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「なぜ今、北朝鮮なのか」〜北朝鮮外交の柱とは〜――原田武夫語録その10
BREAKING NEWSコラム / 2008-06-13 12:17:40
(新シリーズ「原田武夫語録」は、ドイツ憲法思想からマーケット情勢分析まで幅広く言論を展開してきたIISIA代表・原田武夫の折々の言葉をご紹介するものです。単なる局面の分析に止まらない「本当の思想」をご堪能下さい!! )
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外務省に勤めていると、驚くしかないほど、他人の人事情報に詳しい同僚がたまにいる。どこから情報を仕入れてくるのか、幹部人事にとどまらず、こうやって書いている私自身の人事まで言い当ててしまうくらいなのだから、それはもはや単なる驚きを通り越してしまっている。
俸給が法律によって一律である役人にとって、唯一のインセンティブ(?)となっている人事について情報を得るには多分、上司と懇ろな付き合いをしている必要があるのだろう。しかし、私はというと、「人事は天命」とばかりに端から関心がなかったので、当然、上司との付き合いも「疎遠」な方だったのかもしれない。
ちなみに私は上司に限らず、同期ともほとんど「没交渉」だったが、「ネットワーク分析」を用いるとその合理性が実証できるらしい。つまり、「今の自分に欠けている情報を得るためには、自分と関係が重複しない人々やメディアを情報源としている人々と接触する必要がある」というわけだ(安田雪『人脈づくりの科学「人と人の関係」に隠された力を探る』日本経済新聞社)。
もっともそういう「能書き」はともかく、さすがに没交渉過ぎる私のことが心配になったのか、ある日、上司が仕事の会食の帰り途、飲みに誘ってくれた。私も外交官のはしくれであり、さすがに面と向かって上司からの誘いを断るほど無礼ではない。むしろ進んで西麻布をともに徘徊し、やがて「星条旗通り」の傍らにある、兎がトレードマークの小粋なバーに到着した。時間はすでに午後十一時をまわっている。
上司にもよりけりだとは思うものの、やはり上司が下僚を飲みに誘う時というのは「訓示調」になってしまうものだ。特に、忙しい部署だというのに、「ネットワーク分析」論の結論よろしく仕事が終わるとさっさといなくなる私に、上司はお決まりのお小言を始めた。
もっとも私にしてみれば、「時は金なり」だ。結論がわかっている議論を聞いているほど、正直こちらは「暇」ではない。そう思った私は、前々から思っていた「巨大疑問」を上司に対してぶつけてみた。
「どうして北朝鮮との国交正常化が必要なのだと思いますか? 部下たちはどういったヴィジョンを上司が持っているのか、それを知りたがっています。部下にしてみれば、自らの仕事はそのヴィジョンから演繹されるものでしょうから、ヴィジョンがなければ仕事ができないのです。」
すでに赤ら顔の上司は、一見、外交にはおよそ無関心のように見えた私が、こんなストレートな質問をしてくるのにかなり面食らったようだ。言葉を飲み込むようにして慎重に、据わった目をしながら彼はこう答えた。
「それは君、贖罪だよ、贖罪。終戦後の朝鮮半島における過去に対する贖罪だよ。それに尽きる。そう思う、僕は。」
それ以上、彼が言葉を継ぎそうもないことを確認してから、私は次のように言葉を返した。
「過去については分かりました。では、未来についてはどうですか。未来永劫、私たちは贖罪、すなわち謝り、償い続けることだけが対北朝鮮外交なのですか。」
それは君、とまた上司は繰り返し言いつつ、北東アジアにおいて北朝鮮という「独裁国家」が持っている安全保障上のリスクについて語り始めた。曰く、核問題であり、ミサイル問題、そしてそれ以外の大量破壊兵器問題もある。そうした北東アジア地域特有の安全保障上のリスクを軽減するためにも、日朝国交正常化が必要だ、と上司は言う。しかし、そこには日朝国交正常化を実現したら、何かが目に見えて変わるという「分かりやすい論理」は見えてこない。
これ以上、彼の口から「論理らしきもの」が出てこないことを見定めてから、私は自分の考えをようやく切り出した。もちろん、上司からすれば、そんな答えが私の口から出てくるとは思いも寄らなかったはずだ。
「もちろん、北朝鮮という地域を短絡的に考えることは避けるべきだとは思います。安全保障上のリスクも十分に考慮すべきですし、過去の問題もあります。さらにいえば、拉致問題という国家としての責任に関わる問題もあるでしょう。
でも私にはそれだけだとは思えないのです。むしろ私は、北朝鮮という地域を考えるとき、そこに眠っている希少鉱物については避けては通れないと思っています、そして、この点をどう考えるかによって、日本の対北朝鮮外交は大きく変わってくるとも思うのです。」
