起きた。地元では一変して原発の安全性への不信が高まる。破損した30kgの金属片・粉が配管を巡って全身に回り、この危険な原発の運転再開を巡って2年越しの真剣な反対運動が繰り広げられた。

 チェルノブイリ事故から間もない。地元のみならず、全国的にチェルノブイリの再現を怖れる声が高まった時期であった。東電の消費地に住む筆者も、以後原発や福島に深くかかわることとなった。

 しかし県はついに運転再開の地元了解を発し、90年末再稼動に至る。

 一方で、『ポスト原発は原発』という回答を引き出した福島第一原発の立地町は、同原発7・8号増設を誘致し、94年東電はその見返りとして広大なサッカートレーニングセンターの寄付を申し出た。130億円というその寄付を巡って「寄付を受け入れるな」と県への要請行動が続いた。

 「増設とは別」という東電の約束によって、97年ついに立派なサッカー場は完成したが、原発増設に関しては再三の立地町からの催促にもかかわらず、知事はゴーサインを出すことはなかった。

 99年秋、隣県の茨城でJCO臨界事故が起こる。折から福島第一原発3号で開始されるプルサーマル用燃料が専用港に入港した翌日であった。3年越しの反対運動にもかかわらず、県は前年の夏、他県に先んじてプルサーマル実施の地元事前了解を与えていたのだった。

 しかし同時に輸送されてきた関西電力のプルサーマル燃料を巡る不正が確認され、原子力行政への不信は頂点に達した。東電は自主的にMOX燃料の装荷を見送った。

 01年2月、東電は供給過剰と電力の一部自由化を理由に、県内の建設中火力を含む建設計画の凍結を一方的に発表、知事の逆鱗に触れる。『国や東電がくしゃみをすれば、県は風邪を引く』と反発。

 これをきっかけに、知事の姿勢は電力と国の原子力政策への不信表明へと大きくカーブしていった。とりわけ国への不信には激しいものがあった。『一旦決めたら最後、国はブルドーザーのように計画を押し進めようとする』と、まずプルサーマル事前了解の凍結を表明した。

 同年5月には『1年間は地元にとっても原子力のあり方を検討する』として「福島県エネルギー政策検討会」を設置した。

 この検討会は当時としては画期的なものであった。原子力の周辺では当然のように行われていた、反対意見を排除するそれまでの自治体や国のやり方とは異なり、推進反対双方の学者らを講師に招じた。メンバーは県の幹部職員全員(当初14人)、教育長から警察本部長までと聞いて舌を巻いた。当然、すべて公開。県民意見にも、賛否を問わず折々に耳を傾けた。筆者も傍聴したことがあるが、知事は挨拶のみして消えるというパターンではなく、率先して質問していた。

 02年末には、『あなたはどう考えますか?〜日本のエネルギー政策〜』(副題:電源立地県 福島からの問いかけ)として中間とりまとめの冊子を発行し、県内外から注目を集めた。内容は、タイトルの通り、エネルギー政策への疑問点を、豊富な資料とともにまとめたものであって、代案を提起したり、何らかの主張を展開したものではなかった。

 05年8月の第35回検討会では、原子力委員会が取りまとめた原子力政策大綱案について意見交換し、パブリックコメントに県として批判的意見を提出した。その根幹は使用済核燃料を再処理する核燃料サイクル政策への疑問と、立地地域の安全確保への注文であった。
・「『原子力政策大綱(案)』に対する意見募集に頂いたご意見について」(05年9月16日 p222〜229、ご意見〒042〜〒054)

 05年9月4日には県の主催で国際シンポジウム『核燃料サイクルを考える』を東京で開催した。同政策への推進派・批判派双方の講師を揃えてその主張を聴いた。その後、検討会は開かれていない。1年後、知事は交代する。

 東電の電源開発凍結発表から間もない01年2月14日、相馬・双葉地方議員研修会で、14市町村の議員と首長約200人を前に講演した。国へのろしを挙げる前に、それまで推進一色であった立地地域の政治家全員を相手に、自らの考えを開陳したのである。大胆ではあるが、こうした手法にもじつは周到な姿勢がうかがわれる。

 当日の講演から代表的な発言を紹介しよう。もともと能弁な人ではなく、言葉少なで、時として答弁は禅問答のようになる。おそらく記者泣かせのタイプだと思うが、講演のテープを基に当時筆者がピックアップしたものだ。

『原子力政策というのは、国と事業者と県と市町村がワッと行くだけで……(ちゃんと審査するところが無いから)注意しなければならない』として、具体的な例を挙げた。

・『福島で大きな事故が起きたとき(89年1月)・・・
 隔靴掻痒、という感じでありました』
・『「もんじゅ」で事故が起きたとき(95年12月)・・・
 当然起こるべくして起こったと、内心思いました』
・使用済核燃料輸送容器データ改ざん(98年10月)
 『改ざんするなんていうのは、私どもにとって許されないこと』
・関西電力用MOX燃料データ不正事件(99年秋)
 『大体が甘いことをやっているわけです』
・JCO事故(99年9月)
 『ほんとうに国が真剣にやったら、JCOの事故なんて起きません』

