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グラミン銀行の教え 週のはじめに考える(中日新聞)
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投稿者 そのまんま西 日時 2008 年 3 月 16 日 09:53:58: sypgvaaYz82Hc
 

グラミン銀行の教え 週のはじめに考える(中日新聞)
2008年3月16日

 マックス・ウェーバーの「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」から百年、予言通り倫理が消えた感があります。倫理や理想を失った世界は空虚です。

 富める者がますます富むグローバル経済の時代。つい最近、米経済誌に発表された世界の長者番付には、なるほど「富の集中と偏在」が示されていました。

 十二年連続の米マイクロソフトのビル・ゲイツ会長に代わって世界一の金持ちになったのは米投資家のウォーレン・バフェット氏。新聞配達での資金を元手に財をなした立志伝中の人物らしく、資産総額は六百二十億ドル(約六兆二千億円)でした。

 消えたエリートの誇り

 十億ドル(一千億円)以上の資産保有者は千百二十五人。初めて千人を突破したそうで、国別では当然のことながら米国がトップで四百六十九人、やはりロシア、インド、中国の新興国の躍進めざましく、ロシアが八十七人でドイツを抜いて二位、インドが五十三人の四位、中国四十二人五位の順で、日本は前年と同じ二十四人の十位でした。

 もっとも世界の富豪といっても、億や兆の金がどんなものか実感がもてないせいもあって、羨望(せんぼう)も湧(わ)きませんが、米国の企業経営者の巨額報酬をめぐるニュースには、時としてカッとさせられることがあります。

 創業以来最大の赤字を計上した大手自動車会社の社長兼最高経営責任者の報酬が三十三億五千万円だったり、信用力の低い人向け住宅ローンの巨額損失で引責辞任した証券会社の会長兼最高経営責任者の退職金が百十七億円だったり、その途方もなさがどうにも理解できないからです。

 世界のエリートたちにはその地位にふさわしい自己犠牲や高貴なる者ゆえの義務への期待があります。そのノブレス・オブリージュがみられないのが残念なのです。あの近代資本主義推進の原動力になったはずのピューリタンたちの天職意識や職業倫理信仰心や禁欲精神は痕跡すら残っていないのでしょうか。   

 経済は人間のためにある

 米国を源流にした市場原理主義とグローバル経済がもたらしたのは世界での二極化でした。消費を享受する先進国と飢える途上国、国内の都市と地方、勝ち組と負け組。しかも勝者はごくひと握りとの冷徹な原理に貫かれています。もし、理想や倫理、人間としての思いやりが失われてしまったら、世界の未来は暗澹(あんたん)たるものになってしまいます。 

 しかし経済が強者だけのものでなく、人間のためにあることや社会のための小さな行動が偉大な業績になっていくこともあることを示した実践例がバングラデシュにあります。二〇〇六年にノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏のグラミン銀行の活動と貧困との戦いです。

 バングラデシュは、サイクロン、洪水、飢餓の自然災害にたびたび見舞われる世界最貧国。何度か取材の経験がありますが、どんな日本人の生活も王侯貴族に思えるほど暗く沈んだ国との印象が残ります。

 チッタゴン大学の経済学部長だったユヌス氏を銀行家へ転身させたのは一九七四年の大飢饉(ききん)でした。経済学は目の前の飢えた人々には全く無力だったからです。経済学は初めから貧しい人々を除外し、社会的良心を微塵(みじん)も持ち合わせず貧困問題など見捨てていました。

 わずか二十七ドルがないために重労働と悲惨な生活に縛り付けられていた四十二世帯の女性に金を貸したのが始まりでした。「貧しい」「女性」「無担保」。常識を覆すものでしたが常識こそ偏見でした。

 貧しい人々にとって資金こそ現状打破の唯一の機会、ローン返済に失敗したら生きていけないから返済するのです。最も苦しんでいるのが女性で、子どもと家族のことに心を砕いているからこそ男性より懸命に働き、早く自立したのです。未来を握るのは女性でした。

 貧しい者への無担保、少額融資の「マイクロクレジット」は二百三十万世帯。世界の六十カ国に広がりましたが、グラミン銀行の活動を根底で支えるのは人間への信頼です。ユヌス氏は自伝で「人々は愚かで怠惰だから貧しくなったのではない。構造的問題だ」「一人一人がとてつもない可能性を秘めている。たとえ一人であっても、他の人々の生活に時間を超えて影響を与えることができる」と語っています。

 多くのユヌス氏がいる

 グローバル化の進展のなかで、日本も政治、経済、社会のあらゆる局面で変革が迫られています。賃金抑制と非正規雇用、生活保護世帯や貧困層の増大など明るい材料ばかりではありませんが、何より人間のための政治経済システムや社会が構築されなければなりません。

 惰性の道路行政でいいのか、みんなが暮らしていける社会保障制度や、所得再配分システムとなっているのか。

 われわれの身近に多くのユヌス氏が存在しています。そこに勇気と希望をみたいと思います。

http://www.chunichi.co.jp/article/column/editorial/CK2008031602095788.html
  

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