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http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2008021702088189.html
【社説】
週のはじめに考える オーケストラの外交力
2008年2月17日
米クラシック界の名門、ニューヨークフィルが平壌で親善公演に臨みます。異例のオーケストラ外交は音楽を本当に必要としている人々にまで届くのでしょうか。
ピッチをそろえるオーボエの音色が静かに流れます。各パート思い思いのチューニングが始まり、柔らかな不協和音が会場を包むと、コンサートへの期待が一段と高まります。
北朝鮮の招聘(しょうへい)を受けてニューヨーク・フィルハーモニックが平壌公演を行う、というニュースは昨年十二月に発表されました。
演目は「アメリカ史」
ニューヨークで行われた記者会見では、朴吉淵・北朝鮮国連大使、ザリン・メータ・NYフィル代表がそれぞれ「両国の友好親善の促進のため」「開かれた国になるための支援」と型通りに述べ、米朝関係、六カ国協議といった懸案の政治問題については一切触れませんでした。
一行のアジアツアーはすでに始まっており、台湾、香港、上海、北京各地を順次訪問中です。平壌公演は二十六日に行われ、帰路、ソウル公演も予定されています。
平壌で演奏されるドボルザークの交響曲第九番「新世界より」、ガーシュインの交響詩「パリのアメリカ人」の曲目選定には、アメリカの歴史を少しでも伝えたい、という気持ちが込められているようです。
聴く者の心身に直接沁(し)みるせいでしょうか、音楽には言葉にはない感化力があります。個人にも、民族にも、国家にもそれは作用します。
好ましい面ばかりではありません。集団的な熱狂、陶酔すら生む影響力は時に為政者が政治利用し、不幸な歴史も刻んできました。
ワーグナーはそんな悲劇性を宿した典型的な音楽家でしょう。濃密なロマン主義、民族的な題材から、過去ナチスと深く結びつき、今もその作品評価に影響を及ぼしています。
チャプリンの「独裁者」
平壌公演ではそのワーグナーのオペラ「ローエングリン」序曲も演奏されます。結婚式の定番となっている結婚行進曲が含まれる第三幕への序曲です。
今回は演奏されませんが、同じローエングリンの第一幕への序曲を、思いがけない局面で耳にしたことがあります。東欧革命の最終章を担ったルーマニア革命の最中でした。
一九八九年十二月末、チャウシェスク大統領が倒された翌日、ブカレスト市内のホテルでテレビをつけると、映し出された映像はチャプリンの「独裁者」でした。
大統領のコレクションにあったビデオを、解放されたばかりのテレビ局が放映したのです。チャプリンが総統執務室で地球儀と戯れるシーンはよく知られています。その背後で流れるのがこの曲でした。
世界制覇の夢を乗せて宙に浮かぶ地球儀は曲の半ばで無残に破裂します。「非人間的な圧政に屈するな」とチャプリンが演説するラストシーンでも同じ曲が流れます。
この場面にワーグナーを選んだチャプリンの辛辣(しんらつ)さ、革命の解放感をこの作品に込めたルーマニアの人々の心情に胸打たれる思いでした。
ルーマニア革命には北朝鮮指導部が重大な関心を寄せ、核開発計画を本格化させるきっかけともなりました。
NYフィルの音楽監督を九一年から務めたクルト・マズアさんは旧東独出身でした。マズアさんはライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団の指揮者を長く務めましたが、その地元ライプチヒで民主化運動が広がり、恒例となった月曜集会が流血の事態と化す恐れが生じると芸術家仲間有志と声明を発表し、治安部隊との衝突を未然に防ぐため大きな役割を果たしました。月曜集会の高まりはベルリンの壁崩壊につながりました。
NYフィルは五九年、レナード・バーンスタイン音楽監督の時代にソ連を訪問するなど、積極的に社会活動を行ってきましたが、北朝鮮への演奏旅行は、オーケストラ百六十年以上の歴史でももちろん初めてです。
米国内では「北朝鮮の宣伝に乗せられるだけ」との厳しい批判があります。メンバーには韓国出身者がいます。日本人も含まれています。それぞれ複雑な気持ちを抱いての参加になります。NYフィルにとっても大きな冒険に違いありません。
旧東独首相と音楽家
朝鮮半島問題はよく東西ドイツと対比されます。東独最後の首相となったロータ・デメジエールさんは、もともとオーケストラのビオラ奏者でした。統一後請われて韓国を訪問、朝鮮半島問題への助言をしたこともあります。
欧州安保協力機構(OSCE)のような文化交流も含めた息の長い地域対話の仕組みをアジアにも作るべきだ、というのが持論です。六カ国協議の定着で、その趣旨は形を成しつつあるとも言えます。
「音楽は常に最良の外交官です」。NYフィルの試みに期待を寄せるデメジエールさんの思いが結実するのはいつでしょうか。
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