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坂巻幸雄氏の意見書(更新・提出版)
http://www.asyura2.com/08/senkyo51/msg/999.html
投稿者 ヤマボウシ 日時 2008 年 7 月 21 日 04:45:14: WlgZY.vL1Urv.
 

(回答先: 【築地市場移転問題】 元 通産省地質調査所主任研究官 坂巻幸雄氏の意見書 投稿者 ヤマボウシ 日時 2008 年 7 月 19 日 14:43:15)

Like a rolling bean (new) 出来事録
http://ameblo.jp/garbanzo04/entry-10118058166.html

2008/07/19 
専門家会議報告書(案)に対する意見書

               日本環境学会土壌汚染問題ワーキンググループ長
               元 通産省地質調査所主任研究官
坂巻 幸雄

1.手続き的問題に関して

 1)「予定原稿」を正規の「報告書」とすることは到底許されない
 7月17日に新市場建設課と電話交信したところ、「詳細調査の報告書は契約上9月末にならないと納品されない。従って、現在現物がないので閲覧には応じられない。」とのことであった。
 第8回専門家会議で配布された報告書(案)p.1-2によれば、「詳細調査結果の評価」が「専門家会議による検討の対象範囲」であることは明記されていて、現に(案)の第5
〜第7章は詳細調査結果について言及している。しかし、報告書の正本が実在しない現在、これらはあくまでも、「予定原稿」でしかない。専門家会議は来る7月26日開催の第9回で終わるというが、その場合、正本に基づく技術的評価は誰が行うのか。
 「予定原稿」を正規の「報告書」とみなしてオーソライズしようとする今回の専門家会議の方針は、あまりにも無定見であり、到底容認できるものではない。

 2)意見を求める期間が短く、実質的な対応が不可能である
 第8回会議の質疑でも問題になったが、数々の重大な内容を含む(案)に対して、都民側の実質的検討期間は、1日延長されたとはいえ正味1週間に過ぎない。これでは、内容の細部に立ち入っての検討は事実上不可能で、単に「都民の意見を聞いた」という免罪符作りのために、形式的な「意見聴取」を企てたと疑われても仕方がなかろう。
 私の場合、第8回会議で液状化問題が議論になった際に、都側の説明として、「豊洲の現地の液状化問題では、平成18年度に土壌物性調査を終えており、今回の専門家会議の提言にもその資料が参照されている」という主旨の発言があった。そこで、この土壌物性調査の報告書の閲覧について新市場建設課に問い合わせたところ、「現物は存在するが、閲覧を希望するのであれば情報開示請求の手続きを取るように。現物が開示できるまでに少なくとも2週間は掛かる。今回の件に関しての特例措置は、検討していない。」とのことであった。これでは、過去のデータに即して(案)を吟味することは、事実上不可能である。強く改善を求めたい。

 3)これまでの提言や要望が、非礼にもことごとく無視されている
 私の所属する日本環境学会は、都知事宛要望書、都知事と専門家会議座長連名の宛名の公開質問状各1通を、すでに提出しており、特に後者については専門家会議の質疑に際して、座長に対しても直接強く回答を求めた。しかしこれまでに、実質的な回答はおろか、「回答できない」という「回答」すらも、未だに寄せられていない。
 このような経過に一切言及せずに、今回「意見」を求めるのは非礼である。意見を求めるのであれば、それに先だって、すでに提出されている質問や意見に対して、まず誠実に回答してからにすべきである。

 4)提言−−第9回専門家会議は、9月末以降に延期すべきである
 冒頭述べたように、7月26日時点での報告書の確定には、大きな無理がある。9月末の調査業者からの報告書提出を待って、その内容を吟味する第9回会議を開き、その上で、専門家会議の報告書を正式に確定する、以降の会議日程を定めるべきである。現在の進行計画では、なぜ、この7月末に報告書の決定を急がなくてはならないのか、その理由が全く示されておらず、到底納得出来る内容ではない。
 延期した時間を活用すれば、都と専門家会議は、公開討論会・公聴会などを設定して、それぞれの主張とその根拠を公開の場で明らかにし、広い都民との討論や対話に応じることができる。僅か40人の傍聴者と、僅か1時間程度の討論では、解明できる範囲は局限されている。市場移転問題に対する都民の関心が高まっている現在、都としてもその意志を広く周知させる場を設けることは、積極的・建設的な広報活動として評価されるであろう。

2. 技術的問題点に関して

1)「詳細調査」は羊頭狗肉だ
 10mメッシュ、4,122地点のボーリングは、作業規模としては確かに大きいが、内容は空疎である。
 この膨大な測点のうち、コア試料が採取され、柱状図が作成されているのは先行ボーリング62地点と、追加調査60地点の122地点に過ぎず、残りの4,000地点は、コアの採取も柱状図の作成も行っていない。掘り留めとして指示された有楽町層上端部への到達確認は、近傍の先行ボーリングの深度から推定しただけである(新市場建設課談)。採水に当たってのパージング(孔内洗浄)の徹底度を見たり、地下水の賦存状況の確認のためには、水位・水温・導電率等のその場測定が不可欠だが、少なくとも私が一般公開時に現場を見た限りでは、これらの作業は実施されていなかった。 さらに、時間間隔を置いた繰り返し測定による水質変化の吟味も、なされていない。
 有楽町層の上位の地層は、浚渫土により埋め立てられた人工地層なので、均質性が非常に悪く、地下水の流況を解析するにはこれら人工地層の詳細な観察が欠かせないが、今回の詳細調査では、。必要な情報が完全に欠落してしまっている。この目的のためには、例えば(案)のp4-43,44の表4.13.4のように、地質と分析値を関連づけた対比表が、ぜひ必要なのである。
 このような重大な欠陥を含む作業仕様書を承認し、不十分なデータをもとに結論を導いている都と専門家会議の責任は、小さいものではない。都は「専門家会議に任せてある」事を理由に、われわれの現地調査の要請を強硬に拒み続けてきたのであるから、なおさらである。


