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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20090108-01-1301.html
民意に目をつむる自民党
2009年1月8日 The Commons
景気の「気」は気持の「気」である。国民の気持が上向けば景気は回復するが、落ち込めば景気は悪くなる。要するに企業も消費者もみんなが金を使いたい気持にならないと景気は回復しない。だから景気対策は心理学の世界だと私は思っている。問題はどうやって国民の気持を上向かせるかで、それは政治の仕事である。国民が政治を信頼し、政府の打ち出す政策を歓迎すれば、国民は金を使うようになる。反対に国民が政治を信頼しなければ何をやっても景気は回復しない。
アメリカのオバマ次期大統領は景気対策のため積極的な財政出動を行なう考えを表明した。減税と公共事業で2年間に73兆円に上る景気対策を実施し、300万人の雇用創出を目標にしている。そのため来年度の財政赤字は1兆ドルを越えるという。これはとてつもない借金である。過去最高だった今年度の財政赤字が4550億ドルだからその倍に当たる。
それでもやる決意をオバマは示したが、うまくいかなければドルは大暴落、アメリカは力を失い、世界経済は大混乱に陥る。そうなるかどうかはひとえにオバマの政治力にかかっている。オバマの政治力が信頼されなくなればあっという間にドルは暴落する。
オバマの支持率は当選直後よりさらに上昇して80%を超えた。しかもアメリカだけでなく欧州での人気も高い。そうした背景があるからこそ思い切った政策を打ち出す事が出来る。いかなる政策も力を持てるのは国民の支持と信頼があればこそで、どんなに良い政策も国民に支持されなければ何の力も発揮出来ない。今、世界はオバマがどれだけの力量を持つ政治家なのかを固唾を呑んで見つめている。それにオバマが応えられるかどうかが今年の最大の見所である。
かつて政治が景気を変えた事例をアメリカで見た。クリントンが大統領選挙に勝利した1992年の事である。それまでのアメリカは不況に喘いでいた。レーガン大統領の「小さな政府」(レーガノミクス)は今でこそ評価されているが、当時は貧富の差を広げ、財政赤字を増大させて、「ブードゥー・エコノミー」(非文明の怪しげな経済)と呼ばれていた。後を継いだブッシュ(父)大統領は経済を正常化するために増税を行った。それもあってアメリカは不況を脱する事が出来なかった。ワシントンDCでは街の真ん中にあるデパートが倒産し、夜になると街に巨大な暗闇が広がり、まるでゴーストタウンに見えた。
ところが11月の大統領選挙でクリントンが勝利すると国の空気が一変した。何から何まで明るくなり、12月には閑古鳥が鳴いていたデパートに客が溢れた。国民の中に買い物に出かける「気持」が生まれたのである。大統領が代わるとこんなに国民が変わるのかと驚いた。それからのアメリカはITと金融であっという間に好景気に突入していった。経済を立て直すのは政治の力だということをつくづく感じさせられた。
麻生総理は、昨年成立した第一次補正予算、今月中に成立を目指す第二次補正予算、そして3月までに成立させなければならない来年度予算を「三段ロケット」と位置づけ、これを成立させることが最大の景気対策だと主張している。問題はそれで国民の気持が上向くかである。昨年末に日本経済新聞社が行った世論調査では、麻生内閣の仕事ぶりを「評価しない」と答えた国民が72%で、その理由として最も多かったのが「景気対策への取り組み」であった。国民はまず麻生内閣の景気対策を信用していない事が分かる。さらに「三段ロケット」の本体部分である来年度予算について「評価しない」が60%で「評価する」の24%を大きく上回った。
つまり麻生総理の景気対策は何から何まで国民に支持されていない。このままでは「三段ロケット」を成立させても国民の気持が上向く可能性はない。それなら政治は「三段ロケット」の中身を取り替えるか、別のロケットを打ち上げるか何か対策を考えなければならない。ところが麻生総理は自らの政策を「世界最大の景気対策」と開き直り、そのまま強行する姿勢を示した。これでは国民の心を冷え込ませるばかりで景気回復はおぼつかない。
昔、自民党の政治家に「政治は女性を口説くのによく似ている」と教えられた事がある。相手の気持を無視して自分の思いだけを強引に押しつければ嫌われる。相手の気持を尊重し、様々な手を尽くして安心させないとなかなか口説けるものではない。政治もそれと同じで、どんなに正しい政策でも国民に無理に押しつけることは出来ない。繊細な心で国民に接しないと手痛いしっぺ返しを食うという話だった。長く政権を担当してきた自民党ならではの話だと思った。
現在の麻生政権にはそうした自民党の片鱗も見る事が出来ない。あれだけ各方面から批判されている定額給付金についても「期待している国民がいる」と言って押し切る構えである。麻生政権の言う国民とはどこに存在する国民なのだろうか。かつて自民党は自らを「国民政党」と呼んだ。社会党が労働組合を代表する政党なのに対し、自民党は国民のあらゆる階層を代表する政党だと自負していた。しかし今や自民党は民意を汲み取ろうとせず、ひたすら麻生政権を「お支えする」政党になっている。
これでは「国民政党」の名にふさわしくない。日本の景気を回復することが出来ない政権をひたすら「お守り」する政党を何と呼べば良いのかと思っていたら、週刊誌に面白いネーミングがあった。自民党は「世襲議員政党」なのだと言う。なるほどと思った。
正月の巷に溢れていた声は政治に対する絶望である。企業の経営者たちが期待を寄せているのはオバマの景気対策であり麻生の景気対策ではない。景気回復を外国の政治家に頼らざるを得なくした自民党政治はやはり終末を迎えている。
(田中良紹)