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労働法制をめぐる攻防と当面する課題労働3法のバランスシート昨年七月の参議院選挙で与野党が逆転し、通常国会から継続審議となっていた労働契約法案、最低賃金法改定案、労働基準法改定案の労働三法案の行方が一躍注目された。だが一挙に浮上した年金問題と対テロ特措法の裏で自公与党と民主党の間で政府案に対する修正協議がまとまり、「静かに」成立させられてしまった。経過を見てみよう。十一月一日の与野党協議で修正案がまとまり、八日に衆議院本会議で採決され、二十七日に参議院本会議で採択された。実質一カ月にもみたない審議期間で片づけられてしまったのである。労働契約法案は、資本・財界が求めていた「日本版エグゼンプション」や「解雇の金銭解決」制度ははずされたものの、就業規則による労働条件の不利益変更を可能にする条項は修正されず、かろうじて民主党が主張していた「就労の実態に応じて均衡を考慮しつつ」「仕事と生活の調和にも配慮しつつ」という文言が入れられただけであった。労働側が一貫して労働契約法案に求めたパートや派遣社員と正社員との待遇格差を是正していくための実質的改善は全く盛り込まれなかった。逆に資本の側は「不十分」であっても、非正規の拡大、成果給などの労働の個別契約に対して使用者側の労働条件の押しつけを一定合法化できる契約法を手にしたといえるだろう。 最賃法の改正においても、政府案の「生活保護との整合性に配慮する」は維持され、民主党が主張していた「労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう」という憲法二五条の精神は盛り込まれたが、民主党や労働組合側が繰り返し主張していた全国一律最賃制や時給千円以上の要求は簡単に取り下げられてしまった。与党は「精神条項」では譲歩したが、格差・貧困の温床の一翼である最賃制の「実体」には全く手をつけさせなかったと言える。地域最賃の引上げ額が数年振りに全国平均で十四円と二桁に乗ったが、時給六百八十七円、年収百三十万円台では「貧困」の解決には程遠いことは明白である。政府や資本が依然として「生活保護費との整合性」「企業の賃金支払い能力を考慮して定める」という現行最賃法の規定を維持しようとする限り、改定案は依然として「対決」の中心的課題であり続ける。 労働三法のうち労働基準法改定案だけが与野党の「折り合い」がつかず国会での成立は見送られた。月間八十時間を超えた残業の割増率を二五%〜五〇%に引き上げるとする政府案に対して、民主党はすべての残業を五〇%に引き上げるというものであったが、財界は「利益が上がらない」と反発し、労働者の中でのそもそも「月八十時間残業」という超長労働時間を前提に残業問題を金銭問題に切り縮めるのは「おかしい」という反発の結果、民主党も見送りに合意したというのが正直な経過であろう。 政府と資本は日本版エグゼンプション制や解雇の金銭解決制度の導入を断念したわけではない。攻防は次の局面に引き延ばされただけである。 「成果と限界」超える闘いバブルの崩壊以後、企業危機を背景としてリストラの嵐が吹き荒れ、「規制緩和」の名のもとに非正規労働者が急速に拡大し、不安定雇用が増大した。とりわけ小泉政権は、「改革」、「古い自民党をぶっ壊す!」という得意のワンフレーズ的スローガンを掲げ、一方ではアメリカの「対テロ戦争」の一翼を担い、他方では新自由主義的、構造改革」路線を全面化させた。郵政民営化はこの頂点をなすものであった。この結果、今日日本における非正規労働者は全労働者の四割近くにもなろうとし、ワーキング・プアと呼ばれる、年収が二百万円にも達せず住居さえ持てない労働者がつくり出されている。加えて地方の商工業は壊滅的な打撃を受け、農業は全国的に衰退し、誰もが認めざるを得ない「格差社会」が現出した。 二〇〇七年、政府・財界はこの「格差社会」を資本にとってさらに「安定的」に収奪できる社会システムとするために「労働ビッグバン」「御手洗ビジョン」を押し進めようとした。この「御手洗ビジョン」が意図しているのは、労働者の権利を保障・保護している様々な制度を解体し、使用者の新自由主義的政策に対して意のままになる労働者と労働現場を形成しようとするものである。