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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20081227-01-0901.html
見えたり、金融資本主義の正体
2008年12月27日 ビデオニュース・ドットコム
ゲスト:小幡績氏(慶應義塾大学大学院准教授)
小幡績氏
世界中を巻き込みながら今なお進行中の金融危機は、元々米国のサブプライムローン問題に端を発するといわれている。信用力の低い(サブプライム)借り手に対して乱発された住宅ローンが証券化され、無数の金融商品に組み込まれた結果、ローンの焦げ付きが始まると、ちょうどミンチに混じった一片の腐った肉片のごとく、他のすべての肉を腐らせてしまった。こうしてサブプライム・ショックは全世界へと広がっていった。
しかし、マル激2回目の出演となる慶應義塾大学大学院の小幡績准教授は、サブプライム問題もまた、今世界が資本主義を回していくために不可欠となっているバブルを作りだし、それに大勢が便乗し、そしてそれが弾けるいつものパターンを踏襲しているに過ぎないと言う。
小幡氏によると、サブプライムローン問題は、「誰も損をしない仕組み」「証券化」など特殊な過程を経てはいるものの、最終的には金融資本が「自己増殖」しバブルを作り出しやがて崩壊するという、これまでのお決まりのバブルの過程をたどっているに過ぎないと指摘する。
それにしてもサブプライムローンは、関与した人は誰一人として損をしない、一見完璧な仕組みだった。アメリカでは戦後ほぼ一貫して住宅価格が上昇してきた上、移民や低所得者など、これまで住宅を持てなかった人々に住宅を持たせることで、住宅市場の需給関係が供給不足となり、更なる住宅価格の高騰が期待できた。更に、住宅ローン債権を小分けにして証券化することで、元々の住宅ローンの健全さとは無関係な全く別物の新たな金融商品が作られた。こうしてサブプライムローンは、当初の住宅ローンとはおよそ想像がつかないような形にその姿を変え、金融商品として市場で取引を繰り返されることになった。これこそが、「リスクがリスクで無くなる」(小幡氏)マジックだった。
しかし、それらすべての大前提にあった住宅価格が、06年にピークアウトし、それにつられて、すべてのバブルは崩壊した。誰もが得をするスキームは、一夜にして誰もが損をするスキームに変質してしまった。
小幡氏は、資本主義の必然的な帰結としての金融資本主義のあり方を根底から問い直すべき時がきていると言う。常に経済成長を求める資本主義は、実体経済の成長が頭打ちだと知ると、実体から乖離した金融資本の価値を増幅させることで、見せかけの経済成長を遂げてきた。
小幡氏はこのように自己増殖する現在の資本主義を、キャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)と酷評するが、資本主義が癌にかかっているとすれば、我々は次にどのような資本主義を経済モデルの拠り所とすればいいのだろうか。
未だに世界を震撼させ続ける金融危機とサブプライム問題を再考し、金融資本主義の正体と、今後何を目指すべきなのかを、神保哲生・宮台真司両キャスターが小幡氏とともに考えた。
誰も損をしないサブプライムローンの仕組み
神保: サブプライムローン問題の説明でもっともわかりやすかったのが、小幡さんの説明だった。最初に、誰も損をしない仕組みを説明していただきたい。
小幡: サブプライムは世の中全体がバブルになっている中の一つの典型的な市場であり、サブプライムがバブルになった影響が他に波及したというわけではない。ただ、一例というにはあまりにもよくできたバブルで、言い方は悪いが面白い。いろいろなバブルの要素が詰まっている。その一つが、バブルに参加した人は必ずみんな儲かるという点だ。しかもすぐには崩れず、かなりの期間皆が儲かる仕組みになっていた。そうすると、参加した方が得だし、一度参加すれば逃れられない。
サブプライムローンは、所得が安定していないため信用力が低く、普通の銀行からは住宅ローンを借りられない人たちにお金を貸した。そのため、最初の数年を0%や1%など超低金利で貸し、元本でなく利子だけ返済を求めた。他にも頭金なしで貸すなどしたが、その代わりたとえば二年後からは金利が15%になる。月々の返済が2〜3万円から一気に20万円、30万円くらいになるので、返済はどうするのかということになるはずだが、貸す側も借りる側も気にせずに契約をしていた。
なぜこのようなことが可能だったのか。その理由は、住宅価格が上がり続けていたことだ。それに頼れば、貸す側も借りる側も安心だった。つまり、二年後金利が上がった時には家を売って新しい家に買い換え、また超低金利の新しいローンを借りるということをすれば、貸す側にとっては二年で全額回収できるからノーリスクになる。借りる側も、住宅価格が上がっているから、例えば5千万円を借りて6千万円で売ることができれば、何もせずとも1千万円儲かるのと同じことになる。
貸す側は、毎月30年ローンをきっちりと返済する人より、二年間で借り換えてくれる人の方が断然良い。なぜかというと、繰り上げ返済は罰金的なすごく高い手数料がかかるため、その収入が得られる。また、自分のところで借り換えてくれれば、新規のローンを組む際の手数料を得られる。しかも、二年で利益が上がるから、何も困ることはない。
サブプライムローン市場が住宅バブルを作った
神保: 貸す側は、返済ができるわけがないことを分かって、転売することを前提にお金を貸していた。借りる側も、未来永劫住む気はなかったということだ。
