私は船場吉兆心斎橋店でパート従業員として11年間働いてきました。去年の11月にアルバイト・派遣・パート関西労働組合に加入しました。
まず、皆さんもご存知のように、船場吉兆では今回の一連の食品偽装事件がおきて、従業員が大量に職を失うことになりました。約180人おりました従業員のうち110名が一応形としては希望退職ですが、実質上解雇に近い形で職を失いました。これは退職金なども一切ないし、有給などもとらない状態で、とりあえず1ヶ月の給料保障のみの退職になってしまいました。
「もう自分の仕事がなくなる」
会社から従業員に最初に説明がない状態で、10月に食品偽装のテレビ放送が始まりました。当たり前ことですけれども、自分の会社が特に悪いことをしてないと思って普通に働いていたので、テレビのニュースを見た時、職場の仲間から電話が入って「テレビをみたか」とか、メールが入ったり、慌ててインターネットで調べたり、そういう状況が随分続きました。会社から一切説明もなく、店の責任者に聞いても、その人もわからない状態でした。あとは新聞を買ったり、インターネットを見て、話のつじつまを合わせて、誰が嘘をついているのか自分で推理していく状態がずっと続きました。
11月16日に大阪府警が船場吉兆の本店を家宅捜査というニュースをテレビで見ました。私はフロントですが、その時ちょうど後輩と一緒にフロントにいました。これはもう逮捕者が出る、イコール単純に倒産と考えました。すごく単純だけれども、もう自分の仕事はなくなる、店はもうやっていくことはできないと、普通にそう考えました。
慌てるなか知人の紹介で、大阪市にあるアルバイト・派遣・パート関西労働組合に相談に行きました。まず2人で相談に行ったが、その段階で一方の仲間は加入してさっそく労働組合を作って通知しようと主張しました。私は、やはり人数が必要だと考えたので、いったん帰って職場の数名の仲間に話しました。職場は調理人以外全員女性です。女性の仲間の中でも気の強い、はっきり発言するようなメンバーに声をかけて、もう一度組合事務所に行って説明を受けました。 写真↑ WSFグローバルアクションのワークショップで船場吉兆での闘いを報告する有川洋美さん(1/26 町屋文化センター)
「恐怖」の下で組合結成通知書を持参
それである程度みんなも理解しました。普通なら労働組合を作ったら、それを通知し、自分たちの意見をはっきり言うのですが、私たちの会社にはそういう社内体質がない中での行動を始めました。皆は、できれば穏便に終わらせたい、できれば会社から何かしらの保障とか説明があれば、それで終わらせたいという気持ちがすごく働いていました。2、3日待ちましたが、最終的にはやはりなしのつぶてで、何にも連絡もありませんでした。
週明けに10数名が組合に加入し、翌日に直接船場吉兆本店に手渡しに行くことにしました。ファックスでもよかったが、その時お店が外部と交流をとらない、電話にも出ない状態だったので「もう持って行ったほうがいいでしょう」というアドバイスもありました。自分の中でもこれができなければ、これから先続くだろう団体交渉とか、社長や女将さんに物をはっきりと言えない状態でした。まず自分たちがその恐怖を越えないことには前には進めないと思いましたので、直接持っていきました。やはり非常に「怖い」という意識でいっぱいで、その後も震えがとまらない状態でした。そういった状態で、まず組合に加入しました。
団体交渉を数回続けていく中で、その「怖い」という気持ちは消えてきました。「経営者も同じ人間なんだ」、「自分たちは対等に発言する権利がある」ことを学ぶことができました。そして、自分たちに実は多くの権利があることも知りました。例えば有給休暇です。アルバイトなので、会社によっては有給休暇をくれていた会社が記憶にあったんですが、アルバイトにはないという意識が強くありました。他のメンバーもそうですが、自分に有給があることをみんな知らない状態でした。そういう感じで働き続いていたわけです。学校でどうして労働者の権利を教えないのか?
