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「転載転送歓迎」で回ってきましたので、ご紹介します。
世界の環境ホットニュース[GEN] 662号
08年02月22日
毒餃子事件報道を検証する
原田 和明
第1回 被害者は有機リン中毒だったか?
サリンの調査をしていた私は、今回の毒餃子事件報道に対して初日から
奇異に感じることがありました。それはサリンと同じ有機リンであるメ
タミドホスが原因といわれる3家族10人の症状です。有機リン中
毒に特有の症状は、周りが暗くなると感じる瞳の収縮「縮瞳(しゅくど
う)」です。Wikipedia の「有機リン化合物」の項でも、「人の
中毒症状としては縮瞳が(『縮瞳と言えば脳幹出血か有機リン中毒』と
言われる位に)特徴的である。」と書かれているほどです。
Goo ヘルスケアの「有機リン中毒」の項目にも「縮瞳(しゅくど
う)、発汗、流涎(りゅうぜん)(よだれ)、筋れん
縮といった特徴的な症状に加え、血清および血球のコリン・エステラー
ゼ活性が著しく低下することから、臨床症状だけでも診断できる代表的
な中毒です。重症の場合では徐脈(じょみゃく)、呼吸障
害、肺水腫(はいすいしゅ)、昏睡(こんすい)
となり、死亡します。」とあります。
さらに、2月10日読売新聞は「松本サリン事件で被害者を診察し
た経験がある奥寺敬・富山大学医学部教授によると、有機リン中毒の患
者は、めまいや嘔吐などの症状を訴え、瞳孔が縮小する「縮瞳」が必ず
みられる。奥寺教授は『縮瞳の有無を見なければ、胃腸炎との区別がつ
きにくい。体調を崩しながら医療機関を受診しなかった人もいるだろう
から、実際には軽症の中毒患者がいた可能性はある』と指摘する。」
と、縮瞳と有機リン中毒の関係を示しています。
ところが、毒餃子を食べたとされる3家族のうち、「縮瞳」の症状が現
れていたのは、最後の千葉県市川市のケースだけで、それも毎日新聞が
とりあげているだけです。千葉市と高砂市のケースでは「めまい」を訴
えているだけです。担当医師も「縮瞳」には気付いてはいませんし、事
件発覚後に新聞社が被害者を取材した中にも「周りが暗いと感じた」と
いう自覚症状は訴えていません。事件第一報を伝えた1月
31日の各新聞の該当部分を抜粋します。
千葉県市川市のケース
《読売新聞》1月22日の夜、千葉コープ市川店で購入した冷凍
餃子を食べたところ、吐き気、下痢の症状を訴えた。女性(47)
と長女(18)、長男(10)、次男(8)が重症、次
女(5)が一時意識不明の重体となり、5人とも救急車で病院に
運ばれた。
《毎日新聞》1月22日夜、女性(47)が自宅で子供
4人と夕食を始めた直後、長男(10)が「餃子が少し苦い。おか
しいな。」と言った。周りも同じことを話したが、40個入りを
5人で残さず食べた。30分後、次女が嘔吐し、下痢の症状が。他
の3人も同じ状態になり、女性の隣家の姉(56)に助けを求め
た。次女は意識不明の重体で、人工呼吸器をつけて搬送された。
30日に意識が戻ったが、瞳孔が縮むなど有機リン系物質を呑んだ際の症
状がみられた。5人は未だに退院できていない。
《朝日新聞》子供の一人が近所の知人男性の家に「トイレを貸して欲
しい」と飛び込んだ。男性がおかしいなと思い、この家族宅を訪ねる
と、長女(18)らが下痢や嘔吐を繰り返し、「お腹が痛い」「寒
い寒い」と震えていた。男性が119 番通報した。家族の母親
(47)は当初、症状は軽いようにみえた。男性らが事情を聞く
と、母親は「餃子を食べ終わってから、みんな調子がおかしくなっ
た。」と話し、味については「問題なかった」と答えたという。
兵庫県高砂市のケース
《毎日新聞》餃子は妻(47)と次男(18)がイトーヨー
カ堂加古川店で購入。次男が5日後に一部を食べたが異常はなく、
1月5日午後6時頃、3人で残りを食べ始めた。直後に妻
(47)が「味がおかしい。」と吐き出した。男性(51)は
