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2008年3月28日 (金)
公共放送の多様性、非国家性を理解できない古森経営委員長は即刻退場を
「国際放送では国益の主張を」という古森発言
さる3月11日に開催された第1064回NHK経営委員会で放送法改正に伴う国際番組基準の一部変更が審議された際、経営委員長の古森重孝氏が、「国際放送では日本の国益を伝えるべき」と発言したことが波紋を広げている。そこで、公表されたこの会合の議事録で発言の脈絡・論点を確かめ、論評していくことにする。(以下、発言は関係する部分の摘記。全文は下記をご覧いただきたい。)
第1064回NHK経営委員会議事録
http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/giji/giji_new.html
(古森委員長)それから、第3章第2項で「解説、論調は公正な批判と見解のもとに、わが国の立場を鮮明にする」とあります。わが国の立場となると国際的な問題がいろいろあります。この場合には、日本の国益に立つということですか。
(今井副会長)国益という表現が必ずしも明確ではないと認識しております。そのうえで、公正な、さまざまな見解が存在していることも踏まえながらわが国の立場を鮮明にするということです。
(古森委員長)〔放送法〕第33条第1項は国際放送の内容を規定したものではなく、国が大事だと思う事項については要請ができるという条項です。規定したものがあるとすれば「国の重要な政策に係る事項」といった程度しかないですね。
(今井副会長)それと同時に、第33条第2項に、編集の自由ということがあります。
(多賀谷代行)編集の自由には配慮しなければなりませんが、第33条第3項に、「協会は、総務大臣から要請があったときは、これに応じるよう努めるものとする」とあります。編集の自由と要請放送に従うよう努める義務はそこでバランスになるということです。
(今井副会長)基本的には、編集の自由ということを大事にさせていただき、NHKの国際放送で報道することが一方的なものになることのないように担保したいというのが私どもの考えです。
(古森委員長) 私どもも海外のビジネスをずいぶんしてきましたが、だれも相手のことを最初から考えて話すことはしません。まずは、われわれの立場で話をします。外交でも同じことだと思います。日本は日本の立場、相手には相手の立場がある。どこで折り合いをつけるかという話が外交でありビジネスです。国内放送では放送法に「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」とありますのでそうします。しかし、国際放送の場合、いろいろな考え方があることを日本の公共放送として発信するのか、はっきり腹を決めないといけないと思います。さきほどの話では、そのとき国を代表する政府の外交方針に従ってオピニオンを述べるとのことですが、国際放送の場合には立場というものが必要です。
このやりとりで注意する必要があるのは古森氏の次の2つの認識である。
1.放送法が定めた編集の自由、多様な意見の反映は国内放送に限定されたものとみなす認識
2.国際放送は自国政府の見解にそった国益を押し出すべきという認識
まず、古森氏の1つ目の認識から吟味しておこう。
古森氏が挙げた「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにする」という定めは放送法第3条の2の第4項を指している。そして、この条文は確かに「国内放送の放送番組の編集等」に関する原則を定めたものである。しかし、ここから、国内放送とは違って国際放送では「国内放送のようにいろんな意見がありますと全部並べるだけで済むわけにもいきません」という古森氏の発言はあまりに短絡すぎる。NHKが自主放送として行う国際放送はもとより、政府の要請を受けて行う国際放送でも「編集の自由を尊重する」旨が放送法で明記された。これは、国内放送か国際放送か、NHKか民間放送かを問わず、放送全般に対する最高規範を定めた放送法第1条の2項で、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること」と明記されていることに照らして当然のことである。
これについて、国際放送をめぐって議論が交わされた1954年3月20日開催の衆議院電気通信委員会で、NHK会長・古垣鉄郎氏(当時)は次のように発言している。
「・・・・NHKが自由を与えられて最も公正に、かつ国際親善に役立つように番組を組むということになっておりますから、外部の権力をもってこれを出せということに屈することは絶対にいたさない方針でございます。それからまた放送法の中にも出ておりますように、一方の意見が出た場合には、その反対の側の意見も公正に出すようにしなければならない、そういうことも国際放送においても考えるべきでございます。そのような観点から、外部の干渉とかあるいは力というようなものに屈して番組を組む、ことに国際放送の場合に組むということは決してありませんし、将来もいたさないということを申しておきます。」(下線は醍醐が追加)
アルジャジーラのOne Opinion, the Other Opinionの社是
また、2007年3月27日に開催された参議院総務委員会で、遠山清彦議員(公明党所属)はアルジャジーラの社是を引き合いに出して、国際放送の魅力的番組制作について次のように発言している。
「私、昨年、政務官としてカタールに行きましたときにアルジャジーラの本部に参りまして、いろいろと現地でお話を伺いました。・・・・これは単にアラビア語ができる視聴者が世界的に三千万人近くいるというだけでなく、やはり私は、非常に斬新な視点と、欧米メディアにない、独自の取材努力と、そして魅力的な番組制作ということがあったからアルジャジーラは今日の地位を築いたというふうに思っておりまして、御承知のことだと思いますが、アルジャジーラの報道コンセプトは、英語でワン・オピニオン・ジ・アザー・オピニオンと。1つの意見があれば別の意見があるというスローガンでやっておりますし、・・・・」
つまり、国際放送が諸外国の視聴者を獲得し、信頼を得る最大のカギは自国の国益を背負わない、文字どおりグローバル・メディアとしての質を備えた番組を制作し発信することにある。そして、こうしたコンセプトを実践するには、一つの問題について自国の政府の見解を紹介するにとどまらず、かつまた、自国の政府の見解に寄り添うのではなく、それから常に距離を保って、自国の政府の見解と異なる意見も海外に伝える多様性を持ち続けることが不可欠である。アルジャジーラが中東の視聴者を超えて世界各地で視聴者を獲得したのも、One Opinion, the Other Opinionを社是に掲げ、以前はタブーとされてきたアラブ各国の非民主的王政や男女の不平等も正面から取り上げて世界に発信した非国家性、多様性がアラブ内外の人々に信頼を広げる魅力となったからだろう。
公共放送の価値を理解できない古森氏は経営委員として失格
さる3月1日に東京四谷で開催されたメディア総合研究所主催の「NHK『再生』の道」と題したシンポジウムの前半で基調講演に立った原俊雄(ママ)氏(元共同通信編集主幹)は公共放送でいう「公共性」の要件として、多様性、情報公開の徹底、非国家性、非市場性、自律性を挙げられた。その中で私にとって特に新鮮な響きがしたのは、まさに今回の古森氏の発言に欠ける多様性の原則、非国家性の原則だった。これらの価値の意義を理解できない古森氏はとりもなおさず、公共放送の価値を理解する能力・資質を持ち合わせない人物といって差し支えない。このような人物がこともあろうにNHKを監督する経営委員会の委員に選ばれ、その長の職に就いていることは日本の公共放送にとって大きな不幸である。これまでも、公共放送の価値を壊す言動を繰り返してきた古森氏を12月の任期切れを待たず、一日も早く経営委員会から退場させることがNHK改革を進めるための重要な一歩である。(以下、続く)
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