今よく「権利の濫用」と言われますが、「権利の濫用」などしているのは本当にごく一部で、そういう本が出ているけど、実際その本どおりやっている人はいないと思います。実際は「濫用」ではなくて「未使用」と「知らされてない」ことが多いと思います。ですから、派遣・パート関西労組に行ってすごくわかりやすい冊子を見せてもらって勉強していく中で、どうして学校で教えてくれないのかと思いました。だから今後は、そういった権利は、ただ「こういう権利がありますよ」ではなくて、例えば、学校で社会の巣立つ寸前とか、高校で就職する生徒たちや大学に行くにしてもアルバイトしたりするわけですから、働こうとする子供たちに自分たちは実際今の法律の中で具体的にこういう権利があるのだと教えていかないといけないと思います。
教育者たちが大事な生徒、子供たちを守らないのがすごく不思議です。教えることが、その子供たちが社会に巣立った時に、本当に形だけの法律ではなくて、その法律をうまく自分で活用して、自分を守っていくことにつながると思います。ここに教師の方がいらっしゃったら、今後道徳の時間とか就職の生徒とかにそういう話をしてあげたらどうかと思います。知らないから使わないとことが非常に多いと思います。船場吉兆は「鬼の住む館」
船場吉兆の経営者と社内体質に対して「怖い」という思いがありました。今日も東京吉兆の本店に要請文を持って行ったが、東京吉兆の女将さんがいました。自分の直接の上司ではないが、やはり「怖い」と思いましたし。絶対的に服従させようとする体質がやはり見えました。東京吉兆も「ご主人」、「女将さん」、「若ご主人」、「店長」と4人の家族です。店長は次男坊で、お客さんたちには「ぼん」と呼ばれます。本店は「館(ヤカタ)」と呼ばれ、言い方はすごく独特で、仲居さんについて先輩の仲居さんは「お姉さん」と呼びます。お姉さんたちは館でご主人のことを「お父さん」と呼び、女将さんのことは「お母さん」と呼んだりします。非常に家族的な感じですが、そこに入れない人間には「鬼の住む館」のような怖いところです。
調理人の中に料理長がいます。仲居、お姉さんには仲居頭がいます。あとは帳場、フロントですが、本店では女将が仕切ります。お燗場というのはお茶を入れる係りで、だいたい高齢の方がやられます。洗い場の方も高齢の方がやられます。先ほど池田さん(ガテン系連帯)も言ったように、やはり同じ社内にいろんな雇用状態が存在しています。私たちの心斎橋店には派遣の仲居はいませんが、本店では派遣の仲居さんもいたそうです。事務員にも派遣の人がいたらしいです。 写真↑ 「格差をなくせ!貧困なくせ!非正規労働者の未来と労働組合の役割」分科会ではパネラーと参加者から派遣、パート、外国人研修生など非正規労働者のすさまじい実態と闘いの展望が報告された
超低賃金、残業代なしの長時間労働
給料ですが、皆さんは調理人が一番良いと錯覚されますが、実際は調理人が一番悪い。一番若い子で手取り12万円です。朝6時、7時から夜は早い時で9時、10時まで働きます。下の子だったら包丁を研いだりいろんなことをしますので、午後12時ぐらいまで残る場合もあります。一日の間休憩時間は1度しかありません。休憩時間も1時間とか1時間半とか決まっていない。仕事があればやり続け、なければ早く休憩に入れますが、営業が始まる時間を絶対に動かせないので夕方4時です。午後3時40分に休憩に入っても、午後4時には仕事に戻ります。仕込みとかがあって午後4時までに仕事が終わらない日もあります。その時はずっと働き続けます。
食事は、調理場ではお昼休みと仕事が終わった最後に「まかない」というものが出ます。これは本当に簡単な食事を自分たちで作る、かなり劣悪なものです。おせちの時は48時間労働もして、その間寝るのは30分も寝られれば良いほうです。ほとんどみな仮眠です。仮眠もせずに、フラフラになりながらおせちを作る。それに対して、一切の手当が出ない。ボーナスも一桁台。いくらだったのかわからないのですけど、片手で足りると聞いています。さすがに料理長はもうちょっともらっていると思われますが、それでも想像以上のものはないと思います。
あと料理長には一切決定権がなく、仲居頭にもさほどの決定権もなく、心斎橋店ですと支配人的な男性社員がいますが、この人にも決定権がない。全て4人の家族の指示を仰ぐ形になります。そういう社員がいて、あとはアルバイトになる。心斎橋店の場合は、過去に女性社員や仲居社員はいましたが、やはり労働条件が悪く残業手当など一切付かない。休みの日に出勤させられることもある。それに対しても変わりがない。昼働く場合と、夜だけ働く場合と、フルで働く場合と3つの時間のパターンがある。昼だけのパターンで働いたのに「今日は忙しいから夜は残って下さい」と言われて、残っても残業手当は出ない。パート・アルバイトもダブルワーカーの不安