「ちょっと苦いと思ったがこんなもんだろう」と3個ほど食べ、残りを
次男が食べた。次男が食事を終わって「めまいがする」とコタツの横で
倒れ、嘔吐を繰り返す。顔は白く、目の焦点が合わない。次男を救急車
が搬送後、男性も病院に向かう準備中にめまいに襲われ、「足腰からみ
るみる力が抜けて立っていられなくなった。」妻も異常を訴え3
人とも入院した。
《朝日新聞》12月下旬、次男が5個ほど食べたが、その
時は異常はなかった。3人で食べたのは、残りの 15
個 ほどだったという。(食後)まもなく、次男が「めまいがす
る」と訴え、横になった。続いて激しい吐き気を催し、スーパーの袋に
もどしたが、その後も顔が真っ白になり、両目の焦点が合っていなかっ
たという。やがて体がしびれて手足も動かせなくなった。男性が
119番通報し、次男は数分後に高砂市民病院に搬送された。救急車に同
乗した妻が「わかる?」と呼びかけても、「あー」とうめくだけで意識
が朦朧とした状態だった。この直後男性と妻も吐き気に襲われ、嘔吐と
涙、鼻水が止まらなくなった。3人はそのまま入院し、胃洗浄の処置を
受けた。最も多く餃子を食べた次男の症状は深刻だった。搬送直後、医
師から「血圧も腎臓も肝臓も数値が異常だ。こんな症状は経験がなく、
原因も不明。このまま意識が戻らない可能性もある。」と告げられた。
千葉市のケース
《朝日新聞》千葉市の主婦(36)の証言「食べて二口目で薬の
ような苦味を感じた。視界がぐるぐる回って、しゃべるのもつらくなっ
た。」(2.1)
つまり、少なくとも 千葉市と 高砂市の家族には「縮瞳」
が起きなかったのではないかと考えられます。だから担当医も有機リン
中毒を疑わず、保健所への通報をしなかったものと思われます。その対
応のまずさが批判されていますが、専門家は「嘔吐、下痢、低体温な
ど」を有機リン 中毒の 特徴ではない、「縮瞳」がなけれ
ば臨床では気付かないと言っています。
京都大学医学部教授・舩戸忠男は自身のブログで有機リン中毒を次のよ
うに解説しています。
「有機リン服用における症状としては、下痢や嘔吐はあまり頻度の高
い症状ではないのですが、口から摂取したために、味がおかしい、下痢
や嘔吐がひどいとなったのではないでしょうか。医療機関としては、か
ぜとインフルエンザ、ノロによる食中毒が流行ってきましたので、冷凍
食品により有機リン中毒であるどうかは、今回の事件まで、鑑別診断に
ありませんでした。
有機リン中毒と断定するには吐物・便・食べ物から特殊な検査で有機
リン中毒を検出することが必要です。しかし、日常診療の現場では食中
毒の症状に加えて、有機リン中毒に特徴的な倦怠感や縮瞳などの症状が
見られたら、血液(血清)中のコリンエステラーゼを測ってみて、低下
していれば、有機リン中毒を疑うようにします。」
ところが、事件を初めて報道した1月31日の記事では、新聞各社
はメタミドホスの中毒症状を次のように紹介しています。
《読売新聞》「一定量を超え体内に入った場合、下痢や嘔吐、頭痛、
めまいなどの症状がでる。毒性の程度は低いものの、オウム事件で使わ
れた毒物サリンと同様の作用を人体に及ぼすといい、呼吸不全で死亡す
ることもある」
《毎日新聞》「神経系に作用し、摂取すると、下痢、嘔吐、寒気など
を伴う急性中毒症状がでる。」
《朝日新聞》「中毒症状としては、神経が異常に興奮状態になり、吐
き気や発汗、瞳孔の縮小などが現れる。ひどいときには呼吸障害から昏
睡となり、死に至る。」
なぜか、縮瞳については朝日新聞が触れているだけで、その朝日新聞も
翌2月1日には「「千葉県と兵庫県の3地点で起きた中毒を
線で結ぶと、浮かぶのは嘔吐、下痢、低体温など、死さえ予感させる有
機リン系毒物特有の症状だ。」と書いて、有機リン中毒の特徴と今回の
被害者の症状との乖離を修正しています。
なぜ、「足並みを揃えて」縮瞳に触れないのでしょうか? 共通の情報
源でもあるのでしょうか? そしてなぜ千葉市と高砂市の被害者には
「縮瞳」が起きなかったのでしょうか?