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2007年度下半期の芥川賞は、川上未映子さんの「乳と卵」がとった。作品は『文藝春秋』に掲載されるが、合わせて載る選考委員の選評がいつも面白く興味深い。今回は何と言っても、石原慎太郎氏の選評が図抜けて笑えた。見出しは「薄くて、軽い」。川上さんの作品に触れた部分はこうだ。 「受賞と決まってしまった川上未映子氏の『乳と卵』を私はまったく認めなかった。どこででもあり得る豊胸手術をわざわざ東京までうけにくる女にとっての、乳房のメタファとしての意味が伝わってこない。前回の作品の主題の歯と同じだ。一人勝手な調子に乗ってのお喋りは私には不快でただ聞き苦しい」 他の選者が総じて高い評価をしていただけに、違いが際だっていた。あえて、選評の「選評」をすれば、石原氏が不快感を抱いているのは、作品ではなく登場人物の性格に対してのような気がする。ただ、文学作品のとらえ方は人さまざまで、石原氏に読み解く能力がないとは言い切れない。実際、数々の讃辞の中で華々しく芥川賞を受賞しながら、いつの間にか文壇から消え去った作家は数多い。 「この作品を評価しなかったということで私が将来慙愧することは恐らくあり得まい」 あらら、石原先生はそんなに自信がないのですか。もし、ベテラン作家としての矜恃に基づいて作品を批判したのなら、「私が将来慙愧することはありえない」と断定的に表現すべきだ。「恐らくあり得まい」の意味するところは、だれが考えたって、「ひょっとしたらこの作品は大変、優れていて、そのことに遅ればせながら気づくことがあるかもしれない」ということである。 石原氏の持ち味は、政治家や文学者の能力ではなくタレント性にある、と言われる。斬新な文体で登場してきた新進作家を、若くして受賞した自分が叩けば話題になる。そう判断したとしてもおかしくはない。そして「臆病」という性格が逃げの文章をつくらせたのではないか、と想像してみる。 腹の据わらない知事が言い出しっぺの新銀行東京は、破綻する運命だった。 (北村肇) |
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