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石原都知事が銀行を大きくできないワケ = ITマネジメント
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投稿者 ダイナモ 日時 2008 年 3 月 20 日 14:34:31: mY9T/8MdR98ug
 

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石原都知事の「私だったら」発言


 経営悪化が明らかになった新銀行東京への、東京都の追加出資に関わる集中論議が終わった。結果がどうなるかは分からないが、結局は政治決着をどうつけるかということだ。これだけ資金が焦げ付いてしまうと、銀行業というものは成り立たない。

 都議会のやりとりを最終日の午前4時の終わりまできちんと見ていたわけではないが、今回のやりとりの中で、コンサルタントとして気になったことが1つある。

 質疑の中で、石原慎太郎東京都知事が、「私だったら、もっと銀行を大きくできた」と答えた1件だ。

 憔悴したやりとりの中で出てきた精一杯の虚勢だろう。ことさら揚げ足取りのようにいうのは酷だとは思う。ただ、経営に関わる者として、あの言葉を若者などが真に受けることはよくないとも思う。だから今回は、本当のところはどうかという話を、野暮は承知で書かせていただく。

 「石原都知事では、絶対に銀行を大きくできない」――それにはきちんとした理由がある。

 そもそも、なぜ新銀行東京の経営は悪化したのか。結果を見れば、明らかである。きちんとした審査もせずに、危ない先に次々と資金を貸し付けていったからだ。旧経営陣が、貸し出し規模を増やすことをノルマのように考えて突き進んだことに、問題の根源があったという報告書もある。

 現象面としてはその通りだとしても、問題は、なぜ旧経営陣はそのような行動をとったのかということだ。

 実は、新銀行は設立当初から、ある程度以上の規模にならないと経営が成り立たないように設計されていた。大規模なシステム、多くの支店、多数の行員……これらを抱え、スタートした結果、新銀行は最初から、急速に大きくならないと多額の損失が発生する仕組みを抱えていた。

 経営のセオリーを知る人間から見れば、全く理解できない点である。なぜなら、新銀行が目指すような中堅・中小企業に対する資金提供という事業は、急速に大きくは“できない”事業特性を持つからだ。

 どういうことか、説明しよう。

 世の中には、大きく分けて「フロービジネス」と「ストックビジネス」がある。繁華街にスーパーマーケットを新規出店するようなビジネスは、フロービジネスだ。人が集まる場所に個人客相手に大きな店を構え、商品と店員をきちんとそろえてチラシをまけば、初日からある程度の客入りを見込むことができる。

 もちろん客商売というものは、すべからく長い期間をかけて顧客との関係性を築いていかなければ成り立たないものなのだが、初日から日銭が入ってくるという意味では、スーパーの開店は典型的なフロービジネスなのである。

 これに対してストックビジネスというものは、時間をかけて顧客を積み上げていくことで成立するビジネスだ。銀行業は通常、融資業務を行わないセブン銀行のような例外を除き、ストックビジネスに分類される。それ以外にも携帯電話会社、保険会社、自動車ディーラーといったビジネスや、法人向けのビジネスの多くはすべてストックビジネスになる。

 ストックビジネスでは、ある程度の規模の顧客を抱えられるようになるまで、なかなか利益は上げられない。辛抱強く投資をしながら「顧客基盤」というストックを大きくしていくのが、ストックビジネスの事業特性なのである。

最初から無理だった、新銀行東京の事業計画

 「そうはいっても、携帯電話会社のソフトバンクはストックビジネスなのに急激に顧客基盤を獲得できているではないか」という反論もあるかもしれない。これを説明するには「与信リスク」という概念を理解する必要がある。

 フロービジネスと違い、ストックビジネスの多くは「その顧客に本当に商品を売っていいかどうか」を審査する必要がある。個人向けの“現金払いで、商品を渡しておしまい”という商品なら話は別だが、高額の生命保険の契約や3年ローンで自動車を売る場合、あるいは中小企業への事務用品販売でも、必ず、その顧客を信用していいかどうか与信審査がある。

 この審査も、リスクとなる金額が小さければ、確率計算でリスクが読める。先述の携帯電話の場合は、このリスクが比較的、小さいといえる。新規の個人顧客のうち何人かは電話代が払えなくなったり、行方知れずになってしまったり、あるいは名義貸しなどに悪用したりするかもしれない。

 しかし、こういった顧客は決して多数ではない。リスクとしてせいぜい何%かが読める。金額にしてもそれほど大きくはならない。だとすれば、その何%かの損失をあらかじめ読み込んだ料金プランにしておけば、料金の踏み倒しが経営難にまでつながることはない。

 そのように、単価が小さくて顧客の数が何百万人というストックビジネスなら、広告をガンガン打って、販売店にどんどんインセンティブを出して顧客を獲得しても成立する。

 では、銀行はどうか。

 新銀行東京は、「優良だが、銀行の貸し渋りで資金が供給されない中小企業を救済する」という目的で設立されている。その目的自体は良いことだとしても、最大の問題は、数多ある中小企業の中からそのような企業を見付けるのが無茶苦茶、難しい仕事だということだ。

