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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080709-01-0501.html
自民と民主は本当に違うのか(その1) 座談会 与謝野 馨 前原誠司 田原総一朗
2008年7月9日 中央公論
政策論議ができない理由
田原 昨夏の参院選で民主党が大勝した直後、少なからぬメディアは「これで面白くなった」という論調で選挙結果を報道しました。私自身も、国会で丁々発止の議論が始まるかと期待した一人なのですが、ふたを開けてみると救いようのない「対立国会」になってしまった。どうしてなのか、お二人に聞きたい。
与謝野 国会が現実的な議論の場にならないのは、民主党の行動が、来たるべき総選挙での勝利という「唯一の目標」に規定されているから。これに尽きるんじゃないでしょうか。
参院選の風向きをそのままに総選挙になだれ込みたいと考えているから、形のうえでは議論する素振りを見せても、結論を出させない。そのことによるマイナスは与党がかぶって、民主党の失点にはならないのです。戦術的には正しいかもしれませんが、果たして国民にとって幸福なことなのか。
前原 今の国会状況への批判は、我々にも向けられています。ただ、プラス面も見る必要があると思うんですね。以前は、まともな論議もされないまま、自民党総務会の結論通りに重要法案が次々強行採決され、野党の主張はことごとく撥ねつけられてきました。
しかし参院選以降、我々がずっと主張してきた、「被災者生活再建支援法」に住宅本体の支援を盛り込む法改正が実現したり、介護労働者の待遇改善を図る「介護従事者処遇改善法」が成立したり、といった画期的な成果が短期間で生まれています。道路特定財源が公益法人の懐に入り天下りを支えていた、生々しい実態がさらけ出されたのも、ねじれ状況だからこそです。
田原 ただどうも、国民の目に活発な論議が行われているようには映らない。
前原 ねじれには両面あって、成果を生んだ一方で、議論が停滞していることも認めざるをえない。我々の側にも、もう少し「がっぷり四つ」に組む姿勢が必要なのかなと、率直に感じます。
田原 お二人を見ていると、自民党と民主党は一緒にやれそうに感じるのですが、なぜできないんですか?
与謝野 自民党というのは、わりに柔軟性のある政党なんですよ。いろいろご注文いただければ、変わるところは変われる。ただ現状では、民主党の側に、自民党と話し合うのは得策でないというお考えが強いのではないでしょうか。
前原 これは小沢さんに聞いていただきたいところですが、そういう雰囲気があるのは認めます。鳩山代表の時、金融危機に際して、政策新人類と呼ばれた人たちを中心に建設的な提案を行ったのですが、与党でも野党でもない「ゆ党」と呼ばれて受けがよくなかった。それに対して、今は与党を追い込むだけ追い込めば、内閣支持率が下がっているわけですから。
田原 「何でもノー」を貫き通したほうが選挙で有利だと。私が民主党のある有力者に「もっと政策論議をしたほうがいいんじゃないか」と言ったところ、「我々はやりたいが、党内に約一名、政策ではなく政局にしか関心がない人がいる」と言われました。その人物、つまり小沢さんを説得できないんですか。
前原 現場で頑張れば、「被災者生活再建支援法」改正のような動きを小沢さんも認めざるをえない。あまりに優等生的だと言われるかもしれませんが、私は国会で議論すべきものは議論してまとめていく姿勢を持ったほうがいいと、本気で思っているんです。
責任者なき「後期高齢者医療制度」
田原 政局については後ほどまた伺うとして、ねじれ国会の焦点に浮上したのが「後期高齢者医療制度」と「道路特定財源」。特に前者の評判は芳しくないですね。
与謝野 説明不足が大きかったと思うんですよ。例えば介護保険の場合は、原則として市町村が保険者だから、首長も議会も必死に説明したわけです。ところが後期高齢者医療制度の保険者は都道府県を単位とする広域連合で、市町村でも都道府県でもない。政治生命をかけて説明する人間がいなかったことが不安や不信を増幅させてしまったと思いますね。ただ、制度自体は正しいものだし、実態に応じて微調整も行われるはずです。
田原 「微調整」とおっしゃいましたが、五月半ばに、私が出演する番組のスタッフが、「新制度に伴う後期高齢者の負担増加分を現役世代が賄うとしたら、その額はどれくらいになるか」と厚生労働省に問い合わせたら、「現在、そういう調査を実施するための検討を行っている」という回答だったんですね。制度導入が決まったのは、二〇〇三年の小泉内閣。お役所は、五年経って、微調整どころか実態すら分かっていない。