 そして『安全の観点から、いろいろ申し上げました』『私どもは、立地地域の立場で、原発についての考え方をまとめて行こうではありませんか』と締めくくった。

 まあ、これだけのことをやってきたのである。覚悟の上で。なかなか叩いても出る埃は少ないだろう。「原発問題などで国の方向に逆らうようなことをやってきた。身ぎれいにしながらやってきており、(弟がそれは一番理解していると思ってきた)」と自ら語ってもいる。

 原発だけではない。最近では道州制への批判も熱を帯びていた。「田中康夫前長野県知事より前に3つのダム計画を中止した」とも。合併をしない宣言をした矢祭町を『国は守らないことが分かったので』県が支援する旨議会で答弁している。06年9月28日の辞職にあたっての会見では「私が追い求めてきた地方自治の理想が、まがりなりにも実現しつつある時期に、談合疑惑が起きた」と述べた。

 改革派知事が次々と消えていった中でも、とくに惜しむべき存在となっていた。そんな想いで報道に接していたからだろうか、下記のようにこの事件については不可解な点が多いと感じる。控訴審でクリアにされることを期待したい。

 「弟に対しては県政に関与したり、わたしの立場を利用したりしないよう厳しく言ってきた」県政から遠ざけられていた実弟に何の職務権限もなく、仮に賄賂を受けとったとしても前知事の関与が立証されなければ収賄は成立しない。しかし検察側の事実認定は、被告2人と贈賄側3人の供述のみで築かれており、その3人には時効(3年)が成立してお咎めなし。

 被告佐藤兄弟は捜査段階では認めていたが、初公判では、「火で焼かれるような取り調べを受け、支援者への迷惑を食い止めるため、体験していない事実である収賄を認める供述をした。日本は法治国家と信じている」(前知事)と述べ、裁判所に真相解明を訴えた。実弟も「検事から怒鳴られたりした恐怖心で、1日も早く出たかった」と法廷で証言している。

 弁護側は「初めから栄佐久被告を狙った極めて不当な見込み捜査。脅迫や暴力など常軌を逸した取り調べによる供述で立証された冤罪(えんざい)事件だ」と主張した。主任弁護人の宗像紀夫弁護士は元東京地検特捜部長で、“古巣”の捜査手法を知る。「主任検事に何度か(抗議を)申し入れた」と語る。

 件の土地は昨年さらに高額で転売された事実から、弁護側は賄賂性を否定した。それにしても、件の土地の取引は02年、国に反旗を翻した翌年である。周到に準備して起こした行動であり、庁内一丸となってエネルギー政策をまとめるべく自ら先頭に立っていた時期である。

 前段の原発問題と異なり、事件を巡る筆者の情報源は、ここでの記述も含めすべて新聞・WEBなどの報道からである。もちろん複数のメディアから得ている。

 その報道についても苦言を呈しておきたい。親族の家宅捜索や事情聴取があっただけでも世間は疑惑を抱く。その上、報道機関の記事によって、どんどん犯人であるかのようにフレームアップされていく。この事件でも、検察側が巧妙に情報を流し、記者がそれを特ダネのように書いてしまうというにおいが、とりわけ起訴に至るまでの報道には目に付いた。

 それは次のような伝聞調の書きぶりによって、におってくるのだ。

 〜を事情聴取したもようだ/〜との疑いが持たれている/〜を追及しているとみられる/〜と親しい関係にあったとされる/〜と関係者の話で分かった/調べに対し〜を認めているという/〜と供述しているとされる/〜を起訴するとみられる 等々。

 これらは、すべてこの事件に関する記事から拾った表現である。見出しとなれば、これすら抜け落ちてしまう。

 もちろん知事といえば、地方にあっては最高権力者である。長期政権ともなれば弊害も生じ、その是正は時間と共にますます困難になっていくだろう。あえて弁護するつもりはない。

 ただ、最近筆者の知人が、明らかに冤罪と確信できる事件に巻き込まれた。執行猶予付き有罪判決となり、悩んだ挙句に控訴を断念し、一部始終を著した。『私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか』(07年、講談社文庫、ISBN978-4-06-275867-3、560円)。

 著者は国際的に著名な地震学者であり、前国立極地研究所長である。内から見た拘置所見聞録とでも言おうか、じつに克明に、終始達観した端正な姿勢でその稀有な経験を再現してくれた。まえがきに言う。『逮捕や拘留は、望まないのに、誰でも、突然、遭遇するかもしれない経験でもある』。そのための事前の案内書である。

 いつ自分の身に降りかからないとも限らぬ、そんなアヤウイ国に住むことを自覚させ
られる好著である。出版後半年で5版を重ねているという。

 また、裁判の経過や事件の背景はHPに掲載されているが、こちらも好評を博し度々
ヒットしている。自立した現代人には必読の教養書かもしれない。


 

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