つまり戦後労働法制に変わり、労働時間の裁量化(日本版エグゼンプション)や派遣労働の期間制撤廃などの「新たな骨格」による労働法制を確立しようと目論んだのである。 だが二〇〇七年は政府と資本の思惑に反して「格差」と「貧困」に対する労働者人民の怒りが噴き出す年となった。この事実を最も典型的に表現したのが昨年七月の参議院選における自民党の大敗北―民主党の大躍進であった。参議院での与野党逆転は、すでに述べたように財界と一体である経済財政諮問委員会の意を受けた労働三法案を修正させたり、労働基準法の改定案のように廃案に追い込むという一定の「成果」をあげている。しかし、この「成果」は「限界」と表裏一体である。 多くの「成果と限界」は、民主党に依存しているという事実の現れである。民主党は労働契約法案でも最賃改定案に対しても「対案」を提出しておきながら、早々と与党との修正合意に走り、「対案」を降ろしたのである。この結果、労働契約法案では共産党と社民党と一部の無所属だけが反対することとなり、最賃法改定案では共産党だけが反対し、「資本による反撃」の火種を残すことになったのである。 しかし今、この民主党の「成果と限界」を超えていく闘いが広がっている。ワーキング・プアの温床でもある「日雇いスポット派遣」を告発する闘いが始まり、人材派遣業最大手であるグッドウィルと対決するユニオンが結成され資本を追い込んでいる。そしてこうした闘いに呼応するように非正規の若者によるユニオンの結成が全国に広がり始めている。同時に資本の「日本版エグゼンプション」の先行実施を告発する闘いが始まり、一月二十八日にはハンバーガーチェーン「日本マクドナルド」の店長は「管理監督者」ではないから、時間外手当を支払わないのは違法であるという判決を東京地裁で勝ち取っている。こうした日常的な資本を追い込む闘いだけが、労働三法をめぐって表現された「成果と限界」を超えることを可能にする。 格差の根幹支える派遣労働〇七年八月末から労政審職業安定分科会の労働力需給制度部会で派遣法見直しのための本格的検討が開始された。見直しの方向は当然にも日本経団連会長であり、キャノン会長である御手洗の「派遣の直接雇用は難しい。直接雇用を規定している法律を変えるべき」という発言に沿ったものであることは明白である。それは昨年の労働三法を「改悪」した上で、資本がさらに新自由主義的規制緩和に一歩踏み込む問題として位置付けられていた。だが労働三法の「改悪」の攻防が「引き分け」に終わったために、資本の側にとって派遣法の改定は巻き返しのために絶対に引けない一線となってしまったのである。厚労省がまとめた〇六年度の「労働者派遣事業報告」によると派遣で働く労働者は三百二十一万人も達し、前年度比でも二六%も増加している。一年間で八十万人も派遣労働者が増大しているのである。それに対応して派遣会社の年間売上高も前年度比で三四%も増え、総売上げ額は五兆円を突破している。 一九八六年に派遣労働は「専門性を生かして働ける、働く時間を選んで自由に働ける」といううたい文句で決して現在の「口入れ稼業」ではないと宣言し、労働組合や日弁連、学者などの反対を押し切って十六業務に限り解禁された。それが一九九六年には対象業務が二十六業務に拡大され、ついに一九九九年の改定では財界の要求を全面的に入れ、「派遣対象業務を原則自由化」し、建設、港湾、警備、医療を除くすべての業務が派遣が可能となり、完全に骨抜きにしてしまった。その上、二〇〇三年には「製造業への派遣」を一定期間に限って認め、さらに派遣労働者の事前面接を「紹介予定派遣」として解禁し、「期間」規定を空洞化させただけではなく今日の「偽装請負」に全面的に道を開いたのである。 企業にとって「使い勝手が良く、経費削減」となるために、禁止されている建設、港湾などの業務への「違法派遣」、派遣した労働者が派遣先から別の現場に派遣される「二重派遣」、労働者の安全義務責任を逃れるための「偽装請負」という形で一挙に派遣労働は急増した。他方、こうした急増化は派遣労働が「無法の巣窟」となって派遣労働者の雇用環境を次々に悪化させていったのである。