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http://mainichi.jp/life/job/news/20080707dde012040011000c.html
特集ワイド:あすアキバ事件から1カ月 派遣労働を考える
◇低賃金→将来が不安→自殺者増も?−−まるで「アリ地獄」
東京・秋葉原の17人殺傷事件は8日で発生から1カ月。加藤智大容疑者(25)が凶行に走った背景の一つに派遣労働の劣悪な環境の問題がある。労働者の心身に過大な負担を強いる派遣労働の「闇」について、改めて考えた。【遠藤拓】
◇フリーターを疎外する世の中 「自己責任」は聞き飽きた−−フリーライター・赤木智弘さん
◇育たぬ後継者、コスト競争のわな 社会はこのままで持つか−−慶応大教授・金子勝さん
もしかして、派遣労働とは現代の身分差別なのか?
7月初旬、事件現場近くのファミリーレストランで、日雇い派遣で生計を立てる男女から派遣労働の実態について話を聞き、そんな疑問がわいてきた。
男性(39)は都内で1人暮らし。複数の派遣会社に登録しているが、仕事がない日はざらだという。大工や引っ越しなど、力仕事の現場を行き来する。月収は10万〜20万円。
ある現場で、スタンガンをちらつかせる正社員の下で働いたときの体験が忘れられない。男性は「同じ派遣の仲間が、そいつにけられ、殴られた。スタンガンは使わなかったようだが、まるで奴隷扱いだった」と振り返る。
横浜市の女性(45)は月収10万円未満。親元だから何とか暮らせるが、将来への不安は募るばかり。仕事は荷物の仕分けや街頭でのティッシュ配りなど。夏場の仕事で、「おまえは社員ではないから」と休憩室を使わせてもらえず、炎天下の道ばたでおにぎりを食べたことがあったという。乗りかけたエレベーターから追い出され、1階から6階を階段で行き来したことも。「立場の違いを理由に、施設を貸してもらえないことが腹立たしい。こんな差別をして、人として恥ずかしくないのでしょうか」と憤る。
いつからこんな殺伐とした世の中になったのだろう。
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若者の雇用と貧困を考えるため、会いたい人がいた。フリーライターの赤木智弘さん(32)。フリーター時代の思いをつづった「『丸山眞男』をひっぱたきたい」(「論座」07年1月号)は、賛否の渦を巻き起こした。
<我々が低賃金労働者として社会に放り出されてから、もう10年以上たった。それなのに社会は我々に何も救いの手を差し出さないどころか……罵倒(ばとう)を続けている。平和が続けばこのような不平等が一生続くのだ。そうした閉塞(へいそく)状態を打破し、流動性を生み出してくれるかもしれない何か−−。その可能性のひとつが、戦争である>(「論座」より一部抜粋)
赤木さんのいう「戦争」とはどういう意味なのだろう。
「私の考える戦争は、侵略し敵を殺すのでなく攻められる戦争です。若者の貧困は今の社会の体制が破壊されなければ変わらない。その意味で戦争を提示したのです」
戦争を持ち出すのは肯定できないが、無視するにはあまりに切実な主張だ。赤木さんは事件をどう受け止めたか。
「安直には語りたくない。弱者の側が足をすくわれ、世論が『派遣労働者を徹底的に取り締まれ』となる恐れもあるから」。そう断った上で続ける。「無差別殺人は理解できないが、容疑者が追い込まれた心情は理解できる。友人関係が会社の都合ですぐ途絶える、その状況にいらだったのだろう。社会が気に入らなかったという気持ちも分かる」
赤木さんは著書「若者を見殺しにする国」(双風舎)で、フリーターを疎外する世の中に疑問を投げかけた。
「就職氷河期に正社員となれなかった若者もオッサンになる。物騒な話、生活に絶望し、加藤容疑者のように暴発する場合もあるでしょう。自殺者もきっと増える」
こうも言った。「まともに一人で生きていけるカネを稼ぐことができる。それが私にとっての尊厳です。(所得が少ないのは)『自己責任だ』との説教は聞き飽きました」
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慶応大教授(経済学)、金子勝さんは著書「2050年のわたしから」(講談社)で、暗たんたる“未来予想図”を示した。内容はこうだ。大卒の求人は派遣労働だけとなり、若者の7割はフリーター。バイト歴40年超の店員で固めたファストフード店が出現する−−。
金子さんは解説する。
「それぞれの企業がコスト競争のため非正社員を雇う。それ自体合理的な判断かもしれません。ところが、社会全体では低賃金によって内需が冷え込む。企業は人件費を抑えようと、さらに非正社員に頼ることになる。また、非正社員は結婚できず、少子化がさらに進む。すると、年金も社会保険も制度が維持できなくなる。まるでアリ地獄です」
そして企業は社員の技能や熟練を蓄積できなくなり、国際的な競争力は落ちる一方。悪いことばかりだ。金子さんはこうした事態の元凶こそ、80年代以降続く規制緩和の流れだったとみている。
「中曽根(康弘)政権以降、この国は何の戦略もなく米国の市場原理主義に追随し、村上ファンドやライブドア、グッドウィルといったあこぎなすき間産業を生んだ。他方で大勢の派遣労働者を生み、加藤容疑者も派遣だった。さらにモデルである米国がぼろぼろになったのに、この国の官僚や政治家はまだ追従をやめようとしない」
日本はどうすれば「アリ地獄」から抜け出せるのか。「中小業者が非正社員に頼るのは、私のおやじが零細企業を経営していたから分かる。でも、非正社員だけでは後継者が育たず、事業は1代で破綻(はたん)する。それがコスト競争のわななんです」
そして続けた。「社会全体がこのわなから抜けるためには、労働法制を根本的に見直し、社会保険を所得比例にして、年金を一元化する。競争は後回しにして、正社員も非正社員も等しく扱うべきです。大切なロジック(論理)は、『社会はこのままで持つか』ということ。持続可能な社会の実現には、持てる者が自分の利益に拘泥しないことです。持たざる側を排除しては、社会は統合できません」
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再び秋葉原。日雇い派遣の2人と事件現場を歩いた。事件後、舛添要一厚生労働相は「日雇い派遣は厳しく考え直すべきだ」などと話し、日雇い派遣を秋にも法改正で見直す考えを示した。男性は「加藤容疑者が世直しのヒーロー扱いされることがあってはいけない。派遣労働は事件と関係なく、変えていかなければ」と言った。
社会を覆う派遣労働の「闇」をどう振り払うのか。私たちはやっとスタートラインに立ったに過ぎないのだと思う。
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毎日新聞 2008年7月7日 東京夕刊
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