そんな君、とまたまた上司は繰り返しながら、反駁する――「確かに、レア・メタル(希少金属)の問題は資源外交の一環として避けては通れないかもしれない。しかし、よりによって『北朝鮮』についてそんな問題を持ち出してくるとは。」
北朝鮮については、専門家ではなくとも、省内で物事をむしろ知っている方に属しているはずの上司は、そう言って口を尖らせた。希少金属なんていう切り口から、北朝鮮問題といった外交上の「大問題」を考えるのは明らかに間違っている、そう言いたげだった。
だが、分からない人間にはどんな真理であっても分からないし、読んだことのない資料について会話をすることほど「優れた官僚」にとって苦になることはないだろう。そう思い、私は上司が不機嫌になる前に再び、「仕事には無関心」な下僚の姿に戻ることにした。その時の会話が、あとは空回りするだけのものとなったことは言うまでもない。
北東アジア課北朝鮮班長を務める私が北朝鮮、いや朝鮮半島全体について日本が外交を展開する時に、「過去」を忘れてはならないことを知らないわけはない。今後の日朝関係の基礎となっている政治宣言=「日朝平壌宣言」(2002年9月17日に小泉総理大臣と金正日国防委員会委員長が署名)にはいわゆる「過去の問題」に関連して、次のような条りがある。
「二、日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与及び国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。
双方は、国交正常化を実現するにあたっては、1945年8月15日以前に生じた事由に基づく両国及びその国民のすべての財産および請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした。
このように「過去の問題」に関して日本の取るべき立場はすでに明確だ。しかし、問題は「それだけなのか」という点なのである。もっといえば、およそ使われる蓋然性の少ない大量破壊兵器や、引き続き真相の徹底追及と国家責任を北朝鮮側に求めるべき拉致問題以外に、北朝鮮外交の柱はないのかということだ。
その大きな柱として私が考えているものの一つが、彼の地に眠っている希少金属なのだ。なぜそう考えるのかは、いわゆる「過去の問題」と同じく、「過去」をひもとくことによってだけ理解できる。
◇原田武夫『北朝鮮外交の真実』(筑摩書房(2005年4月刊行))より引用◇
再び問う「北朝鮮問題」とは何か〜一体何が「問題」とされてきたのか?〜――原田武夫語録その9
BREAKING NEWSコラム / 2008-06-12 12:03:22
(新シリーズ「原田武夫語録」は、ドイツ憲法思想からマーケット情勢分析まで幅広く言論を展開してきたIISIA代表・原田武夫の折々の言葉をご紹介するものです。単なる局面の分析に止まらない「本当の思想」をご堪能下さい!! )
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そもそも「北朝鮮問題」の核心は「核問題」のはずであった。2002年9月17日。満を持して決行された小泉純一郎総理大臣(当時)による電撃訪朝は、たしかに「北朝鮮による日本人拉致」というパンドラの箱を開けた。日本側からの激しい追及に不可解な対応を取り続ける北朝鮮に対し、日本の世論は激昂する。
しかし、冷静な眼差しで世界全体を見わたせば、「北朝鮮問題」の核心が「核問題」にあることは明らかであった。なぜなら、小泉訪朝(1回目)の直後に行われたケリー・アメリカ大統領特使の訪朝以降、北朝鮮を「悪の枢軸」として糾弾するアメリカが掲げたのが、「核問題」だったからである。
ところが、2005年頃より、「問題」はいつの間にかすり替わる。「核問題」をめぐる押し問答が徐々に後退していく一方で、アメリカが盛んに叫びだしたのが「北朝鮮による不法行為問題」だ。そしてこの時、「麻薬」「タバコ」と並んでアメリカが大声で非難し始めたのが、「北朝鮮による偽米ドル製造」なのであった。
2005年9月15日。アメリカ政府はマカオにある「バンコ・デルタ・アジア(BDA)を「マネーロンダリングの懸念がある金融機関」として認定。これを皮切りに、マカオを舞台とした北朝鮮による密やかな金融取引と、その背後に見え隠れする「偽米ドル問題」を盛んに攻撃し始めたのである。金融制裁の発動だ。
「核問題や拉致問題ならまだしも、たかが偽札問題となると・・・」。日本の大手メディアの関係者たちから、そんな声が私の耳にも入りつつあったころ、彗星のように登場した「作家」がいる。手嶋龍一氏(元NHKワシントン市局長)だ。その手嶋氏が上梓した作品が『ウルトラ・ダラー』(新潮社〔2006年3月初版発行〕)である。