 「優良だが、銀行が資金を貸さない企業」というのは、本当は数少ない。何か問題があるからこそ、貸し渋りや貸し剥がしのリストに挙げられるのだ。その意味で、新銀行にとっての“良い顧客”企業はなかなか回ってこない。確率的にいえば、新しく設立された銀行とわざわざ付き合いたいといってくる企業は、何か問題があるケースのほうが多い。

 しかも、銀行の場合は資金が数%焦げ付くと、“赤に近い、黄色信号”になる業種である。企業への融資だから、その規模は1件あたり数百万円から数千万円。後からの参入だから、担保も十分には取りにくい。そこで審査を間違えて、「経営状況が良くならないから貸し剥がしに遭っている中小企業」にお金を貸せば、お金は戻ってこないことになる。

 それが数%で危険信号、10%を超えれば完全にアウトというのが、銀行経営という仕事なのだ。

 つまり銀行業は本来、新しい取引先の数を急には増やせない。小さな取り引きから始め、少しずつ関係を深めていく。その中で相手企業のことを理解していく。銀行はストックビジネス。そのようにして付き合い始めた顧客が成長することで、銀行自身もゆっくりと成長する。本質的に、急に大きくはできないビジネスなのだ。

 だから、「ある程度の規模にしなければ成立しない」という新銀行東京の事業計画を書いた人間は、銀行業の事業特性を知らずに書いていたといわざるを得ない。ましてやその計画を認めた石原都知事も、銀行業を理解していないことは明らかなのである。そうでなければ、「最初から私が社長だったら、もっと大きな銀行にしていましたよ」などという発言は出ない。

“石原ファンド”なら大きくできた?

 石原知事の性格を考えると、実はもっといい計画があったはずだとも思う。人間にはアクセルを踏むのが得意な人間と、ブレーキを踏むのが得意な人間がいる。石原知事の良さは、アクセルを踏むところにある。東京マラソンが好例だ。石原知事の構想力とアクセルの力強さがなければ実現しないプロジェクトだっただろう。逆に、銀行業の審査のようにブレーキを踏む力が重要視される仕事は、石原知事には向いていない。

 だから同じ構想でも、「金融の場合にアクセルを踏めるものは何か」ということを、もっと金融の分かる人間が、石原知事に教えてあげるべきだったのではないだろうか。

 企業財務の基本に立ち戻れば、不況期に中小企業を支援するのは、銀行のような負債の供給者ではなく、ベンチャーキャピタルやバイアウトファンドのように、資本をリスクマネーとして提供する金融機関のほうが、在り方としては正しい。

 銀行はアクセルを踏みすぎてはいけないが、リスクマネーはある程度、アクセルを踏まなければ前には進めない。その意味でいえば、“石原銀行”よりは“石原ファンド”のほうが理にかなっていたのではないか。

 リスクマネーを銀行が無担保で提供してはいけない。それが金融業というものの本質である。とはいえ、ファンド業も金融業。特性や性格を理解した人物をトップに据えないと、新銀行の二の舞になるのは同じことだ。

 当然のことながら、出資してダメならファンドも破綻するのだから、きちんとエグジット(回収)できる先を探して投資し、その企業を育てない限りは事業として成立しない。ファンド業もストックビジネス。1件1件の審査は厳しくなければ成立できないビジネスだ。ただ、ファンドの場合、人員体制としてはスモールスタートができる。ここは大きな利点である。

 本当のところ、石原知事も金融のことをまったく分かっていないなどということはないはずだ。だが、今回は間違えてしまった。人選もそうだが、事業計画の選定についても、完全に間違えた。憔悴しながら議会と戦う知事の姿を見ていると、この1件は、どこかで早期に決着をつけてほしいと思う。

 少なくとも、金融の分かっている人間の目で見れば、「これから何とかなる」ような問題では決してない。選択肢はただ2つ。銀行を清算して預金者に泣いてもらうか、銀行に追加出資してその分を納税者に泣いてもらうかしかない。

 そのうえで、残った健全な融資先はいずれかの段階できちんと機能できる別の金融機関に営業譲渡したほうが、取引先にとっても幸せなはずだ。あとは見た目の損失を隠すような、事を取り繕うためのスキームの議論でしかない。つぶれてしまった融資先から、貸したお金は返ってこないのだ。

 このあたり、小泉改革で国土交通省の官僚たちを相手に税金の無駄使いと正面から戦った猪瀬直樹副都知事あたりが、本当のところどうなのか、老知事と都の幹部に優しく諭して差し上げるべき問題なのではないだろうかと、僕は思うのである。


鈴木貴博氏(百年コンサルティング 代表取締役)
 

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