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http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20081126-01-1301.html
「黒い霧解散」と言ってはみたが・・
2008年11月26日 The Commons
臨時国会冒頭解散を逸したばっかりに迷走に迷走を重ねている麻生総理だが、党内から「解散は来年春の予算成立以降」との声が上がる中、まだ年末年始解散総選挙の望みを捨ててはいないようだ。
日本時間の11月22日朝、ペルーのリマで同行記者団と懇談した麻生総理は相も変らずべらんめぇ調で、民主党の小沢代表を「この人の話、あぶねぇなぁ」などと批判し、第二次補正予算案の今国会提出見送りを表明した際に、ひとつ意味深長な言葉を口にした。それは「黒い霧解散」である。
記者から「解散を決める一番の要因は何か」と問われた麻生総理は、「判断には人によって色々の要素がある」と言うために、佐藤内閣の「黒い霧解散」を例に挙げたのである。黒い霧解散とは、1966年の通常国会召集初日の12月27日に佐藤総理が行った解散で、自民党は「黒い霧事件」と呼ばれる不祥事で世論の支持を失い、大敗が予想されたにも拘らず、1月29日の選挙結果は微減で済んだ。それが佐藤総理の求心力を高め、第二次佐藤政権を成立させる事になった。
因みに1月に総選挙が行なわれたのは、1948年12月23日に麻生総理の祖父である吉田茂が行った「馴れ合い解散」とこの「黒い霧解散」の二つしかない。二つとも結果として解散を断行した総理の求心力を高め、その後の長期政権の基盤を作った。麻生総理のこれまでの口ぶりからはこの二つの解散を十二分に意識している事が伺える。本人にしてみれば初めは尊敬する祖父吉田茂に、世論の批判を浴びるようになってからは佐藤栄作にあやかりたいとの思いが強まっているのかもしれない。問題は本人が思っていてもそれを実現する事が出来るか。そして二人の先達のように良い結果を生みだせるかである。
麻生総理が「危機に政治空白は許されない」とか「解散よりも景気対策」とか「政局よりも政策」と言ってきた事が全くの嘘である事はその後の経緯ではっきりした。大上段に振りかぶって発表した経済対策の裏付けとなる第二次補正予算案を「来年の通常国会まで出せない」と言うのだから、こんなにはっきりした嘘はない。「危機だ危機だ」と言いながら今まで一体何をしてきたのか。今までこそが「政治空白」である。解散総選挙をやった方が「政治空白」にはならなかった。
与野党が選挙で危機への対応と経済政策を競い合ってくれれば国民には一番良かった。危機の火元のアメリカでは10月が大統領選挙と上下両院選挙の真っ最中で、選挙の争点はまさに経済だった。もともと政策のために選挙をやらないという理屈は民主主義国では通用しない。政策を選ぶために選挙をやるのが民主主義である。選挙を「政治空白」と呼ぶようなインチキから早く脱しないとこの国はいつまでもまともな民主主義国にはなれない。
麻生総理は文芸春秋誌の赤坂太郎に「選挙を先送りしたのは逃げたのではなく、本当に金融危機に対応するためだった」と見え見えの「やらせ」記事を書かせていたが、それならば自らの無能をさらけ出しただけの話だ。とにかく選挙を先送りした理由を嘘で塗り固めて行った事が迷走を招いている。腹に据えかねているのは野党だけではない。与党の中にも麻生総理の下で選挙をするのは御免だと思う議員が出てきた。その人たちが考えるのは解散ではなく総辞職である。現職総理を総辞職に追い込むには通常国会で予算を成立させないのが一番だ。だから通常国会までに解散総選挙をやらないと麻生政権は「蟻地獄」にはまり込むと前々回のコラムに書いた。
「解散は来年春の予算成立後」という話には「蟻地獄」の罠があると考えるのが普通である。予算が通るなら良いが、通る保証はどこにもない。これまでの自民党の歴史は、予算を通さなくするのが野党のように見えて実は与党である事を教えている。しかも予算が通らない時には解散が出来ない。国の機能が麻痺する時に解散すれば、それこそ「政治空白」が日本社会を痛撃する。総理は「立ち枯れ」になるしかない。与党の中から「解散は予算成立後」という声が大きくなり、世論もそれを支持するようになると、それに抗して解散権を行使する事は難しくなる。麻生総理も安倍、福田と同じ運命になる。
麻生総理は、「第二次補正予算案を出してからの解散ではボロ負けする恐れがある。しかし新テロ法案と金融機能強化法案の二つで臨時国会を大幅延長し、そこで民主党の採決拒否をメディアに批判させてからの解散ならボロ負けはしない」と考えているように見える。仮に民主党が採決拒否を続けた場合、新テロ法案は12月20日以降、金融機能強化法案は来年の1月5日以降の再議決が可能となる。
麻生総理にとって最も好ましいのは、新テロ法案が再可決された後の12月下旬に、金融機能強化法案の採決に応じない民主党を批判して解散に踏み切る事だが、民主党が粛々と否決すれば、民主党を批判する事は出来ず、解散の大義名分も立たなくなる。何しろ「解散よりも景気対策」と言い続けてきたから、それが麻生総理の解散権を封じる。景気対策が国会に提出されるのが来年の通常国会ならば、その手前で解散する事は前言を覆す事になる。
民主党が都合よく採決拒否を貫いて国民の批判を浴びてくれれば良いが、政治の修羅場を潜り抜けてきた小沢民主党代表がそんな手に乗るはずがない。国会運営の主導権はすでに与党にはないのである。そうなると吉田茂にも佐藤栄作にもあやかれず、麻生総理は「蟻地獄」に落ちていく事になる。そこから逃れる手段はただひとつ。吉田茂の「馴れ合い解散」のひそみに倣って、解散を望んでいる野党との「話し合い解散」に応ずる事だ。そうすれば公明党も喜ぶ1月総選挙を実現できる。それを逃せばラストチャンスも消え失せる。
麻生総理は民主党の小沢代表を「信用できない」などと批判できる立場にはない。先達に倣って「馴れ合い解散」や「黒い霧解散」の真似をしたいなら、野党に頭を下げるしかないのである。今や敵は野党ではなく与党の中にもいる事に気づかないと、麻生総理は「解散も出来ない総理」として野垂れ死ぬ事になる。
(田中良紹)