与謝野 マクロで見れば、今の質問の答えは一目瞭然ですよ。現在、制度の対象になる方々の医療費の総額が一一兆円。窓口負担を除くと、保険で一〇兆円が必要です。そのうち約一割が本人の保険料による負担で、約五割を税金で賄い、約四割を現役世代の保険料で支えます。つまり制度をやめたら、現役世代は一兆円ほど負担増になります。
前原 「後期高齢者」というネーミングの悪さが響いているんじゃないですか。
田原 私も来年からその仲間入りだけど、「『前期』までは面倒をみるが……」と言われているようで。(笑)
前原 仕組み自体がまったくの「悪」だとは、私も思っていないのです。それは国民にもある程度理解されていて、NHKの世論調査でも「すぐに廃止せよ」が三三%なのに対して、「この制度をベースによりよい制度に改善すべき」という意見が五七%に上りました。
大きな問題の一つは、与謝野先生がご指摘のように、無責任体制に陥っていること。特に都道府県の知事が、自分の関与する制度だと思っていないため、補助金を出さない。その結果、「多くの人の保険料は安くなる」という政府の事前説明と食い違っています。第二に、あわせて「かかりつけ医制度」「包括支払制度」が導入されましたが、これらの施策がどれも医療費抑制策から来ているということです。
田原 「かかりつけ医」というと聞こえはいいけれども、実は医療費の伸びを抑えるのが目的だと。
前原 本当の問題は、「社会保障費の自然増を毎年二二〇〇億円ずつ減らしていく」という、〇六年の「骨太の方針」の限界が露わになっていることなのです。この皺寄せが今の「かかりつけ医」の問題や、医師不足、医療難民の増加といったかたちで出ている。国が支出を抑えたために、国民が望む医療サービスを受けられない状況になってしまったわけです。
社会保障費削減は現実的でない
田原 社会保障費の削減については、与謝野さんも批判的ですよね。
与謝野 今の前原さんの指摘には同感です。私も「骨太の方針2006」の作成に携わったんですが、歳出削減の部分は党が書いた。率直に申し上げて、二二〇〇億円というのは紙の上で「エイヤ!」と切ったもので、実証的に検証した数字ではないのです。結果的に、かなりの無理がきています。
こういうことを仄めかすと財務省の人間が飛んできて、「その話はパンドラの箱を開けるようなものだから、先生の口から出してもらっては困ります」と言うんですが、無理なものは無理なんですから。頑張ってあと一年は削れるかもしれないけれど、一一年までの五年間で一兆一〇〇〇億円削減というのは、もはや現実的ではない。
田原 その点では、前原さんと一致するわけだ。
前原 予算委員会でも今の点を質問しましたが、福田首相の認識もそれに近いですよね。
与謝野 一所懸命「パンドラの箱」を開けようとしているんですよ。ところが周囲の抵抗に遭って、苦労なさっている。
前原 〇六年に診療報酬が三・一六%引き下げられました。国会で「なぜこの数字なのか」という論議をした時に、当時の小泉首相は「過去最大の下げ幅だ」という答弁をされている。つまり、数字ありきの政治的メッセージなんですよ。「医師は余っている」と言い続けてきたわけで、事実認識からして誤っていた。
与謝野 私も何回か入院しましたが、特に勤務医と看護師の労働実態の過酷さを実感しました。
前原 医師の資格を持つフリーターが増えていると言われますね。やはり勤務医だった人たちが多く、まともに睡眠も取れないような状態で、このままでは体を壊すし、医療ミスを犯すかもしれないと辞めてしまう。現場は本当に限界にきていますよ。
必要な道路とは
田原 さて、政府与党は〇九年から道路特定財源を一般財源化すると表明しています。その言葉を信じるとしても、その後は「道路財源」としてどのくらい残るんでしょうか。
与謝野 自民党内にも誤解があって、一般財源が「余る」からと、早くも予算の争奪戦を始めている人もいるのですが、まずはこれからの道路建設をどうするのか詰めなければ、どのくらい道路以外に回るか分かりません。
大事なのは、「必要な道路をつくる」という、その「必要」のクライテリア(判定基準)をしっかりさせること。単にペイするかではなく、外部経済効果や地域経済への寄与度などを多角的に検討する必要があると思います。
前原 重要な観点だと思います。一般財源化は必要条件であって十分条件ではないのですから、どれだけ道路に回すのか、議論を尽くす必要があります。それにしても、私は国会議員になって一五年になりますが、予算に関して初めて「白地に絵の描ける」状況になりました。
与謝野 私が思うに、一般財源化を決めた福田内閣に対する評価は低すぎます。かつて日本の道路事情をよくするのに貢献した特定財源が、さまざまな歪みを内包するようになった。田中角栄時代に端を発する「負の遺産」からの脱却を意味するんですから、実は革命的なできごとです。
田原 革命の後、どんな国づくりをするかということですね。民主党はどんな絵を描こうとしているのですか?
