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通常国会の教訓と政権交代への課題(山口二郎)
http://www.asyura2.com/08/senkyo51/msg/629.html
投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 7 月 04 日 22:16:46: mY9T/8MdR98ug
 

http://yamaguchijiro.com/

 最後は何とも締まらない形で終わった通常国会だが、この半年の国会を振り返り、これからの政党政治の課題について考えてみたい。

 参議院における野党優位にもかかわらず、民主党には政府与党を攻めきれなかったという欲求不満が残ったであろう。参議院における内閣への問責決議も、時機を逸してしまい、空振りに終わってしまった。揮発油税暫定税率などの日切れ法案を期限切れに追い込むことには成功したが、衆議院での再可決による法案成立を阻むことはできなかった。国会同意人事や日切れ法案の処理については政府の不手際を印象づけることができ、福田政権の支持率を低下させることはできた。しかし、福田首相の不人気状態には、世論も首相自身も慣れてしまい、政局は緊張感を欠いている。

 参議院での野党優位がもたらした成果としては、次の点が上げられる。野党の法案審議における影響力が飛躍的に高まったことにより、行政府から野党へ提供される情報も格段に増えた。その結果、行政のムダや政策の失敗に関する国会論議が深まった。たとえば、道路予算の使い方をめぐる暗部を効果的に追及したことは有意義であった

 また、政策の可塑性という感覚を国民が経験することができたのも、参議院における野党優位のおかげである。政策の評価は別として、国会の多数派を入れ替えることによって法律を変えることができ、それがたとえばガソリン価格の低下という形で生活に影響を及ぼすということを人々は発見した。選挙の結果別の政策を造り出すことができるという経験をすることは、政権交代のある政党政治にとって不可欠の前提となる。

 しかし、福田政権の逃げ切りを許したことを、民主党は大いに反省しなければならない。最大の失敗は、参議院で審議を通して政府を追及することがなかった点である。既に述べたように、衆議院段階では鋭い追及ができても、衆議院と参議院の連携が欠けていた。また、一旦参議院で実体的な審議を始めてしまえば、質疑時間の消化と共に採決という手順になり、参議院で否決しても衆議院に回付され、すぐに再議決されるという事態を、民主党は最も恐れていた。そうなると、日切れ法案を期限切れに追い込むことができないからである。したがって、予算や法案の審議が参議院に舞台を移すと、多数派であるはずの野党が音無になってしまうという逆説的な現象が起こった。この点は、野党による政府への強力な追及を期待した世論を裏切った。

 従来の永田町の常識では、参議院での審議時間には相場というものがあり、それを消化すると採決をするということになっている。しかし、野党が追及を工夫し、世論の支持を得るならば、審議をほどほどで切り上げて採決するという与党の行動を阻止することもできたはずである。実際、この通常国会には、守屋武昌前防衛事務次官の汚職、イージス艦の事故、二〇〇七年度末までの年金記録の照合という政府公約の破綻、道路予算におけるムダと腐敗など、政府を攻める材料は山ほどあったはずである。これらをまともに議論していたら、審議時間が足りたはずはない。また、参議院で多数をもっているのだから、国会法一〇四条に規定されている資料提出要求権をフルに活用し、政府が都合の悪いことを隠そうとしている姿勢をあぶり出すこともできたはずである。証人喚問や参考人招致も、脇を固めてどうしても必要であることを説得できれば、仮に与党が反対しても、多数決で押し切り、世論の支持を得ることも可能だったろう。

 民主党の国会戦略においては、政局混乱主義と、政策論争主義の整理がついていなかった。この二つは決して矛盾するものではなく、有能な野党には両方が必要なのである。野党として政府与党を追い込むには、政局の混乱を引き起こすという戦術も否定すべきではない。しかし、日切れ法案や国会同意人事をテコに政局を混乱させるという戦術が限界に達したならば、正面から論戦を挑んで、理詰めで政府与党を追いつめるという両面作戦が必要である。福田首相が揮発油税の一般財源化を公約しながら、特定財源制度を十年継続するという特別措置法を多数で押し切るという矛盾を犯しただけに、野党による論理的な追及をもっと見たかったと悔やまれる。

 サミットが無事に終わっても、福田政権を浮揚する材料とまではならないであろう。自民党は甲羅に引っ込んだ亀のように、解散を先送りするに違いない。また、九月の民主党代表選挙をにらみ、痺れを切らした民主党の内紛を期待するであろう。総選挙まで一年も待たされると思うようでは、民主党に政権をとれるはずはない。

 思えば、衆議院で宮沢内閣不信任案が可決されてちょうど一五年になる。一五年といえば、ペリーが浦賀に来航してから明治維新まで、敗戦から六〇年安保までの時間である。あれから日本の政治は、政権可能な政党政治、政策本位の政党政治を目指しながら、長い長い回り道を続けてきた。それを思えば一年などあっという間である。

 野党陣営にいる政治家は、制度疲労の自民党政権を今日まで生きながらえさせたことに対する徹底的な反省と、自らの無力さを噛み締めることから、これから一年間の政治行動を考えなければならない。政治においては、何が最優先の目標であるかを見据えることが何よりも重要である。政党再編など、落城寸前の自民党が発する悪魔の囁きである。

 国会が閉じれば、野党の出番は少なくなる。しかし、相手が持久戦を決め込むなら、野党も目立とうとして焦るべきではない。未来に希望を失った若者が殺人を犯し、『蟹工船』が売れる時代である。雇用や社会保障の骨組みを立て直し、国民に未来への希望を示すために、地道な政策論が必要な時である。(週刊東洋経済6月28日号)
 


 

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