小幡: 住宅バブルの勢いはものすごく、住宅価格は上がり続けた。しかし、バブルはいつ崩壊するかわからない。それなのによく安心してやっていたなということだが、実はサブプライムローン市場があること自体が、住宅バブルを作っていた。サブプライムローンで貸し続けている限り、バブルはより膨らむという構造が背後にあった。個々の住宅ローン会社がその構造に気付いていたかどうかはわからないが、感覚的には気付いていたふしがある。どういうことかというと、今までお金を貸してくれないから住宅を買えなかった人にお金を貸せば、住宅需要が増える。さらに、移民など今まで家がなかった人が買う、1軒目を持っていた人が別荘を買うとなるとすべて新規なので、価格は上がるに決まっている。
神保: 実際に住宅価格は上がり続けた。今おっしゃったように新規需要だから上がるに決まっていて、そうすると、住宅ローンを借りない理由がない。この構造には、どこにも死角も落とし穴もないように見えるが。
小幡: 死角はない。住宅ローン会社はどんどん融資を拡大した。日本の不動産バブルでも現在のバブル崩壊でも同じだが、銀行などお金を貸す側が貸し続けている限り、市場は膨らみ続ける。急に絞ったから、日本の不動産市場は崩壊した。
サブプライムでは、ローンが増え続けたというのがポイントだ。増え続けたことにはいくつかの理由がある。繰り上げ返済で手数料を得て、その利益を元手に住宅ローン会社が銀行からお金を借りて、新規の住宅ローンを出すことができたので、膨らんだ。さらに、ローンを出したあと「証券化」を行い、投資家にすぐに売ってしまうから、また新たなローンを出せる。
本当にうまくできていて死角はないのだが、ローンが絞られたら終わりということは、この循環が止まれば逆回転する。止まったら危ない、一番怖いということだ。
経済成長のためには、バブルが必要
神保: 米マッキンゼー社によると、世界の実体経済(名目GDP)が、1980年に10兆ドル、金融経済(金融資産=証券・債券・公債・銀行預金の総計)が12兆ドルであったのに対し、07年には実体が55兆ドル、金融が196兆ドルと実体の3.5倍まで金融経済が膨らんだ。小幡さんはどのように考えているか。
小幡: 1980年というのが象徴的で、第二次オイルショックが起こり、先進国経済の成長が止まった年だ。実体経済の成長が止まった後に、金融経済に移行した。資本主義の終焉というのが80年代に始まって、いよいよ今最終局面にきたという見方もできなくはない。
資本主義は、要は「先食い」だ。お金を投資して回収し増やして儲けるということだ。日常財の取引では、たとえば時計を2万円で買って終わりだが、株式市場では、これからアフリカの企業に投資するというときには、今のアフリカを見ているだけでなく、今後20年、30年間を考えている。つまり、今後起こるであろう成長を先食いして実現させて、今儲けてしまおうというのが資本主義だ。となると、アフリカの今後30年間の成長は織り込まれてしまっているので、資本主義を成長し続けさせるためには、新たなフロンティアを発見しなければいけない。
フロンティアにはいろいろな意味があるが、一つは物理的な意味で、かつてのアメリカの西部開拓、現在のアフリカのような未開拓地だ。市場化されていない自給自足経済を資本主義に取り込んでいくことによって、市場規模を拡大させてきた。金融経済は将来の成長を織り込んで膨らんでいくから、実体経済よりもはるかに伸び率が大きい。
しかし、一旦大きくなってしまうと、お金が余ってしまう。この余ったお金をどうするのかということが、最大の問題になってきた。お金は皆が持っているが、投資する機会がないということが起きた。このように情勢が変わってきたことが、バブルの背景にある。
実体経済におけるフロンティアを食いつくしてしまい、金融資本の中で回すしかないために起こるのがバブルだとすると、今回のバブルは、金融資本主義最後のバブルなのではないかと考えられる。
宮台: しかも、これは回避できない。必然ということだ。
神保: お金がお金に投資して増えていくという状況でも、経済は成長していると言って良いのか。また、フロンティアに資本を投入してリターンを得るというのが資本主義だとして、金融という緊急のフロンティアを作って広げることで増幅していくのは今回のバブルを最後にもう立ち行かないということであれば、つまり資本主義も終焉したということになるのか。
小幡: 現代の経済学では時価会計だ。時価会計というのもトリックで、一部の取引が全体に波及するのはおかしい。成長しているというのはまさに見せかけで、つまり金融市場の中同士でやり取りをすると、お金が余っているから高い値段で取引し続けることになって、価格が上がっていることになる。上がり続ければ誰も損をしない。
最大のポイントは、「無責任」だ。どういうことかというと、自分で使うために買うのではなく、人に売りつけるために買っているから実体はどうでも良く、「明日より高く売れるなら今買っておけ」と。要は上がったところで売る、ということだ。実体が止まっていようがいまいが関係なく、金融市場の中でぐるぐるとお金を回して儲けるという構造を経済が成長していると言えるのかについては、言えないという立場は十分にありえる。実体経済は変わっておらず、私たちの周りでモノが増えたわけでもないという言い方は可能だと考える。世界大崩壊、世界恐慌、資本主義の終焉と私も含めて言っているが、金融市場がなくなっても経済がなくなるわけではない。
現在の状況を、キャンサーキャピタリズム(癌化した資本主義)と自分で名付けた。癌なので、いずれ死んでしまうということだが、資本主義が終わるならその先は何なのか。アメリカ的な資本主義が終わりということには、納得できる。投資家と運用家の間に信頼がなく、結果だけ、実現したリターンだけに依存している。今後のキーワードは、信頼と関係性だろう。