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2008年07月03日
一人の外交官でもこれだけのことが出来る
産経新聞は7月1,2,3日の三日間にわたって、「人、瞬間 あのとき あの国 あの人」という連載で一人の元外交官の仕事振りを紹介していた。
これがきわめて良質な企画であるのだ。
そこで取り上げられていた砂川昌順(48)という元外交官を私は個人的には知らない。
その経歴からみて、いわゆるキャリア外交官ではなく、また外務公務員試験を受けて採用されたノンキャリ外交官でもない。
外交官のなかには、もっぱら大使館や総領事館などの海外勤務要員として採用される外交官もいる。砂川氏もその一人なのだろう。ガーナ大使館、バーレーン大使館勤務を経て、10年足らずで外務省を辞めている。
その外交官が、外務省のどの外交官も出来なかったような仕事をしていたのだ。
1987年11月に大韓航空機爆破事件という大事件があった。北朝鮮の工作員とされる二人がバクダッド発ソウル行きの大韓航空機を空中爆破した事件だ。
拘束された一人が金賢姫という若い女性工作員であった。北朝鮮に拉致された日本人女性、田口八重子さんから日本語教育を受けていたということも、後に判明した。
その金賢姫がバーレーン内務省に偽造日本人パスポート所持で拘束されていた時、当時バーレーン日本大使館の外交官だった砂川は事情聴取のため金賢姫と会っている。
砂川は、殆ど何もしなかった大使館の幹部を尻目に、一人で金賢姫らの居場所をつきとめ、空港で面会することに成功した。
「事件のことは後でゆっくり聞けばよい。彼女の心を開かせる事が先決だ。」
没収したカメラから、恥らうように立っていた彼女の写真を見つけた時、この人(金賢姫)はまっすぐに育ったに違いないと砂川は直感した。
まっすぐな人間にはまっすぐに向き合うしかない。取調べ官としてではなく人間として。砂川は顔が引っくほど彼女に近づき、懸命に呼びかけた。「困っていることはないか?」、「不当な扱いは受けていないか?」。尋問から約40分、彼女が話し始めた・・・
ところが日本政府は、政治的摩擦をおそれて、さっさと彼女の身柄を韓国政府へ引き渡してしまう。
「まずは日本での取調べを行うべきだ」と主張した砂川の意見はまったく聞き入れられなかった。
「悔しかったし、日本政府の判断は間違っていると思った。(北朝鮮の工作など)金賢姫にはいくらでも聞きたいことはあったからです」
その大韓航空機爆破事件から約2年後。休暇をとってオーストリアのウィーンを訪れた砂川は、当地で北朝鮮の外交官と秘密裏に接触し、「日本の外交官として北朝鮮に亡命したい。主体思想を勉強させて欲しい」と持ちかけたという。
バーレーン大使館にいたころ、「複数の日本人がヨーロッパから北朝鮮に渡っている」という情報をつかんでいたからだ。この情報は後に有本恵子さんらのことと判明する。
「確認するには北朝鮮の内部に入り込むしかない。無謀な賭けであり関係者には多大な迷惑をかけるかもしれない。でも当時は『この仕事は自分にしかできない。必ずや証拠をつかみ、生きて戻ってくる』という、うぬぼれがあったのです」
だが数日後北朝鮮側は砂川の申し入れを断ってきた。砂川の「北朝鮮侵入計画」は頓挫した。
この時に、外務省という「組織」に砂川は限界を感じる。砂川はまもなく外務省を去ることとなる。
産経新聞からの引用が長くなった。
私が言いたい事は、日本という国を背負った外交官であれば、その気になればかなりの仕事ができるということである。今の外務省は、そして殆どすべての外交官は、その仕事をしていないということである。日本の外交力を無駄にしているという事である。
砂川の意見の通り金賢姫の事情聴取があの時日本当局の手で行われていたならば、拉致問題の展開も異なったものになっていたかもしれない。
ここに紹介した砂川氏の行おうとした事は、極端であり、訓令違反のところもある。
しかし、訓令の範囲内で普通の仕事をしていても、仕事に対する熱意と問題意識があれば、日本国という国家権力を背負った外交官は、かなりの事ができるのだ。
普通なら会えない様な人物とも会う事が出来るし、スパイ活動などしなくても、貴重な情報を入手することのできる機会に恵まれる。
今から思えば、私の外交官としての仕事振りは十分ではなかったと反省する。もっと、もっと良い仕事ができる環境にあったと思う。
それでも、投獄から解放された直後の南アのマンデラと二人だけで話す機会を得、南アの今日を予測する事が出来たし、欧米政府がテロリストとみなして接触を禁止していたレバノンの反米武装組織ヒズボラの領袖ナスララとも、何度も会って話した。
レバノンで知り合った人々を通じ、米国のイラク攻撃の目的や、米国ではイラクを統治できない事なども、事前に入手できたし、それを東京に報告した。
問題は、日本の指導者達や、官僚たちが、本物の仕事をしようとしない事にある。
権力に守られている事に安住し、保身を第一に考えて、危険を冒そうとしないのだ。
真実を追及し、最善の政策が何かを考える努力を、はじめからしないのだ。
「金賢姫と最初に会見した日本政府高官」と喧伝された当時の北東アジア課長(韓国、北朝鮮担当課長)は、私の同期生であった。
その彼の悪口を書きたくはないが、話の都合上あえて書かざるを得ない。
彼が、帰国後内輪の席で我々の前で最初に語った言葉が、
「いい女だったぞ。あれは処女に間違いない」で、あった。
外交官のあり方として、産経新聞に紹介された砂川氏との姿勢との、あまりに格差に心が寒くなる。
砂川氏のような外交官が外務省幹部に一人でもいるのなら、日本外交もここまで無残なことにはならなかったに違いない。
外務省は日本の外交力をみすみす放棄している。もったいない事だ。残念な事だ。
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