この結果派遣労働者の半数が年収二百万円以下で、社会保険にも加入できない「ネットカフェ難民」や「ワーキング・プア」と呼ばれる人間としての尊厳を踏みにじられる差別を受け、使い捨てにされていったのである。そして最も重要で核心的な問題は、トヨタ、キャノン、松下などの日本を代表する企業が、「偽装請負」「違法派遣」を利用し空前の利益をむさぼり続けたのである。 財務省の〇六年の統計では資本金十億円以上の企業役員の報酬がこの十年で二倍になっているのに、逆に労働者の平均賃金は一〇%も減少し、三百万円以下の非正規労働者が拡大し、派遣労働者に至っては二百万円以下という「格差」がつくられたのである。前に述べたようにこの「格差」への怒りが参院選における与野党を逆転させる一要素となったことは明白であるが、「怒り」をもう一歩押し進めることが問われている。この当面の攻防が派遣法の改定である。 抜本改正のための4基準派遣法の見直し討論が開始されるのと並行して「日雇いスポット派遣」の非人間的な実態がマスコミを通じて明らかにされ、グッドウィル・ユニオンの結成など新たな闘いは「データ装備費」など名目で給料からの違法な天引き問題に始まり、四〇%を超す手数料・マージン、二重派遣などの違法行為を次々と満天下に引きずり出した。この結果、厚労省は日雇い派遣大手のグッドウィルに対して、七百八支店全体に二〜四カ月の事業停止命令と事業改善命令を出さざるを得なかった。さらにグッドウィルと組んで二重派遣していた佐川グローバルロジスティック、グローバルサポートなどに事業改善命令、また倉庫業務に労働者を送り込んでいた東和リースを職業安定法違反で告発した。他方厚労省は一月十六日、「日雇い派遣」を規制する新たな指針を発表した。内容は「データ装備費」などの横行している賃金からの不正天引きなどの禁止を明記しているが、切望されていたピンはねをチェックするためのマージン率の公開は見送られ、安定雇用のための契約期間の長期化についても「可能な限り長く定める」という形の努力義務にとどめている。 厚労省が一月になって出してきたグッドウィルなどへの事業停止命令と「『日雇い派遣』を規制する新たな指針」の発表は、派遣法の抜本的改正を求める世論の高まりと運動・闘いの広がりをかわすための一時しのぎである。今「見直し」のための改正案を出すと一九九九年の対象業務の「原則自由化」どころか一九八六年の派遣法の成立段階に戻らざる得ないが故に、「指針」ですまそうとしているのである。そのためには「介護」問題の時と同様にグッドウィルを切り捨てるつもりなのである。再度トヨタ、キャノンなどの大企業が「あぶり出」される前に、トカゲの尻尾切りで逃げようとしているのである。それは同時に総資本の意志でもある。 われわれに問われているのは、格差社会をつくり出す根本的要因であった新自由主義的な労働の規制緩和を今こそ打ち破ることであり、この中心的攻撃政策であった派遣法の抜本的改正である。そのためには多くの労働組合や法曹弁護団が主張するように次の項目の明文化を要求することが重要である。第一は、現代の「口入れ屋」的構造を解体するために、直接雇用を明文化することであり、第二は、「日雇いスポット派遣」に象徴される「細切れ不安定雇用」を抜本的に見直し常用雇用への転換をはかることであり、第三は、派遣会社の資格要件を厳しくし、マージン率の公開とマージン率の上限を法的に規制することである。第四は、派遣労働者が加盟できる社会保険システムの確立であり、使い捨てを許さないことである。 派遣法の矛盾、非人間性を告発したのは労働者の闘いであり、ユニオンに代表される労働組合の力であった。資本や企業の一つ一つの攻撃を食い止め、打ち破るのは労働現場での団結であり闘いである。すでに、労働者派遣法の抜本改正を求める院内集会が三回実現し、与党の公明党までもここには参加している。政府が「改正」についての法案を出さないことをはっきりさせているなかで、野党を中心に「改正案」が論議され、通常国会への提出をめざしている。今こそ、運動と闘いを労働組合として結実させていかなければならない。派遣法の抜本改正の闘いはその出発である。 (松原雄二) -------------------- |
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