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裁判員制度の深刻な問題性に気が付くときが来た
http://www.asyura2.com/08/senkyo47/msg/113.html
投稿者 ヤマボウシ 日時 2008 年 2 月 08 日 12:18:42: WlgZY.vL1Urv.
 

 裁判員制度にはかねがね問題が多いと思っていながら、正直なところ、(広範囲に調べたり考えたりする必要があるので)荷が重く感じられて、まとめて考えるのは先送りしてきました。しかし、制度の実施がもう来年に迫ってきたということと、下記のような報道があることで、もはや黙ってはいられない気分となりました。

[引用開始]---------------------------
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080206-OYT1T00880.htm?from=top

初公判から判決まで「連日開廷」…東京地裁、4月から = 読売新聞

 来年スタートする裁判員制度を前に、東京地裁は今年4月以降、殺人など対象となる全事件について、初公判から判決までを原則数日間で終わらせる「連日開廷」とする方針を固めた。

 国民が参加する裁判員裁判の約9割は連日開廷で5日以内に終えると想定されているが、同地裁は、プロの裁判官による現行刑事裁判でこれを前倒しすることで、制度の順調な滑り出しを図りたい考えだ。

 来月上旬、東京地検と東京の3弁護士会との協議会で正式提案し、協力を求める。

 裁判員裁判の対象となるのは殺人や傷害致死などの重大事件で、最高裁によると、2006年には全国で3111件、東京地裁では388件。初公判から判決までの平均審理期間は6か月だが、被告が否認している事件では1年以上かかるケースも少なくない。

 これを3〜5日で終えるため、同地裁はまず、初公判前に検察、弁護側の主張を整理して争点を絞り込む「公判前整理手続き」を全対象事件に適用する。06年にこの手続きがとられた対象事件の平均審理期間は1・3か月に短縮された。

 さらに、証拠や証人の数を減らしたり、証人尋問などを効率的に行ったりすることで、連日開廷を実現させたいとしている。

 同地裁の方針について、ある検察幹部は「全く異論はない」と、前向きの姿勢を示す。カギを握るのは弁護士側の協力だ。組織的な対応ができる検察と違い、各事件を個々に担当する弁護士にとって、連日開廷となれば、その間、他の弁護士活動が全くできなくなるなど大きな負担がかかる。

 このため、国選弁護人を複数つけたり、公判前整理手続きの進め方や開廷時期などで弁護士側に配慮したりするなど、負担軽減が図られることになりそうだ。

 同地裁の刑事裁判官は「裁判員制度が始まれば連日開廷は避けて通れない。本来、審理計画は個々の裁判官の判断に任されるが、制度がスムーズに開始できるよう、すべての刑事裁判部が連日開廷を目指すことで一致した」としている。

(2008年2月7日03時02分 読売新聞)
---------------------------[引用終了]

そもそも裁判員制度を新設する理由について、「国民のみなさんが刑事裁判に参加することにより,裁判が身近で分かりやすいものとなり,司法に対する国民のみなさんの信頼の向上につながることが期待されています」と政府は述べています(http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/reason.html)。

どうやら、「司法に対する国民の信頼の向上」が最大の目的で、この目的を達成するための条件として「裁判が国民に身近で分かりやすいものとな」ることを挙げ、さらにこの条件を具体化するための手段として「国民が刑事裁判に参加する」ことを強制しようとしているようです。この順番で書いていないところには、目的に対する手段にあたかも選択の余地がないかのごとくであり、それを既成事実化しようとする専横さを感じます。

わたしは「司法に対する国民の信頼の向上」を目指すこと自体には反対ではありません。しかしながら、そのためにはまず「信頼に足る司法」を確立・維持することが王道だと考えます。つまり、裁判員制度は「司法に対する国民の信頼の向上」のために司法の側の努力でなく、国民の側の努力を要求する制度なのです。言い換えれば、信頼される側よりも信頼する側に努力を要求するという世の良識にも反した制度なのです。この点について書き始めると、別に1本またはそれ以上の論考が必要になるので、他の機会に回します。