 2)残土処理への言及がない
 専門家会議の提言に従って、汚染土壌を掘削して清浄土に入れ替えるとすれば、少なくとも100万立方米の汚染残土が発生し、浄化するにしても処分場に埋め立てるにしても、膨大な費用と手間を必要とする。専門家会議は、「このような措置をすれば豊洲は安全に使える」と力説するが、それならば、当然「そのような措置」が現実に可能であるのかどうかを、具体的に検証すべきである。本来セットになっている事象の一方の利点だけを強調して、他方の問題点をあいまいにするのは、公正な態度ではない。

 3)液状化・側方流動に対する見方が甘い
 「有楽町層は不透水層だから、汚染は及んでいる可能性は低く、調べない」という専門家会議の方針には疑義があり、反対である。
 有楽町層はシルト層が主体とはいえ、均質ではなく、特に上部ではレンズ状の砂層が発達している。これらの砂層は容易に汚染され、強い地震の際には液状化・側方流動を引き起こす。砂杭の設置で液状化を防止できるというが、実際にどれだけの効果があるかは、現実に地震が起こって見なければ判らない。
 (案)では、「万が一液状化が起こったら、噴出した土壌や水を速やかに回収(する)」と述べられているが、実際に液状化の被害現場を知らない人の発言である。大震災被災直後の現場に、そのような余裕はない。
 液状化の評価には、地表下20mまでの地質調査が必要だと、一般に言われている。専門家会議は、表層部の汚染の引き込みを極度に懸念するが、すでに、ゆりかもめ線の橋脚施工などで、有楽町層は各所で貫かれているし、もし仮に市場が移転するとすれば、構造物の基礎杭は、疑いもなく有楽町層を貫通するのであるから、この際は汚染状況をまず確認して、きちんと評価に加味するのが先決である。

 4)地下水流動に対する基礎的な認識を欠いている
 地下水問題に対する意見は、日本環境学会の畑 明郎会長による意見書中に詳述されているので、ここでは重複を避けるが、私も全く同様な懸念は共有していることを、ここに表明しておく。
 全般に、(案)に示された地下水に対する専門家会議の見解は、粗雑である。例えば、毛細管現象防止のために、入れ替え土壌中に砕石層を設ける事を提案しているが、その場合は、この砕石層が絶好の汚染水の流路となりうることを、メンバーは見落としている。シルト層の中に揚水井を設けても、思うように周辺水位の低下に繋がらずに苦労した経験は、多くの土木技術者が持ち合わせているものである。地下水位をA.P.+2mに維持し続けることに必要な揚水井のレイアウトや、ポンプの常時運転のためのコスト等が試算されていなければ、この技術的提案に対する評価は出来ないが、現状では何も示されていないのである。

 5)いわゆる「環境基準の10倍」問題は違法である
 (案)は、対策工事施工後も、A.P.+2m以深に環境基準の10倍以下の汚染地下水が残ることを認めている。この場合、果たして汚染物質が10倍以下に維持されているかどうか、常時検証が難しいという問題に合わせて、「10倍以下」という基準の決め方についての法的な妥当性の問題が残る。
 端的に言って、現在の環境基準が法的に生きている限り、今回の(案)の想定する汚染物質濃度は違法となる。工場排水基準を準用して、環境基準の10倍までは良しとする法律的な妥当性はない。少なくとも工場排水の場合は、直ちに希釈されるという性格のほかに、操業過程で人為的に制御できる、すなわち、不都合が発生した場合には直ちに放流を止められるという特性がある。汚染地下水の場合は、そんなわけには行かない。
 これらの点を考慮しないまま、「10倍基準」を持ち出すのは違法である。環境基準に則って、全体の評価をやりなおすのが、この際、都と専門家会議が取るべき方策である。


 6)PPP原則を、なぜ、守らないのか
 豊洲地区の汚染原因者は東京ガス(株)であるから、当然、今回の調査費用を含めて、土壌浄化に関する費用は、いかに巨額であろうとも、東京ガス(株)がまず負担し、都は浄化の完了を確認した上で売買契約を交わすのが筋である。いくら都が切望したからと言っても、浄化完了前に売買契約を交わし、浄化費用や専門家会議の費用をを都民の血税でまかなうのは、PPP原則に違背する。これを都民の側から見れば、都政責任者の背任行為に当たる。
 このような無理を即刻改め、大方の都民の納得が得られるような方策を、都は至急構築すべきである。そのためには「ボタンを掛け違えた」現行計画を一旦白紙に戻し、改めて開かれた場での民主的な討議を積み重ねる事を、強く主張する。
<以上>

付記:この意見書は公開しています。筆者名と引用元を明記する事を条件に、任意に利    用して頂いてかまいません。

 

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