前原 具体的な論議はこれからですが、一つ申し上げたいのは「維持管理費」の問題です。年間約五兆六〇〇〇億円の特定財源のうち、二兆円余りが費やされている。無論、圧縮を考えないといけませんが、限界があります。
加えて、わが党は菅代表時代に高速道路の無料化を掲げました。個人的には、完全無料化に疑問も抱いているのですが、仮に実行に移したら、新たに一兆から一兆五〇〇〇億円が必要になるでしょう。これらだけでも、財源の半分以上が道路に費やされる。そう考えると、今後は「必要な道路をつくる」というより、「道路建設は基本的に難しい、本当に必要な道路以外つくらない」という発想が必要で、そのことを国民にはっきり伝えるべき時だと思います。
与謝野 ただ、九八年には一一兆円近かった道路特定財源が、五兆六〇〇〇億円まで減ったのも事実です。建設費が抑制された結果、ペンディングになっている道路もある。
前原 公共事業の今後を考えるうえで、考慮すべき三つの条件があります。第一に、長期債務が国・地方合わせて七七〇兆円あるという現実。第二に、わが国は〇五年から人口減少社会に突入しています。現在、一億二七〇〇万人の人口が、五〇年には九〇〇〇万人になるという推定もあります。運転免許を持つ人も最大で四割減ると言われるような人口構成に則して、五兆六〇〇〇億円の使い道を考えなければいけない。つまり道路建設は相当程度、抑制されるべきでしょう。
第三に、医療・介護など福祉をどう充実させるのかという点。直近の問題として、〇九年には基礎年金の国庫負担率が三分の一から二分の一に引き上げられる予定ですが、この財源二兆三〇〇〇億円をどうするのか。相当思い切った道路事業費の削減に取り組まないと、時代に対応できません。
(その2へ続く)
(よさのかおる/衆議院議員)
(まえはらせいじ/衆議院議員)
(たはらそういちろう/ジャーナリスト)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20080709-02-0501.html
自民と民主は本当に違うのか(その2) 座談会 与謝野 馨 前原誠司 田原総一朗
2008年7月9日 中央公論
(その1から続く)
年金制度は維持できるか
田原 今、話に出た年金制度に対しても、国民は不安を募らせているんですが、制度のあり方を今後どうしていくべきだと考えますか?
与謝野 マクロの視点で見れば、年金とは一年間につくり出した富をリタイアした人たちにどれだけ分配するかで決まるんですね。つまり、GDPが増えないと、どんな制度にしても行き詰まる。年金制度の維持は、日本経済の発展が大前提だということです。
そのうえで目を向けなければならないのが、少子高齢化が進んで労働人口が減り、少ない人数で多くの人を支える構造が加速しているという事実。これからは元気で労働意欲のある人に、引き続き働いてもらわないといけない。六十五歳までの定年延長が言われていますが、これを形だけのものにしないための法整備や労働慣行の醸成を急がねばならないでしょう。
前原 やはり、働いて所得のある方には応分の負担をいただかないと。基礎年金ではなくて最低保障年金に移行すべきというのが、我々の主張です。
田原 どこが違うんですか?
前原 所得と関係なくフラットに給付するのではなくて、年収約六〇〇万円以上をめどに額を低減させていただくものです。
与謝野 ところが年収六〇〇万円超の方は、その年代の三%に満たないんですよ。その方々の給付をゼロにしても、たかだか三〇〇〇億〜四〇〇〇億円程度にしかならない。
前原 ですから、将来的にはストックの部分も対象に考えなければならないでしょう。現在、一五〇〇兆円と言われる個人金融資産のうち七五%は、六十歳以上の方がお持ちなんです。それを使わずに、蓄えのない現役世代に年金も医療も介護も支えてくれというのは、やはりおかしいでしょう。
与謝野 おっしゃることは分かるのですが、個人の資産を老後の資金に充ててくれという施策が、果たして政治的に可能かどうか。
小沢路線に現実性はあるのか
田原 岡田代表や前原代表の時代の民主党は、年金目的として消費税三%の増税を提案していましたが、小沢代表が就任してからは、触れなくなりましたね。これは状況が改善されたからですか?
