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もはや重要ではない日米関係、誰が大統領でも影響はない(週刊 上杉隆)
2008年02月07日 上杉隆(ジャーナリスト)
米大統領の前半戦の天王山≠ナある「スーパーチューズデー」の開票が進んでいる。本稿はその真最中に執筆している(日本時間6日午後6時)。
共和党ではジョン・マケインが多くの州で勝利を収めながらも、ミット・ロムニーが辛うじてそれに次いでいる。マケインの「指名獲得」とまではいかないものの、獲得代議員数ではダブルスコア以上の差をつけている。
一方、民主党はヒラリー・クリントン、バラク・オバマともに譲らず、大激戦の様相を呈している。AP通信(東部時間6日午前4時)によれば、獲得代議員数はクリントン「725人」に対して、オバマが「625人」と接戦を繰り広げている。おそらくは、さらに数週間、この2人の民主党候補の戦いは続くだろう。
いずれにせよ、11月の大統領本選を経て、マケイン、クリントン、マケインの3人のうちのひとりが、ホワイトハウスへの切符を手に入れることは間違いなさそうだ。
民主党が勝つと日本に不利と説く的外れ
大統領選挙は、米国でのことはいえ、「同盟国」である日本にとっても他人事ではいられない。永田町の為政者たちもこの選挙の行方を大いに注目している。政治家のみならず霞が関の官僚やメディアも同様だ。
当然ながら、彼らの多くの関心事は、2009年に就任する米国大統領が「誰」になるのかという点だ。ところが、実はそれ以上に、大統領候補者たちが、日本にどのような人脈を持ち、どのような対日政策を採用しようとしているのかということにより注視している。
ところが、この件に関して、テレビや活字媒体でコメントしている「専門家」や「評論家」たちの意見はあまりに心もとない。と言うか、大抵が的外れで、無責任ですらある。
テレビでは、米国政治に詳しいとされるコメンテーターが「民主党候補が勝ったら日本バッシングが始まる」というような意味不明な解説をしていたり、同じくNHK出身のジャーナリストが「クリントンもオバマも、日本を知るスタッフをまったく擁していない」などという頓珍漢なコメントを週刊誌に寄せていたりしている。
こうした無責任な「分析」は、放置しておけばよいだろう。所詮、自然淘汰されるか、そっと修正されるのが関の山だ。特段ムキになる必要もないし、真に受けること自体、時間の無駄だ。
とはいえ、次期米大統領がどのような対日政策を講じる可能性があるのかを、現時点で知ることは日米関係における外交戦略上においても重要であることに疑いはない。
とくに外交を担う政治家や外交官、さらに霞ヶ関の官僚やメディアの記者たちは、この種の情報をいち早く把握しておくべきである。おそらく、それぞれのチャンネルを使っての情報収集は行われているだろうが、先の「専門家」や「評論家」の分析を聞いていると幾分不安に陥る。
では、私たちは、何を元に判断を下せばいいのだろうか。
マケインの対日政策はブッシュ路線を継承か
幸いにも、筆者の手元には素晴しい「教材」がある。
東京財団の研究による「2008年米国大統領選挙主要候補者の選対本部・政策アドバイザー人名録」という冊子がそれだ。(http://www.tkfd.or.jp/news/detail.php?id=8)
この時期に、ここまで詳細な「情報」を作成していたことに驚きを禁じえない。まったく、その内容には敬服してしまう、というより驚愕してしまう。作成者はきっと、相当な〈ワシントンマニア〉に違いない(笑)。
冊子によれば、久保文明東京大学教授と足立正彦住友商事総合研究所シニア・アナリストの研究によって成ったものだという。
次期大統領候補らの情報に関して、現在の日本ではこの情報に及ぶものはまずないだろう。発行は昨年の12月だが、スーパーチューズデーが行われている現在でも「情報」は少しも古びていない。この2人の研究のおかげで、米大統領候補たちが築くであろう将来の日米関係はある程度展望できる。
敬意を表してここに紹介しようと思う(ちなみに2人とも筆者とは知人ではない)。
さらに詳しい内容は、東京財団のHPで公開しているのでそちらを参照していただきたい。(http://www.tkfd.or.jp/)