『国家の罠』(新潮社)で時代の寵児となった佐藤優氏いわく、「「嘘のような本当」と「本当のような嘘」」(手嶋龍一・佐藤優『インテリジェンス 武器なき戦争』幻冬舎新書)が巧みに混ざったこの作品は、またたくまにベストセラーになる。その結果、小説の中で用いられた「精巧な偽米ドル札」を意味する言葉「ウルトラ・ダラー」は、日本人が普通に知る用語となった。「核や拉致だけではなく、世界の基軸通貨である米ドルまで偽造するとは。何と非道な国家なのだ、北朝鮮とは」。私たち日本人がそう思うようになるのと相前後して、2006年3月7日にアメリカの対北朝鮮金融制裁に関する初の米朝協議がニューヨークで開催される。
その後、北朝鮮によるミサイル発射(同年7月)といった間奏はあったものの「金融制裁を解除するのが先だ」とする北朝鮮と、「偽米ドル問題こそ北朝鮮による不法行為の核心」とするアメリカが互いに一歩も譲らない状況が長らく続いた。
すると突然、舞台は反転する。対決姿勢をあからさまに強めていたはずの米朝が、2007年1月16・17日の両日、ドイツ・ベルリンで米朝協議を行ったのである。その後、事態はさらに急展開する。「疑惑の巣窟」とされたバンコ・デルタ・アジアが預かっていた北朝鮮の資金の取り扱いも含め、最終的にはアメリカがまずは譲歩し、これに北朝鮮が一つ一つ踏み固めるように歩み寄ることで、「問題の解決」が叫ばれるようになった。
「アメリカが金融制裁という、「伝家の宝刀」を抜いたからこそ、北朝鮮も動かざるを得なくなったのだろう」と思われるかも知れない。しかし、客観的に見る限り、どう見てもアメリカが超大国としての余裕を持って接していたとは思えないのである。むしろ、「バンコ・デルタ・アジアに預けた資金の問題が解決されない限り、一歩足りとも動かない」と突っぱねる北朝鮮に翻弄されるかのように、アメリカ政府の高官たちが世界中を右往左往し、その結果、現在に至る「問題の解決」へとたどり着いたというのが実態なのだ。
しかも、その過程で、完全に拉致問題は視野の外に置かれてきた。確かに、アメリカなど周辺諸国はいずれも、「拉致問題は重要」とリップ・サーヴィスを忘れない。しかし、実態はというと、明らかに「日本封じ込め」「拉致問題外し」に邁進している。「日米同盟」と言いつつも、アメリカの交渉担当者・ヒル国務次官補は北朝鮮とやり取りした後、まずは中国、韓国を訪れ、その後に日本へやって来るのがパターンとなっている。これでは、もはや事後通告を聞き入れる以外、日本の外交当局にはなすすべがないであろう。
2005年3月末日に、私は北東アジア課・北朝鮮班長を最後に、外務省を辞した。そしてその直後に上梓した「北朝鮮外交の真実」(筑摩書房)において、北朝鮮問題の本質は経済利権の獲得競争にあること、さらには、対外情報工作機関を持たない日本はその蚊帳の外に置かれていることを指摘した。
さらに続く『騙すアメリカ 騙される日本』(ちくま新書)では、金融資本主義の覇者・アメリカが、同盟国であるはずの日本の国富にこそ照準をあてていることを指摘した。その後の『「日本封じ込め」の時代 日韓併合から読み解く日米同盟』(PHP新書)では、日米同盟の幻想を捨て、アメリカによる「日本封じ込め」にこそ備えるべきであることを訴えた。「金融資本主義」、「インテリジェンス」、「アメリカ」、そして「日本封じ込め」――時代はもはや疑いようのないほど、これら前著で述べたとおりの展開を見せつつある。
「どうしてこんなことになってしまったのか」。そう考える時、私たちが立ち戻るべき手がかりは他ならぬ北朝鮮問題なのだ。そして問題の核心は、核問題・拉致問題から、「偽米ドル問題」へと、いつの間にかすり替えられたところにある。「核」が「偽米ドル」にすり替わり、再び「核」に戻るというのは、どうにも納得がいかないのだ。
しかも、物事を動かしているアメリカからは何も説得がなく、日本政府から国民への説明も全くない。だからこそ、まずは誤魔化すことなく、この不可解な問題、そう、「ウルトラ・ダラー」という罠から解き放たれなければ、私たち日本人はどうにも前に進めないのである。
こうした試みは同時に、「本当のこと」を知りたい多くの日本人が、今後、自らの手でどのように知的武装を施せば、金融資本主義につきもののディスインフォメーション(虚偽情報の意図的な流布)という呪縛から逃れられるのかを探る試みにもなるであろう。私はそのために、誰でも手に入れることのできる公開情報をどのようにして読み解くべきかを、この本を通じて示していきたいと考えている。
◇原田武夫「北朝鮮vs.アメリカ─「偽米ドル」事件と大国のパワー・ゲーム」(ちくま新書(2008年1月刊行))より引用◇
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