前原 いえ、そうではありませんが、小沢代表としては徹底的な行政改革を断行して無駄を削ると……。
田原 しかし民主党は昨年の参院選で、農家の所得補償に一兆円、子育て支援に四兆八〇〇〇億円、最低保障年金に六兆三〇〇〇億円など、計一五兆三〇〇〇億円を投入すると公約した。これはバラマキじゃないですか。行革で間に合うんですか。
前原 正直言って、私は行革で一五兆三〇〇〇億円すべてを賄えるとは思っていません。これに加えて、今回道路特定財源の暫定税率も廃止すると言っているので二兆六〇〇〇億円、さらに介護従事者処遇改善のための〇・一兆円を加えると全部で一八兆円。一八兆円を行革だけで捻出するのは絶対無理ですよね。
田原 しかし、民主党は無理だと言わない。
前原 敢えて言いますが、昨年の参院選のマニフェストをまとめる時、当時の政策責任者たちの間では、最後まで、一五兆三〇〇〇億円の財源の根拠が希薄であると難色を示したと聞いています。これも最後は小沢さんの「エイヤ!」だったわけです。骨太の「二二〇〇億円」と一緒ですよ。
ですから、仮にこのまま民主党が政権を取っても大変です。私は「君子豹変」しないかぎり、まともな政権運営はできないと思いますよ。今、民主党が最もしてはならないのは、国民に対して耳触りのいいことばかり言っておいて、仮に政権を取った時に「やっぱりできません」という事態を招くこと。そして「やはり民主党の言っていたことは夢物語だった」と思われて、すぐに自民党に政権が返ること。これが最悪です。
さらなる行革はどこまで可能か
田原 与謝野さんは、どのくらいの消費税率引き上げが必要だと思われるんですか?
与謝野 五%アップで、かろうじて日本の財政はもつんじゃないか。ただ、それを国民の皆さんに納得していただくのは大変なこと。「増税分は年金、医療、介護の社会保障費として還元するためにお預かりします」「全額を国民の皆さんにお返しするもので、事務経費にも使いません」というくらいの内容じゃないと、話になりません。
前原 我々も、年金目的の三%に加えて、医療や介護のためにさらに税率の引き上げが必要だとしたら、逃げずに説得する必要があります。
同時に、行革を本気でやればかなりのお金が浮くのも事実。例えば、今の日本は国の下にその出先機関があり、都道府県、政令市、中核市、市町村と続く、多層行政ですよね。私は国、道州、基礎自治体の三層で十分だと思っています。最近、政令市を抱える県の知事にお話を伺ったところ、「県庁職員は現状の三分の一で足りる」と話していました。
与謝野 市町村で話を聞くと、確かに「県は余計な存在だ」と言う人が多いんです。おっしゃるように、行政組織の効率性を真剣に考えるべきでしょうね。
田原 国家公務員だって、三三万人のうち二一万人は地方の出先機関に出向している。いりませんよね、これは。
前原 その下にさらに公益法人を四六〇〇もつくっている。そこに天下っているのが二万七〇〇〇人、投入されている補助金は一二兆円。すべてが不要だとは言いませんが、ここにメスを入れずに増税を訴えても、国民の理解は得られないでしょう。
田原 でも、実際にメスを入れようとすると、特に自民党内部に反対する人間が多そうですね。
与謝野 そんなことはないですよ。道路特定財源の下に五〇も公益法人がぶら下がっているのは問題だ、というのは党内でも共通認識になっています。
前原 とはいえ、例えば国交省管轄の地方整備局のリストラを議題にしたら、道路族は反対するでしょう。冬柴国交相も体を張って守るはずです。翻ってわが党の内情に目を向けると、先ほど県庁の話が出ましたが、ここに手を触れようとすれば支持母体の一つである自治労が多分黙ってはいない。お互い内部にねじれを抱えているわけで、抜本的な行革が一筋縄でいかないことは間違いありません。
与謝野 私は最近、省庁再編を行った「橋本行革」は誤りだったと感じるのです。厚生労働省の仕事なんて、一人の大臣で見られるはずがない。年金、医療、介護に労働行政をカバーしようとしたら、二、三人の大臣が必要ですよ。かえって非効率になってしまったんじゃないでしょうか。
田原 橋本さんは、官僚の数を減らし、コストを減らし、権限を減らそうとした。ところが、官僚たちが表向きは「協力します」という態度を装いながら、省庁の数を減らす方向にすりかえたんですね。結局、大臣の数だけが減った。
前原 当初案には、建設省河川局を農水省に移管するとか、簡易保険の民営化とか、正直「やられた」と思うような案も盛り込まれていたのですが。
与謝野 組織を元に戻すことを考えたっていいと私は思います。
新自由主義を超えて
田原 先ほど年金に関して、経済の持続的な発展が必要だという指摘がありましたが、その日本経済の地盤沈下が著しい。九三年に世界第二位だった一人当たりのGDPが今は一八位。打開策はあるんでしょうか?
