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「成熟日本」の選択肢 週のはじめに考える(中日新聞)
2008年8月10日
六十三年前、焦土の中から裸一貫で祖国復興に立ち上がった先人たち。その努力で先進国入りして久しい日本も、最近は「成熟化」が目立ちます。
「敗戦後における最大の政治課題は『完全雇用』でした。それが達成されたとき政治家の役割は大半終わったようなものです」
昨年死去した宮沢喜一元首相から何回か聞いた言葉です。確かに戦後しばらくは明日のロマンより今日の食事が死活問題でしたから「明日も食える」職場を保証することは政治の大きな課題でした。
変化に追いつかぬ制度
付け加えれば、もうひとつの政治目標は一九六一年に始まった「国民皆年金」です。戦後、急速に進んだ核家族化に対応し老後の親の面倒は子どもに代わって年金でみるという「社会的親孝行」の仕組みが出来上がったのです。
完全雇用と年金制度。この二つが完璧(かんぺき)なら国民の生活不安は大方解消されるに違いありません(もちろん平和が大前提ですが)。一見万全に思えた両制度が大きく崩れかかっている−そこに「成熟日本」の苦悩があります。
バブル経済の崩壊、労働に対する若者意識の変化、非婚世代の増加、少子高齢化の進行、国・自治体の財政破たんなどさまざまな原因が指摘できますが、ひとことでいえば社会構造の変化が急激で、制度がそれに順応できなくなっているのです。
日本の総人口に占める六十五歳以上人口は22%ですが、二〇二五年には30%に達する見通し。イタリアの19%(〇五年)を上回る先進国一のスピードで人口の高齢化が進む故国です。
「老いる」のは人ばかりではありません。日本社会全体が老い始めています。九四年には国内総生産(GDP)で世界の二割に近かった経済規模が一割を割り込み、一人当たりGDPではOECD三十カ国の中で十八位(〇六年)。
ソフトパワーを生かせ
平和戦略の要として世界一を誇った政府開発援助(ODA)は五位に転落です。過去十年の株価上昇率で日本は世界ワースト二位との調査も出ています。「成熟日本」の閉塞(へいそく)感を打破する道はどこにあるのでしょうか。
戦後の一時期、日本人のあこがれはスイスでした。マッカーサー元帥が「東洋のスイスたれ」と発言したことも影響して、平和主義、永世中立を標榜(ひょうぼう)した同国が、新憲法で戦争放棄を宣言した日本のお手本のように見えたのです。しかし、六〇年安保を経て武装中立国家のスイス人気は後退し、代わって登場した国家イメージは経済力を背景にした「日本株式会社」でした。物価も上がるが賃金も上がり、今日よりは明日が確実に豊かになるとの予感を多くの日本人が共有しました。完全雇用と年金制度は、その豊かさを裏打ちしていました。
だが、いまや雇用労働者約五千百万人の三人に一人強が非正規社員。働いていても正規社員との待遇格差やリストラの心配など常に不安を抱えています。生活保護より安い最低賃金や基礎年金といった制度矛盾も露呈しています。
「老いゆく祖国」の活性化プランを考えてみます。米国型の市場万能主義では強い副作用が出ることは立証済みですし、中国やインドなど高い成長を続ける「新興大国」とGDP競争をする時代でもありますまい。そうかといって北欧型の「高負担、高福祉」に舵(かじ)を切るには日本の規模が大きく、国民的合意もできていません。
あれこれ考えると、結局は日本がこれまでに築いた高度技術(たとえば省エネ技術)とソフトパワー(勤勉さなど)をフル活用して対外的に日本の存在感を強める一方、内にあっては人口の三分の二の「壮青」世代と三分の一の「老」世代の調和によるポスト工業化社会の「モデル国家」を築くことに行き着きます。
国家プロジェクトの設計には時間がかかります。しかも、年金や医療など社会保障関係に象徴されるように、制度を一度つくると簡単には改廃できません。まだ日本の能力がどん底まで落ち込んでいない今こそ国家設計の見直しを急ぐべきではないでしょうか。「ねじれ国会」を理由に政治家や官僚がサボタージュを決め込む時間的余裕はないはずです。
四年前になくなった経済学者の森嶋通夫ロンドン大名誉教授は、遺著ともいえる
「なぜ日本は行き詰ったか」(岩波書店)で、次のように予言しています。
覆せるか森嶋氏の予言
「生活水準は相当に高いが、活動力がなく、国際的に重要でない国。
これが私の二十一世紀半ばにおける日本のイメージである」
森嶋氏の予測を覆せるかどうか−
それは今を生きる私たち日本人の決意と知恵と実行力にかかっています。
http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2008081002000090.html
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