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「何のための利益ですか」 読者からの反響(上) 足元からの声
2008年6月8日
読者からの反響。ファクス、手紙、メールで計500件以上に上った=名古屋市中区の中日新聞社で
トヨタの周辺を舞台に、22回にわたって連載した「結いの心−市場原理と企業」。厳しいコスト削減の中で下請け企業の心が離れていく現実や、企業社会の中での「つながり」が希薄になっている実態に、多くの方から反響があった。強い者こそ「公平性を」、勝てる者こそ「情け深さを」と人々は求める。トヨタにとどまらない現代の企業社会に広がる殺ばつとした風潮。問題提起の声を、2回に分けて掲載する。
◆下請けとの格差は臨界点
私はトヨタの二次下請け会社に勤めています。トヨタは日本一、世界有数の企業になって、手本にしなければならないことの方が圧倒的に多い会社です。しかし、コストの削減のみをひたすらに追求して、ブレーキやハンドルを操作する意思のない、暴走する巨大な機関車のような気がするのです。
トヨタ本体と、その下請け会社との利益格差が臨界点に達しているような気がします。トヨタに逆らえば、その存在さえも危ない企業が多いこと、親会社に苦情の一つも言えないことが、トヨタ本体にはどれだけ分かっているのでしょうか。利潤は無視してでも、製品を納めなければならないのです。
トヨタグループは確かに家族的ではあります。圧倒的に強く頼りになる父親が、家族のためを思って行動すれば、誰もがうらやむ家族になります。だが、父親が自分のことしか考えなくなった時の行く末は、その力が圧倒的に強大なだけに、悲惨です。(岐阜県大垣市、50代男性)
◆車づくりに謙虚さを
トヨタのグループ企業に勤めています。記事に出た「CCC21」ですが、要は本来の売り上げの30%を貢げということ。そのおかげでトヨタは空前の利益を確保しているわけです。自動車は部品の集まりです。たまたま車産業の最終工程と販売を請け負っているだけだということを、謙虚に受け止めてほしい。
海外出張、国内出張で同行すると、こちらが支払うのが当然と思っている人もいます。接待に関する社内規定があるはずだと思うのですが。(愛知県、40代会社員男性)
◆助言もなく ただ値引き
トヨタ系部品メーカーに勤務してます。本当に、下請けメーカーは泣いてます。記事のように、派遣社員や外国人労働者…。教える方も大変です。トヨタからのコスト削減で現場作業者への負担も増えている。毎年のように値引きを余儀なくされ、どこまで行くのか。最後はただで納入しろとでも言うのでしょうか?
「トヨタは一つ」という言葉をよく耳にする。一つなら、もっと下を見ていろいろ考えてほしい。アドバイスもないのに、ただ値引き…。パワハラとも言えるように思います。そんなことをやって、トヨタだけが営業利益2兆円はおかしい。(愛知県、40代会社員男性)
◆ジャストインタイムの裏側
トヨタが必要な時だけ必要な量の部品調達をする「ジャストインタイム」は、言い換えれば「自社で負わなければならない経費(在庫の保管等)を納入業者に押しつける」方式です。どの企業も「できればやりたい方式」で、昔から腹の中で思っていても実行してはいけないことでした。しかし、トヨタが実行して世界を代表する企業になると「この方法が正しい経営方法なのだ」と多くの企業経営者が考えるようになりました。
以来、ジャストインタイムが経営の基本となり「押しつけることができる無理はすべて言う」が常識となってしまった。何かが間違っているのではないか、と考えながら、言えば言うほど零細業者の負け犬の遠ぼえ、ととられることに無力感を味わっています。(愛知県蒲郡市、50代会社経営男性)
◆世界の一流の看板らしく
2兆円超の利益を出し続けてもなお、ピラミッドの底辺から吸い上げようとする心根は、トヨタが世界の一流企業として胸を張るには、社会性のないものに見えます。
われわれ超零細企業ですら、従業員の生活を支え、企業の存続を図り、「モノづくり」の将来を考えて日々悪戦苦闘しています。その足元の砂を削り取るような手段を取るのでは「世界の一流企業」としての看板が泣きはしませんか。日本国民の支えのもとに、世界に一流企業と言われる今がある、と受け止める気高い心を持ってほしいと痛感します。トヨタの系列の下で働く誇りが持てるような、世界の一流企業であってほしいと切望します。(浜松市、50代女性)