与謝野 日本経済が相対的に、少しずつ劣化しているのは事実だと思うんですよ。これを一朝一夕で上昇させようと思っても難しい。もう一度、基礎体力を鍛え直すところから始めることが肝要でしょう。まずは、日本の得意分野の科学技術に改めて光を当てることが……。
田原 ところが、先端技術の育成を目的に組まれた今年度予算は、たったの一四〇億円。道路に五兆六〇〇〇億円使っているのに。
与謝野 将来、花開かせるべき分野に投資する必要性は痛感しますね。
前原 日本経済がひ弱な理由の一つは、個別には優良な企業が存在するけれども、成長エンジンとなる産業が未熟なところにあると思います。
大事なのは、第一に国家戦略を明確にすること。先般「海洋基本法」を超党派でまとめましたが、従来目を向けてこなかった日本近海の海底に眠るレアメタルやエネルギー資源の開発のほか、海運業、漁業へのテコ入れなどを謳っています。やろうと思えば、新産業の育成は十分可能です。
第二に、いっそうの規制緩和が必要でしょう。諸外国に比してサービス業の効率性が低いのは、依然として規制に縛られているから。ジリ貧と言われる農業だって、転用を規制した農地法の縛りがなくなれば、大いに展望が広がるのではないでしょうか。
田原 とにかく「小さな政府」にして市場に任せようという、「新自由主義」が一世を風靡しました。これについてはどう評価しますか?
前原 この前、田原さんの番組で中曽根元首相が問題の本質を一言で表現されていましたね。「今は市場経済に馴染まないものまで市場に持ち込んでいる」と。具体的には社会保障などを指していたと思うのですが、ある意味、日本に新自由主義を初めて導入した方だけに、説得力を感じました。
私は小泉−−竹中路線を、それこそ聖域なく検証し直すべきだと思います。評価すべき点もあるし、さらに規制緩和すべき領域もある。一方で、行き過ぎた「改革」が、格差を表面化させているのも事実です。
与謝野 その通りです。市場は基本的に欲望のぶつかり合う場でしょう。そこで決まることがすべて「善」ということはありえない。市場に任せて放っておけば、資源が適正に配分されるなどというのは幻想ですよ。「上げ潮路線」を標榜する人には、そういう市場原理主義者が多いんだけれども。
田原 経済成長は必要だが、「上げ潮」は違うと。
与謝野 本当は、私こそ「元祖・上げ潮論者」なんですよ(笑)。ただし、経済がよくなればすべて丸く収まるとは思っていないし、市場への丸投げにも反対。前原さんがおっしゃるように、余計な規制は排除しつつ、守るべきものは守る。はっきりした意思を持った産業政策に従って経済運営を図らないといけないんです。
前原 人口減少、少子高齢化の進行という現実を見ても、生活を維持するためには経済のパイを拡大していくことが不可欠。私が舵取りの立場だったら、「一人当たりGDP世界一」を国家目標に掲げますね。例えば世界的なニーズが高まる環境関連分野では日本がアドバンテージを取れるはずですから、こうした領域に集中投資をして産業育成を図るのです。
目先の選挙よりも、大局的な日本の将来を考えるべき時だと思いますね。
田原 大局観という点で、与謝野さんは?
与謝野 日本人の持つ勤労意欲とか創造力といった人間力、そして技術力。資源を持たないわが国が繁栄し続けるためには、これを生かす道しかないんです。明治以降、それは変わるところがない。その原点に立ち返ることができるかどうか、他でもない我々政治家が与党も野党も超えて、シビアに問われているんだろうと思います。
(よさのかおる/衆議院議員)
(まえはらせいじ/衆議院議員)
(たはらそういちろう/ジャーナリスト)
※各媒体に掲載された記事を原文のまま掲載しています。
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