マケインの外交・国家安全保障アドバイザーには、日本と良好な関係を保持してきたブッシュ親子のスタッフがそのまま移行している。
コリン・パウエル(国務長官)、リチャード・アーミテージ(国務副長官)、そして日本通で日本語の達者なマイケル・グリーン(国家安全保障会議東アジア担当上級部長)などが顔を揃える。つまり、マケインが大統領になった場合、現ブッシュ政権のそれとあまり変わらない対日政策が構築されることになるだろう。
とりわけ注目すべきはB・スコウクロフトの存在だ。フォード大統領、ブッシュ父大統領の国家安全保障担当大統領補佐官で、C・ライスの教育係、イラク戦争に反対していた共和党穏健派の代表格である。彼の存在が象徴的だが、外交政策に関してはややリベラルに振れる可能性が高い。
オバマ陣営には意外や“アジア通”が多い
問題は、伝統的に日本に厳しいとされる民主党が政権を取った場合だ。
クリントン陣営の外交スタッフには、夫ビル・クリントン大統領時代のスタッフでもあるカート・キャンベル(国務次官補代理)など、知日派のアドバイザーもいることはいる。だが、どちらかというとM・オルブライト(国務長官)やウィリアム・ペリー(国防長官)など朝鮮半島専門家が多い。
米国の対東アジア戦略が大きく転換する可能性がある。とくに6者協議については対北朝鮮宥和派のオルブライトの存在が何らかの「変化」をもたらすかもしれない。
では、オバマ陣営はどうだろうか。意外なことに、選対の外交スタッフの中にもっともアジア通≠フ多いのがこのオバマ陣営である。
クリントン陣営との類似点があるが、当選したら、イラク戦争への反対などさらにリベラルな陣を敷くだろう。
東アジア専門家のジェフリー・ベーダー(NSCアジア問題担当部長)、「1998東アジア戦略報告」を作成したデレク・ミッチェル(国防長官特別補佐官)、日本の防衛研究所にいたマイケル・シーファー(国家安全保障問題担当上級顧問)、そして、ボーイング・ジャパン前社長で、22年間日本に住み、日本人の妻を持つロバート・オァー(在日米国商工会議所副会頭)がいる。
このようなアドバイザーが存在するためか、実際にオバマの日本に関する知識は驚くほど正確だという。
ワシントンでは誰も日本を気にしていない
さて、肝心の日米関係はどう推移するのだろうか。
クリントンとオバマの所属政党は民主党である。過去、民主党政権の間には、日米関係が悪化する傾向にあった。今回も危険な状況に陥ることはあるのだろうか。
実はその点については、筆者は、大した心配には及ばないと考える。なぜなら、今回の大統領キャンペーンでも明らかなように、もはや米国の考える外交のゲームプランにおいて、日本は重要なプレイヤーではないからだ。どの候補も、日本との関係については特別に言及していない。
今回の大統領選では、外交に関しては、イラク、パレスチナを中心とする中東、そして経済的なパートナーとしての欧州と中国ばかりに話題が集中している。日本はと言えば、辛うじて対中関係の中で触れられただけにすぎない。つまり、ワシントンでは誰も日本を気にしていないのである。
神経過敏な日本のメディアが大騒ぎしているためか、今回の大統領選でも、日本はアジアにおいて米国の唯一のパートナーであるかのような報道が一部で流されている。だが、それは現実とはあまりにかけ離れている一方的な「対米片想い」に過ぎない。
確かに、日米同盟は存在しているが、米国の世界戦略上、日本はかつてのような最重要国からはすでに脱落している。米国にとってのアジアのカウンターパートは中国であり、その次はインドだ。もはや、日本は東アジアの戦略上の便利な「同盟国」としかみられていない。
確かに、米大統領選の結果は、日本にとっては重要だ。だが、米国からすれば日米関係は、誰が勝利を収めようと、特段の「変化」はないのである。それが現実であり、現在の日本の置かれた国際的な立場なのである。
無責任なコメンテーターや専門家の「分析」に惑わされないよう、冷静に米大統領選を注視してみようではないか。
http://diamond.jp/series/uesugi/10016/?page=1
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