そこで、仮にこの王道以外の道も考えることが必要だとして、それが「裁判が国民に身近で分かりやすいものとな」ることであり、これを具体化するための手段が「国民が刑事裁判に参加する」ことなのでしょうか。

たしかに「裁判が国民に身近」になれば、「司法に対する国民の信頼の向上」が促進されることもある可能性は否定できませんが、後述する問題と引き替えにして割が合うかどうかは大いに疑問です。

また、一般的にも「身近」なものがすべて「分かりやすい」とは限りません。裁判が「身近」になったとしても、「分かりやすい」かどうかは個々の裁判の内容次第でしょう。「身近」にすれば「分かりやすい」ものになるという発想は、「信頼の向上」という観点においても、往々にして人命にもかかわる重大事としての裁判という観点においても、あまりにも軽すぎると言わざるを得ません。

加えて、参加するのが刑事裁判だけというのも納得いきません(当初の案では民事裁判だけだったという話もあるようですが、これについても別の機会に譲ります)。民事裁判は「身近」にする必要はないのでしょうか。また、単に「身近」にしたいならば、模擬裁判でもさしつかえないでしょう。むしろ模擬裁判のほうが、得られる経験に偏りがないように調整が可能なため、実際の裁判よりも「教育効果」があることが考えられます。なお、刑事裁判には死刑という重大な問題も含まれるわけですが、これについても別の機会に譲ります。

こうした中での上記の報道です。このような裁判員制度のために、東京地裁は《殺人など対象となる全事件について、初公判から判決までを原則数日間で終わらせる「連日開廷」とする》というのです。常識に照らして、死刑事件までも含む「全事件」をどうして一律「原則数日間」で終わらせることができるのか、まったく理解できません。これまでは《初公判から判決までの平均審理期間は6か月だが、被告が否認している事件では1年以上かかるケースも少なくない》とされるのに、一律「原則数日間」で終わらせるとは……。

これは大幅な手続きの変更を意味するとしか考えられませんが、実際、上の記事では「公判前整理手続き」を全対象事件に適用するとしています。そして、この手続きによる過去の実績は平均で「1・3か月」の短縮であったとしながらも、一律「原則数日間」という方針には無批判で記事を書いているわけです。いくら、《証拠や証人の数を減らしたり、証人尋問などを効率的に行ったりすることで、連日開廷を実現させたいとしている》というにしても、あまりにも差が大きすぎます。

《同地裁の方針について、ある検察幹部は「全く異論はない」と、前向きの姿勢を示す》とは、当たり前の話でしょう。裁判での検察側の主張を一方的に通すことを念頭に置けば、「原則数日間」は造作もないはずだからです。《カギを握るのは弁護士側の協力だ》とは、よく書くものです。「原則数日間」ができなければ、それは弁護士側の責任ということでしょう。弁護士側の組織的な問題を挙げていますが、そもそも背景も含めれば多様極まりないはずの死刑事件までも含む重大事件を一律「原則数日間」でどうして片付けられるのでしょうか。

同地裁の刑事裁判官は「裁判員制度が始まれば連日開廷は避けて通れない」と言っているそうですが、そうだとすれば同地裁だけの問題ではないでしょう(記事にはこの指摘さえもない!)。「連日開廷」は司法の大変化であると考えざるを得ず、それは検察側の主張を一方的に通す司法の大改悪にもなりかねません。「司法に対する国民の信頼の向上」を目指して裁判を「身近」にするという裁判員制度のために、この重大事が生じるとすれば、これはもう本末転倒以外の何物でもありません。

大体が、「連日開廷」はプロにとっても大問題であることは容易に想像がつきますが、素人の裁判員の多くにとっては本業などとの兼ね合いで望むところであると同時に、その日程消化自体が裁判内容以上の優先事項となる可能性を誰が否定できるでしょうか。これもまた本末転倒です。

しかし、いずれにしても、裁判員制度がもたらすもののうち「司法に対する国民の信頼の向上」よりも「連日開廷」のために検察側の主張を一方的に通す可能性のほうを重大とみなすとすれば、本来の導入の意図は重大なほうにあったのではないかという疑念がふつふつと湧いてくるのです。

なお、海外の陪審員制度との比較も必要でしょうが、これも別の機会です。

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