そういう状態なので社員は続かないが、調理人だけは12万円でも続けます。やはり「吉兆」という看板がもらえるという勉強している意識が高いからです。調理人はそういう状況でも続くけれど、そうでない部署では続かない。私はアルバイトです。そういった社員の実態を知っていたので、社員よりもアルバイト、パートの方が働いただけの時給がもらえるので入りました。ただパートだけになると、シフト制になり、人数が多い時はシフトが減らされます。メンバーが少ないときは稼ぎ放題ですが、人数が増えると、逆に休みを取らないといけませんので、他に仕事を探しダブルワーカーという形になっていきます。
ダブルワーカーのなると、忙しい時に来てくださいと言われても行けなくなる。その辺でかなり仕事や生活が不安定になります。実際、私は3つぐらい働いていた時もある。かなり不安定です。とにかく仕事が減らないように経営者4人に気に入られようと不安定な状態をなんとか自分の努力で不安を消していこうとしました。これは、先ほど池田さんが言った「卑屈になる」というのがすごくわかります。そういう感じの所に押し込められていく感じはありました。労基法違反だらけの職場
船場吉兆での労働基準法違法ですが、まず保険については雇用保険、健康保険、厚生年金が付いている人と付いていない人がいます。付いてない人と付いている人の違いがよくわからない。職安を通じて入ってきた人間には、パートでも何か付けているようです。そうでなく紹介とか雑誌とか見て入ってきた人間には、ごまかしなのかわからないが、付けていない状態と思います。有給休暇はもちろん付いていません。これは社員の人に聞くと「聞いたことがない」と言われました。残業手当も深夜手当も付かない。私の職種の場合は午後10時を超えるのは当たり前で、遅い時は11時半まで働いた。この深夜手当は一切付いていない。
フロントだったので、就業中にレジの打ち間違いなどした場合は必ず弁償です。店に池があり、一度接客中の人が池の水をこぼしてフロアじゅうに水がこぼれたが、それも弁償させられました。同じフロントの仲間がレジで会計の時に客席を間違えて4万円ぐらいの差額を出してしまい、それもその人が払いました。そういうことも平気でさせる会社です。
会社のそういう労基法違反に自分にどういう気持ちであったかと言うと、まず有給休暇を取れることを知らなかった。残業手当、深夜手当が出てないのは知っていましたが、こういう会社だから仕方がないと諦め、その中で取っていこうという意識にはならなかった。これは私も良くないと思います。組合に入り労働3権を使った爽快感
企業外にも労働組合があるということも知らなかった。今回、労働組合に加入して、いろいろな権利を行使することになりました。憲法第28条にある「勤労者の団結権」など労働3権を今回全部使うことができたので、すごく良い経験になったと思います。まず、団結権を使って思ったことは仲間との連帯感、それは本当に爽快感がありました。団結して、みんなで集まって、同じ問題に向かって立ち向かう時の気持ちはすごく良かった。組合結成を通知したことによって、最初は怖かったのですが、逆に会社側は何も言いませんでしたので、自分は法律によって守られたという安心感もできました。団体交渉権を使うことによって、経営者へ意見を述べることができるという事実と、その交渉で少しずつですけれども、権利を自分のところに奪い返した時、やはり仲間と一緒に喜んだりしました。あとは争議権ということで、怒りを解消することができたので、本当にもうこれ以上の爽快感はなかったです。「濫用」ではなく労働者の当然の権利を守らせよう
こういう自分の体験があり、私なりに今回格差が広がっていくことを考えました。経営者側に問題があると思います。給料を増やしたり、最低限の権利を与えることもしないで、自分たちに富を集中させている経営者がいる。実際、労働者にそういう権利を行使させると会社が潰れる、などと言いますが、そういう人に限って船場吉兆へ食事に来たり、大きい家に住んでいる。従業員に対して権利を使わせると雇用も増えると思う。そういった経営者が富を独り占めしない形で、社会に分配していくような国になっていったら良いと思います。
今回どうして自分のことをこうやってみんなの前に出て話しているかと言うと、自分たちパートという立場でもこれだけの権利があることを、同じような状態の他の人にも教えたいと思いました。全部は取り戻すことはできないかもしれませんが、少しでも取り戻すことによって、自分の問題が社会に広がっていって、経営者にも危機感を与えて、経営者も従業員に対してきちんとした対応してくれる社会になっていけば良いと思いました。最後ですが、大事なのは仲間だと思いました。ありがとうございました。