◆コスト削減 内職まで徹底
連載を読み、「やっぱり、初めのころの技術者の方たちは、そう思っているんだ」と思いました。以前にトヨタの下請けの末端で内職の仕事をやっていました。部品の1つを仕上げても1円以下、時給にしてせいぜい500円程度。でも、トヨタの車の一部に携わる、何となく技術者になった気分で頑張っていました。
始めて2カ月を過ぎ、トヨタが最高利益を上げそうだと世間が騒ぎ始めたころ、なんと単価が3分の2に下がってしまいました。上がるのではなく…。軍手代、手元を照らす明かりの電気代、部品の引き取りや納品のガソリン代を考えると、時給に換算して350円ほどに。結局、その内職はやめました。
世界のトヨタの末端はこんな待遇を受け、その上でトヨタは利益を上げているんだと、平凡な主婦でも実感しました。トヨタは目をどこに向けているのか。小さいころ、友達が「うちのお父さん、クラウンを造ってるんだぞ。すごいだろ!」と自慢げに言っていたころが、懐かしく感じます。明るい未来のトヨタと地域のため、大事なものに気付いてほしいです。(愛知県、40代女性)
◆外注を尊ぶ姿勢保ちたい
何のための利益なのか、何のための繁栄なのか…。私たちは何を喜びとして、また希望として働くのか。常々、自分自身にも、また従業員にも問い掛けています。安くて良い物を買い付けるのが大切であることは、言うまでもありません。でも、一方の幸せだけでは欠けているものがあると思います。大手企業の経営トップにもぜひ、考えてもらいたいと思います。
弊社も若干ながら外注していますが、担当者には「やっていただいている」という気持ちを持つように指導しています。今後もその姿勢を保てるよう戒めたいと思います。(三重県、50代町工場経営男性)
◆過去最高益 なぜ還元せぬ
トヨタ系の仕事も多い会社に勤務してます。トヨタの例年のコスト削減はむちゃとしか言いようがありません。要求に従えば、当然赤字となり、見積もり内訳のつじつまが合わなくなるため「協力値引き」という項目を立てます。すると「値引きではなく、見積もり内訳で構成してくれ」と命令されます。あくまで「値引きを強要させている」のではなく、合法的なコストダウンを装う手段です。過去最高の利益をなぜ、苦しむ下請けに還元しないのか。トヨタが利益を出したと聞くたび憤りを感じます。(岐阜県、40代下請け従業員男性)
■山里も街も絆がカギに 〜取材班から〜
連載「結いの心」はことし1月1日から、第1部「市場原理と山里」を長野県栄村、第2部「市場原理と街」を東京都新宿区の自立生活サポートセンター・もやい、そして第3部「市場原理と企業」を世界一のトヨタを舞台に計64回にわたって連載した。
栄村では、村の公社は1本の酒を、隣町の安いディスカウントショップで購入せず、割高な村内の酒店で買う。少ないお金を村内でめぐらせる循環の思想が息づいていた。
大都会に生まれた助け合いの場「もやい」では、1杯のコーヒーが路上で孤立する人に新たな絆(きずな)を結ぶ。東ティモールの農民から、あえて割高な価格でコーヒー豆を買うのは、強い者が弱い者から搾取する負の連鎖を、どこかで断ち切りたい、との思いからだ。
農村で生まれた「結い」は、他人でも家族のような一体感を生み出す助け合いの心である。都会の企業に舞台を移した高度成長期、その一体感が推進力になり、日本を経済大国に押し上げた。
にもかかわらず、いまの日本の企業社会では効率主義と成果主義がまん延し、絆が薄れ、都会に新たな貧困を生み出している。
トヨタという世界企業のピラミッド社会では、下請けの町工場が過酷なコスト削減にあえぎ「頂点の利益が巡って来ない」という悲しい声が届く。社内からも「絆は薄れた」という指摘が多い。
1本の酒代、1杯のコーヒー、年間利益2兆円という巨額のお金。
いずれも、生かし方一つで絆が生まれも、断たれもする。絆から生まれる価値にこそ重きを置く日本社会の原点を、読者反響に続き近く掲載する総集編で、あらためて考えたい。
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